36 / 307
第一章
最後の力比べ5
しおりを挟む
リュードの思惑を見抜いたのか、あるいは単に長く続くのを嫌がったのかウォーケックは今までの切り合いから無理矢理変化をさせてリュードと距離を取った。
リュードも追撃するようなことはしない。
激しい切り合いに乱れた息を整えながら互いに睨み合う。
リュードはウォーケックの弟子であり、ウォーケックはリュードの師匠である。
今では実践に近い形で剣の鍛錬を繰り返しているのでお互いをよく知っている。
当然といえば当然の話であるがそのために同じ技を行使したり、なまじお互いの手の内が分かっているために下手な手も打てず均衡が続いているのである。
正直なところ、ウォーケックもリュードがここまでやれるとは想像してはいなかった。
弟子の成長を感じて喜びもあるが同時に油断できない相手であると改めてリュードのことを見直した。
複数のおっさん達にしごかれ続けたあの訓練も無駄ではなかった。
ウォーケックの手数も素早さも高いレベルにはあるけれどやはり複数人同時とはわけが違う。
どこでこんな経験役に立つのかと思っていたけれどそれこそウォーケックと対等に渡り合えるほどの力をリュードに付けてくれた。
連携などない好き勝手に切りかかってくるオヤジたちはほんとに辛かった。
それに比べれば1人の人がある程度規則を持って攻撃してくるのは楽と言えてしまう側面すらある。
「まだ甘いぞ!」
こちらからと思った瞬間、逆にウォーケックの方が早く、速く動き出した。
置いた距離なんて無かったかのように一瞬で詰めてきたウォーケックの初撃を防ぐと目の前にすでにウォーケックの姿はない。
「くっ!」
リュードはほぼ勘で体を傾ける。
耳元で風を切る音が聴こえてリュードが直前までいたところを剣が通り過ぎていった。
さっきまでは真正面で切り合っていたけれど今度はウォーケックは横へ後ろへと高速で移動しながら様々に切りつけてくる。
明らかに速度は上がっていて目で追えても反応はギリギリ。
身体が付いていかなくて完全に回避が出来ずに頬や腕に剣が擦れる。
刃潰ししていない本番の武器を使っていたなら何ヶ所かスパっと浅く切れていただろう。
刃潰ししていても皮膚が切れそうになっている。
「焦らない……冷静に」
どんな状況であれ焦れば視界は狭くなり冷静さを失ったものから死んでいく。
ウォーケックの速さに危険を感じながらもリュードは頭の芯は冷静に状況を見ている。
最初の切り合いからウォーケックの方がやや体力的な消耗は大きい。
リュードが追いきれないほどの速さはおそらく最高速度に近いはずだと考えた。
魔力や魔法、魔人化の補助もなく速く大きく動いているなら長くは持たないはず。
そう頭の中で考えたリュードはひたすら耐える。
かすった部分が痛み、攻撃の激しさに持たない、終わらないのではないかという思いも出始める。
「冷静に、冷静に」
目では分かっていても体が追いつかないことがもどかしい。
けれどここで焦って攻撃に出ればウォーケックの思う壺になるので小さくつぶやき自分に言い聞かせる。
もっと技量があれば、もっと力があれば対応して行動出来たと胸の奥で下手な欲がむくむくと湧き上がる。
今はそんなこと考える時ではない。
雑念を消し去り一部の隙も与えないように集中を高めるもまた脇腹を剣が掠める。
魔法の補助も無しにこれほどの速度を保ち続けるのはさすがというべきだろうが体への負担も大きいはずなのにさすがというべきか。
「ふっ……はぁっ」
今だ! そう思った。
何度目かわからない攻撃を防いだ瞬間ウォーケックが大きく息を吸い込んだ。
息が続かず呼吸が乱れた数瞬間の硬直。
リュードは思いっきり地面を蹴ってウォーケックに接近する。
ウォーケックよりは遅いかもしれないけど密着するように攻撃してきていたので距離は近い。
少しの接近でリュードはウォーケックとグッと距離を詰めた。
ウォーケックとしても予想外の距離。
とてもじゃないが剣を振る距離ではなく、ウォーケックよりも大振りの剣を持つリュードが取る距離とは誰も思わない距離。
判断に迷いが生じた。
無理矢理剣をリュードとの間に差し込んで攻撃するか距離を取るか回避をするか防御をするか、ウォーケックはどうするべきか迷ってしまった。
そもそもリュードが次にどうするのか瞬間的に判断できなかった。
もう遅い。
リュードは接近した時には左手を剣から離してウォーケックの顔面めがけて殴りかかっていた。
綺麗な戦い方じゃないなんて文句を付けてくる奴もいる可能性もあるけど徒手空拳でやっているやつもいる。
そもそも武器を使って勝たなくていけない勝負でもないからいいだろう。
肩口から真っ直ぐ突き出した拳は見事にウォーケックの顔の真ん中に当たる。
ウォーケックの上体が後ろに逸れる。
自ら後ろに体を逸らしてかわそうとしたがかわしきれなかった。
「うりゃああああっ!」
拳を突き出した体勢でやや捻れた体をさらに捻って勢いをつけて片手で剣を横薙ぎに振るう。
2本の剣をクロスして防ごうとするも不安定な体勢の防御と完璧に力を乗せた一撃では結果は歴然。
ウォーケックと左手に持った剣がぶっ飛ぶ。
防がれた以上は致命的な一撃とはならず札は上がらない。
そのままトドメを刺そうと追撃しにかかる。
リュードも追撃するようなことはしない。
激しい切り合いに乱れた息を整えながら互いに睨み合う。
リュードはウォーケックの弟子であり、ウォーケックはリュードの師匠である。
今では実践に近い形で剣の鍛錬を繰り返しているのでお互いをよく知っている。
当然といえば当然の話であるがそのために同じ技を行使したり、なまじお互いの手の内が分かっているために下手な手も打てず均衡が続いているのである。
正直なところ、ウォーケックもリュードがここまでやれるとは想像してはいなかった。
弟子の成長を感じて喜びもあるが同時に油断できない相手であると改めてリュードのことを見直した。
複数のおっさん達にしごかれ続けたあの訓練も無駄ではなかった。
ウォーケックの手数も素早さも高いレベルにはあるけれどやはり複数人同時とはわけが違う。
どこでこんな経験役に立つのかと思っていたけれどそれこそウォーケックと対等に渡り合えるほどの力をリュードに付けてくれた。
連携などない好き勝手に切りかかってくるオヤジたちはほんとに辛かった。
それに比べれば1人の人がある程度規則を持って攻撃してくるのは楽と言えてしまう側面すらある。
「まだ甘いぞ!」
こちらからと思った瞬間、逆にウォーケックの方が早く、速く動き出した。
置いた距離なんて無かったかのように一瞬で詰めてきたウォーケックの初撃を防ぐと目の前にすでにウォーケックの姿はない。
「くっ!」
リュードはほぼ勘で体を傾ける。
耳元で風を切る音が聴こえてリュードが直前までいたところを剣が通り過ぎていった。
さっきまでは真正面で切り合っていたけれど今度はウォーケックは横へ後ろへと高速で移動しながら様々に切りつけてくる。
明らかに速度は上がっていて目で追えても反応はギリギリ。
身体が付いていかなくて完全に回避が出来ずに頬や腕に剣が擦れる。
刃潰ししていない本番の武器を使っていたなら何ヶ所かスパっと浅く切れていただろう。
刃潰ししていても皮膚が切れそうになっている。
「焦らない……冷静に」
どんな状況であれ焦れば視界は狭くなり冷静さを失ったものから死んでいく。
ウォーケックの速さに危険を感じながらもリュードは頭の芯は冷静に状況を見ている。
最初の切り合いからウォーケックの方がやや体力的な消耗は大きい。
リュードが追いきれないほどの速さはおそらく最高速度に近いはずだと考えた。
魔力や魔法、魔人化の補助もなく速く大きく動いているなら長くは持たないはず。
そう頭の中で考えたリュードはひたすら耐える。
かすった部分が痛み、攻撃の激しさに持たない、終わらないのではないかという思いも出始める。
「冷静に、冷静に」
目では分かっていても体が追いつかないことがもどかしい。
けれどここで焦って攻撃に出ればウォーケックの思う壺になるので小さくつぶやき自分に言い聞かせる。
もっと技量があれば、もっと力があれば対応して行動出来たと胸の奥で下手な欲がむくむくと湧き上がる。
今はそんなこと考える時ではない。
雑念を消し去り一部の隙も与えないように集中を高めるもまた脇腹を剣が掠める。
魔法の補助も無しにこれほどの速度を保ち続けるのはさすがというべきだろうが体への負担も大きいはずなのにさすがというべきか。
「ふっ……はぁっ」
今だ! そう思った。
何度目かわからない攻撃を防いだ瞬間ウォーケックが大きく息を吸い込んだ。
息が続かず呼吸が乱れた数瞬間の硬直。
リュードは思いっきり地面を蹴ってウォーケックに接近する。
ウォーケックよりは遅いかもしれないけど密着するように攻撃してきていたので距離は近い。
少しの接近でリュードはウォーケックとグッと距離を詰めた。
ウォーケックとしても予想外の距離。
とてもじゃないが剣を振る距離ではなく、ウォーケックよりも大振りの剣を持つリュードが取る距離とは誰も思わない距離。
判断に迷いが生じた。
無理矢理剣をリュードとの間に差し込んで攻撃するか距離を取るか回避をするか防御をするか、ウォーケックはどうするべきか迷ってしまった。
そもそもリュードが次にどうするのか瞬間的に判断できなかった。
もう遅い。
リュードは接近した時には左手を剣から離してウォーケックの顔面めがけて殴りかかっていた。
綺麗な戦い方じゃないなんて文句を付けてくる奴もいる可能性もあるけど徒手空拳でやっているやつもいる。
そもそも武器を使って勝たなくていけない勝負でもないからいいだろう。
肩口から真っ直ぐ突き出した拳は見事にウォーケックの顔の真ん中に当たる。
ウォーケックの上体が後ろに逸れる。
自ら後ろに体を逸らしてかわそうとしたがかわしきれなかった。
「うりゃああああっ!」
拳を突き出した体勢でやや捻れた体をさらに捻って勢いをつけて片手で剣を横薙ぎに振るう。
2本の剣をクロスして防ごうとするも不安定な体勢の防御と完璧に力を乗せた一撃では結果は歴然。
ウォーケックと左手に持った剣がぶっ飛ぶ。
防がれた以上は致命的な一撃とはならず札は上がらない。
そのままトドメを刺そうと追撃しにかかる。
10
お気に入りに追加
404
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。
yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。
子供の頃、僕は奴隷として売られていた。
そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。
だから、僕は自分に誓ったんだ。
ギルドのメンバーのために、生きるんだって。
でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。
「クビ」
その言葉で、僕はギルドから追放された。
一人。
その日からギルドの崩壊が始まった。
僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。
だけど、もう遅いよ。
僕は僕なりの旅を始めたから。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
ごめんみんな先に異世界行ってるよ1年後また会おう
味噌汁食べれる
ファンタジー
主人公佐藤 翔太はクラスみんなより1年も早く異世界に、行ってしまう。みんなよりも1年早く異世界に行ってしまうそして転移場所は、世界樹で最強スキルを実でゲット?スキルを奪いながら最強へ、そして勇者召喚、それは、クラスのみんなだった。クラスのみんなが頑張っているときに、主人公は、自由気ままに生きていく
転生幼児は夢いっぱい
meimei
ファンタジー
日本に生まれてかれこれ27年大学も出て希望の職業にもつき順風満帆なはずだった男は、
ある日親友だと思っていた男に手柄を横取りされ左遷されてしまう。左遷された所はとても忙しい部署で。ほぼ不眠不休…の生活の末、気がつくとどうやら亡くなったらしい??
らしいというのも……前世を思い出したのは
転生して5年経ってから。そう…5歳の誕生日の日にだった。
これは秘匿された出自を知らないまま、
チートしつつ異世界を楽しむ男の話である!
☆これは作者の妄想によるフィクションであり、登場するもの全てが架空の産物です。
誤字脱字には優しく軽く流していただけると嬉しいです。
☆ファンタジーカップありがとうございました!!(*^^*)
今後ともよろしくお願い致します🍀
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる