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第四章
ゴブリンは敵を考えます3
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ただ直接人間が狙ったというよりはどこかの勢力なりに揺さぶりをかけたり、オゴンにやったように何かの取引をしてのことではあるだろう。
『いくつかそうした連中に心当たりがある。だからどこが狙ったのか絞りきれない』
全く思いつかないから分からないのではなくて、どこと断定することができないから分からないのだとオゴンは答えていた。
『パッと思いつくのは蛇族の連中だろうな』
『アイツらか……』
「カジオも知ってるのか?」
『ことあるごとに獅子族と敵対くる連中だ。俺たちのことを敵視している。戦争中は協力していたが俺が敵を倒して周りにもてはやされると蛇族は良い顔をしなかった』
『そうだな。それに奴らはズル賢いやつも多い』
カジオもオゴンも少し苦々しい顔をした。
それだけで蛇族と過去に遺恨があるのだろうことはドゥゼアにも分かった。
『犬族も最近トップが変わった。若くて強い者だが戦争の時に戦場にはまだいなかった。何を考えているのか俺には分からない』
上が変われば下も変わる。
もしかしたら犬族がもっと権力を欲していることだってあり得ないことではない。
『猫族はどうだろうな……俺たちに近いから手を出すことはないと思うが気まぐれな側面はあるからな』
そして今上げた蛇族、犬族、猫族、それに鳥族を加えた4氏族がそれぞれ首都を除いた4つの大都市の支配者となるのだった。
『他にも少数民族もいるし、同じ氏族の中でも一枚岩じゃないこともあるからな……』
可能性を考え出すとどこでもあり得る。
信じられるのは同じ氏族ぐらいだろうとオゴンは思った。
『なぜカジアを獅子族の中で育てなかった?』
ドゥゼアの疑問をカジオに代わりに聞いてもらう。
南側は猫族の領域。
今いる西側が犬族の領域となっている。
そして中央において強力な力を持つのが獅子族であった。
カジアを育てたいのなら信頼できる獅子族の中で育てるのがよかったのではないかとドゥゼアは思ったのである。
そうでなくとも獅子族の領域の方が何かと都合は良さそうなものであるが。
『それは……姉さんが決めたことだ』
カジアの母であるヒューリャーはオゴンの姉であり、カジオの妻であった。
当時白獅子族の氏族長であった者の娘でもあったし、あまりにも名前も顔も知られすぎていた。
そんなヒューリャーが子供を産めば誰の子供かなど一目瞭然である。
ヒューリャーはカジアを普通の子として育てようと思っていた。
しかしこのままでは周りがカジアを放ってはおかない。
だから自らの氏族を離れて顔もバレにくい田舎に引っ込んだのである。
それに加えてオゴンがカジオを殺したり、そのオゴンすら裏切られたのを見て同じ氏族でも信用できなくなったということもあった。
だからカジアには力の使い方を教えずに勉強を教えた。
平和になった世の中では生きていくのに知識が必要なのだとヒューリャーは考えたからであった。
同時にカジアが力を持てば良からぬことに巻き込まれるのではないかという心配もあったのである。
結局良からぬことに巻き込まれているのだから最初から力の使い方を教えておけばと思わなくもないが、まだ子供のカジアが力の使い方を覚えたところでそんなに変わらないかとドゥゼアは小さくため息をついた。
『だが姉さんの思いとは裏腹に大きな流れがカジアに迫っているのだな……』
『くそっ……』
「カジオ、そろそろ限界だ」
カジオは透けて見える自分の手を眺めた。
ドゥゼアの魔力も残り少なくなっていた。
『彼はなんと?』
『もうタイムリミットのようだ』
『あっ……そうだ、これを使ってみてくれないか?』
カジオがいつまでも出ていられるのではないということをオゴンは忘れていた。
慌てたように立ち上がると棚の戸を開けて中から小瓶を手に取った。
「これは?」
『これは魔力ポーションだ。魔法使いなんかが魔力の足りない時に使うもので使えば魔力が回復する』
魔力がなくてカジオを維持できないというのならどこからか魔力を持って来ればいいとオゴンは考えた。
魔力回復用のポーションを飲めばいくらか魔力が回復するのでカジオを出したままにできるはず。
ドゥゼアは小瓶の蓋を開けて匂いを嗅ぐ。
清涼感のある強い香りがしている。
治療用のポーションは緑っぽい匂いがしていることが多いので匂いの点からもう普通のポーションとは違う。
少なくとも毒な感じの匂いではない。
ドゥゼアは一気に小瓶の中の液体を喉に流し込む。
口の中がスーッとして寒くなったような感覚に襲われる。
『どうだ?』
「……うん、まだ出していられそうだ」
口の中は冷たく感じられるのと逆に腹の中はカッと熱くなったように魔力が溢れてくる。
これならまだカジオを出しておけそうだ。
「これもっと用意できないか?」
『安いものではないが必要ならばいくらかストックがあるから持って行くといい』
ドゥゼアの言葉をカジオに通訳してもらう。
これがあれば実体でのカジオも少しは出していられそうだと思ったのである。
『ともかくカジアを安全なところに移したい』
誰が敵かは確定できない。
そんなことは二の次であり、カジオにとってはカジアが大事なのである。
『いくつかそうした連中に心当たりがある。だからどこが狙ったのか絞りきれない』
全く思いつかないから分からないのではなくて、どこと断定することができないから分からないのだとオゴンは答えていた。
『パッと思いつくのは蛇族の連中だろうな』
『アイツらか……』
「カジオも知ってるのか?」
『ことあるごとに獅子族と敵対くる連中だ。俺たちのことを敵視している。戦争中は協力していたが俺が敵を倒して周りにもてはやされると蛇族は良い顔をしなかった』
『そうだな。それに奴らはズル賢いやつも多い』
カジオもオゴンも少し苦々しい顔をした。
それだけで蛇族と過去に遺恨があるのだろうことはドゥゼアにも分かった。
『犬族も最近トップが変わった。若くて強い者だが戦争の時に戦場にはまだいなかった。何を考えているのか俺には分からない』
上が変われば下も変わる。
もしかしたら犬族がもっと権力を欲していることだってあり得ないことではない。
『猫族はどうだろうな……俺たちに近いから手を出すことはないと思うが気まぐれな側面はあるからな』
そして今上げた蛇族、犬族、猫族、それに鳥族を加えた4氏族がそれぞれ首都を除いた4つの大都市の支配者となるのだった。
『他にも少数民族もいるし、同じ氏族の中でも一枚岩じゃないこともあるからな……』
可能性を考え出すとどこでもあり得る。
信じられるのは同じ氏族ぐらいだろうとオゴンは思った。
『なぜカジアを獅子族の中で育てなかった?』
ドゥゼアの疑問をカジオに代わりに聞いてもらう。
南側は猫族の領域。
今いる西側が犬族の領域となっている。
そして中央において強力な力を持つのが獅子族であった。
カジアを育てたいのなら信頼できる獅子族の中で育てるのがよかったのではないかとドゥゼアは思ったのである。
そうでなくとも獅子族の領域の方が何かと都合は良さそうなものであるが。
『それは……姉さんが決めたことだ』
カジアの母であるヒューリャーはオゴンの姉であり、カジオの妻であった。
当時白獅子族の氏族長であった者の娘でもあったし、あまりにも名前も顔も知られすぎていた。
そんなヒューリャーが子供を産めば誰の子供かなど一目瞭然である。
ヒューリャーはカジアを普通の子として育てようと思っていた。
しかしこのままでは周りがカジアを放ってはおかない。
だから自らの氏族を離れて顔もバレにくい田舎に引っ込んだのである。
それに加えてオゴンがカジオを殺したり、そのオゴンすら裏切られたのを見て同じ氏族でも信用できなくなったということもあった。
だからカジアには力の使い方を教えずに勉強を教えた。
平和になった世の中では生きていくのに知識が必要なのだとヒューリャーは考えたからであった。
同時にカジアが力を持てば良からぬことに巻き込まれるのではないかという心配もあったのである。
結局良からぬことに巻き込まれているのだから最初から力の使い方を教えておけばと思わなくもないが、まだ子供のカジアが力の使い方を覚えたところでそんなに変わらないかとドゥゼアは小さくため息をついた。
『だが姉さんの思いとは裏腹に大きな流れがカジアに迫っているのだな……』
『くそっ……』
「カジオ、そろそろ限界だ」
カジオは透けて見える自分の手を眺めた。
ドゥゼアの魔力も残り少なくなっていた。
『彼はなんと?』
『もうタイムリミットのようだ』
『あっ……そうだ、これを使ってみてくれないか?』
カジオがいつまでも出ていられるのではないということをオゴンは忘れていた。
慌てたように立ち上がると棚の戸を開けて中から小瓶を手に取った。
「これは?」
『これは魔力ポーションだ。魔法使いなんかが魔力の足りない時に使うもので使えば魔力が回復する』
魔力がなくてカジオを維持できないというのならどこからか魔力を持って来ればいいとオゴンは考えた。
魔力回復用のポーションを飲めばいくらか魔力が回復するのでカジオを出したままにできるはず。
ドゥゼアは小瓶の蓋を開けて匂いを嗅ぐ。
清涼感のある強い香りがしている。
治療用のポーションは緑っぽい匂いがしていることが多いので匂いの点からもう普通のポーションとは違う。
少なくとも毒な感じの匂いではない。
ドゥゼアは一気に小瓶の中の液体を喉に流し込む。
口の中がスーッとして寒くなったような感覚に襲われる。
『どうだ?』
「……うん、まだ出していられそうだ」
口の中は冷たく感じられるのと逆に腹の中はカッと熱くなったように魔力が溢れてくる。
これならまだカジオを出しておけそうだ。
「これもっと用意できないか?」
『安いものではないが必要ならばいくらかストックがあるから持って行くといい』
ドゥゼアの言葉をカジオに通訳してもらう。
これがあれば実体でのカジオも少しは出していられそうだと思ったのである。
『ともかくカジアを安全なところに移したい』
誰が敵かは確定できない。
そんなことは二の次であり、カジオにとってはカジアが大事なのである。
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