上 下
193 / 301
第四章

ゴブリンは獣人の歴史を聞きます2

しおりを挟む
 その戦争の結果獣人たちは自分たちの国を起こすことを周りの国にも認めさせたのである。

『初代の獣王様が王座についてからもう10年。戦争の終結からだと12年かな』

『もう……そんなに時間が経っているのか。子供も大きくなるはずだ』

 時の流れの早さにカジオが驚く。
 ドゥゼアに出会ってようやくカジオの意識が覚醒したのでどんなに時間が経っていたのか全く分かっていなかった。

 カジアの大きさから時間の経過は予想はしていたが実際に数字で時間を聞くと驚きは禁じ得ない。
 今では獣人の国はしっかりと地図でも載るほどにはなっていて、国内の情勢も安定している。

 決して大きな国ではないが今でも世界中から獣人が集まっており発展の兆しも見えている国なのだ。

「10年やそこらでそんなに安定するものなのか?」

『元々この地域は大きな貴族のものだったのだ。それを獣人で奪い取った形になる。なので町や道などの基本的なものはある程度揃っていたのだ』

「なるほどね」

『何もかもを一から作り上げたわけではない』

 獣人もバカではない。
 何もない状態から国を起こすことなど不可能と言ってもいいほどに大変なことである。

 なので獣人は戦争で大きな町を占領下に置いてそこを中心として国を起こした。

『ちなみに獣王は誰なのか聞いてもらってもいいか?』

「獣王は誰だ……っと」

『獣王様はカジイラ様っていって僕と同じ獅子族なんだ』

『カジイラだと!?』

「なんだ、知ってるのか?」

『……俺の弟だ』

 なんだか複雑な話になってきたなとドゥゼアは渋い顔をした。

「てことは……この子、王族になるんですか?」

 人間社会の仕組みが分かっていないレビスとユリディカはともかくオルケは元人間なのでその辺りも分かる。
 カジオの弟が王様で、カジオの息子がカジアであるということはカジアも王族であると言っていい。

「おそらくそう考えていいだろう」

 何となくではあるがカジアの抱える問題というやつの尻尾が見えたような気がした。

『ただあいつはそんなに強くない……獣人の中で王になれるような器のやつじゃなかったんだが……』

 カジオは知っている弟の姿を思い浮かべた。
 獣人の男の中では比較的気性が穏やかで戦争の中でも戦うことに苦悩を抱えていたような優しい人格の持ち主だった。

 獣人というやつは強いものを崇める。
 獅子の獣人であり才覚はあったけれどカジオの弟のカジイラは優しすぎた。

 カジオのイメージする獣人の王にはカジイラは遠かったのである。

「獣王に会ったことは?」

『会ったことなんてないよ。僕は生まれてからずっとあの町にいたし、獣王様どころか王都にすら行ったことないんだ』

「ふーん……カジオ、お前の弟が王だとして、甥っ子を殺そうとするような男か?」

『……何を考えている』

「お前も分かっているだろう?」

 ドゥゼアはカジイラがカジアを狙ったのではないかと考えた。
 王族のドロドロ話などどこにでもある。

 カジオの言う通りカジイラが王としての器を持たない人物であるのなら自分の王位を脅かされることを恐れてカジアを狙った可能性もある。

『……俺の知るあいつならそんなことはしない』

「お前の知る……ねぇ」

 時は人を変える。
 もう10年もの時が経っている。

 カジイラはその間王としての君臨し続けていた。
 カジオの知っているカジイラと同じままであるかどうかはかなり怪しいものである。

 むしろ権力というものは人を変えやすい。
 王でなくとも権力を持った人が豹変することもままある話。

 カジイラも変わってしまっているかもしれないことはカジオも分かっているので話の歯切れは悪い。
 ともあれカジアから聞き出した話で色々と分かった。

 今獣人たちは国を持っていて、ドゥゼアたちはそこにいる。
 カジアの叔父、カジオの弟はこの国の王様であった。

 細かい政治などはカジアには分からないけれど隣国との関係はあまり良いとは言えないようである。

「結構面倒そうだな……」

「……殺す?」

「いや、それはダメだ」

 レビスはシンプルな解決法を提示して首を傾げた。
 首を突っ込むから面倒なのだ。

 カジアを殺しておしまいにすれば面倒なことも何も関わりがなくなる。
 いかにも魔物チックな考え。

 だがそれではせっかく助けた意味もないしカジオが納得しない。

「とりあえずやるだけやってみるさ。……無理だったら見捨てる」

 命をかけてまでカジアを助ける義理はない。
 けれどカジオの願いに応じて出来る限りのことはしてやるつもりである。

 レビスの言葉が分かっていないカジアは会話しているドゥゼアを見て不思議そうな顔をしていたのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生?いいえ。天声です!

Ryoha
ファンタジー
天野セイは気がつくと雲の上にいた。 あー、死んだのかな? そう心の中で呟くと、ケイと名乗る少年のような何かが、セイの呟きを肯定するように死んだことを告げる。 ケイいわく、わたしは異世界に転生する事になり、同行者と一緒に旅をすることになるようだ。セイは「なんでも一つ願いを叶える」という報酬に期待をしながら転生する。 ケイが最後に残した 「向こうに行ったら身体はなくなっちゃうけど心配しないでね」 という言葉に不穏を感じながら……。 カクヨム様にて先行掲載しています。続きが気になる方はそちらもどうぞ。

【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。

airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。 どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。 2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。 ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。 あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて… あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

「不吉な子」と罵られたので娘を連れて家を出ましたが、どうやら「幸運を呼ぶ子」だったようです。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
マリッサの額にはうっすらと痣がある。 その痣のせいで姑に嫌われ、生まれた娘にも同じ痣があったことで「気味が悪い!不吉な子に違いない」と言われてしまう。 自分のことは我慢できるが娘を傷つけるのは許せない。そう思ったマリッサは離婚して家を出て、新たな出会いを得て幸せになるが……

自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名
ファンタジー
★2024年9月19日に2巻発売&コミカライズ化決定!(web版とは設定が異なる部分があります) 🔷第16回ファンタジー小説大賞。5/3207位で『特別賞』を受賞しました!!応援ありがとうございます(*^_^*) 💛小説家になろう累計PV1,830万以上達成!! ※感想欄を読まれる方は、申し訳ありませんがネタバレが多いのでご注意下さい<m(__)m>    スーパーの帰り道、突然異世界へ転移させられた、椎名 沙良(しいな さら)48歳。  残された封筒には【詫び状】と書かれており、自分がカルドサリ王国のハンフリー公爵家、リーシャ・ハンフリー、第一令嬢12歳となっているのを知る。  いきなり異世界で他人とし生きる事になったが、現状が非常によろしくない。  リーシャの母親は既に亡くなっており、後妻に虐待され納屋で監禁生活を送っていたからだ。  どうにか家庭環境を改善しようと、与えられた4つの能力(ホーム・アイテムBOX・マッピング・召喚)を使用し、早々に公爵家を出て冒険者となる。  虐待されていたため貧弱な体と体力しかないが、冒険者となり自由を手にし頑張っていく。  F級冒険者となった初日の稼ぎは、肉(角ウサギ)の配達料・鉄貨2枚(200円)。  それでもE級に上がるため200回頑張る。  同じ年頃の子供達に、からかわれたりしながらも着実に依頼をこなす日々。  チートな能力(ホームで自宅に帰れる)を隠しながら、町で路上生活をしている子供達を助けていく事に。  冒険者で稼いだお金で家を購入し、住む所を与え子供達を笑顔にする。  そんな彼女の行いを見守っていた冒険者や町人達は……。  やがて支援は町中から届くようになった。  F級冒険者からC級冒険者へと、地球から勝手に召喚した兄の椎名 賢也(しいな けんや)50歳と共に頑張り続け、4年半後ダンジョンへと進む。  ダンジョンの最終深部。  ダンジョンマスターとして再会した兄の親友(享年45)旭 尚人(あさひ なおと)も加わり、ついに3人で迷宮都市へ。  テイムした仲間のシルバー(シルバーウルフ)・ハニー(ハニービー)・フォレスト(迷宮タイガー)と一緒に楽しくダンジョン攻略中。  どこか気が抜けて心温まる? そんな冒険です。  残念ながら恋愛要素は皆無です。

【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語

ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ…… リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。 ⭐︎2023.4.24完結⭐︎ ※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。  →2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

婚約者が王子に加担してザマァ婚約破棄したので父親の騎士団長様に責任をとって結婚してもらうことにしました

山田ジギタリス
恋愛
女騎士マリーゴールドには幼馴染で姉弟のように育った婚約者のマックスが居た。  でも、彼は王子の婚約破棄劇の当事者の一人となってしまい、婚約は解消されてしまう。  そこで息子のやらかしは親の責任と婚約者の父親で騎士団長のアレックスに妻にしてくれと頼む。  長いこと男やもめで女っ気のなかったアレックスはぐいぐい来るマリーゴールドに推されっぱなしだけど、先輩騎士でもあるマリーゴールドの母親は一筋縄でいかなくて。 脳筋イノシシ娘の猪突猛進劇です、 「ザマァされるはずのヒロインに転生してしまった」 「なりすましヒロインの娘」 と同じ世界です。 このお話は小説家になろうにも投稿しています

処理中です...