上 下
114 / 301
第二章

ゴブリンはゴブリンに危機感を覚えます1

しおりを挟む
 見ていたものもいうのはどこかしらに存在してしまうことがある。
 道端での殺人を通りかかった人が目撃する。

 凄惨な殺しの現場を押し入れに押し込められた子供が見てしまう。
 あるいは魔物と人との戦いの結末をそっと見届けたクモがいる。

 ドゥゼアはバイジェルンにお願いをしていた。
 静かに戦いを見届けてほしいと。

 もし仮に死んだならアラクネの女王にもう一度訪ねることができなくてすまないと伝えてほしいと。
 ひっそり屋敷の壁からクモが戦いを覗いていても気に留める人はいない。

 バイジェルンはドゥゼアの頼み通りに戦いを見ていた。
 屋敷の前で繰り広げられた攻防、その後ドゥゼアたちは屋敷の中に引っ込んでいった。

 どうするか悩んだのだけどとりあえず外にいた冒険者たちがスケルトンを倒し尽くすのを見届けた。
 その後冒険者たちが中に入ろうとしたのだけどそこに猫の置物を持った不思議なスケルトンが屋敷から出てきた。

 コイチャだった。
 片手に猫の置物を抱えたままという奇妙な出立ちのコイチャに冒険者が襲いかかったがコイチャは数人の冒険者を切り倒した。

 強いと思っていたら件のジジイが前に出た。
 激しく剣をぶつけて切り結ぶジジイとコイチャ。

 けれどその均衡はわずかな時間のことだった。
 瞬く間に形勢はジジイに傾き始めた。

 苛烈な攻めにコイチャが防戦一方に追いやられ、このままではやられてしまうと思った。

「ピュアンが飛びかかったである」

 その時ピュアンがジジイに飛びかかった。
 完全に意識の外にあったピュアンの突然の行動にジジイに一瞬の隙が出来た。

 コイチャはピュアンが作り出した隙に剣を突き出した。
 ピュアンの後ろから飛び出してくる剣にジジイの反応が遅れた。

 決まったかに見えたがジジイは脅威的な反射神経を見せて首を浅く切り裂かれただけに被害を抑えた。
 そして今度はジジイの反撃。

 邪魔をしてくれたピュアンを切り裂こうとした。
 コイチャは手を伸ばしてピュアンを抱きかかえ、そして共々切り裂かれた。

「…………そうか。
 2人は一緒に逝ったんだな」

 ピュアンもコイチャも倒されたことは分かっていた。
 だが同時に、共に逝けたのなら今の状況の中で最も良い結末だったのかもしれない。

「そして人間は屋敷に入っていったである。
 どうしようか迷ったであるが中に入るのも怖かったので少し様子をうかがっていたである」

 室内でもまずバイジェルンが見つかることはない。
 けれど狭い室内で戦った時に魔法などの攻撃に巻き込まれてしまう可能性はある。

 バイジェルンは戦闘力が低い。
 魔法に巻き込まれてしまうとあっという間に死んでしまう。

 窓から覗くと冒険者が部屋を開けてドゥゼアたちを探していた。
 どこにいったのかは知らないけれど見つかるのも時間の問題だと思っていた。

「そしたら大爆発である!」

 いつの間にか屋敷の中の冒険者の姿も見えなくなったと思ったら突如として屋敷が爆発した。
 幸い屋敷の中に入らなかったバイジェルンは爆発の勢いでぶっ飛んだだけで済んだ。

「死ぬかと思ったである……」

 そして最後に見たのは崩壊した屋敷の下からフォダエとジジイが出てきて、フォダエが切り捨てられて動かなくなったところだった。

「お嬢様……」

 オルケがガックリとうなだれる。
 隠し通路の出口の位置は分かっているフォダエが来ないのだ、やられたことは完全に分かっていた。

 それでもわずかに残っていた希望が打ち砕かれた。

「大丈夫か?」

 ドゥゼアはオルケを気遣う。

「うん……ううん、大丈夫じゃない。
 ご、ごめんね」

「平気」

 一瞬平気だと思ったけれどやっぱりダメだった。
 目に涙が溜まり始めたオルケにレビスがハンカチを渡してあげようとした。

 しかしオルケはそんなレビスをギュッと抱きしめて抱えた。
 オルケは泣く時に何かを抱きしめたくなる癖でもあるようだ。

 ここはレビスも良い女でオルケを受け入れてあげる。

「クソッ……あのジジイ何者なんだ」

 今回もまたジジイだった。
 リッチすら恐れない化け物ジジイが中心にいることは間違いない。

 何が目的で、なんでこんなにいろんな国を回っているのか。

「バイジェルン、お疲れのところ悪いが色々と調べてもらいたいことがある」

「ええーである」

「肉焼いたるから」

「約束であるよ?」

 バイジェルンは意外と焼いた肉が好きだった。
 ただ火を起こして肉を焼くのも面倒なのでそんなにやらないのだけどバイジェルンがそれで動いてくれるなら肉ぐらいいくらでも焼いてやる。

「調べてほしいのは……だ」

「分かったである。
 それじゃあ言ってくるである!」

 バイジェルンはすぐさま森の中に消えていく。
 戦闘能力はなくとも情報収集に関しては優秀なクモである。

 待っていればすぐに仕事をしてくれるはずだ。

「俺たちは肉でも焼くか」

 死の森は湿気っていてなかなか火を焚くのにも楽な環境ではなかった。
 けれど今いる場所は死の森を抜けたところで気候的には死の森よりも乾燥している。

 森の木々も中心部よりも湿気っていないので火を焚くことはできそうだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女なので公爵子息と結婚しました。でも彼には好きな人がいるそうです。

MIRICO
恋愛
癒しの力を持つ聖女、エヴリーヌ。彼女は聖女の嫁ぎ制度により、公爵子息であるカリス・ヴォルテールに嫁ぐことになった。しかしカリスは、ブラシェーロ公爵子息に嫁ぐ聖女、アティを愛していたのだ。 カリスはエヴリーヌに二年後の離婚を願う。王の命令で結婚することになったが、愛する人がいるためエヴリーヌを幸せにできないからだ。  勝手に決められた結婚なのに、二年で離婚!?  アティを愛していても、他の公爵子息の妻となったアティと結婚するわけにもいかない。離婚した後は独身のまま、後継者も親戚の子に渡すことを辞さない。そんなカリスの切実な純情の前に、エヴリーヌは二年後の離婚を承諾した。 なんてやつ。そうは思ったけれど、カリスは心優しく、二年後の離婚が決まってもエヴリーヌを蔑ろにしない、誠実な男だった。 やめて、優しくしないで。私が好きになっちゃうから!! ブックマーク・いいね・ご感想等、ありがとうございます。 ご感想お返事ネタバレになりそうなので控えさせていただきます。

ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)

転生したから思いっきりモノ作りしたいしたい!

ももがぶ
ファンタジー
猫たちと布団に入ったはずが、気がつけば異世界転生! せっかくの異世界。好き放題に思いつくままモノ作りを極めたい! 魔法アリなら色んなことが出来るよね。 無自覚に好き勝手にモノを作り続けるお話です。 第一巻 2022年9月発売 第二巻 2023年4月下旬発売 第三巻 2023年9月下旬発売 ※※※スピンオフ作品始めました※※※ おもちゃ作りが楽しすぎて!!! ~転生したから思いっきりモノ作りしたいしたい! 外伝~

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

神様、幸運なのはこんなにも素晴らしい事だったのですねぇ!

ジョウ シマムラ
ファンタジー
よくある転生物です。テンプレ大好物な作者です。 不運なアラフォーのオッサンが、転生により、幸運を掴み人生をやり直ししていきます。 初投稿なので、ひたすら駄文ですが、なま暖かく見守って下さい。 各話大体2500~3000文字に収めたいですが、表現力の無さ故に自信ないです。只今、水曜日と日曜日の更新となっております。 R15指定、本作品には戦闘場面などで暴力または残酷なシーンが出てきますので、苦手な方はご注意下さい。 また、チートなどがお嫌いな方は読み飛ばして下さい。 最後に、作者はノミの心臓なので批判批評感想は受付けしていません。あしからずお願いします。 また、誤字の修正は随時やっております。急な変更がありましても、お見逃しください。 著者(拝)

聖女の妹は無能ですが、幸せなので今更代われと言われても困ります!

ユウ
ファンタジー
侯爵令嬢のサーシャは平凡な令嬢だった。 姉は国一番の美女で、才色兼備で聖女と謡われる存在。 対する妹のサーシャは姉とは月スッポンだった。 能力も乏しく、学問の才能もない無能。 侯爵家の出来損ないで社交界でも馬鹿にされ憐れみの視線を向けられ完璧を望む姉にも叱られる日々だった。 人は皆何の才能もない哀れな令嬢と言われるのだが、領地で自由に育ち優しい婚約者とも仲睦まじく過ごしていた。 姉や他人が勝手に憐れんでいるだけでサーシャは実に自由だった。 そんな折姉のジャネットがサーシャを妬むようになり、聖女を変われと言い出すのだが――。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

司書ですが、何か?

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 16歳の小さな司書ヴィルマが、王侯貴族が通う王立魔導学院付属図書館で仲間と一緒に仕事を頑張るお話です。  ほのぼの日常系と思わせつつ、ちょこちょこドラマティックなことも起こります。ロマンスはふんわり。

処理中です...