15 / 71
漆黒のイカスミ担々麺 (大盛り)
015:魔獣クラーケン以上の衝撃、漆黒のイカスミ担々麺
しおりを挟む
「お待たせしましたなのじゃ! こちらが〝漆黒のイカスミ担々麺〟大盛りなのじゃ! ごゆっくりどうぞなのじゃ!」
魔王マカロンは女剣士リュビ・ローゼと女魔術師エメロード・リリシアの正前に大盛りの〝漆黒のイカスミ担々麺〟を置いて厨房へと戻っていった。
〝漆黒のイカスミ担々麺〟は通常の〝究極の担々麺〟や〝地獄の激辛担々麺〟とは違った盛り付けがされている。
中央に旨辛の豚挽肉、その上にはシャキシャキのモヤシと刻んだ青ネギ。
イカスミと黒胡麻ベースの味噌のスープの海には、新鮮なイカや貝類が顔を出している。
そして緑色の唐辛子〝ハラペーニョ〟と異世界の辛味成分がある緑色の果実〝ドッリの実〟が一本ずつスープに浮いており、彩りを与えていた。
「イカスミの香りがすごいな。濃縮されたスープの香りも食欲をそそるものがある」
「す、す、すごく、お、美味しそう、です! そ、それに、真っ黒、ですね!」
香りを楽しむローゼと見た目を楽しむリリシア。
二人は手を合わせた。食事前に手を合わせる行為の意味は一つしかない。
「いただきます」「い、い、いただきます」
食事前の挨拶『いただきます』だ。
いただきますの挨拶をした直後、合わされていた手は箸とレンゲを掴んでいた。右手で箸、左手でレンゲだ。
「す、すごい、です。め、麺も、麺も、黒い! 真っ黒です!」
麺を箸で持ち上げたリリシアの感想だ。
イカスミが縮れ麺にしっかりと絡んでいて、真っ黒に着色されていた。
艶めくスープの脂も相まって、ブラックダイヤモンド並みに輝いている。
実はこの麺は通常の〝究極の担々麺〟にも使用されている自家製の縮れ麺だ。
たった数秒間イカスミスープに浸かっただけで、ここまで真っ黒に着色されるのである。
それだけイカスミと黒胡麻ベースの味噌が、しっかりと材料として含まれ浸透している証拠だ。
――ふーふーッ、ズルズルッ!!
麺を冷ます際に発生する湯気までもが、黒色だと錯覚してしまうほどの黒さ。
程よい温度に冷めた麺を遠慮することなく口の中へと運ぶ。
もちもちつるつるのコシのある縮れ麺を咀嚼する度、麺に絡んだイカスミの芳醇な香りと、黒胡麻ベースの味噌の圧倒的な旨味と甘味、さらには濃縮された濃厚こってりなスープを一度に味わう。
後から遅れてやってくる赤唐辛子とアッカの実の辛味は、さらに味を引き立たせてくれる。
これぞ担々麺。これぞ〝漆黒のイカスミ担々麺〟なのだ。
「お、美味しい! こ、これが、イ、イカスミ、の味、で、ですか? な、生臭さ、が、ない、です! と、とっても美味しい、です!」
リリシアの可愛らしい薄桃色の唇が真っ黒に染まったが、それを気にする事なく二口目、三口目も口へと運んだ。
――ズルズルッ、ズルッ、もぐもぐッ!!
「め、麺が、も、もちもち、ですし、麺に絡んだ、も、もやしと、ネギが、シャキシャキ、ひ、挽肉と、せ、背脂が、柔らかくて、ぷりぷりで、イ、イカや、貝類も、ぷりぷりで、こりこりで、は、歯応えがあって、美味しいだけじゃなくて、そ、咀嚼が、た、楽しい、です」
おどおどした性格のリリシアからは想像ができないほどの立派な食べっぷり。そして感想だ。
それだけ〝漆黒のイカスミ担々麺〟が美味しいということなのである。
対面に座るローゼも〝漆黒のイカスミ担々麺〟を食べる食べっぷりは負けてはいなかった。
――ふーふーッ、スーッ、ふーふーッ、ズーッ!!
ローゼは真っ黒なスープを何口も飲み続けた。
何度も飲みたくなるほどの旨さ。やみつきになる美味しさなのだろう。
「スープの温かさ! イカスミと味噌の旨味! スープと一緒に口へ入ってきた挽肉の旨辛でジューシーな感じ! イカのぷりぷりこりこり食感! 美味い! 美味すぎる! 止まらない。止まらないぞ!」
――ズーッ、ズズーッ、ズルズルッ!!
――ズルズルッ、ズルッ、ズズーッ!!
スープ、スープ、麺。スープ、スープ、麺。その順番で食べ進めるローゼ。
麺、麺、スープ。麺、麺、スープの順番で食べ進めるリリシア。
「美味しい、美味しすぎるぞ! 〝漆黒のイカスミ担々麺〟――!!!」
「こ、こんなに、美味しい、イカを、使った、りょ、料理は、は、初めて、です!」
美味しそうに食べる二人の様子を魔王マカロンと勇者ユークリフォンスは厨房から覗いていた。
「おぬしの仲間、美味しそうに食べておるのぉ」
「あいつらがあんなに美味しそうに食べる姿初めて見たよ。ここに食べに来てくれて良かった」
「もしかしたら常連になるかもしれんぞ? 正体を明かすなら今のうちじゃと妾は思うんじゃが?」
常連になってしまった場合、正体を隠す勇者ユークリフォンスは二人が来店する度に毎回隠れながらの接客を行わなければならなくなってしまう。
そうなってしまった場合、調理にも接客にも集中できずにミスが起きてしまう可能性が浮上する。
ならば今のうちに正体を明かし、事情を説明するべきだと魔王マカロンは考えたのだ。
しかし勇者ユークリフォンスは、その考えには首を縦には振らなかった。
「いいや。俺は正体を明かさない。二人が事情を理解してくれたとしても、他の奴らがどう思うかわからないからな。特に国のお偉いさん……国王とかはな。俺を英雄として奉り国の象徴として縛りつけようとするだろうからさ。やっぱり秘密を共有する人物は少ない方がいい。もしも正体を明かしたとしても、二人にはまーちゃんが魔王だってことを黙ってなきゃいけないだろ? それはそれで隠し通すのにいつか限界が来ると思うからな。だからこのまま。現状維持でいこう」
「あー、それもそうじゃのぉ。やつらの嫉妬は恐ろしそうじゃ。妾もじゃけど」
「ん? 嫉妬?」
「いや、なんでもないのぉ。こっちの話じゃよ。妾もおぬしの意見に賛成じゃ。現状維持。二人だけでこのままやっていくのじゃ」
「おう! これからもよろしくな。まーちゃん」
「もちろんじゃ。ゆーくんよ」
肩と肩を少し触れ合わせて互いの気持ちをぶつけ合った二人。
握手やハイタッチ、瞳を交差させる行為などは、恋心を隠す二人にとっては恥ずかしくてできないのだ。感情的になった場合は除く、と付け足す必要はある。
だから厨房から客席を覗く狭い空間での肩と肩が触れ合っているこの状況が、二人にとっては一番触れ合える状況であって、心地よい状態なのだ。
「って、もう完食しておるぞ! 大盛りなのに早いな! 女剣士の方はともかく、女魔術師の方は少食そうに見えるんじゃが!? すごい食べっぷりじゃのぉ」
「あいつは勇者パーティーの中でも一番の少食だった記憶があるぞ。まさかスープまで飲み干すだなんてな……」
スープを飲み干したリリシアは、少しだけぽっこりと膨らんだ腹をさすりながら満足そうな表情を浮かべていた。
「さ、最後の、最後まで、お、美味しい、だなんて、つ、罪深い、料理、です」
リリシアがスープを飲み干す際に感じた罪深さとは、スープと具材のことだ。
食べ進めていく際に、箸やレンゲから溢れてしまい丼鉢の中に取り残されてしまった具材たち。
豚挽肉、青ネギ、もやし、イカ、貝類。胡麻や背脂、麺も同様だ。
その具材たちは1センチ弱の大きさで残ったスープに浮いていた。
それをスープを流し込みながら一緒に食べる快感こそが、リリシアが言った罪深い感情に繋がるのだ。
最後の最後、ラストスパートの瞬間にイカスミ担々麺の集大成を味わうことができる。罪深い以外に言葉など出ないだろう。
「ハァハァ……ああ、本当に罪深い美味さだ。これは勇者にも食べてもらいたいな。ハァ、ハァ」
ローゼは鎧のせいもあってか、体がだいぶ温まっていた。
顔は火照り、息は荒くなっている。
額から滴る一雫の汗は、鎧の胸部を通り、膝へと垂れて消えていった。
「ゆ、勇者様なら、こ、ここのこと、を、し、知ってるんじゃ、ないですか?」
「それもそうだな。彼なら知ってるかもしれない。むしろ常連になっている可能性もあるぞ。今は知らなくてもいずれはここに辿り着き常連になる姿なんてのも想像できる」
「だ、だったら、わ、わたしたちも、こ、ここの、常連に、なれば、ゆ、勇者様にも、会える、かも、ですね」
「ああ、その通りだ。また食べにこよう。我はこの味が忘れられない体になってしまった。クラーケンの触手に掴まれて抜け出せなかった時のように、イカスミ担々麺の美味さに胃袋を掴まれてしまったようだ」
「わ、わたしも、です。クラーケンの、攻撃で、全身、イカスミだらけになった時、みたいに、ぜ、全身にイカスミが染み渡って、ます」
「クラーケン以上の衝撃を味わったな」
「で、ですね!」
思い出に浸りながら常連になることを誓い合う二人。
二人の真の目的は、消息不明となった隠居生活中の勇者ユークリフォンスともう一度会うことだ。
大事なものは意外と近いところにあるのかもしれない。両者の事情を知った魔王マカロンはそんなことを思ったのだった。
「国にはこの美味さを報告するのはやめておこうか」
「わ、わたしたちの、ふ、二人の、ひ、秘密、という、ことですね」
「ああ、予約殺到で一年先まで、いや、二年先まで食べれなくなるのは御免だからな」
「に、二年!? そ、それは、嫌です、ね。ゆ、勇者様にも、あ、会えなく、なって、しまいます。ふ、二人だけの、ひ、秘密に、して、た、たくさん、食べにきましょう」
「そうだな。次は別の担々麺を頼んでみるとしようかな」
「か、カニ担々麺、というのも、き、気になります、よね」
こうして担々麺専門店『魔勇家』は、また新たにお客を獲得。元勇者パーティーの女剣士リュビ・ローゼと女魔術師エメロード・リリシアを常連客にしたのであった。
魔王マカロンは女剣士リュビ・ローゼと女魔術師エメロード・リリシアの正前に大盛りの〝漆黒のイカスミ担々麺〟を置いて厨房へと戻っていった。
〝漆黒のイカスミ担々麺〟は通常の〝究極の担々麺〟や〝地獄の激辛担々麺〟とは違った盛り付けがされている。
中央に旨辛の豚挽肉、その上にはシャキシャキのモヤシと刻んだ青ネギ。
イカスミと黒胡麻ベースの味噌のスープの海には、新鮮なイカや貝類が顔を出している。
そして緑色の唐辛子〝ハラペーニョ〟と異世界の辛味成分がある緑色の果実〝ドッリの実〟が一本ずつスープに浮いており、彩りを与えていた。
「イカスミの香りがすごいな。濃縮されたスープの香りも食欲をそそるものがある」
「す、す、すごく、お、美味しそう、です! そ、それに、真っ黒、ですね!」
香りを楽しむローゼと見た目を楽しむリリシア。
二人は手を合わせた。食事前に手を合わせる行為の意味は一つしかない。
「いただきます」「い、い、いただきます」
食事前の挨拶『いただきます』だ。
いただきますの挨拶をした直後、合わされていた手は箸とレンゲを掴んでいた。右手で箸、左手でレンゲだ。
「す、すごい、です。め、麺も、麺も、黒い! 真っ黒です!」
麺を箸で持ち上げたリリシアの感想だ。
イカスミが縮れ麺にしっかりと絡んでいて、真っ黒に着色されていた。
艶めくスープの脂も相まって、ブラックダイヤモンド並みに輝いている。
実はこの麺は通常の〝究極の担々麺〟にも使用されている自家製の縮れ麺だ。
たった数秒間イカスミスープに浸かっただけで、ここまで真っ黒に着色されるのである。
それだけイカスミと黒胡麻ベースの味噌が、しっかりと材料として含まれ浸透している証拠だ。
――ふーふーッ、ズルズルッ!!
麺を冷ます際に発生する湯気までもが、黒色だと錯覚してしまうほどの黒さ。
程よい温度に冷めた麺を遠慮することなく口の中へと運ぶ。
もちもちつるつるのコシのある縮れ麺を咀嚼する度、麺に絡んだイカスミの芳醇な香りと、黒胡麻ベースの味噌の圧倒的な旨味と甘味、さらには濃縮された濃厚こってりなスープを一度に味わう。
後から遅れてやってくる赤唐辛子とアッカの実の辛味は、さらに味を引き立たせてくれる。
これぞ担々麺。これぞ〝漆黒のイカスミ担々麺〟なのだ。
「お、美味しい! こ、これが、イ、イカスミ、の味、で、ですか? な、生臭さ、が、ない、です! と、とっても美味しい、です!」
リリシアの可愛らしい薄桃色の唇が真っ黒に染まったが、それを気にする事なく二口目、三口目も口へと運んだ。
――ズルズルッ、ズルッ、もぐもぐッ!!
「め、麺が、も、もちもち、ですし、麺に絡んだ、も、もやしと、ネギが、シャキシャキ、ひ、挽肉と、せ、背脂が、柔らかくて、ぷりぷりで、イ、イカや、貝類も、ぷりぷりで、こりこりで、は、歯応えがあって、美味しいだけじゃなくて、そ、咀嚼が、た、楽しい、です」
おどおどした性格のリリシアからは想像ができないほどの立派な食べっぷり。そして感想だ。
それだけ〝漆黒のイカスミ担々麺〟が美味しいということなのである。
対面に座るローゼも〝漆黒のイカスミ担々麺〟を食べる食べっぷりは負けてはいなかった。
――ふーふーッ、スーッ、ふーふーッ、ズーッ!!
ローゼは真っ黒なスープを何口も飲み続けた。
何度も飲みたくなるほどの旨さ。やみつきになる美味しさなのだろう。
「スープの温かさ! イカスミと味噌の旨味! スープと一緒に口へ入ってきた挽肉の旨辛でジューシーな感じ! イカのぷりぷりこりこり食感! 美味い! 美味すぎる! 止まらない。止まらないぞ!」
――ズーッ、ズズーッ、ズルズルッ!!
――ズルズルッ、ズルッ、ズズーッ!!
スープ、スープ、麺。スープ、スープ、麺。その順番で食べ進めるローゼ。
麺、麺、スープ。麺、麺、スープの順番で食べ進めるリリシア。
「美味しい、美味しすぎるぞ! 〝漆黒のイカスミ担々麺〟――!!!」
「こ、こんなに、美味しい、イカを、使った、りょ、料理は、は、初めて、です!」
美味しそうに食べる二人の様子を魔王マカロンと勇者ユークリフォンスは厨房から覗いていた。
「おぬしの仲間、美味しそうに食べておるのぉ」
「あいつらがあんなに美味しそうに食べる姿初めて見たよ。ここに食べに来てくれて良かった」
「もしかしたら常連になるかもしれんぞ? 正体を明かすなら今のうちじゃと妾は思うんじゃが?」
常連になってしまった場合、正体を隠す勇者ユークリフォンスは二人が来店する度に毎回隠れながらの接客を行わなければならなくなってしまう。
そうなってしまった場合、調理にも接客にも集中できずにミスが起きてしまう可能性が浮上する。
ならば今のうちに正体を明かし、事情を説明するべきだと魔王マカロンは考えたのだ。
しかし勇者ユークリフォンスは、その考えには首を縦には振らなかった。
「いいや。俺は正体を明かさない。二人が事情を理解してくれたとしても、他の奴らがどう思うかわからないからな。特に国のお偉いさん……国王とかはな。俺を英雄として奉り国の象徴として縛りつけようとするだろうからさ。やっぱり秘密を共有する人物は少ない方がいい。もしも正体を明かしたとしても、二人にはまーちゃんが魔王だってことを黙ってなきゃいけないだろ? それはそれで隠し通すのにいつか限界が来ると思うからな。だからこのまま。現状維持でいこう」
「あー、それもそうじゃのぉ。やつらの嫉妬は恐ろしそうじゃ。妾もじゃけど」
「ん? 嫉妬?」
「いや、なんでもないのぉ。こっちの話じゃよ。妾もおぬしの意見に賛成じゃ。現状維持。二人だけでこのままやっていくのじゃ」
「おう! これからもよろしくな。まーちゃん」
「もちろんじゃ。ゆーくんよ」
肩と肩を少し触れ合わせて互いの気持ちをぶつけ合った二人。
握手やハイタッチ、瞳を交差させる行為などは、恋心を隠す二人にとっては恥ずかしくてできないのだ。感情的になった場合は除く、と付け足す必要はある。
だから厨房から客席を覗く狭い空間での肩と肩が触れ合っているこの状況が、二人にとっては一番触れ合える状況であって、心地よい状態なのだ。
「って、もう完食しておるぞ! 大盛りなのに早いな! 女剣士の方はともかく、女魔術師の方は少食そうに見えるんじゃが!? すごい食べっぷりじゃのぉ」
「あいつは勇者パーティーの中でも一番の少食だった記憶があるぞ。まさかスープまで飲み干すだなんてな……」
スープを飲み干したリリシアは、少しだけぽっこりと膨らんだ腹をさすりながら満足そうな表情を浮かべていた。
「さ、最後の、最後まで、お、美味しい、だなんて、つ、罪深い、料理、です」
リリシアがスープを飲み干す際に感じた罪深さとは、スープと具材のことだ。
食べ進めていく際に、箸やレンゲから溢れてしまい丼鉢の中に取り残されてしまった具材たち。
豚挽肉、青ネギ、もやし、イカ、貝類。胡麻や背脂、麺も同様だ。
その具材たちは1センチ弱の大きさで残ったスープに浮いていた。
それをスープを流し込みながら一緒に食べる快感こそが、リリシアが言った罪深い感情に繋がるのだ。
最後の最後、ラストスパートの瞬間にイカスミ担々麺の集大成を味わうことができる。罪深い以外に言葉など出ないだろう。
「ハァハァ……ああ、本当に罪深い美味さだ。これは勇者にも食べてもらいたいな。ハァ、ハァ」
ローゼは鎧のせいもあってか、体がだいぶ温まっていた。
顔は火照り、息は荒くなっている。
額から滴る一雫の汗は、鎧の胸部を通り、膝へと垂れて消えていった。
「ゆ、勇者様なら、こ、ここのこと、を、し、知ってるんじゃ、ないですか?」
「それもそうだな。彼なら知ってるかもしれない。むしろ常連になっている可能性もあるぞ。今は知らなくてもいずれはここに辿り着き常連になる姿なんてのも想像できる」
「だ、だったら、わ、わたしたちも、こ、ここの、常連に、なれば、ゆ、勇者様にも、会える、かも、ですね」
「ああ、その通りだ。また食べにこよう。我はこの味が忘れられない体になってしまった。クラーケンの触手に掴まれて抜け出せなかった時のように、イカスミ担々麺の美味さに胃袋を掴まれてしまったようだ」
「わ、わたしも、です。クラーケンの、攻撃で、全身、イカスミだらけになった時、みたいに、ぜ、全身にイカスミが染み渡って、ます」
「クラーケン以上の衝撃を味わったな」
「で、ですね!」
思い出に浸りながら常連になることを誓い合う二人。
二人の真の目的は、消息不明となった隠居生活中の勇者ユークリフォンスともう一度会うことだ。
大事なものは意外と近いところにあるのかもしれない。両者の事情を知った魔王マカロンはそんなことを思ったのだった。
「国にはこの美味さを報告するのはやめておこうか」
「わ、わたしたちの、ふ、二人の、ひ、秘密、という、ことですね」
「ああ、予約殺到で一年先まで、いや、二年先まで食べれなくなるのは御免だからな」
「に、二年!? そ、それは、嫌です、ね。ゆ、勇者様にも、あ、会えなく、なって、しまいます。ふ、二人だけの、ひ、秘密に、して、た、たくさん、食べにきましょう」
「そうだな。次は別の担々麺を頼んでみるとしようかな」
「か、カニ担々麺、というのも、き、気になります、よね」
こうして担々麺専門店『魔勇家』は、また新たにお客を獲得。元勇者パーティーの女剣士リュビ・ローゼと女魔術師エメロード・リリシアを常連客にしたのであった。
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
キャンピングカーで往く異世界徒然紀行
タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》
【書籍化!】
コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。
早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。
そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。
道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが…
※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜
※カクヨム様でも投稿をしております
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
~前世の知識を持つ少女、サーラの料理譚~
あおいろ
ファンタジー
その少女の名前はサーラ。前世の記憶を持っている。
今から百年近くも昔の事だ。家族の様に親しい使用人達や子供達との、楽しい日々と美味しい料理の思い出だった。
月日は遥か遠く流れて過ぎさり、ー
現代も果てない困難が待ち受けるものの、ー
彼らの思い出の続きは、人知れずに紡がれていく。
鬼神の刃──かつて世を震撼させた殺人鬼は、スキルが全ての世界で『無能者』へと転生させられるが、前世の記憶を使ってスキル無しで無双する──
ノリオ
ファンタジー
かつて、刀技だけで世界を破滅寸前まで追い込んだ、史上最悪にして最強の殺人鬼がいた。
魔法も特異体質も数多く存在したその世界で、彼は刀1つで数多の強敵たちと渡り合い、何百何千…………何万何十万と屍の山を築いてきた。
その凶悪で残虐な所業は、正に『鬼』。
その超絶で無双の強さは、正に『神』。
だからこそ、後に人々は彼を『鬼神』と呼び、恐怖に支配されながら生きてきた。
しかし、
そんな彼でも、当時の英雄と呼ばれる人間たちに殺され、この世を去ることになる。
………………コレは、そんな男が、前世の記憶を持ったまま、異世界へと転生した物語。
当初は『無能者』として不遇な毎日を送るも、死に間際に前世の記憶を思い出した男が、神と世界に向けて、革命と戦乱を巻き起こす復讐譚────。
いずれ男が『魔王』として魔物たちの王に君臨する────『人類殲滅記』である。
異世界ラーメン
さいとう みさき
ファンタジー
その噂は酒場でささやかれていた。
迷宮の奥深くに、森の奥深くに、そして遺跡の奥深くにその屋台店はあると言う。
異世界人がこの世界に召喚され、何故かそんな辺鄙な所で屋台店を開いていると言う。
しかし、その屋台店に数々の冒険者は救われ、そしてそこで食べた「らーめん」なる摩訶不思議なシチューに長細い何かが入った食べ物に魅了される。
「もう一度あの味を!」
そう言って冒険者たちはまたその屋台店を探して冒険に出るのだった。
外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます
蒼井美紗
ファンタジー
旧題:外れスキルだと思っていた素材変質は、レア素材を量産させる神スキルでした〜錬金術師の俺、幻の治癒薬を作り出します〜
誰もが二十歳までにスキルを発現する世界で、エリクが手に入れたのは「素材変質」というスキルだった。
スキル一覧にも載っていないレアスキルに喜んだのも束の間、それはどんな素材も劣化させてしまう外れスキルだと気づく。
そのスキルによって働いていた錬金工房をクビになり、生活費を稼ぐために仕方なく冒険者になったエリクは、街の外で採取前の素材に触れたことでスキルの真価に気づいた。
「素材変質スキル」とは、採取前の素材に触れると、その素材をより良いものに変化させるというものだったのだ。
スキルの真の力に気づいたエリクは、その力によって激レア素材も手に入れられるようになり、冒険者として、さらに錬金術師としても頭角を表していく。
また、エリクのスキルを気に入った存在が仲間になり――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる