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第二章

意義のある者2

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 だからといって全くの無策で突っ込むことはしない。
 日の入らない暗い洞窟という状況を利用させてもらう。

 リュードは無理でもルフォンはわずかに光があれば動くことができる。
 だからいくつか松明消してしまおうと思った。

 左手に魔力を集めて水をイメージする。

「ウォーターバレット」

 松明を消したいだけなのでそんな大きな水はいらない。
 拳大ほどの水が4つ、リュードの手のひらの上にうかぶ。

「いくぞ、3、2、1……」

 リュードが一瞬早く部屋に飛び込み、ルフォンが続く。

「いけ!」

 リュードが水の玉を飛ばす。
 リュードから見て部屋の左側にある松明に次々と水の玉が当たり、ジュッと音を立てて松明の火が消える。

 部屋の左側が真っ暗になったことで相手に混乱が広がり、ルフォンは作り出した闇の中に溶けていく。

「なんだ!?」

「あいつは!」

 火が消えて混乱する中ナイフを刺された男だけがリュードを見つけて嬉しそうに顔を歪めていた。
 リュードはまずは作戦通りにいきなり火が消えて慌てている近くの男を切り捨てる。

 ルフォンは暗闇が大丈夫でもリュードはそうでない。
 注意を引きつけることでルフォンの存在をさらに気づかれにくくするためにリュードはもう1人を切り捨てて消していない松明の前に陣取る。

「あの男を殺せ!」

 男たちはリュードしか見えておらず、ルフォンの存在に気づいていない。
 混乱した男たちはとりあえず口の悪い槍の男の指示に従い、4人の男がリュードに向かう。

「もう1人いたはず……」

 入ってくる時にチラッと男以外にも見えたと冷静な槍の男は槍を手に取って唯一冷静に状況を見ていた。
 その中で口の悪い槍の男が指示を出したのにリュードの方に向かった人数が少ないと思った。

 リュードは4人を相手にしながらも上手く攻撃を捌いている。
 連携も取れていないのでリュードにとっては大きな脅威でもない。

 アホみたいに攻めてくる村の親父たちの方がよっぽど怖い。

「どこだ……」

 ドサリと音がして冷静な槍の男がそちらをみると仲間が倒れていた。
 じわりと地面に血が広がり、何かにやられたのだとすぐに分かった。

 ルフォンは闇に乗じて男たちを次々と倒していっていた。
 そしてもう闇の中にはルフォン以外に生きているものはいなかった。
 
「後ろだ、バカども!」

 暗闇からルフォンが飛び出した。
 たなびく髪が黒い軌跡のようでルフォンはまるで暗闇から飛び出してきた小さい闇のようだった。

 冷静な槍の男がルフォンに気づいて声を出した時にはルフォンは逆手に持ったナイフを振り切っていた。
 リュードに切りかかっていた男の1人が首裏を切り裂かれた。
 
 回復魔法が使える高位神官でも治療することは不可能な致命的な一撃だった。
 たった2人にいいようにやられている。
 
 状況を見極めるのに時間がかかってしまい、数の優位性を失ってしまった。
 これ以上好き勝手させるわけにいかない。

「モドゥファ……あいつ!」

 さっさと参戦すべきだった。
 そう後悔して冷静な槍の男が参戦しようと思った時には口の悪い槍の男はもう先にリュードに襲いかかっていた。

 リュードはその間にもう1人の足を切って戦闘不能にしている。
 これで残るのは槍の2人と雑魚2人。

 終わりが見えてきた。

「お前らは女の方を相手しろ!」

 リュードにナイフを刺された口の悪い槍の男は怒りに任せてリュードの方に襲いかかっている。
 冷静な槍の男もまずは口の悪い槍の男に加勢してリュードの方を倒すことが良いと判断した。

 リュードと戦っていた2人の男がルフォンの方に向かうとルフォンは下がってまた闇の中に紛れていく。
 男たちは一瞬迷ったが相手は女だからとそのまま追いかけた。

「全身穴だらけにしてやるよ!」

 1度刺された恨みは10倍にして返してやると口の悪い槍の男は目を血走らせている。
 2人の連携を前にリュードが対応できていない、そう思って口の悪い槍の男は槍を突き出した。

「悪いな、遊んでいる暇はないんだ」

 だがリュードは2人の連携に対応できないなんてことはなかった。
 わざわざ2人が調子乗ってくるまで付き合ってやることもない。
 
 槍の軌道を完全に見切っていたリュードは紙一重で槍をかわすとおもむろに槍を掴んだ。
 リュードが腕を引くと口の悪い槍の男はリュードの前に引きずり出される。
 
 口の悪い槍の男は両手、リュードは片手なのに力勝負で引き負けてしまったのである。
 抵抗むなしくバランスを崩した口の悪い槍の男の脇腹をリュードは切り付けた。

「ぐふっ……」
 
 何があったのかを考える間も無く口の悪い槍の男は地面に倒れた。
 これはまずいと冷静な槍の男は思った。
 
 加勢する前に口の悪い槍の男が倒されてしまった。
 怒りで刃を鈍らせていたとはいえ、口の悪い槍の男もそれなりに手慣れた槍の使い手だったのに、いとも簡単にやられてしまうなんてと焦りの表情を浮かべる。

 逃げることも頭の中に浮かぶけれど煙幕弾も使い切ってしまったのでもうない。
 それにこの狭い洞窟では逃げることもできない。

「戦いの最中に考え事か?」

 戦うべきか逃げるべきか、判断に迷ってしまった。
 気づいた時にはリュードは冷静な槍の男の目の前にいた。

 攻撃も回避も間に合わない。
 防ぐしかなかった。
 
 迫るリュードの剣を槍の柄で受けたのだが片手で相手を引き寄せるほどリュードの力は強い。
 金属で補強した槍の柄は切れこそしなかったものの真ん中から折れ曲がってしまった。
 
 中の木は折れてしまって真っ直ぐに戻すことはもうできない。
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