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第一章

ゴブリンは敵を作っていました

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 いかに恥であろうとも嘘はつけない。
 それにもし本当のことであったならば警告しなければならない。

 連絡のなかった冒険者パーティーはゴブリンによって全滅させられたと思われると報告をした。
 名誉を守ることもできたのかもしれないがあまりにも異常であったために正直に報告することにした。

「本当に?

 まさかゴブリンにやられちゃうなんてね……」

「そんなことが……報告にもゴブリンの集落に異常な光景が広がっていたとある」

「若手の有望株であったのに。

 残念でならないよ」

 口ではどう言おうがゴブリンにやられたという事実は変わらない。
 自分の甥っ子を侮蔑するような空気を感じて男は拳を握りしめた。

「異常があったといっても所詮はゴブリンなのだろう?」

「まあ倒されてしまったのならその異常なゴブリンももういないわけですし」

 男はゴブリンは油断ならない魔物であると考えていた。
 今回のこともそうであるが時としてゴブリンが持つ頭の良さは脅威になりうるのだと警戒を持っていた。

 戦いにおいても知恵を巡らせて明らかにゴブリンに遅れを取らないような相手でも倒してみせた。
 どんな魔物でも油断はできないけれど弱いが故に何か突飛なことをしたり、傑出した知能を持つ個体が生まれてもおかしくないのである。

「ゴブリンの掃討の必要性?」
 
 報告書の最後にはゴブリンを全滅させる必要があることを訴える資料も入れてある。
 早いうちに芽を摘んでおいたならこんな被害は出なかったはずなのである。

「しかし……ゴブリンは、所詮ゴブリンですからね」

 あのゴブリンの集落を見た全員がゴブリンの危険性に気がついたけれど現場に出ないお偉方はゴブリンを侮っている。
 紙の上に書かれた文字ではその場で見た違和感を伝えきれない。

 ただ冒険者パーティーが油断してゴブリンにやられてしまったようにしか見えていない。
 なぜ誰も理解しようとしないのか。

 男の体から魔力が漏れて空気が揺れ始める。
 窓にピシリとヒビが入ってお偉方はようやく男が今どんな感情を抱いているのかは理解した。

「ま、まあ、検討の余地はあるだろう!」

「そ、そうだな!

 予算の都合や冒険者の確保なども考えねばならないしな」

 慌てて肯定的なような言葉を口にするが検討するだなんて言う時は大体何もしない時である。

「もういい……」

「ま、待てオーデン!」

 こいつらに何をいっても無駄である。
 そう思ったオーデンは報告を切り上げて会議室を出た。

「オーデン、どうだった?」

 会議室の前で暇そうに待っていた魔法使いの女性が出てきたオーデンに気がついた。
 一応聞いてみたけれど顔を見れば何を考えているのかが分かる。

 頭の固い連中にゴブリンを討伐して回ろうといっても聞くはずがない。
 ゴブリンは倒す利益が少なすぎる。

 群れの規模が大きくなって被害が大きくなった時に初めて討伐する理由になるのだ。
 ゴブリンの巣を探し出して討伐なんてやりたがる冒険者もいないのでやってもらおうとしたらお金だけがかかっていく。

「俺は1人でもやる」

「私も手伝うわ」

「……すまないな、エルイン」

 のちにこの国におけるゴブリンはほとんど探し出されて無惨にも討伐されることになる。
 しかし人と交流を持っていた賢いホブゴブリンの行商人が町中で惨殺される事件も起こることになる。

 魔物でありながら商人ギルドに保護された正当な権利を有したホブゴブリンだった。
 大きな問題となった。

 しかしオーデンの主張は変わらなかった。
 ゴブリンは全て滅ぼすべき。

 たとえホブゴブリンだろうと変わらない。
 商人ギルドは厳罰を求めたが相手は信頼も高く、ゴブリンを倒すことはオーデンが主張し続けたことであり国のお偉方も後ろめたさがあった。

 折り合いをつけるためにその国はオーデンを永久に国から追放することにした。

 かつて国の英雄とも呼ばれたオーデン・ガイアランディの人生はもはや復讐もできない相手のせいで大きく狂い始めたのであった。
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