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第四章
ゴブリンは獣人の歴史を聞きます1
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助けるといってもどうしたらいいのか。
非常に大きな問題である。
これが大人の人間なら違う町や国にでも逃してやれば済む話である。
だが子供で獣人となればそうもいかない。
獣人は人間の間ではあまりよく思われていない。
見た目の違いからだろうか偏見や差別といったものも多い。
せめて大人の獣人であったなら自分で身を立て、自分で身を守ることができるのでなんとかなるかもしれない。
けれど子供だと厳しいと言わざるを得ない。
となるとカジアを助けるのにとりあえず人間の国や町に連れ出そうというのは1番上に来る助け方ではない。
人の町に連れて行っては結局カジアを死地に追いやるようなものだ。
そうは言ってもドゥゼアたちの旅にカジアを連れ回すことなどできない。
実際大人になるまでドゥゼアの旅に連れ回すということを考えたのだが言葉も通じない子供を魔物の旅に連れ回すのは危険が大きい。
カジオの大反対もあったのでカジアを連れて旅に出るのはナシとなった。
1番いいのはカジアの問題を何か調べて解決してやること。
「誰か助けてくれる人はいないのか?」
『…………』
誰か助けてくれる人がいるならその人に預けるのも考えとしては普通にある。
カジアはドゥゼアが地面に書いた文字を見ながら頭を悩ませる。
『アゴンおじさん……』
「なに?」
『お母さんが困ったらアゴンおじさんを頼れって』
『……アゴンだと?』
また心臓が速くなり始める。
アゴンという名前はドゥゼアにも聞き覚えがあった。
白い獅子の獣人。
獅子王の心臓を手に入れた時にカジオの死の間際の記憶を見た。
その時にカジオを殺した犯人こそがアゴンという獣人であったのである。
カジオとアゴンの最後の会話を思い出してみる。
アゴンはカジオの子を守るといった発言をしていた。
今も直接は見守りはしていないが困難に直面した時には助けようとしてくれることは考えられる。
『アゴンおじさんなら助けてくれるかもしれない』
「……そうか」
怒り、恨み、悲しみ。
ドゥゼアのものではない感情が胸に渦巻く。
これはカジオの感情である。
オゴンという相手に対する抑えきれないカジオの感情が流れ込んでくる。
『あの裏切り者を頼るだと? 奴は誇りを失ったのだぞ』
「誇りなんか知るか。大切なのはカジアが生き延びる方だろう」
『くっ……だが誇りすら守れない奴に息子が守れるとは思えない』
「だから誇りなんて俺には関係ないんだよ。誇りでカジアが守れるならお前でも守れているはずだ」
誇りを持つことを否定はしない。
それによって強くなれることもあるだろう。
しかし誇りに執着して目を濁らせてもいけない。
殺した相手であるオゴンでも助けてくれるというのなら頼ってみるべきだ。
もはやカジオにはカジアは守れない。
誇りだなんだと言っている場合ではない。
『…………そうだな』
必要ならなんだって利用してみせる。
「アゴンのところに向かおう」
他に頼れるものもないのだからどの道アゴンに頼ってみるしかない。
方針も決まったのでドゥゼアたちはアゴンという獣人を探すことにした。
カジアによるとアゴンはここに住んでいないので住んでいるところに行かねばならない。
『でも……お母さんのものとか……』
「ダメだ。大切なのは物じゃない。お前の命だ」
すぐに移動するということにカジアは難色を示した。
カジアが持っているものは何もない。
家にはカジアのものもあるし、カジアの母親であるヒューの遺品なんかもあった。
そうしたものを取りに行きたいと言ったのだけどドゥゼアはそれを拒否した。
遺品や思い出の詰まったもの、そうでなくとも身の回りの品など持って行きたいものがたくさんあることは理解できる。
だがリスクがあまりにも大きい。
カジアを狙っているのがブラッケー単体なのか、それとも複数なのかはまだ分かっていないが敵はブラッケーだけであると考えるのは危険である。
相手を殺すつもりであったのなら仲間がいて家の方にも監視がついている可能性も大いにあり得るのだ。
ブラッケーのことを勘付かれてしまっていたら余計に家には帰すことができない。
最低でもブラッケーに殺しを依頼した黒幕はいるのだから安心はできないのである。
そしてちょうどそのタイミングでバイジェルンが戻ってきてブラッケーを探しにきた獣人がいたドゥゼアに報告した。
予想通り仲間がいた。
ブラッケーを殺したドゥゼアたちの追跡は諦めて町の方に戻って行ったので、やはりカジアの家に戻るのは危険が高そうである。
カジアもかなり渋ったけれどドゥゼアがちゃんと説明すると何とか分かってくれた。
『ここは獣人の国なんだ』
とりあえず移動しながらカジアにこの場所について質問する。
近くにあるのが獣人の町ということは分かったのだが獣人たちが今どんな状況にあるのかドゥゼアは知らない。
聞くとこの辺りは獣人の町があるだけではなく、獣人の領地、国であった。
『僕が生まれるよりももっと前にこの地に獣人たちが集まって人間たちに反旗を翻したんだ。長い戦争の末に獣人は勝利を収めて誰にも脅かされない獣人のための国を起こしたんだ』
『そうか……あの戦いが実を結んだのだな』
カジオが感慨深そうにつぶやいた。
カジアが口にした戦争ではカジオも最前線にたって戦った。
非常に大きな問題である。
これが大人の人間なら違う町や国にでも逃してやれば済む話である。
だが子供で獣人となればそうもいかない。
獣人は人間の間ではあまりよく思われていない。
見た目の違いからだろうか偏見や差別といったものも多い。
せめて大人の獣人であったなら自分で身を立て、自分で身を守ることができるのでなんとかなるかもしれない。
けれど子供だと厳しいと言わざるを得ない。
となるとカジアを助けるのにとりあえず人間の国や町に連れ出そうというのは1番上に来る助け方ではない。
人の町に連れて行っては結局カジアを死地に追いやるようなものだ。
そうは言ってもドゥゼアたちの旅にカジアを連れ回すことなどできない。
実際大人になるまでドゥゼアの旅に連れ回すということを考えたのだが言葉も通じない子供を魔物の旅に連れ回すのは危険が大きい。
カジオの大反対もあったのでカジアを連れて旅に出るのはナシとなった。
1番いいのはカジアの問題を何か調べて解決してやること。
「誰か助けてくれる人はいないのか?」
『…………』
誰か助けてくれる人がいるならその人に預けるのも考えとしては普通にある。
カジアはドゥゼアが地面に書いた文字を見ながら頭を悩ませる。
『アゴンおじさん……』
「なに?」
『お母さんが困ったらアゴンおじさんを頼れって』
『……アゴンだと?』
また心臓が速くなり始める。
アゴンという名前はドゥゼアにも聞き覚えがあった。
白い獅子の獣人。
獅子王の心臓を手に入れた時にカジオの死の間際の記憶を見た。
その時にカジオを殺した犯人こそがアゴンという獣人であったのである。
カジオとアゴンの最後の会話を思い出してみる。
アゴンはカジオの子を守るといった発言をしていた。
今も直接は見守りはしていないが困難に直面した時には助けようとしてくれることは考えられる。
『アゴンおじさんなら助けてくれるかもしれない』
「……そうか」
怒り、恨み、悲しみ。
ドゥゼアのものではない感情が胸に渦巻く。
これはカジオの感情である。
オゴンという相手に対する抑えきれないカジオの感情が流れ込んでくる。
『あの裏切り者を頼るだと? 奴は誇りを失ったのだぞ』
「誇りなんか知るか。大切なのはカジアが生き延びる方だろう」
『くっ……だが誇りすら守れない奴に息子が守れるとは思えない』
「だから誇りなんて俺には関係ないんだよ。誇りでカジアが守れるならお前でも守れているはずだ」
誇りを持つことを否定はしない。
それによって強くなれることもあるだろう。
しかし誇りに執着して目を濁らせてもいけない。
殺した相手であるオゴンでも助けてくれるというのなら頼ってみるべきだ。
もはやカジオにはカジアは守れない。
誇りだなんだと言っている場合ではない。
『…………そうだな』
必要ならなんだって利用してみせる。
「アゴンのところに向かおう」
他に頼れるものもないのだからどの道アゴンに頼ってみるしかない。
方針も決まったのでドゥゼアたちはアゴンという獣人を探すことにした。
カジアによるとアゴンはここに住んでいないので住んでいるところに行かねばならない。
『でも……お母さんのものとか……』
「ダメだ。大切なのは物じゃない。お前の命だ」
すぐに移動するということにカジアは難色を示した。
カジアが持っているものは何もない。
家にはカジアのものもあるし、カジアの母親であるヒューの遺品なんかもあった。
そうしたものを取りに行きたいと言ったのだけどドゥゼアはそれを拒否した。
遺品や思い出の詰まったもの、そうでなくとも身の回りの品など持って行きたいものがたくさんあることは理解できる。
だがリスクがあまりにも大きい。
カジアを狙っているのがブラッケー単体なのか、それとも複数なのかはまだ分かっていないが敵はブラッケーだけであると考えるのは危険である。
相手を殺すつもりであったのなら仲間がいて家の方にも監視がついている可能性も大いにあり得るのだ。
ブラッケーのことを勘付かれてしまっていたら余計に家には帰すことができない。
最低でもブラッケーに殺しを依頼した黒幕はいるのだから安心はできないのである。
そしてちょうどそのタイミングでバイジェルンが戻ってきてブラッケーを探しにきた獣人がいたドゥゼアに報告した。
予想通り仲間がいた。
ブラッケーを殺したドゥゼアたちの追跡は諦めて町の方に戻って行ったので、やはりカジアの家に戻るのは危険が高そうである。
カジアもかなり渋ったけれどドゥゼアがちゃんと説明すると何とか分かってくれた。
『ここは獣人の国なんだ』
とりあえず移動しながらカジアにこの場所について質問する。
近くにあるのが獣人の町ということは分かったのだが獣人たちが今どんな状況にあるのかドゥゼアは知らない。
聞くとこの辺りは獣人の町があるだけではなく、獣人の領地、国であった。
『僕が生まれるよりももっと前にこの地に獣人たちが集まって人間たちに反旗を翻したんだ。長い戦争の末に獣人は勝利を収めて誰にも脅かされない獣人のための国を起こしたんだ』
『そうか……あの戦いが実を結んだのだな』
カジオが感慨深そうにつぶやいた。
カジアが口にした戦争ではカジオも最前線にたって戦った。
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