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第一章

初めての力比べ8

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 剣を振った勢いで体を反転させてスライディングの体勢から飛び上がるようにして立ち上がり剣を思いっきり真横に振る。

 後ろの状況が分からないにも関わらず上手く防いでみせたフテノは賞賛に値するだろう。
 ただ空中にいては剣は防げてもそれにかかる力までは防げはしない。

 力任せなフルスイングの攻撃にフテノがそれなりの速さで飛んでいく。

 「まだ終わらない!」

 無茶な動きに疲労が溜まった体が多少悲鳴をあげる。
 けれどここで止まってはいられない。

 フテノが飛んで行った方に全力で駆け出して追いかける。
 1度地面に叩きつけられて跳ねたフテノは素早く体勢を立て直そうとしているがリュードの方が早い
 
 フテノが顔を上げた時にはリュードは間近に迫って頭を狙って剣を振り下ろしていた。
 剣を真横に掲げて剣の腹を柄を持たない手で支えてそれを受ける。

 もう一度! そう思ったのだけど無理をしたリュードの体が付いてこなかった。
 動きの鈍ったリュードの隙をフテノは見逃さない。

 リュードの攻撃受け流しながら反撃を繰り出す。
 さすがに完全な体勢ではないフテノの攻撃は雑で大きなものだったがリュードも反応しきれず剣で受けるしかなかった。
 
 今度はリュードが弾かれるような形で距離を置かれてしまう。
 勝ちまで持っていくつもりだったのにダメージもあまり与えることなく消耗してしてしまった。

 いつも振り回しているはずの剣が重く感じられ始め、肩でしている息はすぐには整わない。
 やばいと焦り思うリュードに反してリュードをジッと見たままフテノは攻め込んでこない。

 これ幸いとばかりに呼吸を整えながらフテノとの睨み合いに興じて様子を伺う。
 なぜ攻めてこないのか疑問が湧く。

 リュードが考えるよりダメージがあったのか、それとも更なる一手でも警戒しているのか。
 明らかにリュードの動きは鈍り、弾き返された隙は大きかった。

 リュードが相手の立場なら迷わず攻め込んでいた。
 何かがおかしい。

「あれは……!」

 極限まで研ぎ澄まされた状態の集中力でフテノを見ていたから気づけた異変。
 けれどすぐさま飛びつくのは危険。

 落ち着け、これがブラフやハッタリといった誘いの可能性だってあるし単にそう見えただけかもしれないと冷静になるように自分に言い聞かせる。
 そんな小さな違和感を確かめるように睨み合いを続けながらフテノの周りを回るように移動する。

 ピッタリとリュードを正面に見据えたままの状態を保つフテノは何ら変わりない様子のようにも見える。
 しかしよく見ていたリュードには分かった。
 上手くごまかしているけれど左足をわずかに引きずっていることを。

 徒労に思えたあの一連の流れ中でフテノは足を痛めていた。
 これで不自然に攻めてこないことの説明もつく。

 勝利への光が見えた気がした。
 ならば悠長に体力回復に努めている場合ではなくさっさと攻め込むに限る。

 機動力を損なった相手なら速さで翻弄するような戦いをするのも1つと頭をよぎる。
 しかしそうした戦い方をあまりやったこともないリュードがやったところで通用するとも思えない。

 最後は真正面からぶつかり合う。
 魔族チックな考えに毒されてる感じがだいぶあるがまあ魔族だしいいやと笑う。

 フテノとの距離を詰めたリュードは最初から全力で切りかかっていく。
 攻め込んだのはリュードにも関わらずすぐにまたフテノが優勢の切り合いになったように周りは見えているだろう。

 確かに手数はフテノが多くリュードは防ぎ、受け流す構図は見た目上変わっていない。
 中身はといえば全く異なっている。

 フテノの重かった一振りはまだそれでも重くはあるのだがしっかりと防御できるまでに威力は落ちている。
 踏ん張りの効いていない斬撃は大きな脅威ではなくなっている。

 むしろ手数をやや重視して痛めたことを隠そうとしているとリュードは見た。
 フテノの優勢も長くは続かない。

 時間が経てば経つほど痛めた足の痛みは強くなっていく。
 ツキツキと痛む程度だったのに頭の芯を殴られているような痛みになってフテノは顔を歪める。

 リュードの攻めを防いで反撃するには踏ん張らなきゃいけないのに踏ん張りたくないほど足が痛む。
 フテノが数回攻撃してリュードが1回返す流れが段々と1回の攻撃を1回の攻撃で返す均衡状態になった。

 歯を食いしばって剣を振っている顔色は明らかに悪くなっていて足がひどく痛んでいることがはっきりと分かり始めた。
 なのにまだ均衡を保ち大きな隙を見せないフテノは凄いと思う。

「そろそろ終わりにするぞ!」

 リュードも疲れてきて速さも力も落ちている。
 最後の力を振り絞ってフテノに猛攻をくわえる。

 初めて状況が逆転した。
 フテノが押されて防戦一方の状況を作り出せた。

 リュードとしても楽ではなくもう剣を投げ出して出来ればベッド、この際地面の上でもいいから体を投げ出して寝てしまいたい。
 これでダメなら負けでもいいかもとすら諦めに近い考えが自然と頭に浮かぶ。

 だがそんな考えを振り切ってリュードが剣が打ち付けけるたび足が痛むのを嫌がったフテノが状況を変えようと剣を振った。
 だがフテノの剣は歪んだ軌道を描いて空を切った。

 痛みが剣の腕を鈍らせたのだ。
 振り出しが遅く真っ直ぐに振り抜くことができず、最初の頃の鋭さは全くなくて容易に回避することができた。

「勝者シューナリュード!」

 フテノの首筋に寸止めされたリュードの剣とその瞬間上がった4つの白い札。
 最後のギリギリのところ、もう数秒戦いが続いていたらリュードの方の集中が切れていただろう。

 先に限界が来たのはフテノだった。
 ギリギリの勝利。
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