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第二章

異議のある者3

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「こ、降参します!」

 武器も失った冷静な槍の男が取った行動は降参だった。
 リュードが追撃をする前に曲がった槍を投げ捨てて地面に平伏する。

「グアッ!」

 ひたすらに頭を下げ続けている冷静な槍の男の横にルフォンに蹴り飛ばされた男が転がってくる。
 闇に紛れたルフォンに雑魚が相手では勝てるはずもなかった。
 
 残る仲間が倒されたのに冷静な槍の男はまだ顔を上げない。
 生き残るためならプライドもないというのだ。

 ある意味では清々しさすらある。
 見るとルフォンの方も2人を相手に何なく勝利していた。
 
 しかも情報を聞き出せるように手加減して殺さずにである。

「お前らが誰とか目的とかはどうでもいい。エミナとヤノチはどこにいる」

 冷静な槍の男に剣を突きつけてリュードがエミナたちの行方を尋ねる。
 やはり洞窟の中はここが行き止まりであって誰かを捕らえておけるような場所はなかった。

 ここにエミナたちがいないなら別の場所に捕らえられていることになる。

「さらってきた女たちはもうここにはいません!」

 未だに地面に額を擦り付けたまま答える。
 命を大事にする姿勢もここまでくると立派にも思えて感心してしまう。

「なんだと?」

「相手さん相当お急ぎなのかここで待っていまして、ここに来るなり金だけ渡して連れて行ってしまいました」

「チッ……じゃあお前らが何者で、目的はなんだったのか聞こうか」

 もういない。その言葉に焦りと怒りが込み上げる。
 今すぐ切り倒してしまいたいが、少しでも情報が必要だ。

「俺たちはしがない盗賊でして……あいつらに依頼されて馬車を襲って女を誘拐するように指示されました」

「あいつらとは誰だ?」

「俺たちゃ金さえ払ってもらえれば誰でも……おお、おそらくですがトキュネスのキンミッコ家です! いや、キンミッコに違いありません!」

 剣が肩に触れて冷静な槍の男の体が震えた。

「俺たちに言うことを聞かせようと剣を抜いたことがあるのですが剣の柄に家紋が彫ってある者が1人いました。俺たちはトキュネスでも活動していたこともありますんで知っていました。間違いなくキンミッコの家紋でした」

「トキュネスのキンミッコか……」

 少し前にマザキシに聞いた話と合わせると点が線で繋がる。

「エミナたちはどうやって連れて行かれた?」

「小さめの荷台を馬に繋いでそこに乗せて行きました。森の方に向かっていったのでこのまま人里を避けてトキュネスに向かうつもりだと思います」

 マザキシの話通りならトキュネスとカシタコウの交渉が始まるまで時間はあまりない。
 相手が焦ってヤノチを誘拐したということはもうすぐ始まる可能性が高いのだろうと思った。

 ヤノチが誘拐された理由というのは察しがついた。
 けれどもまだエミナが誘拐された理由というのが分からないでいた。

 マザキシが言うように仮にパノンでもどうして誘拐する必要があったのだろうか。
 時間がないのなら2人より1人だけさっさと誘拐したほうが早く移動できるはずなのに。

 むしろ話に聞いた限りではキンミッコとパノンは仲間のような感じだった。

「そうか」

「で、では命だけは」

「助けてやるよ」

 リュードは上げた冷静な槍の男の頭を剣の柄で殴りつけて気絶させた。
 かなり痛いだろうが命を失うよりははるかにマシである。

 まだ生きているやつを集めて縄で縛り付ける。
 以前の例があるので身体検査は入念に行って武器になりそうなものは取り上げておいた。

「リュードさん、ルフォンさん!」

 洞窟から出てきたリュードとルフォンを見てダカンが駆け寄ってくる。
 相当ヤキモキして待っていたのかダカンが立っていたところの地面がえぐれている。
 
 ずっと足で蹴り続けていたみたいである。

「ヤノチは!」

「いなかった」

 リュードは首を振って答えて、ダカンに中であったことの説明をする。

「そんな……」

 ダカンの顔から血の気が引いて青くなる。
 キンミッコにさらわれてしまったらヤノチがどんな目に遭うか分からない。

「早く追いかけなきゃ!」

「そうだな。だけどダカンには町に行ってマザキシにこのことを伝えてほしい。もう少しでヤノチの兄がいるところに着くんだろ? ヤノチの兄にも事情を伝えてほしいんだ。絶対に俺たちがヤノチも助けるから」

「でも……」

「ダメだ。お前は足手まといだ」

 この先激しい戦いになることが予想される。
 荷車に乗せられたのならより速く追跡しなきゃならない。
 
 戦いにも追跡にも役に立たないダカンを連れて行く余裕がない。
 洞窟での戦いでもダカンが来ていたら状況が分からなかった。
 
 とてもじゃないけどフォローしながら戦う余裕がない。
 リュードのハッキリとした言葉にダカンの瞳が大きく揺れた。

「この洞窟の中に盗賊を捕らえてあるからそれも伝えてほしい」

 命は助けてやると言ったが自由に逃してやるとは言っていない。
 多少実力はあったしトキュネスでも活動していたとか言っていたのでどこかしらでお尋ね者にでもなっているかもしれない。

「俺だって戦える!」

「戦えるだけじゃダメなんだ。こうしている間にも時間は進み、ヤノチは離れていってるんだぞ」

「うっ……」

 ダカンは悔しそうに拳を握りしめる。

「俺たちの荷物頼むよ。ヤノチと一緒に取りに行くからさ」

「…………分かった」

「じゃあ、あとでな」

「任せて! ヤノチちゃんは絶対助けるから!」

 軽く出かけるようにダカンに声をかけてリュードとルフォンは森を走り出す。

 トキュネスの方向は分かっている。
 短い距離かつ人にバレないように森の中を進んでいるはずだが、身一つで追いかけるリュードたちの方が最短距離で進める。

 馬車とどっちが早いのか分からない。
 けれども大きく離されていくこともないだろう。

 あっという間に小さくなっていく2人を見送り、ダカンも自分自身のすべきことのために走り出した。

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