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第一章
閑話・異世界へ5
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「ううっ……」
どれほど飲んでどれほど眠ったのだろうか。
環境に変化の見られない神の世界では時間の感覚が分からない。
もっともあんなに飲んで楽しくやっていたら普通の状況でも時間感覚が狂ってしまうに違いない。
二日酔いのような頭痛やなんかは無いものの、ボヤッとしていてまだ夢見心地な感じがする。
「おはようございます」
上半身を起こしてゆっくりと深呼吸をして意識をしっかりさせていると女性の声が聞こえた。
周りを見渡すとケーフィスやケブスの姿はなく、丸テーブルやイスも無くなっていて代わりに足の短い四角いテーブルとメイドのような格好をした女性が脇に立っていた。
草原ではなく家の中にいた。
「お水はいかがですか」
「もらうよ。ありがとう」
水の入った木のコップを渡してくれたメイドさんはとても美人な人だった。
ここにいるということはもしかしたら神様なのかもしれない。
しかしケーフィスとため口で話していて緩んだ意識はなかなか戻らずサラッとため口で返してしまった。
程よく冷えた水は体に染み渡る。
もう一杯もらって飲んでようやく頭がハッキリとしてくる。
「簡単にですがお食事も用意してあります」
テーブルの上には具材をパンで挟んだ料理、いわゆるサンドイッチというやつが置いてある。
さんざん飲み食いして起きた直後ならお腹はすいてないというところだったけど水を飲んでスッキリした頭と体は何か食べ物を欲していた。
死んでいても食欲というものがあるのか。
「いただきます」
ちゃんと手を合わせてからサンドイッチを食べる。
そうしている間もメイドさんは横に立ってコップに水を注ぎ足してくれたり、サンドイッチを食べ終わった後はどこから持ってきたのかケーキをデザートに出してくれた。
「転生に関してもうすぐ準備が整いますのでもうしばらくここでくつろいでもらうよう、主神より仰せつかっております」
くつろぐといっても何をしていいのか。
気温は快適で気分も悪くはないけどゲームやスマホといったものはおろか本などの娯楽もない。
休むにしても散々寝たし床に寝るわけにもいかない。
草原ならそれもよかったが見知らぬ家の床は抵抗がある。
しばらくというのもどれほどの時間なのか。
あたかも普通のリビングのようだが時計もないのでそもそも時間すら分からない。
残り少なくなったケーキを口に放り込みながら時間を潰す方法を考えてみるものの何もないのだから何もしようがない。
「時間潰しになるかは分かりませんがよければこちらをどうぞ」
ドサっとテーブルに置かれる分厚い本の数々。
『魔法学入門』『中世界略歴史』『魔物図鑑』『世界の歩き方』などといった本をメイドさんが持ってきてくれた。
もちろん心惹かれるのは『魔法学入門』である。
「ありがとう」
どれもハードカバーの分厚い本.。読みきるにはだいぶ時間がかかるだろう。
手に取るとずっしりと重い『魔法学入門』をペラペラめくり始めた。
ーーーーー
「ペルフェ、こちらが注文書になりまーす」
ケーフィスはメガネをかけた腰まである黒髪のクールな印象の美人に数枚の紙を手渡した。
酔っ払いながら考えた転生後の初期ステータス希望案である。
とりあえず書き留めたものをケブスが箇条書きにして簡単にまとめていた。
この世界の創造神はややゆるい。
それも人間の信仰によるところであって、神様は子供のような純粋な心を持ち楽しいことが大好きな神様であって、自分が作った世界をせっかくだから色々と賑やかに、それでいて楽しんでもらおうと考えていた。
人間や魔人、魔物なんかを生み出して神様は世界から自分を切り離し、世界に住まうモノどもに世界を委ねてそれを楽しんでいる。
世界の危機には加護という形で救済を与えたりするけれど基本は関わらず苦しみすら1つの楽しさのためのタネだと考える。
そんな信仰の影響を受けて創造神はかなり軽く子供っぽい感じの神様になってしまった。
ただ切り離しているといってもそんな性格の神様が世界に関わらないはずもなく、問題が起きることもしばしばあった。
そんな神様の尻拭いは他の神であり神に仕える下神、それに世界に住まう者たちなのだ。
ペルフェはそんな奔放な創造神を見て怪訝な顔をする。
だいたい持ってくるのは厄介案件だからだ。
別世界から来た人間の魂を転生させるということについては聞いていたけれど、まさか自分に仕事が回ってくるとは思わなかった。
神に書かれた希望を見て、ペルフェは思い切り眉間にシワを寄せる。
字が汚い、書いてあるやつも塗りつぶしたりバツで消してあったりと読みにくいことこの上ない。
ケブスがまとめたものをさらにケーフィスが書き加えていた。
別の世界ではステータスを目に見える形で表示できたりスキルという形で能力を表したり強化したりすることもあるそうだが、この世界においてはそうした便利表示のシステムはない。
希望の能力など数値化などできるものではないのである程度ざっくりしたものになるのは要求が大雑把なのはしょうがない。
提案したこともあるのだけれど分からない方が面白いのだと創造神に却下されたのだ。
解読に苦労しながら実際に中身を見てまとめてみると要望としてはシンプルなものがほとんどだった。
雑でどうとでも解釈できるものはこちらの裁量で選択するしかない。
「それにしても何ですか、この幼馴染が欲しいって!」
「幼馴染っていうのはね、君でいうセンソンみたいな……」
「そういうことではありません!」
幼馴染が何たるかを問うているわけでない。
幼馴染なんていうのは用意しようと思って用意するのではない。
世界にあまり手を出せないのだから子供の出生もそれこそ授かり物に他ならず、適当に産ませようで産ませられるものでもないのだ。
子を司る神が少し先の出生について分かるので幼馴染的な近さの子供の出生は可能だが、両親同士が仲が良かったりしなければ幼馴染として成立しない可能性もあるし単に近くで近い時期に生まれればいいというわけじゃない。
それに幼馴染条件をクリアしながら他の条件もクリアしようと思うのは難しい。
変なところでバカ真面目なペルファは頭を抱える。
「けれどこの世界を救ってくれたまさに神様みたいな人の希望なわけだよ?」
悪びれる様子もなくのたまうケーフィスだがその言葉は正しく、しかと恩に報いなければいけないとペルフェは思う。
どっちにしろ創造神に怒鳴ったところでもはや意味もないことだと分かっているから簡単にまとめた希望を再度しっかりと書き直してどうにかおおよそクリア出来るように努力した方が早い。
思わずため息が漏れる。
「他の条件はおよそ難しくはありません……やはりこの幼馴染……プクファンに連絡をして子供がどこで生まれそうか確認して…………」
仕事モードに入ってブツブツとつぶやいているペルフェの視界にもうケーフィスは入っていない。
つまらそうに口を尖らせてケーフィスはその場を後にした。
「種族は……人…………人?」
意思の疎通とは難しい。
雑な神様が書いた、酔っ払いの会話のメモ書きなんて思わぬ解釈を生んでしまうこともあるのだ。
持ってこられた本のいくつかをようやく読み終わった頃、転生を司るペルフェという女神に呼ばれてまばゆいほどの光が溢れる門を通ったことはなんとなく覚えている。
その前後の記憶はやや曖昧であってよく思い出せない。
ケーフィスもその場にいたような気もするし何か言っていたような気もするけれど、それが別れの挨拶だったの最後に再び感謝を述べのかすら分からない。
ただ温かさと安心感に包まれて、眠るように転生を果たしたのだった。
どれほど飲んでどれほど眠ったのだろうか。
環境に変化の見られない神の世界では時間の感覚が分からない。
もっともあんなに飲んで楽しくやっていたら普通の状況でも時間感覚が狂ってしまうに違いない。
二日酔いのような頭痛やなんかは無いものの、ボヤッとしていてまだ夢見心地な感じがする。
「おはようございます」
上半身を起こしてゆっくりと深呼吸をして意識をしっかりさせていると女性の声が聞こえた。
周りを見渡すとケーフィスやケブスの姿はなく、丸テーブルやイスも無くなっていて代わりに足の短い四角いテーブルとメイドのような格好をした女性が脇に立っていた。
草原ではなく家の中にいた。
「お水はいかがですか」
「もらうよ。ありがとう」
水の入った木のコップを渡してくれたメイドさんはとても美人な人だった。
ここにいるということはもしかしたら神様なのかもしれない。
しかしケーフィスとため口で話していて緩んだ意識はなかなか戻らずサラッとため口で返してしまった。
程よく冷えた水は体に染み渡る。
もう一杯もらって飲んでようやく頭がハッキリとしてくる。
「簡単にですがお食事も用意してあります」
テーブルの上には具材をパンで挟んだ料理、いわゆるサンドイッチというやつが置いてある。
さんざん飲み食いして起きた直後ならお腹はすいてないというところだったけど水を飲んでスッキリした頭と体は何か食べ物を欲していた。
死んでいても食欲というものがあるのか。
「いただきます」
ちゃんと手を合わせてからサンドイッチを食べる。
そうしている間もメイドさんは横に立ってコップに水を注ぎ足してくれたり、サンドイッチを食べ終わった後はどこから持ってきたのかケーキをデザートに出してくれた。
「転生に関してもうすぐ準備が整いますのでもうしばらくここでくつろいでもらうよう、主神より仰せつかっております」
くつろぐといっても何をしていいのか。
気温は快適で気分も悪くはないけどゲームやスマホといったものはおろか本などの娯楽もない。
休むにしても散々寝たし床に寝るわけにもいかない。
草原ならそれもよかったが見知らぬ家の床は抵抗がある。
しばらくというのもどれほどの時間なのか。
あたかも普通のリビングのようだが時計もないのでそもそも時間すら分からない。
残り少なくなったケーキを口に放り込みながら時間を潰す方法を考えてみるものの何もないのだから何もしようがない。
「時間潰しになるかは分かりませんがよければこちらをどうぞ」
ドサっとテーブルに置かれる分厚い本の数々。
『魔法学入門』『中世界略歴史』『魔物図鑑』『世界の歩き方』などといった本をメイドさんが持ってきてくれた。
もちろん心惹かれるのは『魔法学入門』である。
「ありがとう」
どれもハードカバーの分厚い本.。読みきるにはだいぶ時間がかかるだろう。
手に取るとずっしりと重い『魔法学入門』をペラペラめくり始めた。
ーーーーー
「ペルフェ、こちらが注文書になりまーす」
ケーフィスはメガネをかけた腰まである黒髪のクールな印象の美人に数枚の紙を手渡した。
酔っ払いながら考えた転生後の初期ステータス希望案である。
とりあえず書き留めたものをケブスが箇条書きにして簡単にまとめていた。
この世界の創造神はややゆるい。
それも人間の信仰によるところであって、神様は子供のような純粋な心を持ち楽しいことが大好きな神様であって、自分が作った世界をせっかくだから色々と賑やかに、それでいて楽しんでもらおうと考えていた。
人間や魔人、魔物なんかを生み出して神様は世界から自分を切り離し、世界に住まうモノどもに世界を委ねてそれを楽しんでいる。
世界の危機には加護という形で救済を与えたりするけれど基本は関わらず苦しみすら1つの楽しさのためのタネだと考える。
そんな信仰の影響を受けて創造神はかなり軽く子供っぽい感じの神様になってしまった。
ただ切り離しているといってもそんな性格の神様が世界に関わらないはずもなく、問題が起きることもしばしばあった。
そんな神様の尻拭いは他の神であり神に仕える下神、それに世界に住まう者たちなのだ。
ペルフェはそんな奔放な創造神を見て怪訝な顔をする。
だいたい持ってくるのは厄介案件だからだ。
別世界から来た人間の魂を転生させるということについては聞いていたけれど、まさか自分に仕事が回ってくるとは思わなかった。
神に書かれた希望を見て、ペルフェは思い切り眉間にシワを寄せる。
字が汚い、書いてあるやつも塗りつぶしたりバツで消してあったりと読みにくいことこの上ない。
ケブスがまとめたものをさらにケーフィスが書き加えていた。
別の世界ではステータスを目に見える形で表示できたりスキルという形で能力を表したり強化したりすることもあるそうだが、この世界においてはそうした便利表示のシステムはない。
希望の能力など数値化などできるものではないのである程度ざっくりしたものになるのは要求が大雑把なのはしょうがない。
提案したこともあるのだけれど分からない方が面白いのだと創造神に却下されたのだ。
解読に苦労しながら実際に中身を見てまとめてみると要望としてはシンプルなものがほとんどだった。
雑でどうとでも解釈できるものはこちらの裁量で選択するしかない。
「それにしても何ですか、この幼馴染が欲しいって!」
「幼馴染っていうのはね、君でいうセンソンみたいな……」
「そういうことではありません!」
幼馴染が何たるかを問うているわけでない。
幼馴染なんていうのは用意しようと思って用意するのではない。
世界にあまり手を出せないのだから子供の出生もそれこそ授かり物に他ならず、適当に産ませようで産ませられるものでもないのだ。
子を司る神が少し先の出生について分かるので幼馴染的な近さの子供の出生は可能だが、両親同士が仲が良かったりしなければ幼馴染として成立しない可能性もあるし単に近くで近い時期に生まれればいいというわけじゃない。
それに幼馴染条件をクリアしながら他の条件もクリアしようと思うのは難しい。
変なところでバカ真面目なペルファは頭を抱える。
「けれどこの世界を救ってくれたまさに神様みたいな人の希望なわけだよ?」
悪びれる様子もなくのたまうケーフィスだがその言葉は正しく、しかと恩に報いなければいけないとペルフェは思う。
どっちにしろ創造神に怒鳴ったところでもはや意味もないことだと分かっているから簡単にまとめた希望を再度しっかりと書き直してどうにかおおよそクリア出来るように努力した方が早い。
思わずため息が漏れる。
「他の条件はおよそ難しくはありません……やはりこの幼馴染……プクファンに連絡をして子供がどこで生まれそうか確認して…………」
仕事モードに入ってブツブツとつぶやいているペルフェの視界にもうケーフィスは入っていない。
つまらそうに口を尖らせてケーフィスはその場を後にした。
「種族は……人…………人?」
意思の疎通とは難しい。
雑な神様が書いた、酔っ払いの会話のメモ書きなんて思わぬ解釈を生んでしまうこともあるのだ。
持ってこられた本のいくつかをようやく読み終わった頃、転生を司るペルフェという女神に呼ばれてまばゆいほどの光が溢れる門を通ったことはなんとなく覚えている。
その前後の記憶はやや曖昧であってよく思い出せない。
ケーフィスもその場にいたような気もするし何か言っていたような気もするけれど、それが別れの挨拶だったの最後に再び感謝を述べのかすら分からない。
ただ温かさと安心感に包まれて、眠るように転生を果たしたのだった。
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