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第五章

ゴブリンは白いリザードマンを取り戻します2

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「みんな下がれ! カジオ、頼む!」

「なんだと? 獣人が急に……召喚魔法を使えるというのか?」

 ドゥゼアは下がりながらカジオを召喚する。
 ヴァンベーゲンがアイアンゴーレムを操ってカジオを攻撃する。

 振り下ろされた拳をカジオがかわす。
 動きはそれほど速くなく、今のところ戦うのにも苦労はしない。

 ドゥゼアはカジオがアイアンゴーレムを相手にしてくれている間にヴァンベーゲンの方に走る。

「そいつの体返してもらおうか!」

「そういえばお前の言葉が分かるな。腐っても魔物になってしまったということか」

「くっ!」

 ヴァンベーゲンが魔法で炎を放ち、ドゥゼアは間一髪回避する。
 正直オルケを取り戻すためにどうしたらいいのかわからない。

 だが何もしなければオルケはヴァンベーゲンによって完全に消されてしまうかもしれない。
 だからとりあえず攻撃する。

 刺激を与えれば何かが変わるかもしれない。
 痛みによってオルケが目を覚すかもしれない。

 もし仮になんともならないのならオルケを殺す。
 体を乗っ取られて好き勝手されるなどドゥゼアだったら堪らない。

 止めてほしいと思うだろう。
 オルケが戻らないのなら殺して止めてやるのが最後の温情というものである。

「……どうにか頑張ってくれ、オルケ」

 ーーーーー

『ここは……』

 気づくとオルケはどこか違う場所にいた。
 石造りの建物の廊下でここはどこなのかとキョロキョロと周りを見回す。

『あれ?』

 ふと視線を下げるとオルケの視界に自分の手が映った。
 白いウロコに覆われたリザードマンの手ではなく普段から日に当たっていない青白い人間の手だった。

 驚いたオルケは自分の顔をペタペタと触る。
 突き出たような口はなく、柔らかな肌が指先に当たる。
 
 そしてお尻の方に手をやってみるが太くて立派な尻尾はない。

『人に……戻ってる?』

 自分の目で見るまでは信じられない。
 でも周りに鏡のようなものはない。

『ここは……魔塔? なら!』

 ふとここがどこなのか思い出した。
 オルケは走り出す。

 やたらと体が重い。
 リザードマンの体の方が体重的には重かったけど身体能力は遥かにリザードマンの体の方が高く、人間のオルケの体は運動不足で走るのも遅かった。

 動くことだけを考えたらリザードマンの体の方が良かったと思う。
 でも気分は悪くない。

『全部……夢だったんだ』

 魔塔の廊下を走っていく。
 その先の突き当たりにオルケの目的の部屋があった。

『フォダエ……』

 オルケが魔法で彫った小さいネームプレートがドアにかけてある。
 不安、それに期待でオルケの手は震えた。

 緊張と走ったせいで息が乱れながらオルケはゆっくりとドアノブに手を伸ばした。
 丸いドアノブを回して、そこで動きを止めたオルケは目を閉じて大きく息を吸い込む。

 勢いをつけてドアを開く。

『オルケ、どうしたのそんな息を切らせて』

 涙が溢れてきた。
 白い白衣に身を包んだ白いロングヘアの美人が部屋の中に立っていた。

 息を切らせているオルケを見て驚いたような顔をしていて、オルケは胸に込み上がってくる感情を抑えきれなかった。

『どうしたの、オルケ?』

『フォダエ!』

 オルケはフォダエに抱きついた。
 鏡には茶髪でそばかすの可愛らしい女の子が映っている。

『怖い夢を見たんだ。フォダエがリッチになって……それでも人間にやられて……』

『そうなの』

 フォダエは泣きじゃくるオルケの背中を優しく撫でる。
 何があったのかをフォダエに話した。

 フォダエが騙されて、裏切られて、仕方なくリッチになった。
 オルケもフォダエの手によってスケルトンになって二人で頑張って暮らしていたけれど、結局人間の手によってフォダエは倒されてしまった。

 オルケはフォダエの研究によってリザードマンの体に魂を移すことでなんとか逃げ延びて、ドゥゼアというゴブリンの魔物と今は旅を続けていた。

『あなた、そのドゥゼアとかいうの好きなのね?』

 ソファーに座ったオルケはいつの間にか泣き止んで、これまでの旅のことを全部話してしまっていた。

『へっ!? ゴ、ゴブリンですよ!?』

『だってドゥゼアの話をする時あなた顔が柔らかいもの』

 オルケは顔を赤くする。
 魔物なんて好きにならない。

 特にゴブリンなんてと思っていた。
 けれどドゥゼアは仲間を決して見捨てない。

 強い敵に会っても諦めないし、旅を快適にしようと試行錯誤もする。
 色々なことを知っているし、とても優しい目でオルケを見てくれる。

 レビスとユリディカがドゥゼアを好きなことは分かっている。
 けれどその気持ちは分からないと思っていたのに、いつしかオルケにもなんとなくその気持ちが分かるようになっていた。

 好きなんだ、と思った。
 誰でもなくフォダエに言われて自覚した。

 たとえゴブリンでも男らしくて優しくて強いドゥゼアのことを好きになっていたのだ。

『外に出るのも男の人も苦手なあなたが恋をするなんてね』

 フォダエは優しくオルケの頬に手を添えた。
 よくフォダエはこうしてオルケのことを撫でてくれた。

 オルケもフォダエの温かい手で頬を撫でられるのが好きだった。
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