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第五章

ゴブリンはゴーレムと戦います4

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「なるほど……ありがとうございます!」

 全ての話をちゃんと聞いたデカーヌはドゥゼアに深々と頭を下げた。
 変な魔物ということで警戒心を持っていたけれど話を聞くほどにドゥゼアの知能の高さに感心をせざるを得なかった。

 カワーヌとドッゴを助けてくれたことも理解した。

「ただ……ここには来るべきじゃなかった」

「どうしてですか?」

 せっかく助けに来たのにとカワーヌは悲しそうな顔をする。

「見てみろ、あのバケモン……」

 デカーヌはチラリと下を覗き込む。
 そこには壁にの穴を覗き込むようなアイアンゴーレムが立っていた。

「連れてきた冒険者も歯が立たずにやられてしまった……」

「じゃああいつは……」

「今回連れてきた冒険者の生き残りです」

 壁に空いた穴の奥の方で膝を抱えて小さくなっている女性がいた。
 なんとなく正体を察しながらも最初から気になっていた。

 女性の正体は冒険者。
 デカーヌが遺跡を攻略するために雇って連れてきた冒険者の一人だった。

 五人パーティーの冒険者でここまで順調に来ていた。
 罠の痕跡もしっかりと見つけて、崖も上手く渡ってきた。

 しかしデカーヌたちの前にアイアンゴーレムが立ちはだかった。
 扉も閉まってしまったので逃げることもできずに戦うことを強いられた。

「みなさんも必死に戦ってくれたのですが……」

 冒険者たちもアイアンゴーレムに対して有意に立ち回り、デカーヌも倒せそうだと思うぐらいに戦っていた。
 けれど段々とアイアンゴーレムの動きが速くなって冒険者たちもやられてしまった。

 危険な状況に陥ったデカーヌはなんとか逃げ道を探した。
 そこで見つけたのがこの壁が崩落した穴だったのである。

 デカーヌは壁に爪を突き立てて登り、何とか穴に逃げ込んだ。
 最後に残されてしまった冒険者もロープを使って何とか助け出して穴の中で縮こまるようにして隠れて過ごしていた。

「そのうち……明かりが消えてアイアンゴーレムは部屋の真ん中に戻っていきました」

 どういう原理なのかドゥゼアにもわからないが脅威がなくなったと判断したアイアンゴーレムは部屋の真ん中で待機するようになっている。
 部屋の明かりも連動していてアイアンゴーレムが動かない間は消えてしまう。

「すっかり彼女はショックを受けてしまったようで」

 ほとんどなす術もなく仲間がやられたことに冒険者の女性はショックを受けて塞ぎ込んでしまった。

「俺も生き残りはしたけれど……どうしたらいいのか」

 デカーヌはカワーヌが生きている限り死ねない。
 ただ不死身だからといって痛みを感じないわけでもなく、強いわけでもなかった。

 痛みを受けるとその感覚はカワーヌにも伝わってしまう。
 何が何でも足掻くというにもリスクがあった。

 助けに来てほしいけれど助けに来てほしくない。
 そんな思いがデカーヌの中にはあったのである。

「全然倒せそうもなかったのか?」

「……ほとんど。一度全力を出して穴を開けましたが……それだけでした」

 ゴーレムにはコアと呼ばれる重要な器官がある。
 コアがゴーレムの全てといってもいいもので、コアを破壊されるとゴーレムはその機能を失う。

 つまりコアを破壊できればゴーレムを倒すことができる。
 裏を返せばコアを破壊できなきゃゴーレムを倒せないという話なのである。

 冒険者たちもアイアンゴーレムに立ち向かった。
 やはり金属の塊であるアイアンゴーレムは硬くて冒険者たちの攻撃も通じなかった。

 一度だけ力を集中させてアイアンゴーレムに穴を開けたけれどそこにコアはなく、戦っているうちに穴も修復されて元通りになってしまっていた。

「何回か試したんですが、部屋の中に入ると明かりがついてゴーレムが動き出します」

 デカーヌもただ穴の中で怯えていたわけではない。
 何とか逃げ出せないかと試みた。

 明かりが消えると同時に扉も開くので穴から飛び出して向かって見ようとしたのだが、部屋の中に降りると同時に明かりがついて扉も閉まるのだ。
 そして少し遅れてアイアンゴーレムが動き出す。

「ゴーレムは最初こそ動きが鈍いのですが動いているうちに素早くなってきます」

 最終的には冒険者たちも素早くなったアイアンゴーレムに倒されてしまった。
 ドゥゼアが部屋の中を見てみると真新しい死体が転がっている。

 あれが冒険者なのだなと目を細める。

「部屋の反対側にも扉はありますが同じく明かりがつくと閉じてしまいます」

「なるほどな……」

「思えば前の部屋にゴーレムがいたんでしょう。ただ部屋の状況を見るに金属ではなく岩や土のゴーレムだったのだと思います」

「進むに連れて難易度が上がっていく仕組みか」

 ほとほといやらしい仕掛けの場所であるとドゥゼアはため息をついた。

「進むにしても戻るにしてもあのゴーレムを何とかしなきゃいけないのか」

 しばらく穴を見上げていたアイアンゴーレムが背中を向けてゆっくりと部屋の真ん中に戻り始めた。
 アイアンゴーレムが部屋の真ん中に戻ると壁の松明の火が次々と消えていき、やがて部屋は真っ暗になった。
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