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第3章
43 恋のライバルは金縛りちゃん
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金縛りにかかった感覚を感じ意識が覚醒した。
しかし目が覚めた理由は他にもあった。
「ちょっとだれなの? なんでここにいるの?」
「そっちこそ!!! なんでここにいるんですか!?」
騒がしい。
金縛り以前にこの騒がしさで目が覚めたのかもしれない。
声からしてリナ先輩とレイナちゃんが言い争っているのだろう。
平和的な解決のために話し合いをしたかったが、最悪なスタートを切ってしまった。
「ウサギさんはレイナの運命の人なんですよ!! だから帰ってください!!」
「はぁ???? 何言ってんだお前。ウサギくんはあたしと付き合う予定なんだよ! 帰るのはそっちだろ!!!」
「ちょっとちょっと二人とも落ち着いて! 私もウサギくんのこと大好きよ! だから二人で争わないで!!!! 私も混ぜて!!!」
布団の中はもうめちゃくちゃだ。カナちゃんとレイナちゃんに関しては久しぶりの再会になるのに……。
できれば姿を見せてから争ってほしいものだ。いや、争わないでほしい。
というかカナちゃんが二人の言い争いを止めるものかと思ってたけど、争いに参加し出したのは意外だった。
こうしている間にも事態は深刻な方へと進んでいく。
布団の中の戦争を僕が止めなければ……
「あの! みんな落ち着いて!!!!!」
僕は叫んだ。すると、ピタッと争いが止まった。
だが、驚くほど静かになった。
「…………」
シーンっとなる一人暮らしの僕の部屋。
この部屋には僕の他にカナちゃん、レイナちゃん、リナ先輩の3人の金縛りちゃんがいるはずなのに……。
布団の中にいるはずなのに……怖いほど静かだ。静かすぎる。
先ほどまでの嵐はどこに行ったのか?
「え、え~っと……どうしたのかな……」
気になって布団の端を掴んだ。
そしてそのまま布団を上げて中を覗き込む。
すると突然3人の金縛ちゃんが同時に飛び込んできた。
「ウサギくん!」
「ウサギさん!」
「ウサギくん!」
3人が同時に僕の名前を呼ぶ。
そして真っ先に僕の胸に抱きついて来たのは、レイナちゃんだった。
「久しぶりです! 毎日レイナの事考えてくれてましたか~? レイナは毎日ウサギさんのことを考えてましたよ~。ゴロゴロ~ゴロゴロ~ン」
僕の胸に丸い小さなロリフェイスを猫のようにたくさん擦り付けている。
ひとこと言わせてくれ。ちょー可愛い。思わず左手で頭を撫でてしまった。
そしてカナちゃんは僕の右腕を引き寄せるように抱きついて来ている。
いや、引っ張っている。
「たくさん勉強したよ! もう金縛り霊のプロだよ! だから勉強の成果をここで披露させて~!」
カナちゃんは謹慎処分で金縛り霊について勉強していたらしい。
それを披露したくてうずうずしている。
お尻を犬のように振っていて可愛い。見えない尻尾が僕には見えた。
二人とは違い抱き付きに来なかった人物が一人目の前にいる。そう。リナ先輩だ。
膨れっ面で今にも怒り出しそうな鋭い目付き。
そしてチャーミングな八重歯が牙のように見えてしまった。
今のリナ先輩は鬼だ。こ、怖い。
今まで感じていた恐怖とは別の恐怖を味わっている。
「ちょっと、これはどういう事なの? 説明できるんでしょうね? まさかだとは思うんだけど……告白の返事を先送りにした理由ってこれ? ねぇ? どうなの? 童貞のウサギくん!!!」
リナ先輩は告白の返事を先送りにした理由をズバリ当ててみせた。
女の勘ってやつなのだろうか? いや、この状況を見れば誰だってそう思うか。
僕はリナ先輩に返す返事に迷っていた。下手に返事を返してしまうと何をされるかわからない。
それにリナ先輩自身も悲しませてしまう。
せっかく僕のために金縛り霊になったというのに……。
そんな時だった。
僕の胸元で猫のように顔を擦り付けていたレイナちゃんが、リナ先輩の顔を見て口を開いた。
「あー、布団の中だとあまり見えませんでしたが、そこの金髪ボインさん、やっぱりあの時の女ですね! レイナのウサギさんを奪おうとした最低女ですね!」
レイナちゃんのとんでもない発言が飛び出した。
この時、僕は確信した。この争いは簡単には解決しないのだと……。
女の争いほど怖いものはない。どんな幽霊よりも怖い。いや、この恐怖はまた別の類の恐怖か……。
「はぁ? あの時って何言ってんだ? あたしはチビちゃんのことなんて知らないぞ。そもそもウサギくんはチビちゃんのじゃないだろ!!! もしかして妹か? 妹なんていたの知らなかったわ~」
「あなたウサギくんを誘惑して家に連れ込んでましたよね! お色気を使ってウサギさんを誘惑したの知ってるんですよ! レイナ許せない!」
「おいおい、なんで泊まりに来たの知ってんだよ。ストーカーかよ。金縛り霊じゃなくてウサギくんのストーカーか! マジやば! チビちゃん、やばすぎだろ! 重い女は嫌われっぞ」
「ぬぬぬぬぬぬぬ」
「んんんんんんん」
栗色ボブヘアーのロリ顔の少女と金髪ロングの清楚系ギャルが睨み合っている。
「これこれ~これだよ~。うんうん。これを待っていたんだよ~」
二人がバチバチに睨み合っている下でカナちゃんは歓喜していた。
僕に抱きついて疲労を吸っていたのだ。
僕の疲労を独り占めしようとしているカナちゃんに気付いた二人は慌て出した。
「ちょ! ずるいですよ! カナちゃん! 一緒に吸うって約束したじゃないですか!」
「ちょっと、やめてよ! ウサギくんにそんなにくっつかないでよ!」
二人がカナちゃんに負けじと僕に強く抱き付いてきた。もう力が強すぎてこれは寝技レベルだ。苦しい。
でもこの苦しさを除けば……これってハーレム、いや、金縛り霊のハーレムというものなのではないか?
童貞の僕にはとんでもない破壊力だ。
同じベットに美女が3人もいたら僕のHPは一瞬でゼロ。
耐えられない。耐えられるほど僕の心は強くない。
ただでさえ1人でも可愛い美少女なのにそれが3人も……ああ、幸せだぁ。
このまま死んでもいい。いや、金縛り霊とこんなにまで接しているんだ。
もしかしたらこの時間、金縛りにかけられている時間だけ僕は死んでいるのかもしれない。
ああ、これって尊死ってやつなのか?
ネットとかでよく見るけどいまいちわからなかったんだよな。
でも今なら分かった気がする。これが尊死だ……。
「ちょっと、左手はレイナが握るんですよ! レイナだけの左手なんですよ、勝手に触らないでくださいよ! またそうやってウサギさんを誘惑するつもりですか! 最低ですよ金髪ボインさん!」
「そんなの知りませ~ん! 先に握ったのはあたしの方で~す! だからこの左手はあたしのもので~す」
「レイナは1ヶ月前から握ってました!! だからレイナだけの左手です! この左手はレイナのなんですよ! 離してください!」
「はぁ? あたしなんてもう1年くらいの付き合いだぞ! だからあたしの左手だ! チビちゃんは自分の指でも吸ってな!」
いやいやいや、僕の左手なんですけどね……。
「ぬぬぬぬぬぬぬ」
「んんんんんんん」
また二人が睨み始めてしまった。下手に口出しできない僕は黙ってみ続けるしかない……
「まぁまぁ仲良くしてよ~、じゃないと私が独り占めしちゃうからね~」
呑気なカナちゃんが甘い声で争う二人に向かって言った。
その姿は争いを沈めようとする天使のように見える。天使のカナちゃん可愛い。
しかしそんな天使の声も聞かずに二人は言い争いを続けていた。
「金髪ボインさんは最近金縛り霊になったんですよね!! だったらレイナが先輩ですよ! 先輩に譲るのが常識ってもんじゃないんですか? その手を離してください」
「じゃあさ~、ここは先輩の金縛り霊として、後輩に譲るものじゃないのかな~? チビちゃんまだ若いからそんなことも知らないのかもしれないけど~」
「レイナだって大人です! 死んだのは15歳の時! 金縛り霊歴は1年とちょっとです!! だから実際は16歳ですよ! もう立派な大人です!!!!」
「なんだよ! チビちゃんは見た目のまんまでチビちゃんじゃんかよ~ 本物の大人ってやつをあたしが見せてあげるよ」
やばい。やばいぞ。二人の言い争いがどんどんヒートアップしている。このままでは取り返しのつかないことだって起きてしまう可能性もある。
そろそろ僕が止めないとまずいことになりかねない……
「リナ先輩もレイナちゃんも落ち着いてください!」
争いを止めるために必死に叫んだ。叫んだと言っても近所迷惑にならない程度の声だ。
しかしリナ先輩の顔は驚きの表情をしていた。顔色が一気に真っ青になったように見える。
それに対してレイナちゃんの顔はニヤリと小悪魔のように悪戯に笑っていた。
「ウサギくん……今、レイナちゃん……って……」
「え? そうですけど……リナ先輩……どうかありましたか?」
「あれれ~、せーんぱーい、ウサギくんがレイナの名前を呼ぶのって不自然ですか~? せーんぱーい!」
リナ先輩を煽るレイナちゃんを見て、僕は気付いてしまった。
僕はいつの間にか地雷を踏んでしまっていたことに。
全然気が付かなかった。リナ先輩のことを先輩という他人行儀に近い呼び方でしか呼んでいなかった事に……
レイナちゃんに煽られたリナ先輩は顔を真っ赤にして僕と目を合わせた。
怒りで顔を赤くしたのではない。恥ずかしさで顔を赤くしたんだと他人から見てもわかるような表情をしていた。
「う、ウサギくん……今日からあたしのことは……その、リナ先輩じゃなくて……リ、リナって呼んで!」
「えぇええ! リナ先輩、いきなり呼び方変えるっては、恥ずかしいですよ! 1年間もリナ先輩って呼んでたんですから……」
「リナでしょ?」
今度は起こっている。怒りの表情だ。これは名前で呼んであげないと……。
でも恥ずかしい。一度も呼んだことないのに。
「リ、リナ先輩……」
「先輩はいらない」
この調子だと「さん」でも「ちゃん」でも付けたら怒られそうだ。
いきなり呼び捨てとかめちゃくちゃ恥ずかしいんだが……。
怯む僕を鋭い眼光で睨みつけてくるリナ先輩。
もう恥ずかしがってる場合じゃない。名前を呼ばないと……。
「リ、リナ……」
「ふふふっ、うふっ」
リナ先輩、じゃなくて、リナは満足そうに笑った。
そして笑顔の先にはいつものように可愛らしい八重歯が顔を見せていた。
そんな満面の笑みのリナとは裏腹に僕は恥ずかしさで顔が真っ赤になる。耳も熱い。
名前を呼ぶだけでもこんなに恥ずかしいのか……。
リナは勝ち誇った顔になりレイナちゃんと再び睨み合った。
「どう? おチビちゃん。聞いた? あ、おチビちゃんは耳まで小さくて聞こえなかったかな?」
「んぬぬぬぬぬ……ウサギさん! レイナの事も呼び捨てて呼んでください。お願いします!!!」
なんの争いをしているのだろうか? 呼び方ひとつで相手にマウントを取り合っている。
女って生き物はここまで細かいのか……。こ、怖い。
でも、レイナちゃんも呼び捨てで呼ばないと後が怖いぞ。
大丈夫だ。レイナちゃんは「ちゃん」を取ればいいだけだ。すんなり言えるはずだ。
「レ、レイナ……」
あぁああ、ダメだ。すんなりどころか恥ずかしすぎる。呼び捨てにするだけでもこんなに恥ずかしいものか。
なんなんだ。この胸を締め付ける感情は。は、恥ずかしい。
レイナは鼻を鳴らし満足そうだ。それならそれでよかった。
「ぬふ~~~~! どうですか! レイナも呼び捨てですよ~! あ、もう一回呼んでください」
「も、もう一回?? ちょ、そ、それはその、呼び時があったら呼ぶよ……」
恥ずかしくて何度も呼べる気がしない。
「じゃあその時を楽しみに待ってますね。ウサギさん!」
「あたしもちゃんと呼んでよな! ウサギくん!」
二人はお互いの顔を見合って笑った。
おっ、なんだろう。二人ともなんか良い表情してる。もしかして仲良くなったとか?
もう言い争いとかどうでも良くなったとか? ライバルだと認め合った瞬間かもしれない。
なにはともあれ、よかった。
「…………フヌーフヌー…………フヌーフヌー」
二人が言い争っている間にカナちゃんは、僕に抱きつきながら気持ちよさそうに眠りについていた。
久しぶりに見る天使のような寝顔。そして甘い音色の寝息。
1ヶ月ぶりのカナちゃんの寝顔は最高のご褒美だ。
これから3人の金縛りちゃんがどうなっていくのか不安だったけど、カナちゃんの天使のような寝顔を見ていたら不安なんて一瞬で消えていった気がする。
しかし目が覚めた理由は他にもあった。
「ちょっとだれなの? なんでここにいるの?」
「そっちこそ!!! なんでここにいるんですか!?」
騒がしい。
金縛り以前にこの騒がしさで目が覚めたのかもしれない。
声からしてリナ先輩とレイナちゃんが言い争っているのだろう。
平和的な解決のために話し合いをしたかったが、最悪なスタートを切ってしまった。
「ウサギさんはレイナの運命の人なんですよ!! だから帰ってください!!」
「はぁ???? 何言ってんだお前。ウサギくんはあたしと付き合う予定なんだよ! 帰るのはそっちだろ!!!」
「ちょっとちょっと二人とも落ち着いて! 私もウサギくんのこと大好きよ! だから二人で争わないで!!!! 私も混ぜて!!!」
布団の中はもうめちゃくちゃだ。カナちゃんとレイナちゃんに関しては久しぶりの再会になるのに……。
できれば姿を見せてから争ってほしいものだ。いや、争わないでほしい。
というかカナちゃんが二人の言い争いを止めるものかと思ってたけど、争いに参加し出したのは意外だった。
こうしている間にも事態は深刻な方へと進んでいく。
布団の中の戦争を僕が止めなければ……
「あの! みんな落ち着いて!!!!!」
僕は叫んだ。すると、ピタッと争いが止まった。
だが、驚くほど静かになった。
「…………」
シーンっとなる一人暮らしの僕の部屋。
この部屋には僕の他にカナちゃん、レイナちゃん、リナ先輩の3人の金縛りちゃんがいるはずなのに……。
布団の中にいるはずなのに……怖いほど静かだ。静かすぎる。
先ほどまでの嵐はどこに行ったのか?
「え、え~っと……どうしたのかな……」
気になって布団の端を掴んだ。
そしてそのまま布団を上げて中を覗き込む。
すると突然3人の金縛ちゃんが同時に飛び込んできた。
「ウサギくん!」
「ウサギさん!」
「ウサギくん!」
3人が同時に僕の名前を呼ぶ。
そして真っ先に僕の胸に抱きついて来たのは、レイナちゃんだった。
「久しぶりです! 毎日レイナの事考えてくれてましたか~? レイナは毎日ウサギさんのことを考えてましたよ~。ゴロゴロ~ゴロゴロ~ン」
僕の胸に丸い小さなロリフェイスを猫のようにたくさん擦り付けている。
ひとこと言わせてくれ。ちょー可愛い。思わず左手で頭を撫でてしまった。
そしてカナちゃんは僕の右腕を引き寄せるように抱きついて来ている。
いや、引っ張っている。
「たくさん勉強したよ! もう金縛り霊のプロだよ! だから勉強の成果をここで披露させて~!」
カナちゃんは謹慎処分で金縛り霊について勉強していたらしい。
それを披露したくてうずうずしている。
お尻を犬のように振っていて可愛い。見えない尻尾が僕には見えた。
二人とは違い抱き付きに来なかった人物が一人目の前にいる。そう。リナ先輩だ。
膨れっ面で今にも怒り出しそうな鋭い目付き。
そしてチャーミングな八重歯が牙のように見えてしまった。
今のリナ先輩は鬼だ。こ、怖い。
今まで感じていた恐怖とは別の恐怖を味わっている。
「ちょっと、これはどういう事なの? 説明できるんでしょうね? まさかだとは思うんだけど……告白の返事を先送りにした理由ってこれ? ねぇ? どうなの? 童貞のウサギくん!!!」
リナ先輩は告白の返事を先送りにした理由をズバリ当ててみせた。
女の勘ってやつなのだろうか? いや、この状況を見れば誰だってそう思うか。
僕はリナ先輩に返す返事に迷っていた。下手に返事を返してしまうと何をされるかわからない。
それにリナ先輩自身も悲しませてしまう。
せっかく僕のために金縛り霊になったというのに……。
そんな時だった。
僕の胸元で猫のように顔を擦り付けていたレイナちゃんが、リナ先輩の顔を見て口を開いた。
「あー、布団の中だとあまり見えませんでしたが、そこの金髪ボインさん、やっぱりあの時の女ですね! レイナのウサギさんを奪おうとした最低女ですね!」
レイナちゃんのとんでもない発言が飛び出した。
この時、僕は確信した。この争いは簡単には解決しないのだと……。
女の争いほど怖いものはない。どんな幽霊よりも怖い。いや、この恐怖はまた別の類の恐怖か……。
「はぁ? あの時って何言ってんだ? あたしはチビちゃんのことなんて知らないぞ。そもそもウサギくんはチビちゃんのじゃないだろ!!! もしかして妹か? 妹なんていたの知らなかったわ~」
「あなたウサギくんを誘惑して家に連れ込んでましたよね! お色気を使ってウサギさんを誘惑したの知ってるんですよ! レイナ許せない!」
「おいおい、なんで泊まりに来たの知ってんだよ。ストーカーかよ。金縛り霊じゃなくてウサギくんのストーカーか! マジやば! チビちゃん、やばすぎだろ! 重い女は嫌われっぞ」
「ぬぬぬぬぬぬぬ」
「んんんんんんん」
栗色ボブヘアーのロリ顔の少女と金髪ロングの清楚系ギャルが睨み合っている。
「これこれ~これだよ~。うんうん。これを待っていたんだよ~」
二人がバチバチに睨み合っている下でカナちゃんは歓喜していた。
僕に抱きついて疲労を吸っていたのだ。
僕の疲労を独り占めしようとしているカナちゃんに気付いた二人は慌て出した。
「ちょ! ずるいですよ! カナちゃん! 一緒に吸うって約束したじゃないですか!」
「ちょっと、やめてよ! ウサギくんにそんなにくっつかないでよ!」
二人がカナちゃんに負けじと僕に強く抱き付いてきた。もう力が強すぎてこれは寝技レベルだ。苦しい。
でもこの苦しさを除けば……これってハーレム、いや、金縛り霊のハーレムというものなのではないか?
童貞の僕にはとんでもない破壊力だ。
同じベットに美女が3人もいたら僕のHPは一瞬でゼロ。
耐えられない。耐えられるほど僕の心は強くない。
ただでさえ1人でも可愛い美少女なのにそれが3人も……ああ、幸せだぁ。
このまま死んでもいい。いや、金縛り霊とこんなにまで接しているんだ。
もしかしたらこの時間、金縛りにかけられている時間だけ僕は死んでいるのかもしれない。
ああ、これって尊死ってやつなのか?
ネットとかでよく見るけどいまいちわからなかったんだよな。
でも今なら分かった気がする。これが尊死だ……。
「ちょっと、左手はレイナが握るんですよ! レイナだけの左手なんですよ、勝手に触らないでくださいよ! またそうやってウサギさんを誘惑するつもりですか! 最低ですよ金髪ボインさん!」
「そんなの知りませ~ん! 先に握ったのはあたしの方で~す! だからこの左手はあたしのもので~す」
「レイナは1ヶ月前から握ってました!! だからレイナだけの左手です! この左手はレイナのなんですよ! 離してください!」
「はぁ? あたしなんてもう1年くらいの付き合いだぞ! だからあたしの左手だ! チビちゃんは自分の指でも吸ってな!」
いやいやいや、僕の左手なんですけどね……。
「ぬぬぬぬぬぬぬ」
「んんんんんんん」
また二人が睨み始めてしまった。下手に口出しできない僕は黙ってみ続けるしかない……
「まぁまぁ仲良くしてよ~、じゃないと私が独り占めしちゃうからね~」
呑気なカナちゃんが甘い声で争う二人に向かって言った。
その姿は争いを沈めようとする天使のように見える。天使のカナちゃん可愛い。
しかしそんな天使の声も聞かずに二人は言い争いを続けていた。
「金髪ボインさんは最近金縛り霊になったんですよね!! だったらレイナが先輩ですよ! 先輩に譲るのが常識ってもんじゃないんですか? その手を離してください」
「じゃあさ~、ここは先輩の金縛り霊として、後輩に譲るものじゃないのかな~? チビちゃんまだ若いからそんなことも知らないのかもしれないけど~」
「レイナだって大人です! 死んだのは15歳の時! 金縛り霊歴は1年とちょっとです!! だから実際は16歳ですよ! もう立派な大人です!!!!」
「なんだよ! チビちゃんは見た目のまんまでチビちゃんじゃんかよ~ 本物の大人ってやつをあたしが見せてあげるよ」
やばい。やばいぞ。二人の言い争いがどんどんヒートアップしている。このままでは取り返しのつかないことだって起きてしまう可能性もある。
そろそろ僕が止めないとまずいことになりかねない……
「リナ先輩もレイナちゃんも落ち着いてください!」
争いを止めるために必死に叫んだ。叫んだと言っても近所迷惑にならない程度の声だ。
しかしリナ先輩の顔は驚きの表情をしていた。顔色が一気に真っ青になったように見える。
それに対してレイナちゃんの顔はニヤリと小悪魔のように悪戯に笑っていた。
「ウサギくん……今、レイナちゃん……って……」
「え? そうですけど……リナ先輩……どうかありましたか?」
「あれれ~、せーんぱーい、ウサギくんがレイナの名前を呼ぶのって不自然ですか~? せーんぱーい!」
リナ先輩を煽るレイナちゃんを見て、僕は気付いてしまった。
僕はいつの間にか地雷を踏んでしまっていたことに。
全然気が付かなかった。リナ先輩のことを先輩という他人行儀に近い呼び方でしか呼んでいなかった事に……
レイナちゃんに煽られたリナ先輩は顔を真っ赤にして僕と目を合わせた。
怒りで顔を赤くしたのではない。恥ずかしさで顔を赤くしたんだと他人から見てもわかるような表情をしていた。
「う、ウサギくん……今日からあたしのことは……その、リナ先輩じゃなくて……リ、リナって呼んで!」
「えぇええ! リナ先輩、いきなり呼び方変えるっては、恥ずかしいですよ! 1年間もリナ先輩って呼んでたんですから……」
「リナでしょ?」
今度は起こっている。怒りの表情だ。これは名前で呼んであげないと……。
でも恥ずかしい。一度も呼んだことないのに。
「リ、リナ先輩……」
「先輩はいらない」
この調子だと「さん」でも「ちゃん」でも付けたら怒られそうだ。
いきなり呼び捨てとかめちゃくちゃ恥ずかしいんだが……。
怯む僕を鋭い眼光で睨みつけてくるリナ先輩。
もう恥ずかしがってる場合じゃない。名前を呼ばないと……。
「リ、リナ……」
「ふふふっ、うふっ」
リナ先輩、じゃなくて、リナは満足そうに笑った。
そして笑顔の先にはいつものように可愛らしい八重歯が顔を見せていた。
そんな満面の笑みのリナとは裏腹に僕は恥ずかしさで顔が真っ赤になる。耳も熱い。
名前を呼ぶだけでもこんなに恥ずかしいのか……。
リナは勝ち誇った顔になりレイナちゃんと再び睨み合った。
「どう? おチビちゃん。聞いた? あ、おチビちゃんは耳まで小さくて聞こえなかったかな?」
「んぬぬぬぬぬ……ウサギさん! レイナの事も呼び捨てて呼んでください。お願いします!!!」
なんの争いをしているのだろうか? 呼び方ひとつで相手にマウントを取り合っている。
女って生き物はここまで細かいのか……。こ、怖い。
でも、レイナちゃんも呼び捨てで呼ばないと後が怖いぞ。
大丈夫だ。レイナちゃんは「ちゃん」を取ればいいだけだ。すんなり言えるはずだ。
「レ、レイナ……」
あぁああ、ダメだ。すんなりどころか恥ずかしすぎる。呼び捨てにするだけでもこんなに恥ずかしいものか。
なんなんだ。この胸を締め付ける感情は。は、恥ずかしい。
レイナは鼻を鳴らし満足そうだ。それならそれでよかった。
「ぬふ~~~~! どうですか! レイナも呼び捨てですよ~! あ、もう一回呼んでください」
「も、もう一回?? ちょ、そ、それはその、呼び時があったら呼ぶよ……」
恥ずかしくて何度も呼べる気がしない。
「じゃあその時を楽しみに待ってますね。ウサギさん!」
「あたしもちゃんと呼んでよな! ウサギくん!」
二人はお互いの顔を見合って笑った。
おっ、なんだろう。二人ともなんか良い表情してる。もしかして仲良くなったとか?
もう言い争いとかどうでも良くなったとか? ライバルだと認め合った瞬間かもしれない。
なにはともあれ、よかった。
「…………フヌーフヌー…………フヌーフヌー」
二人が言い争っている間にカナちゃんは、僕に抱きつきながら気持ちよさそうに眠りについていた。
久しぶりに見る天使のような寝顔。そして甘い音色の寝息。
1ヶ月ぶりのカナちゃんの寝顔は最高のご褒美だ。
これから3人の金縛りちゃんがどうなっていくのか不安だったけど、カナちゃんの天使のような寝顔を見ていたら不安なんて一瞬で消えていった気がする。
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