上 下
63 / 71
神秘の担々飯

062:滅亡か平和か、未来視スキルが視せた未来とは

しおりを挟む
 神様との規格外の死闘は最終局面を迎えようとしている中、予想だにしない展開が魔王と勇者を襲った。

「フォフォフォフォフォ。すまん。許してくれ」

 神様が突然謝罪を始めたのだ。

「お主らの力を試したのじゃ。世界を――いや、を守るに相応しいかどうかを」

「それはどういうことですか?」

 勇者は訊ねた。神様に向けた聖剣を下ろすことなく。そして瞳の奥の炎を絶やすことなく。
 この謝罪は罠なのだと不信感を強く持って訊ねたのだ。

「説明するよりもわしの未来視スキルを共有した方が早い」

 そう言った直後、魔王と勇者の脳内に数千、数万の映像が流し込まれていく。
 無詠唱なのは今更だが、ノーモーションでのアクションだ。さすが神様だと認めるしかない。

「こ、これは!?」

「な、なんじゃ!?」

 神様の未来を見通す力――未来視スキルの映像が魔王と勇者の二人の脳内に再生した。それも数万の映像が、情報が一瞬で。
 常人なら情報量の多さで即死だろう。
 しかし二人は常人ではない。神にも届き得るかもしれない規格外の存在――魔王と勇者だ。
 だから二人はただただ驚いた。常人が衝撃映像を見た時と同じようにただただ驚いたのだ。

「ぎ、偽装……は、してないな」

「うぬ。わらわもそう思う。偽りのない未来視スキルの映像じゃ……」

 魔王も勇者もそれぞれが嘘を見抜く特殊な力を持っている。
 たとえ相手が神であろうと二人を騙すことは容易ではない。
 そんな二人が嘘偽りのない本物の未来視スキルの映像だと言っているのだ。心と魂で感じているのだ。
 神様が言った『お主らの力を試した』という言葉を信じる他ないのである。

「なるほど。そういうことだったんですね。疑ってしまいすいませんでした」

 数万以上の映像を僅か数秒で把握した勇者は神様に謝罪する。

わらわからも……ごめんなさいなのじゃ」

 魔王も同じく神様に謝罪した。

「おお、話が早くて助かる。こちらこそ周りくどいことをしてすまなかったのぉ。本気のお主らを試したかったんじゃ。フォフォフォフォ」

 神様も謝罪。だが、その表情はどこかスッキリとした表情を見せていた。そして心からの笑みを溢していた。
 互いに謝罪を交わしたが、これで一件落着とはいかない。むしろここから。ここからがスタート地点なのだから。

「それでどうじゃ? 9万7065の未来は」

 魔王と勇者の脳内に流れた未来の映像の数は、9万7065通り。
 未来視スキルは起こり得る未来を視せてくれるスキルだ。
 ここから先の未来、神様が設定した未来の終着点、それはどのように行動したとしても9万7065通りしかない。

「どうもこうもないですよ。ほぼ世界が滅びるじゃないですか」

 そのうちの9万7000通りの映像では世界が滅亡するものとなっている。
 つまり神様が設定した未来の終着点のその先へ、世界が滅亡しない未来へと続く道は65通りしかないのである。

「世界が滅ばない未来は65通りじゃな」

「その通り。その条件がわしと戦ってお主らが死なないこと。まあ、わしが納得する力をお主らが持っているかどうかじゃな」

 それが今までの一連の流れである。
 どうしたら魔王と勇者が本気で戦うのか。
 それを考えた結果、大事なものを傷つけるという単純な答えに辿り着き、行動したのであった。

「それでどっちかが死んだらどうしてたんですか!? 正直死にかけましたよ」

「そうじゃ! そうじゃ! 何度死にかけたことか!」

 文句も言いたくなるだろう。実際、数百数千のやり取りの中で全てが死に直結していたのだから。

「それはお互い様じゃよ。わしも最後の攻撃は危なかった」

 だからこそ魔王と勇者を認めることができ、意図を話すことができたのだ。

「ともかく、お主らが死ななくてよかった。お主らが死んでしまったら世界の滅亡は確定じゃったからな」

「俺たちが弱くて世界を守れずに滅亡って流れなんだろうけど……その前に俺たちを殺しちゃダメじゃないですか? 世界を滅亡させる者よりも神様が原因で世界滅亡してるようなもんですよ!!」

「そうじゃ! そうじゃ! 全くもってそうなのじゃ! ゆーくんの言う通りなのじゃ!」

 結果的に世界が滅ぶとしても原因が違ければ話が変わってくる。

「だが、その未来は回避したじゃろ。お主らは強い。神に認めてもらえるだなんて光栄ではないか。フォフォフォフォフォ」

 神様は陽気に笑った。それはそれはとても楽しげに、そして心の底から笑っている。

「あの顔面を一発殴れなかったことだけ後悔してる」

わらわも同じじゃ。骨の一本でも折っておきたかったのじゃ」

 魔王と勇者は陽気に笑う神様を見て不快感を隠せずにいた。
 そして笑い続ける神様の笑いを止めるためにも、勇者は話を戻した。

「それで……俺たちが神様に認めてもらったからって、世界が滅ばないわけではないんですよね。世界が滅ぶ可能性はまだ何通りくらい残ってるんですか?」

「7万通りじゃ」

「な、7万!? そんなに!?」

「つまりこの先の未来は70065通りあるということじゃ。65通りは変わらず世界が滅亡しない未来じゃな」

 神様との本気の死闘を勝利した魔王と勇者だが、世界滅亡の危機を回避できた未来は僅か2万7000通りのみ。
 ここから先の未来では、7万通りの世界滅亡への未来と、65通りの世界滅亡の危機を回避する未来が待ち受けるということ。

「まあ、心配せんでいい。お主らは今と変わらず担々麺を守ればいい。わしから言えるのはそれまでじゃ。わしが協力できるのもここまでじゃ」

「ん? どうしてですか? 一緒に戦いましょうよ。って、敵の姿が視えないから誰が敵なのかわからないですけど……でも神様と一緒なら世界を守れますよ」

「そうじゃな。それは間違いない。じゃが……いや、なんでもない」

 何かを言いかけた神様。だが、それを言う事なく天に向かって浮遊を始めた。

「ぬお!? 神様が天に召されるのじゃ! 逝っちゃダメなのじゃー!」

「天に召されるんじゃなくて天に帰るのじゃよ! わし、神様じゃから! 天がお家じゃから!」

 魔王には神様が天に登っていく姿がそう見えてしまったのだろう。神様は冷静にツッコミを入れながらゆっくりと浮上していく。

(天に召されるか……あながち間違っておらんな。この先の未来、7万と65通りの未来にはわしわしの体はもう限界じゃ。フォフォフォ。神なのに限界とはまたおかしな話じゃろ。しかし、現実はそうなのじゃよ。だからお主らにこの世界の未来を任せるしかなかったのじゃ)

 神様が先ほど何かを言いかけ言わなかったのはこの事だ。
 先ほどの戦いで力を使い果たしたというのは確かだが、もともと枯渇していた力。
 あれほどの力があったとしても神からしたら枯渇していたのだ。
 そしてもしも先ほどの戦いがなかったとしても、世界を守るために枯渇した力を使い果たし生涯を終えていた。

(世界を守るためにわしが力を使い果たしたとしても、世界滅亡の未来を1000通りほどしか消すことができない。だからこそ……だからこそお主らと戦ったのじゃ。その方が世界を救える確率がぐーんっと上がるからのぉ。それに楽しかったしのぉ。フォフォフォフォ)

 神様は満足げに笑みを溢しながら両の掌を下に向けた。
 地上にいる魔王と勇者に向けたと言うよりはその周辺。消失した魔勇家まゆうやがあった土地全体に――魔王と勇者の攻撃によって消失した全てに向かって両の掌をかざしたのだ。

「歪んだ時空も、お主らの愛の巣も、何もかも元に戻してあげるから安心するのじゃ」

 そう言ってかざした掌から優しい光が降り注いだ。
 まるで温かい雪のように。幻想的で、それでいて神秘的で。
 神様らしい光景、神様しか見せることができない光景を魔王と勇者に見せる。

わしの残りの力で足りるかのぉ? まったく、想像以上の力じゃったよ。この力の源は愛か。それとも担々麺か。はたまたその両方か)

「あ、愛の巣って! ち、違いますからねー! 俺たち付き合ってませんからー!」

「そ、そうじゃ! そうじゃ! わらわたちは付き合っておらん」

 顔を真っ赤に染める二人。トマト担々麺よりも、激辛担々麺よりも真っ赤だ。

「ラブラブで羨ましいのぉ。わしも若い頃は女神様とラブラブしておったなぁ。この世界の結末よりも、お主らの結末の方が見てみたくなってきたのじゃ。おっと、そろそろ時間じゃな。最後に一言だけ……神からお主らに授けよう。お主らが作った担々飯たんたんめし、今まで食べた料理の中で一番美味しかったぞ」

 最後になると分かっているからこそ、神様は最後の晩餐に担々飯たんたんめしを選んでいたのだ。

「だったらまた食べにきてくださいねー! 時間は止めず変装してくださいよー!」

「チーズをかけるともっと美味しくなるのじゃ! 次は試してみるといいのじゃ!」

「フォフォフォフォフォ」

 神様は笑って答えた。

(もしも儂に次があるのならのぉ。ぜひチーズをかけた担々飯たんたんめしを。フォフォフォフォ)

 直後、神様を中心に発光。先ほどの魔王と勇者の攻撃と同等かそれ以上に世界が白一色に染まった。
 目蓋を閉じたとしても真っ白に映るほど白一色の世界だ。他の色はおろか影なども存在しない。
 そんな世界が数秒間続いたのち、突然白以外の色が現れる。そしてすぐに元の世界へ――神様が〝神秘の担々飯たんたんめし〟を食べ終えた直後の世界へと戻る。

「し、城が戻っておるのじゃ!」

「マジだ! 本当にやべーな。神様の力って」

 もちろん魔王と勇者の時間と記憶はそのまま。神様が来店する前の世界へとは戻っていない。

「世界滅亡か……仮面の連中と関係してるのかな?」

「そうかもしれんし、そうじゃないとしても、仮面の連中をほっておくわけにもいかないじゃろうがな」

「だよな。でも俺たちの役目は担々麺を守ること。担々麺を守ることが世界を守ることにつながる。それでいいんだよな?」

「うぬ。そうじゃな。なんじゃ? 心配か?」

「まあ、ちょっとな。もう俺は勇者じゃないんだけど、やっぱり世界の危機ってなると心配でさ」

「大丈夫じゃよ。わらわたちは神様を退けたのじゃから」

「退けたっていうか、認めてもらっただけだけどな。あのまま戦ってたら負けてたよ」

「そうかのぉ? わらわは死んでたかもしれんが、ゆーくんなら勝ってたはずじゃよ。わらわが保証するのじゃ」

「俺が勝ってもまーちゃんが死んだら意味ないだろ。実質それは俺の負けだよ。だから俺は決めたんだ」

「うぬ? 何をじゃ?」

「世界も担々麺もまーちゃんも守るってな」

「かぁああああ。よくそんな歯の浮くようなセリフをー! おぬしはいつもいつもー! かっこよすぎるのじゃー! イケメンじゃ! イケメンじゃ! むしろイケメン超えて担々麺じゃ!」

 魔王は恥ずかしさを誤魔化すために勇者をボコボコと叩き始めた。
 その姿は純粋無垢な少女。最悪で最強と恐れられていた魔王からは想像もできないほど可愛らしいものだった。

「ちょ、ちょ、痛い、痛いって! なんで叩いてるの? なんか俺変なこと言った?」

「そういうところじゃ! そういうところー!」

「い、意味がわかんないって! というか、俺の体の傷治ってないんだけど! 戻すんなら傷も戻してほしかったんだが!?」

 こうして神様との死闘は幕を閉じた。
 しかし物語はここから最終局面を迎えることになる。
 神様の未来視スキルによって映し出された世界滅亡の危機。それを回避する65通りの未来を掴むための過酷な未来が待ち受けようとしているのだ。
 この時に二人はまだ知らない。世界滅亡の歯車がすでに回り始めていることに。そしてすぐそこまできているということに。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活

ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。 「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。 現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。 ゆっくり更新です。はじめての投稿です。 誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

孤高のミグラトリー 〜正体不明の謎スキル《リーディング》で高レベルスキルを手に入れた狩人の少年は、意思を持つ変形武器と共に世界を巡る〜

びゃくし
ファンタジー
 そこは神が実在するとされる世界。人類が危機に陥るたび神からの助けがあった。  神から人類に授けられた石版には魔物と戦う術が記され、瘴気獣と言う名の大敵が現れた時、天成器《意思持つ変形武器》が共に戦う力となった。  狩人の息子クライは禁忌の森の人類未踏域に迷い込む。灰色に染まった天成器を見つけ、その手を触れた瞬間……。  この物語は狩人クライが世界を旅して未知なるなにかに出会う物語。  使い手によって異なる複数の形態を有する『天成器』  必殺の威力をもつ切り札『闘技』  魔法に特定の軌道、特殊な特性を加え改良する『魔法因子』  そして、ステータスに表示される謎のスキル『リーディング』。  果たしてクライは変わりゆく世界にどう順応するのか。

処理中です...