上 下
10 / 47

010:ミミックVSゴブリン〝回転乱舞〟

しおりを挟む
 私はボロボロになった体に鞭を打ち、1体のゴブリンに向かって体当たりした。

「キィイイイイ!!! (おらぁああああ!!!)」

 私の攻撃方法なんて体当たりこれしかない。
 舌を器用に使えば、棍棒こんぼうを持てるだろう。重たそうな石斧だって持てる自信はある。
 だけどそれをしなかった。選択肢になかったんだ。
 だって私の体当たりこれは――

「じゅぐはぁあああ!!」

 宝石の壁を砕くほどの力があるからっ!!

「キィイイ! キィイイ! キィイイイイイー! (どうだ! 見たか! やってやったぞー!)」

 私の体当たりを受けたゴブリンの左半身は、どこかへと飛んでいった。
 そしてえぐられた箇所からは、行き場をなくした青黒い液体がドバドバと溢れ出ていた。
 ゴブリンは力尽き、人形のようにその場に崩れ落ちた。
 直後、ゴブリンの死体は粒子となって消えていく。
 他のゴブリンは死者をいたむ素振りはなどは一切ない。仲間の死を悲しむ様子もない。
 だが、私に対する殺意だけは格段に上がったと言えよう。
 それだけモンスターという生き物は死と隣り合わせに生き、死を当たり前だと思っているのだろう。

 初めてモンスターを殺した私だが、達成感のようなものを感じている。
 誰かに自慢したい。誰かに褒めてほしい。
 どうやら私は体だけでなく心までモンスターになってしまっているのかもしれないな。

 そうじゃなきゃやっていけないんだけどねっ!!!

「「「じゅりゅらぁあああー!!!!」」」

 お前たちもそうだろ?
 この世界では命の奪い合いは当たり前だ。
 だから私も遠慮えんりょなんてしない。躊躇ためらわない。
 この命が尽きるまで暴れてやろうじゃないかっ!!!

「キィイイイイイ!! (うらぁあああああ!!)」

 2体目!
 3体目っ!

 どうだ! 私の体当たりの威力はー!!
 宝石をも砕く体当たり。ボロボロの体でもこれくらいの威力は出せるんだよっ!!

「キィイイイイイ!! (どりゃぁあああああ!!)」

 4体目ぇぇえ!!

 4体目のゴブリンを倒した時、あることに気がついた。
 粒子となって消失したゴブリンの代わりに石のようなものが出現していたことに。
 これってもしかしてドロップアイテムってやつ?
 ほら、モンスターを倒した時に入手できる戦利品のっ!

 それならしっかりといただいておかないと失礼だよね。
 すぐ近くに転がっていたドロップアイテムであろう石を私は舌で拾った。
 そして口の中に放り投げた。 (いただきまーす!)
 体の側面に飾ろうかとも考えたが、お洒落なんてしてる場合じゃない。
 それに体がこの石を欲してたんだ。
 たとえ下劣なゴブリンのドロップアイテムだったとしても、体が求めてたんだから仕方ないだろ。
 きっと疲れてお腹が空いてしまったんだろう。だって石というのは私の――ミミックの空腹を満たす唯一の食べ物なんだから。
 そうじゃなきゃ拒否反応を起こしていたに違いない。ゴブリンの石なんて嫌だもん。

 ――ガリガリガリッ!!!

 石をかじった瞬間、体に違和感を覚えた。
 いや、体じゃない。心の……魂のほうだ。
 温かな光に優しく包まれているかのような心地良い感覚。
 ありとあらゆる感情が同居しているような不思議な感覚でもある。

 この感覚どこかで……

 《個体名〝ミミックちゃん〟はレベル5に上がった》

 突然脳内に響く謎の声。
 その瞬間、覚えのある感覚の正体が脳裏に浮かんだ。

 死にかけたあの時と同じ――ドラゴンカップルに殺されかけたあの時と同じだ。
 あの時は確か宝石を食べた。それでレベルが上がったんだ。
 今回もそう。宝石じゃないけど石を食べたぞ!

 そうか。これがモンスターのレベルアップってやつか。
 色々と疑問は尽きないが、今は受け入れるしかないよねっ!

 私のボロボロだった体はみるみるうちに回復していく。
 飛び散った体の破片も、どこかへ飛んでいった取っ手の部分も、いつの間にか元通りに。
 いや、元通りなんかじゃない。元の体よりも強固になっている気がする。

 いける。いける。いけるぞ!
 今の私ならゴブリンに勝てる。
 過信なんかじゃないし、レベルアップしたからって調子に乗ってるわけじゃない。
 本能がうったえてきてるんだ。
 こいつらが束になってかかってきたとしても、私には勝てないってことを。

 だってそうでしょ?
 あんなにボロボロだった私を殺せなかったんだから。
 あんなにボロボロだった私に殺されたんだから。

「「「じゅりゅらぁああああー!!!」」」

 証明してやる。
 束になっても私には勝てないってことを。
 そしてこの先も私は生きていける力があるんだってことを!!

「キィイイイイイ!!! (うらぁあああああ!!!)」

 私は向かってくるゴブリンに向かって真っ直ぐに飛んだ。渾身の体当たりだ。
 渾身の体当たりによって、5体のゴブリンの体を私の体がつらいた。

 肉が爆ぜる音、骨が砕かれる音、血飛沫が舞う音。
 そんな音が一瞬一瞬の時の中だけ聞こえたが、ゴブリンたちのなんとも汚い悲鳴にかき消されてしまった。

「「「じゅぐぁあああああああ!!!」」」

 汚い悲鳴も、青黒い血も、その血のにおいも、ゴブリン自体も……なんて不快ふかいなんだ。

「キィイイイイイ!!! (だらぁあああああ!!!)」

 体を回転スピンさせながら体当たりをする。
 こうすることによって真っ直ぐにしかいかなかった攻撃もベーゴマのように方向転換が可能になる。
 攻撃範囲がぐっと上がった。威力もそこまで落ちていない。
 それに目も回らないっ! なんで? 不思議っ!
 この回転スピン攻撃は、大群相手だと有効かもっ。この状況にぴったりの攻撃手段よっ!

 凄まじい勢いでゴブリンの死体が増えていく。

「じゅらぁああー!!!!」

 なっ!?
 止められた!?
 そうか。回転が緩くなったから止められたんだ。
 回転し続けるのは危険だな。今度はどこかのタイミングで回転し直さないと。
 それと……やっぱり私の弱点というか欠点みたいなのはか。

 私の回転スピン攻撃を止めたゴブリンの手は、私の取っ手をしっかりと握っている。
 そのせいで回転を止められてしまったんだ。
 だけどノープロブレム――問題ない!
 回転を止められたからって回転できないわけじゃない。もう一度回転しちゃえばいいのだよ。ゴブリンごとね!!

 うらぁああああ! 遠心力で吹き飛べー!!
 気安く私に触ってんじゃねー!!
 私に触っていいのは運命の相手――イケメン冒険者だけだコラー!!  (イケメン勇者様も可)

「じゅあああー!!!!」

 吹き飛んでいったゴブリンは別のゴブリンを巻き込んで壁に激突する。
 他のゴブリンがクッションになってくれたおかげで、奴だけは生き残っているな。
 なんて運のいい奴なんだ。その運を少しでも分けてもらいたいものだね。
 でも、その運もここでよ。

 私は生き残ったゴブリンに向かって思いっきり踏み込んだ。

 必殺――体当たり攻撃ボックスアタックッ!!!

 私は壁ごとゴブリンを砕いた。
 物凄い衝撃が洞窟内に響いただろう。
 そのせいで他のモンスターが寄ってこないか心配だ。
 早く残りのゴブリンも片付けないとっ!!

 必殺――回転攻撃スピンアタックッ!!!

 大勢相手だとやっぱりこの技が効果的だっ。
 激突したゴブリンたちは次々に青黒い血飛沫を上げながら倒れていく。
 そして粒子となって消失すると同時に石がドロップする。

 石を拾ってる余裕はないけど、この石はレベルアップに必須のはず。
 だったら隙を見て拾って食べてやる。

 回転速度が落ちた頃合いを見て……石を拾う。
 そして――口の中へ放り投げる。 (いただきまーす)

 ――ガリガリガリッ!!!

 レベルアップは…………しないか。
 経験値的なものが足りないって感じかな?
 それならたくさん石を食べちゃえばいいんじゃね!?
 そうと決まれば戦いながら隙を見て石を拾うぞ。
 レベルアップさえすれば体力も回復する。壊れた部分だって回復するんだ。
 ほぼ無敵じゃないかー!

「カパカパカパカパカパッ!!!」

 さぁ、ひれ伏せゴブリン共!!!
 私の経験値となるがいいっ!!

 必殺――回転攻撃スピンアタックッ!!!

 どりゃぁああああー!!!!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

プロミネンス~~獣人だらけの世界にいるけどやっぱり炎が最強です~~

笹原うずら
ファンタジー
獣人ばかりの世界の主人公は、炎を使う人間の姿をした少年だった。 鳥人族の国、スカイルの孤児の施設で育てられた主人公、サン。彼は陽天流という剣術の師範であるハヤブサの獣人ファルに預けられ、剣術の修行に明け暮れていた。しかしある日、ライバルであるツバメの獣人スアロと手合わせをした際、獣の力を持たないサンは、敗北してしまう。 自信の才能のなさに落ち込みながらも、様々な人の励ましを経て、立ち直るサン。しかしそんなサンが施設に戻ったとき、獣人の獣の部位を売買するパーツ商人に、サンは施設の仲間を奪われてしまう。さらに、サンの事を待ち構えていたパーツ商人の一人、ハイエナのイエナに死にかけの重傷を負わされる。 傷だらけの身体を抱えながらも、みんなを守るために立ち上がり、母の形見のペンダントを握り締めるサン。するとその時、死んだはずの母がサンの前に現れ、彼の炎の力を呼び覚ますのだった。 炎の力で獣人だらけの世界を切り開く、痛快大長編異世界ファンタジーが、今ここに開幕する!!!

魔法公証人~ルロイ・フェヘールの事件簿~

紫仙
ファンタジー
真実を司りし神ウェルスの名のもとに、 魔法公証人が秘められし真実を問う。 舞台は多くのダンジョンを近郊に擁する古都レッジョ。 多くの冒険者を惹きつけるレッジョでは今日も、 冒険者やダンジョンにまつわるトラブルで騒がしい。 魔法公証人ルロイ・フェヘールは、 そんなレッジョで真実を司る神ウェルスの御名の元、 証書と魔法により真実を見極める力「プロバティオ」をもって、 トラブルを抱えた依頼人たちを助けてゆく。 異世界公証人ファンタジー。 基本章ごとの短編集なので、 各章のごとに独立したお話として読めます。 カクヨムにて一度公開した作品ですが、 要所を手直し推敲して再アップしたものを連載しています。 最終話までは既に書いてあるので、 小説の完結は確約できます。

この遺跡ダンジョンはミミックで溢れている 〜Sランク斥候はミミックの真の価値を知っている〜

夢幻の翼
ファンタジー
【ダンジョンの宝箱には夢がある。だが現実はミミックばかりだ】 これはナンイード国にある遺跡ダンジョンのうちのひとつ、ワナガー遺跡でのお話。 この遺跡は他の遺跡ダンジョンに比べて宝箱が発見される率が格段に多い特徴を持つ特別なダンジョンだった。 いつもと変わらぬギルドの風景と思われたその日、ある冒険者が傷だらけで飛び込んで来た事から事態は急変する。 ダンジョンによる遭難者の救助という高難度の依頼に主人公は応えられるのか?

適正異世界

sazakiri
ファンタジー
ある日教室に突然現れた謎の男 「今から君たちには異世界に行ってもらう」 そんなこと急に言われても… しかし良いこともあるらしい! その世界で「あること」をすると…… 「とりあいず帰る方法を探すか」 まぁそんな上手くいくとは思いませんけど

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

蒼星伝 ~マッチ売りの男の娘はチート改造され、片翼の天使と成り果て、地上に舞い降りる剣と化す~

ももちく
ファンタジー
|神代《かみよ》の時代から、創造主:Y.O.N.Nと悪魔の統括者であるハイヨル混沌は激しい戦いを繰り返してきた。 その両者の戦いの余波を受けて、惑星:ジ・アースは4つに分かたれてしまう。 それから、さらに途方もない年月が経つ。 復活を果たしたハイヨル混沌は今度こそ、創造主;Y.O.N.Nとの決着をつけるためにも、惑星:ジ・アースを完全に暗黒の世界へと変えようとする。 ハイヨル混沌の支配を跳ね返すためにも、創造主:Y.O.N.Nのパートナーとも呼べる天界の主である星皇が天使軍団を率い、ハイヨル混沌軍団との戦いを始める。 しかし、ハイヨル混沌軍団は地上界を闇の世界に堕とすだけでなく、星皇の妻の命を狙う。 その計画を妨害するためにも星皇は自分の妾(男の娘)を妻の下へと派遣する。 幾星霜もの間、続いた創造主:Y.O.N.Nとハイヨル混沌との戦いに終止符を打つキーマンとなる星皇の妻と妾(男の娘)は互いの手を取り合う。 時にはぶつかり合い、地獄と化していく地上界で懸命に戦い、やがて、その命の炎を燃やし尽くす……。 彼女達の命の輝きを見た地上界の住人たちは、彼女たちの戦いの軌跡と生き様を『蒼星伝』として語り継ぐことになる。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

処理中です...