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第五章
ゴブリンは不思議な遺跡に挑みます3
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「カエルさん……ええと」
「ゲコット」
「そ、そうそうゲコットさんのお客さんだったんですね。僕はカワーヌと申します。魔人商人……の弟子です」
「弟子? お前が魔人商人じゃないのか?」
「そうなんです。魔人商人なのはホブコボルトであるデカーヌさんの方なんです」
「こいつは?」
ドゥゼアは自分に剣を突きつけたドッゴというオオコボルトのことを指差した。
名前は違うなと思うけれどオオコボルトなことには変わりない。
「こちらはドッゴさんです。商人のデカーヌさんとはまた別のホブコボルトです」
「……そうなのか」
「ええ、商人ではないですが僕たちのことを守ってくれているんです」
まさかもう一体オオコボルトがいるだなんて思いもしなかった。
話に聞いていたよりも不思議な魔人商人たちである。
「取引をしたいんだが肝心の商人であるデカーヌだかはいるか?」
「それが……」
「いないんだな?」
「……はい」
カワーヌは泣きそうな顔をしてうなだれる。
やはり聞いていたように何かの事情抱えていそうだとドゥゼアは思った。
「何があったのか聞かせてくれないか?」
どう見ても少し席を外している程度には見えない。
面倒な馴れ合いをするつもりはないドゥゼアはざっくりと本題に入る。
手伝えることなら恩でも売っておくのは悪くない。
話せないというのならそれでも構わない。
別の魔人商人でも探すから。
カワーヌは困ったようにドッゴを見上げる。
「……お前の好きにしろ」
立場的にはそんなに力の差はなさそうだが商人の弟子であるカワーヌの方に決定権があるようだ。
「とりあえずテントに入ってください。この人数だと少し狭いかもしれませんが」
カワーヌは悩んだけれど最終的には話すことに決めた。
ドゥゼアたちは招かれるままにテントの中に入った。
大きめのテントではあるがドゥゼアたち4体の魔物が入るとキチキチである。
「紅茶……飲みますか?」
「もらおうかな」
テントの中には荷物も置いてある。
縦型の筒のようなものがあってカワーヌはその上に小さいケトルを置いて水を注ぐ。
普段なら別に紅茶なんていらないけどゴブリンになってからそんなもの飲んでこなかった。
人の記憶を思い出した今なら飲んでみてもいいかもしれないと思った。
カワーヌが筒に触れていると筒の上から火が出てケトルを温め始める。
いわゆる魔道具というやつだ。
「どこから話したら……この辺りに遺跡があることはご存知ですか?」
「遺跡だと? いや、知らない」
元々この辺りにいたわけではないドゥゼアたちはそうしたところにも疎い。
遺跡があるかどうかなんて知るはずもない。
「近くに古くからある遺跡があるんです。なんの遺跡で、どれくらい前からあるのかとか謎のものなんです。デカーヌさんは周りを見返してやるって言って冒険者を募って遺跡に入って……」
「帰ってこないんだな」
カワーヌは頷いた。
遺跡やダンジョンに入って帰ってこないなんて話はよくあるものだ。
「じゃあもう……」
言っちゃ悪いが死んでいるのだろうとドゥゼアは思った。
帰ってこないとはそういうことである。
「まだ……生きてるんです!」
ドゥゼアが続けようとした言葉を否定するようにカワーヌが首を振った。
「なぜそう言える?」
遺跡など入った瞬間から生死不明である。
生きて帰ってきてようやく生きていたと言えるような場所なのだ。
入ってどれほどの時間が経っているのか知らないけれど二人の深刻そうな顔を見るにそれなりに時間も経っているのだろうと分かる。
こうした時に生きているだろうなんて変な希望を抱くのは残酷なことである。
ドゥゼアとしても生きているだろうなんでも軽々しく口にはできない。
「僕には分かるんです……」
「理由を言え」
「それは……」
「たとえお前に分かるとしても俺には分からない。理由も言えないのならこの話は終わりだ」
根拠のない勘を信じて時間を無駄にすることはできない。
カワーヌが根拠のない勘を信じるのは勝手であるがドゥゼアはまた別の魔人商人を探すことにしようと考えた。
「ま、待ってください!」
カワーヌはドゥゼアを呼び止めた。
「カワーヌ……」
「分かってます。でも……僕の勘がこの人を逃しちゃいけないって言ってるんです!」
ドッゴは渋るけれどカワーヌは不思議なゴブリンに何かを感じていた。
「何か秘密があるのか?」
「僕とデカーヌさんは繋がってるんです」
「繋がってる?」
「……まだただのコボルトだった時に森の中で不思議な石を見つけました。僕たちはただ綺麗だからそれを手に取ったのですが、実はそれが魔道具だったんです」
「それで?」
「不思議な魔道具は僕とデカーヌさんを繋げました。二人のうちどちらかが生きているのならもう片方は絶対に死なない効果があるんです」
「ほう?」
二身一命という呪いに近いような魔法が存在する。
一つの命を二人で分け合うものだがどちらか一方が生きていればもう片方も死なないというもので、禁じられた魔法の一つだとドゥゼアは聞いたことがあった。
「ゲコット」
「そ、そうそうゲコットさんのお客さんだったんですね。僕はカワーヌと申します。魔人商人……の弟子です」
「弟子? お前が魔人商人じゃないのか?」
「そうなんです。魔人商人なのはホブコボルトであるデカーヌさんの方なんです」
「こいつは?」
ドゥゼアは自分に剣を突きつけたドッゴというオオコボルトのことを指差した。
名前は違うなと思うけれどオオコボルトなことには変わりない。
「こちらはドッゴさんです。商人のデカーヌさんとはまた別のホブコボルトです」
「……そうなのか」
「ええ、商人ではないですが僕たちのことを守ってくれているんです」
まさかもう一体オオコボルトがいるだなんて思いもしなかった。
話に聞いていたよりも不思議な魔人商人たちである。
「取引をしたいんだが肝心の商人であるデカーヌだかはいるか?」
「それが……」
「いないんだな?」
「……はい」
カワーヌは泣きそうな顔をしてうなだれる。
やはり聞いていたように何かの事情抱えていそうだとドゥゼアは思った。
「何があったのか聞かせてくれないか?」
どう見ても少し席を外している程度には見えない。
面倒な馴れ合いをするつもりはないドゥゼアはざっくりと本題に入る。
手伝えることなら恩でも売っておくのは悪くない。
話せないというのならそれでも構わない。
別の魔人商人でも探すから。
カワーヌは困ったようにドッゴを見上げる。
「……お前の好きにしろ」
立場的にはそんなに力の差はなさそうだが商人の弟子であるカワーヌの方に決定権があるようだ。
「とりあえずテントに入ってください。この人数だと少し狭いかもしれませんが」
カワーヌは悩んだけれど最終的には話すことに決めた。
ドゥゼアたちは招かれるままにテントの中に入った。
大きめのテントではあるがドゥゼアたち4体の魔物が入るとキチキチである。
「紅茶……飲みますか?」
「もらおうかな」
テントの中には荷物も置いてある。
縦型の筒のようなものがあってカワーヌはその上に小さいケトルを置いて水を注ぐ。
普段なら別に紅茶なんていらないけどゴブリンになってからそんなもの飲んでこなかった。
人の記憶を思い出した今なら飲んでみてもいいかもしれないと思った。
カワーヌが筒に触れていると筒の上から火が出てケトルを温め始める。
いわゆる魔道具というやつだ。
「どこから話したら……この辺りに遺跡があることはご存知ですか?」
「遺跡だと? いや、知らない」
元々この辺りにいたわけではないドゥゼアたちはそうしたところにも疎い。
遺跡があるかどうかなんて知るはずもない。
「近くに古くからある遺跡があるんです。なんの遺跡で、どれくらい前からあるのかとか謎のものなんです。デカーヌさんは周りを見返してやるって言って冒険者を募って遺跡に入って……」
「帰ってこないんだな」
カワーヌは頷いた。
遺跡やダンジョンに入って帰ってこないなんて話はよくあるものだ。
「じゃあもう……」
言っちゃ悪いが死んでいるのだろうとドゥゼアは思った。
帰ってこないとはそういうことである。
「まだ……生きてるんです!」
ドゥゼアが続けようとした言葉を否定するようにカワーヌが首を振った。
「なぜそう言える?」
遺跡など入った瞬間から生死不明である。
生きて帰ってきてようやく生きていたと言えるような場所なのだ。
入ってどれほどの時間が経っているのか知らないけれど二人の深刻そうな顔を見るにそれなりに時間も経っているのだろうと分かる。
こうした時に生きているだろうなんて変な希望を抱くのは残酷なことである。
ドゥゼアとしても生きているだろうなんでも軽々しく口にはできない。
「僕には分かるんです……」
「理由を言え」
「それは……」
「たとえお前に分かるとしても俺には分からない。理由も言えないのならこの話は終わりだ」
根拠のない勘を信じて時間を無駄にすることはできない。
カワーヌが根拠のない勘を信じるのは勝手であるがドゥゼアはまた別の魔人商人を探すことにしようと考えた。
「ま、待ってください!」
カワーヌはドゥゼアを呼び止めた。
「カワーヌ……」
「分かってます。でも……僕の勘がこの人を逃しちゃいけないって言ってるんです!」
ドッゴは渋るけれどカワーヌは不思議なゴブリンに何かを感じていた。
「何か秘密があるのか?」
「僕とデカーヌさんは繋がってるんです」
「繋がってる?」
「……まだただのコボルトだった時に森の中で不思議な石を見つけました。僕たちはただ綺麗だからそれを手に取ったのですが、実はそれが魔道具だったんです」
「それで?」
「不思議な魔道具は僕とデカーヌさんを繋げました。二人のうちどちらかが生きているのならもう片方は絶対に死なない効果があるんです」
「ほう?」
二身一命という呪いに近いような魔法が存在する。
一つの命を二人で分け合うものだがどちらか一方が生きていればもう片方も死なないというもので、禁じられた魔法の一つだとドゥゼアは聞いたことがあった。
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