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第六章

海の案内人2

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「……前からおばあちゃんはあなたに注目していたの」

「前から?」

「私があなたに会う前から」

 部屋の前について立ち止まったかなみの目にウソはなかった。
 そんなはずはないと圭は思う。

 圭がかなみと初めて会ったのはブラックマーケットでのこと。
 明確にかなみだと明かしたことはないけれど間違いはない。

 その時には圭は無名も無名だった。
 今だって有名ではないが当時はかなみと話すことも恐れ多いほどで覚醒者というより一般人に近かった。

 次に会った時だって圭は死にかけていて一目でジェイだとは気づいてすらいなかった。
 どちらにしても圭は注目されるような人ではない。

 その段階でかなみがおばあちゃんに圭の話をしているとも思えないのに注目する要素など一つも思いつかない。
 そもそも出会いの前からと言うのならそれよりも前になる。

「おばあちゃんは不思議な人だけど悪い人じゃないから。おばあちゃん、入るよ!」

 かなみは声をかけると部屋のふすまを開いた。

「はじめまして。上杉かなみの祖母、上杉静江と申します」

 部屋の中には品の良い老年の女性が座っていた。
 和服が非常によく似合い、かなりよりもややタレ目であるけれどかなみが上品に歳を重ねていったらこのような感じになるかもしれないと圭は思った。

「あなたが村雨圭さんね。かなみからよく話は聞いているわ」

 非常に声も優しく聞いていると落ち着く。

「この子の口から男の人の話を聞く日が来るなんて思わなかったわ」

「お、おばあちゃん?」

 かなみが少し顔を赤くする。

「ふふ、可愛いわね、かなみ」

 静江は穏やかに笑う。

「どうぞ座って」

 歴史を感じさせる重厚な座卓の前にフカフカの座布団が並べられている。
 圭たちが並んでもあまりあるほどの座卓はいくらするのだろうかと少しだけ考えた。

 圭たちが座ると佐田がお茶を持ってきた。
 湯呑みに入った温かい緑茶である。

「小さなお友達はいらっしゃらないのかしら?」

「……フィーネ、出てきていいよ」

「ピピ、ワカッタ!」

「えっ、なにそれ!」

 言われていたのでちゃんとフィーネも連れてきていた。
 圭の腰につけていたポーチの中からフィーネが出てきて座卓の上に飛び乗った。

 かなみは摩訶不思議な存在であるフィーネに目を丸くしている。

「あらあら……思っていたよりも可愛いわね」

 静江はクスクスと笑っている。
 フィーネがいるとは知っていたけれどフィーネがどんなものなのかは知らなかったようだ。

「こ、これなに?」

「これはフィーネだよ」

「フィーネ?」

「フィーネ!」

 フィーネが前足を上げてじゃーんと自分をアピールする。

「実はこの子はゴーレムなんだ。塔でたまたま見つけて今は俺たちの仲間として一緒に戦ってる」

「ゴーレム……仲間?」

 かなみはフィーネという特異な存在に混乱していた。

「……それで今日呼び出したのは何のご用でですか?」

 フィーネのことを説明していたら時間がかかる。
 ひとまずジッとフィーネを見つめたまま困惑しているかなみは置いといて話を進めることにした。

 かなみの説明では謎が多すぎた。
 結局なぜ圭たちが呼び出されたのかは直接本人に聞くより他はない。

「……あなたがこの世界を救うかもしれない人だからよ」

「えっ!?」

 思いがけない言葉だった。
 圭たちも驚いたのだけど一番驚いていたのはかなみである。

「どうしてそれを?」

「私は海の神様の声が聞こえるの」

「海の神の?」

「そうよ。この世界には沢山の神様がいるの。そして私は海の神様に力を与えられて、覚醒者となったの」

『上杉静江
 レベル5
 総合ランクD
 筋力G(無才)
 体力G(無才)
 速度G(無才)
 魔力G(無才)
 幸運E(無才)
 スキル:世界の海流を読む
 才能:海の一部』

 覚醒者というから真実の目で見てみた。
 かなり奇妙なステータスをしている。

 能力は非常に低い。
 なのに総合ランクが高くて覚醒者等級ならC級覚醒者になる。

 スキルと才能の力のみによって総合ランクが上がっているのだろうかと圭は思った。

「私の力は海の力を借りて神様の声を聞いたり近い未来を見たりすることなの」

「そんな力が……」

「この力でかなみのことを助けてあげたりしていたのよ。そしてある時神様が私に言ったの。世界に終わりが近づいていると」

「おばあちゃん……何の話なの?」

 かなみは動揺しっぱなしである。
 圭たちは事情を知っているために特別それによって動揺することはない。

「このままいけば世界は滅びるの。だけど対抗する手段も残されている。それがあなた、神に届く力を持つ者」

「け、圭君が神に届く力がある……?」

「……どうやらあなたは何の話か分かっているようね?」

「…………はい」

 想像していたよりも踏み込んだ話だった。
 圭たちの表情も険しくなり、静江の顔からも笑顔が消えている。

 静江がしているのは神々のゲームの話で、圭が神に届く才能の持ち主であることを知っているようだった。

「そう……もうすでに戦っていたのね」

「な、何の話をしているの!」

 話についていけないかなみが静江と圭を交互に見ながら立ち上がった。
 世界が滅びるとか飛んでもない話である。

 それなのに圭は冷静に話を受け入れて理解しているようでそれもまたかなみは訳が分からない。
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