上 下
44 / 71
甘々のストロベリー担々麺

043:とびっきりの甘々、メロメロのサキュバス

しおりを挟む
「あま~~~~~いッ!!!!!」

 サキュバスは落ちそうになった頬を強く抑えながら叫んだ。

「あ、あ、あま、甘々! 甘い! 甘くて美味しい!」

 一度味わってしまったら最後。サキュバスの体は〝甘々のストロベリー担々麺〟の甘味を――それだけを欲するようになってしまう。
 サキュバスは体が求めるものに答えるべく、落としてしまった箸を拾い上げて、再び〝甘々のストロベリー担々麺〟を食らっていく。


 ――ズルズルッ、ズーッ!!!


 本来の目的である栄養摂取を忘れて〝甘々のストロベリー担々麺〟を食らう。
 その勢いは止まることを知らない。


 ――ズルズルッ、ズルズーッ!!!


「ん~。ほっぺが落ちてしまいそうだわ。こんなに甘くて美味しい食べ物は初めて! 夢でも現実でも初めてよ!」

 〝甘々のストロベリー担々麺〟の美味さに歓喜するサキュバス。お気に召したようだ。

「もちもち食感の麺もかなりいいわね。甘くてもちもちって反則よ!」


 ――ズーッ、ズーッ、ズルズルッ!!!


「この麺に絡んでくる肉とか野菜も意外と合うわね。不思議な感じだけど、とっても美味しい!」


 ――ズルズーッ、ズーッ、ズルズルッ!!!


 サキュバスは未だにレンゲを使っていない。ひたすらに麺を食べている状況だ。
 それだけ麺のもちもち感とスープの甘さの相性がバッチリだったのであろう。
 そんな状況だからこそ――

「あ……」

 虚無感が突然訪れる。
 麺を全て食べ切ってしまったのだ。

 まだスープの下には豚挽肉や小さく切れてしまっている麺が残っている。
 しかしそれだけではサキュバスの欲求を満たすことが困難である。
 だからこそサキュバスは次の手に出る。

「このスープも飲んでみようかしら?」

 箸からレンゲに変えてスープに手を出したのだ。
 真っ白なレンゲで苺色のスープをすくっていく。
 レンゲは瞬く間に苺色の小さな海を掬い上げた。
 それを躊躇うことも警戒することもなく口へと運んでいく。


 ――スーッ。


「ぷはぁー」

 感想よりも先に溢れた満足の吐息。
 すぐさま遅れてしまった感想を口にする。

「あま~~~~~いッ!!!!! なんでこんなに美味しいの? 甘味と酸味と旨味がケンカすることなく同居してるなんて……ど、どうしてなの? こんなに、こんなに美味しいスープは初めてよ!」

 満足の吐息から既にわかっていたことだが、スープの味にもお気に召したようだ。


 ――スーッ、スーッ!!


 二口目、三口目とレンゲを使い苺色のスープを飲んでいく。

「甘くて温かい飲み物ってなんでこんなにも美味しいのかしら? 特にこの甘々のストロベリータンタンメンは絶品ね。心が温まる。本当に落ち着くわ」


 ――ズズーッ、ズーッ!!!


 四口目以降からはレンゲを使わずに丼鉢どんぶりばちから直接スープを飲んだ。
 そして一気に飲み干した。

「ぷはあぁ――!!!」

 本日二度目の満足の吐息。
 それも一度目よりも大きな満足度が伺えるほどのものだった。

「勇者、もう一度出してくれる? 甘々のストロベリータンタンメンを!」

 一杯だけでは物足りず、二杯目を要求するサキュバス。

 サキュバス自身でも〝甘々のストロベリー担々麺〟を出現させることは可能だ。
 可能なのだが、たった今食した〝甘々のストロベリー担々麺〟と同等のものを出せるのかと聞かれればそうではない。
 ここは勇者の夢の中であって、勇者の記憶から全て再現されている世界。
 〝甘々のストロベリー担々麺〟を一度食しただけのサキュバスでは、その全てを再現することは不可能なのだ。
 これは現実世界でも同じこと。一度食した料理を材料も調理方法も知らずに、記憶だけを頼りに再現するのが困難なのと一緒のことなのだ。
 だからサキュバスは勇者に〝甘々のストロベリー担々麺〟を要求する。
 その要求に勇者は――

「お待たせしました。〝甘々のストロベリー担々麺〟です」

 〝甘々のストロベリー担々麺〟を出現させて応じる。

「きたっ! そうそう。これこれ。甘々ストロベリー!」


 ――ふーふー、ズルズルッ、ズルズーッ!!!


「あま~~~~~いッ!!!!! この甘さ、本当に最高よ! 果実の甘さ! 本当に美味しいわ!」

「果実の……甘さ……」

「ええ。そうよ。砂糖とかじゃ再現できない甘さね。それも苺以外の果実も入ってそうよ。隠し味かしら?

「苺……以外の……果実……」

「相当こだって厳選した果実みたいね。こんなに美味しい料理一体誰が考えたのよ。これを考えた人は天才だわ! 天才!」


 ――スーッ、ズルズルッ、ズルズーッ!!!


 箸とレンゲを器用に使い、麺とスープを交互に食べ進めた。
 先ほどの麺だけスープだけを食べる食べ方よりも、交互に食べた方が美味しいのだと気付き実践したのだ。
 夢の中を主戦場としているだけあって適応力は凄まじいのである。
 そしてあっという間に〝甘々のストロベリー担々麺〟を平らげて――

「おかわり!」

 三杯目のおかわりを要求する。

「いくら食べても太らないもんね。どんどん食べるわよ」

 いくら食べても太らない。まるで夢のようだが、実際にこれは夢――勇者の夢の中だ。

「それにたくさん食べれば食べるほど栄養にもなるし! 貴方あなたの栄養も魅力的だけれど、今日はこれを食べ続けたいわ!」

 勇者の強大な精気をも上回る〝甘々のストロベリー担々麺〟の美味さ。そして魅力。
 夢の中とはいえここまで人の心を魅了する担々麺は恐ろしいの一言に尽きる。

「お待たせしました。〝甘々のストロベリー担々麺〟です」

 有無を言わさず出現したばかりの〝甘々のストロベリー担々麺〟の麺を右手の箸で掴み左手のレンゲでスープを掬って、その苺色に染まったレンゲで麺が溢れないようにしながら口へと運んだ。


 ――ズルズルッ、ズルズーッ、スーッ!!!


「あま~~~~~いッ!!!!!」

 勇者の夢の空間にサキュバスの歓喜が響き渡る。
 そのままサキュバスは、勇者の意識が覚醒するまで〝甘々のストロベリー担々麺〟を食べ続けたのだった。


 勇者の夢の空間は、記憶から作られた世界であるのは確かだが、それと同時に想像イメージによって作られた世界でもある。
 サキュバスが食べたあの〝甘々のストロベリー担々麺〟言ってしまえば勇者が目指している完成形だ。
 現実世界でその完成形を作るのにはかなり苦戦しているらしく、その手掛かりすら掴めていない。
 だからこそ〝甘々のストロベリー担々麺〟は『魔勇家まゆうや』のメニューにも採用されていないのだ。

「ふぁぁあああ。おはよう世界」

 腕を大きく広げ、固まった筋肉をほぐしながら世界に挨拶を告げる勇者。
 そして右手で頭を抱えながら独り言をぶつぶつと呟き始めた。

「なんか……なんか、とてつもなく変な夢を見たような気がする……ストロベリー担々麺がたくさん出てたような……そういえばストロベリー担々麺って試作途中だったよな。求めてる甘さがどうしても出なくて投げ出しちゃったんだっけか。さっき見た夢だと誰かが美味しそうに食べてくれてたような……。あー、なんか良いアイディアが浮かびそうな予感がするんだけど、全然浮かばねー! 夢でなんか見たような……。ストロベリー担々麺を完成させるヒントとかを……う~ん。ダメだ、やっぱり思い出せない。思い出せないが、もう一回ストロベリー担々麺に挑戦してみるのも悪くない気がしてきたぞ!」

 きっかけはどうであれ、夢を見たおかげで諦めかけていた彼の心に再び苺色の灯火が宿ったのである。

「よしっ! なんだかやる気がみなってきたぞ! こうしてはいられない! まーちゃんにも早く会いたいし! 寝起きだけど行くかッ!」

 こうして勇者はこの日から毎晩のように〝甘々のストロベリー担々麺〟の夢を見るようになったのだった。
 そして〝甘々のストロベリー担々麺〟の試作にも励んだのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。

亜綺羅もも
ファンタジー
旧題:「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。今更戻って来いと言われても旦那が許してくれません! いきなり異世界に召喚された江藤里奈(18)。 突然のことに戸惑っていたが、彼女と一緒に召喚された結城姫奈の顔を見て愕然とする。 里奈は姫奈にイジメられて引きこもりをしていたのだ。 そんな二人と同じく召喚された下柳勝也。 三人はメロディア国王から魔族王を倒してほしいと相談される。 だがその話し合いの最中、里奈のことをとことんまでバカにする姫奈。 とうとう周囲の人間も里奈のことをバカにし始め、極めつけには彼女のスキルが【マイホーム】という名前だったことで完全に見下されるのであった。 いたたまれなくなった里奈はその場を飛び出し、目的もなく町の外を歩く。 町の住人が近寄ってはいけないという崖があり、里奈はそこに行きついた時、不意に落下してしまう。 落下した先には邪龍ヴォイドドラゴンがおり、彼は里奈のことを助けてくれる。 そこからどうするか迷っていた里奈は、スキルである【マイホーム】を使用してみることにした。 すると【マイホーム】にはとんでもない能力が秘められていることが判明し、彼女の人生が大きく変化していくのであった。 ヴォイドドラゴンは里奈からイドというあだ名をつけられ彼女と一緒に生活をし、そして里奈の旦那となる。 姫奈は冒険に出るも、自身の力を過信しすぎて大ピンチに陥っていた。 そんなある日、現在の里奈の話を聞いた姫奈は、彼女のもとに押しかけるのであった…… これは里奈がイドとのんびり幸せに暮らしていく、そんな物語。 ※ざまぁまで時間かかります。 ファンタジー部門ランキング一位 HOTランキング 一位 総合ランキング一位 ありがとうございます!

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

もふもふ相棒と異世界で新生活!! 神の愛し子? そんなことは知りません!!

ありぽん
ファンタジー
[第3回次世代ファンタジーカップエントリー] 特別賞受賞 書籍化決定!! 応援くださった皆様、ありがとうございます!! 望月奏(中学1年生)は、ある日車に撥ねられそうになっていた子犬を庇い、命を落としてしまう。 そして気づけば奏の前には白く輝く玉がふわふわと浮いていて。光り輝く玉は何と神様。 神様によれば、今回奏が死んだのは、神様のせいだったらしく。 そこで奏は神様のお詫びとして、新しい世界で生きることに。 これは自分では規格外ではないと思っている奏が、規格外の力でもふもふ相棒と、 たくさんのもふもふ達と楽しく幸せに暮らす物語。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

特殊スキル持ちの低ランク冒険者の少年は、勇者パーティーから追い出される際に散々罵しった癖に能力が惜しくなって戻れって…頭は大丈夫か?

アノマロカリス
ファンタジー
少年テイトは特殊スキルの持ち主だった。 どんなスキルかというと…? 本人でも把握出来ない程に多いスキルなのだが、パーティーでは大して役には立たなかった。 パーティーで役立つスキルといえば、【獲得経験値数○倍】という物だった。 だが、このスキルには欠点が有り…テイトに経験値がほとんど入らない代わりに、メンバーには大量に作用するという物だった。 テイトの村で育った子供達で冒険者になり、パーティーを組んで活躍し、更にはリーダーが国王陛下に認められて勇者の称号を得た。 勇者パーティーは、活躍の場を広げて有名になる一方…レベルやランクがいつまでも低いテイトを疎ましく思っていた。 そしてリーダーは、テイトをパーティーから追い出した。 ところが…勇者パーティーはのちに後悔する事になる。 テイトのスキルの【獲得経験値数○倍】の本当の効果を… 8月5日0:30… HOTランキング3位に浮上しました。 8月5日5:00… HOTランキング2位になりました! 8月5日13:00… HOTランキング1位になりました(๑╹ω╹๑ ) 皆様の応援のおかげです(つД`)ノ

処理中です...