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第一章

最後の力比べ6

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「ナメる……なよぉぉぉお!」

 ウォーケックも意地を見せる。
 起き上がりざまに片膝をついた体勢から迫ってくるリュードの首を狙って剣を振る。

 鋭い一撃がリュードの首をかすめてリュードも体勢を崩す。
 それでもリュードは冷静に続く攻撃を防いだ。

 わずかな狂いから不思議なほどウォーケックは劣勢に追い込まれた。
 気迫で今は押しているが剣を一本失い、鼻血で呼吸がしにくくなった。
 
 立ち直らせてくれる時間などリュードは与えてくれないだろうから攻めに転じてどうにか活路を見出そうとしていた。
 下手すると鼻が折れているかもしれない。

「クッ!」

 リュードが片手を剣から手放し、ウォーケックの攻撃を防ぎながら前に出る。
 殴られたことが頭をちらついてウォーケックが離れようとするがこれはリュードのブラフだった。

 リュードが手を剣に戻して力を込める。
 斜めに振り上げられた剣。

 拳ならかわせていた距離だが剣はかわせない。
 ウォーケックが防御しようと剣を前に出し、リュードの剣とぶつかった。

 甲高い音を立ててウォーケックの剣がポッキリと折れてしまい金臭い臭いが鼻をつく。
 やや細身の剣、さらにはリュードは両手持ちで全力で剣を凪いだ。

 ウォーケックの剣はその威力に耐えられなかったのだ。
 剣を叩き切ったリュードはそのままさらに剣を振る。

 防ぐ手立てもない。
 リュードの剣はウォーケックの首にモロに当たった。

 ウォーケックを殺してしまったのではないかと思うほどに完璧に当たってウォーケックがぶっ飛ぶ。
 札が上がり試合の決着がつくと同時に医療班が飛び出してきてすぐにウォーケックの治療にかかる。

 剣は折れても首の骨は折れてなさそうだから多分大丈夫なはずだけどあまりの出来事に会場が一瞬シンとなる。
 
 運ばれていくウォーケックは最後に気力を振り絞ってリュードに向かって親指を上げた。
 ウォーケックの最後の気合いとリュードの勝利を祝って歓声が上がる。
 
 一通り歓声に応えて控え場所に戻ると出場者全員の視線がリュードに集まる。
 村長の打倒候補筆頭を倒してみせたのだ、彼らの中でのリュードに対する評価はガラリと変わった。

 もう15歳だと油断して対峙する者はいない。
 けれどリュードの目標も村長を倒すことであるのでいちいち周りの目を気にしている余裕はない。

「思ってたよりダメージは受けなかったな」

 ウォーケックとの戦いを乗り越えた。
 もちろん勝つつもりではいたけどダメージもそれなりに覚悟していたことを考えると剣が当たった赤い筋が顔や胴体にいくつか出来ただけでダメージは少ないと言っても差し支えはない。

 体力は消耗したけれど消耗具合は想定の範囲内である。
 リュードは控え場所の隅に置いてあったカバンから皮革で作られた水筒を取り出して中身を一口飲み込む。

 やや苦味のある液体が喉を通り程なくして赤い筋はすっかり治って痛みも引いていく。
 水筒の中身はリュードお手製のポーション。

 どうにも普通のポーションは薬草の苦味が強すぎて苦手だった。
 なので大量の薬草を使わせてもらって試行錯誤を繰り返して苦味を抑えながらも効果は変わらないポーションを作り出した。

 上級ポーションに効果は適わないけれどそれなりに効果は高く、味を勘案すると価値は同等とみてもよいのではないかとリュード自身は思っている。
 むしろお茶よりちょっと苦いくらいで飲み物としてもいける。

  抽出作業で細かい世話が必要だから残念ながら量産されはしなかったけどね。

 これぐらいの苦味なら他の物を使って苦味を誤魔化せるのも良いけど、リュードは苦味がある方がお茶っぽくて好きなのでそのまま飲んでいる。
 体の治癒は怪我も少ないので上級ポーションでなくても事足りる。

 今度は別の水筒を取り出してゴクゴクと飲む。
 これはポーションではない。

 水と塩とキラービーという魔物のハチミツ、レモンのような果汁を混ぜた、いわば経口補水液のようなものである。
 キラービーハチミツは滋養強壮効果があり体力回復効果が見込める。
 
 今は少しでも体力を回復させておきたいのでこうしたものを事前に用意してきた。
 自分の能力で作ったものなのだからずるいとは言わせない。

 むしろこうした準備はみんなしてきているものだったのである。
 リュードが大人しく体力回復に努める間も力比べは進んでいく。

 村長は打倒候補の1人である竜人族の青年と戦った。
 リュードとウォーケックの戦いに影響を受けて戦いは激しくなっていて、打倒候補の1人も今回こそはと村長相手に激しく攻め立てはしたが届かなかった。

 それぞれみんなが自分の力を示すように苛烈な戦いを繰り広げる。
 くじ引きでの戦いが2回終わり、ある程度人数も絞れたのでここからトーナメント方式になる。

 緊張のトーナメントくじ引きであったが運がよくリュードは村長とは別の山になった。
 残りの打倒候補2人もなんと村長と同じ山に名前が書かれた。

 打倒候補ではないとはいえ油断はできるような相手はいないが特に強敵と言える相手がいないことになったのだ。
 その後もリュードは破竹の勢いで勝ち進んだ。

 多少の苦戦は傷はあったが自作ポーションを飲んで回復させて大きなケガなく勝ち進むことができたのである。
 反対側も波乱は起こらず決勝、残りの対戦相手は1人というところまできた。

 当然残りの相手は村長だった。

「よくここまで来たな」

 新たな挑戦者の出現に村長も珍しく嬉しそうな表情をしている。
 決勝まで来れたのは村長が他の打倒候補を全部潰してくれたのが大きいとリュードも分かっている。

 他が弱いわけではないけど打倒候補達に比べたらはるかにやりやすい相手達だった。
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