308 / 417
外伝:白兎月歌『腕相撲大会編』
外伝55 緊急会議の内容は
しおりを挟む
人間族の国の中央に聳え立つ王宮。その地下の一部の者しか知らない秘密の場所で緊急会議が始まろうとしていた。
「やぁやぁやぁ。クイーン。ルーク。ミオレ。ヴェル。シアン。それにアマゾン。みんな揃ったね」
飄々とした態度でチェスのキングの駒を模した椅子に座ったのは、人間族の国の王、そして大戦争を企てる悪の組織のボス――ジングウジ・ロイだ。
ロイの黒瞳には同じく大戦争を企てる仲間たちの姿が映っている。
黒色の花魁衣装に身を纏ったエルフの女クイーン。
「ふふふっ。今日はどんな会議になるのかしら?」
左腕から左顔にかけて龍のタトゥーが彫られている龍人族の男ルーク。
「新人も含めて全員集めたってことは、そろそろ動き出すんじゃないか?」
王直属の聖騎士団団長の猫人族の男ミオレ。
「…………」
聖騎士団朱猿団長の猿人族の男ミリオン・ヴェル。
「キングのことだ。面白いことでも浮かんだんだろう」
聖騎士団青犬団長の犬人族の男ヴァ・シアン。
「大人しくしてください。今からキングが話しますよ」
大きな傭兵団団長の牛人族の男アマゾン。
「ブモッモッモッモッ! 憧れの全員参加の会議。痺れるぜぇ」
ミオレ以外の全員がロイの言葉を期待しながら待っている。ミオレはロイの側近でもある故、内容を知っているのである。
「今日みんなに集まってもらったのは外でもない。最近僕の国で流行ってるものがあるんだよ。それをみんなでやりたくてさ」
ミオレ以外の全員が小首を傾げる。そして代表でルークがロイに質問を投げかけた。
「流行っているものですか。それは一体なんですか?」
「腕相撲だよ」
そのロイの意外な言葉にミオレ以外の全員が驚いた表情を見せた。
「「「腕相撲!?」」」
「はははっ。みんなの驚いた顔いいねぇ。その顔が見たかった。みんないい顔してるよね。ミオレ」
「はい。とても驚いてますね。特にヴェルが」
ミオレはヴェルをからかうような口調で言った。ヴェルはそのからかいに苛立ちを見せることなく素直に驚く。
「いや、だってよ。意外にも程があるだろ。全く想像できなかったわ。そういうミオレも初めて聞いた時は驚いてたんじゃねーのか?」
「もちろん驚いたよ。キングのやる事なす事全てにオレはいつも驚かさせられているからなァ」
そんなミオレとヴェルの会話の最中に大声でアマゾンは笑った。
「ブモッモッモッモッ! 腕相撲か。面白い。ブモッモッモッモッ! 」
大声で笑うアマゾンに釣られてクイーンも笑う。
「うふふっ。私も楽しみ。腕相撲だったら誰が二番なのかしらね?」
このクイーンの発言は自分が一番だという挑発の言葉ではない。一番はロイだという忠誠心の元、出た言葉なのだ。
そんなクイーンの横に座っているルークは、腕相撲の件をすぐに受け入れる。そして話題を戻すためロイに質問を始めた。
「それでキング。どのような対戦形式でやるのですか?」
「総当たりとか考えてみたけど、途中で飽きちゃいそうだからさ。トーナメント形式でいいんじゃないかなって思ってる」
「七人でのトーナメントとなると、四人のグループAと三人グループBの二つに分かれることになりますね。そしてグループBには一回戦を戦わなくてもいいシード権が一人というわけですね。どうやって振り分けるんですか?」
「シード権はもちろん僕。残りは、くじ引きだね」
振り分け方法が決まった瞬間、ミオレが動き出した。すでに用意してあったくじ引き用のカードをチェス盤に模したテーブルの上に裏向きで手際よく置いたのだ。
そのくじ引き用のカードには一から六までの番号が書かれている。振り分けのための番号だ。
トーナメント表での番号の割り当ては、左から順番に数字が上がっていく。一番から四番がグループA。五番と六番そしてシード権がグループBだ。
「オレが配ったので余ったカードでいい。先に引いてくれ」
各自、裏向きのくじ引き用のカードを引いていく。そして残った一枚のカードをミオレが引いた。これで振り分けが完了となる。
悪の組織腕相撲大会の振り分けはこうなった。
一番ルーク、二番ミオレ、三番クイーン、四番アマゾン、五番ヴァ・シアン、六番ミリオン・ヴェル、シード権ジングウジ・ロイだ。
つまり一回戦第一試合がルークVSミオレ。第二試合がクイーンVSアマゾン。第三試合がシアンVSヴェル。準決勝戦第一試合が一回戦第一試合と第二試合の勝者。準決勝戦第二試合は一回戦第三試合の勝者とシード権のロイ。そして決勝戦は準決勝戦の勝者同士となるのである。
「よしっ。トーナメント表も振り分けも決まったことだし早速やろう! あっ、ちなみに僕に勝った人はご褒美としてご飯をご馳走するよ。決勝戦に上がった人にも同じようにご馳走してあげる」
ご褒美があることを知った全員は、腕相撲に対するモチベーションが上がる。その中でも一番モチベーションが上がっているのはクイーンだ。
「キングとデートができるのね。うふふっ。負けられないわね。決勝にも上がってキングにも勝てば二回デートしてくれるのかしら?」
「うん。いいよ」
「ちなみにどこでデートしてくれるのかしら? プランはキングが考えてくれるのかしら」
「プランってまではないけどさ、ご馳走したいって思ってるのは、妖精族の国の『二千年樹』って温泉旅館の料理だよ。あそこの料理はすごく美味しいんだ。滅ぼすのが勿体無いって思っちゃうくらいにさ」
「あら。温泉デートなのね。素敵。これはもっと気合いが入っちゃったわ。うふふっ」
ご馳走よりもロイと一緒に居られることの方がご褒美と感じているクイーンは、妖艶に微笑みながら気合いを高めた。
そんな中、腕相撲をするためのテーブルの準備をミオレが終わらせて、そのまま一回戦第一試合が始まろうとしていた。
《一回戦第一試合ルークVSミオレ》
「右と左どっちでやる? オレはどっちでも構わないぞォ」
「義手の右手を心配してくれての発言かな?」
「心配なんてしてねェよ。むしろ逆だァ。自分の心配をしてる」
「そうか。だが、俺は右手でいかせてもらうぞ」
ルークは義手である右腕の肘をテーブルの上に置いた。ミオレはその手に吸い込まれるかのように右手を組んだ。
開始の合図をする審判役は普段ならミオレがやるのだが、そのミオレが試合をするので開始の合図ができない。そこで名乗り出たのが犬人族の男シアンだ。
「開始の合図は俺がやりましょう」
「助かるぜェ。シアン」
「ええ。お互い様ですよ」
シアンはルークとミオレが組んでいる手の上に自らの手を添えた。そして開始の合図を始める。
「三、二、一、始め!」
その開始の合図とほぼ同時。ミオレの手の甲がテーブルに付き、ルークの勝利が決まった。刹那の一瞬だ。
「勝者ルーク」
敗北したミオレは悔しがる様子を一つも見せていなかった。わかっているのだ。龍人族と猫人族の超えることのない力の差を。そしてルークとの圧倒的な力の差を。
「こうなることは最初から予想がついたけど、改めてすごい力だなァ」
「素直に褒められると嬉しいものだな」
勝利の余韻すらも感じないまま次の一回戦第二試合が始まろうとする。
瞬殺の腕相撲だったが、テーブルは壊れていない。よって同じテーブルで第二試合の腕相撲が始まる。
《一回戦第二試合クイーンVSアマゾン》
大きな傭兵団団長の牛人族のアマゾンは、筋肉を擬人化したかのような存在。全身はち切れそうなほど大きな筋肉に包まれている大男だ。実際、このメンバーの中では一番の筋肉の持ち主でもある。
対してエルフの女性クイーンは、枝のように細い腕で、筋肉からかけ離れた体をしている。極端に言えばアマゾンとは真逆の体型だ。
そんな筋肉モリモリの大男と細腕の女性なら、誰もが筋肉モリモリの大男が勝つと予想するであろう。普通に考えればそうだ。
「早く始めましょう。うふふっ」
「ブモッモッモッモッ! そう焦らなくてもっ」
先に細腕を出して準備していたクイーンの手をアマゾンの豪腕の手が握る。こうして腕相撲の準備が整った。
開始の合図をする審判役はシアンに変わり、本来の担当でもあるミオレが務める。
「準備はいいですね?」
ミオレは二人の手の上に自らの手を添える。その直後、開始の合図を始めた。
「三、二、一、始めェ!」
開始の合図の直後、牛人族の大男がテーブルを突き抜けて床に叩きつけられた。瞬殺だ。
「勝者、クイーン!」
見た目からは想像もできない結果だが、ここにいる全員、アマゾンも含めて全員、こうなることは予想できていたのだ。それほどクイーンに対しての強さの信頼をしているということでもある。
「うふふっ」
クイーンは舌で唇を妖艶に舐めたあと微笑んだ。
床に倒れているアマゾンの額からは真っ赤な血が流れている。その流血を気にすることなくゆっくりと立ち上がり、自分を負かしたエルフに向かって口を開いた。
「……クイーン」
「あら? もしかして納得いかなかった?」
「いいや。納得の結果だ。そこでだ、クイーン」
「何かしら?」
「これからあんたのこと姐さんって呼んでもいいか?」
「構わないわ。好きに呼んでちょうだい」
「ブモッモッモッモッ!」
どうやらアマゾンは気持ち良すぎるくらいの敗北を経験したらしい。そしてその経験をさせてくれたクイーンを尊敬の意を込めて姐さんと呼ぶことにしたのだった。
この結果によってグループAの準決勝戦に出場する二名が決定した。
次の一回戦第三試合を始める前に審判役のミオレと絶賛流血中のアマゾンの二人が、壊れたテーブルの代わりとなる同じ形のテーブルの準備を始める。
その間、ヴェルとシアンは準備運動をしながら待っていた。
《一回戦第三試合シアンVSヴェル》
聖騎士団朱猿と聖騎士団青犬の団長対決だ。
「お前と戦うのは何年ぶりだ?」
「入団試験以来ですので十五、十六年くらい前かと」
「そんなに経つのか」
「ええ。時の流れは早いものです。あの時は完膚なきまでにやられましたが、今度はそうはいきませんよ」
二人は懐かしい記憶を思い出しながら手を組んで腕相撲の体勢へとなった。ここで勝者したものが準決勝戦に進みシード枠のロイと戦うことになるのだ。
すぐに審判役のミオレが、腕相撲をする二人の手に自分の手を添えて、開始の合図を始めた。
「三、二、一、始め!」
その瞬間、ヴェルの朱色の気迫とシアンの青色の気迫がぶつかり合う。
二つの気迫がぶつかり合うたびに、禍々しい紫色の衝撃となって辺りに降り注ぐ。そして無法となった紫色の気迫は、腕相撲ようのテーブルを粉々に砕け散った。
煙と埃が舞い上がる中、妖艶に微笑むクイーンと腕組みをしながら観戦しているルークが口を開く。
「うふふっ。どっちが勝ったのかしら?」
「この場合でも勝敗を決められるのか?」
そのルークの質問に対して審判役のミオレが煙と埃を払いながら答える。
「二人の体勢がどうなってるかによってだなァ。たくッ。力のコントロールくらいしろよォ。おい。そのまま動くなよ」
苛立ちながらもミオレは審判役の務めを果たすため、ヴェルとシアンの体勢を紅色の瞳に映した。そしてすぐに勝者の名を叫ぶ。
「勝者、ヴェル!」
二人とも床に倒れているが、腕相撲で組んだ手は離れていなかった。そして粉々に砕けたテーブルの下に位置する床に手の甲を付けていたのはシアンだったのだ。
勝敗が決したことがわかったヴェルとシアンは、ゆっくりと立ち上がる。
「いてて……全力を出す前に砕けやがった。こんなに脆かったのかよ。おかげさまで顔面ぶつけたぞ」
「受け身ではなく投げ飛ばすように体勢をかえるべきでしたね。俺の判断ミスです」
体に付いた埃やテーブルの破片をはたきながら言った。その二人に対してロイが拍手を送る。
「いやぁ~、すごい気迫だったよ。いいものが見れた。二人ともずいぶんと成長したんだね」
そのロイの言葉にヴェルは頭を掻きながら照れ始めた。
「な、なんか、キングに言われると、て、照れる……」
「勿体ないお言葉。感謝です」
シアンはヴェルとは違い、膝をつき頭を垂れて敬意を表していた。
こうして準決勝戦へ出場する四名が決定した。
龍人族のルーク。エルフのクイーン。聖騎士団朱猿団長のミリオン・ヴェル。そして、人間族の国の王ジングウジ・ロイ。この四名だ。
「やぁやぁやぁ。クイーン。ルーク。ミオレ。ヴェル。シアン。それにアマゾン。みんな揃ったね」
飄々とした態度でチェスのキングの駒を模した椅子に座ったのは、人間族の国の王、そして大戦争を企てる悪の組織のボス――ジングウジ・ロイだ。
ロイの黒瞳には同じく大戦争を企てる仲間たちの姿が映っている。
黒色の花魁衣装に身を纏ったエルフの女クイーン。
「ふふふっ。今日はどんな会議になるのかしら?」
左腕から左顔にかけて龍のタトゥーが彫られている龍人族の男ルーク。
「新人も含めて全員集めたってことは、そろそろ動き出すんじゃないか?」
王直属の聖騎士団団長の猫人族の男ミオレ。
「…………」
聖騎士団朱猿団長の猿人族の男ミリオン・ヴェル。
「キングのことだ。面白いことでも浮かんだんだろう」
聖騎士団青犬団長の犬人族の男ヴァ・シアン。
「大人しくしてください。今からキングが話しますよ」
大きな傭兵団団長の牛人族の男アマゾン。
「ブモッモッモッモッ! 憧れの全員参加の会議。痺れるぜぇ」
ミオレ以外の全員がロイの言葉を期待しながら待っている。ミオレはロイの側近でもある故、内容を知っているのである。
「今日みんなに集まってもらったのは外でもない。最近僕の国で流行ってるものがあるんだよ。それをみんなでやりたくてさ」
ミオレ以外の全員が小首を傾げる。そして代表でルークがロイに質問を投げかけた。
「流行っているものですか。それは一体なんですか?」
「腕相撲だよ」
そのロイの意外な言葉にミオレ以外の全員が驚いた表情を見せた。
「「「腕相撲!?」」」
「はははっ。みんなの驚いた顔いいねぇ。その顔が見たかった。みんないい顔してるよね。ミオレ」
「はい。とても驚いてますね。特にヴェルが」
ミオレはヴェルをからかうような口調で言った。ヴェルはそのからかいに苛立ちを見せることなく素直に驚く。
「いや、だってよ。意外にも程があるだろ。全く想像できなかったわ。そういうミオレも初めて聞いた時は驚いてたんじゃねーのか?」
「もちろん驚いたよ。キングのやる事なす事全てにオレはいつも驚かさせられているからなァ」
そんなミオレとヴェルの会話の最中に大声でアマゾンは笑った。
「ブモッモッモッモッ! 腕相撲か。面白い。ブモッモッモッモッ! 」
大声で笑うアマゾンに釣られてクイーンも笑う。
「うふふっ。私も楽しみ。腕相撲だったら誰が二番なのかしらね?」
このクイーンの発言は自分が一番だという挑発の言葉ではない。一番はロイだという忠誠心の元、出た言葉なのだ。
そんなクイーンの横に座っているルークは、腕相撲の件をすぐに受け入れる。そして話題を戻すためロイに質問を始めた。
「それでキング。どのような対戦形式でやるのですか?」
「総当たりとか考えてみたけど、途中で飽きちゃいそうだからさ。トーナメント形式でいいんじゃないかなって思ってる」
「七人でのトーナメントとなると、四人のグループAと三人グループBの二つに分かれることになりますね。そしてグループBには一回戦を戦わなくてもいいシード権が一人というわけですね。どうやって振り分けるんですか?」
「シード権はもちろん僕。残りは、くじ引きだね」
振り分け方法が決まった瞬間、ミオレが動き出した。すでに用意してあったくじ引き用のカードをチェス盤に模したテーブルの上に裏向きで手際よく置いたのだ。
そのくじ引き用のカードには一から六までの番号が書かれている。振り分けのための番号だ。
トーナメント表での番号の割り当ては、左から順番に数字が上がっていく。一番から四番がグループA。五番と六番そしてシード権がグループBだ。
「オレが配ったので余ったカードでいい。先に引いてくれ」
各自、裏向きのくじ引き用のカードを引いていく。そして残った一枚のカードをミオレが引いた。これで振り分けが完了となる。
悪の組織腕相撲大会の振り分けはこうなった。
一番ルーク、二番ミオレ、三番クイーン、四番アマゾン、五番ヴァ・シアン、六番ミリオン・ヴェル、シード権ジングウジ・ロイだ。
つまり一回戦第一試合がルークVSミオレ。第二試合がクイーンVSアマゾン。第三試合がシアンVSヴェル。準決勝戦第一試合が一回戦第一試合と第二試合の勝者。準決勝戦第二試合は一回戦第三試合の勝者とシード権のロイ。そして決勝戦は準決勝戦の勝者同士となるのである。
「よしっ。トーナメント表も振り分けも決まったことだし早速やろう! あっ、ちなみに僕に勝った人はご褒美としてご飯をご馳走するよ。決勝戦に上がった人にも同じようにご馳走してあげる」
ご褒美があることを知った全員は、腕相撲に対するモチベーションが上がる。その中でも一番モチベーションが上がっているのはクイーンだ。
「キングとデートができるのね。うふふっ。負けられないわね。決勝にも上がってキングにも勝てば二回デートしてくれるのかしら?」
「うん。いいよ」
「ちなみにどこでデートしてくれるのかしら? プランはキングが考えてくれるのかしら」
「プランってまではないけどさ、ご馳走したいって思ってるのは、妖精族の国の『二千年樹』って温泉旅館の料理だよ。あそこの料理はすごく美味しいんだ。滅ぼすのが勿体無いって思っちゃうくらいにさ」
「あら。温泉デートなのね。素敵。これはもっと気合いが入っちゃったわ。うふふっ」
ご馳走よりもロイと一緒に居られることの方がご褒美と感じているクイーンは、妖艶に微笑みながら気合いを高めた。
そんな中、腕相撲をするためのテーブルの準備をミオレが終わらせて、そのまま一回戦第一試合が始まろうとしていた。
《一回戦第一試合ルークVSミオレ》
「右と左どっちでやる? オレはどっちでも構わないぞォ」
「義手の右手を心配してくれての発言かな?」
「心配なんてしてねェよ。むしろ逆だァ。自分の心配をしてる」
「そうか。だが、俺は右手でいかせてもらうぞ」
ルークは義手である右腕の肘をテーブルの上に置いた。ミオレはその手に吸い込まれるかのように右手を組んだ。
開始の合図をする審判役は普段ならミオレがやるのだが、そのミオレが試合をするので開始の合図ができない。そこで名乗り出たのが犬人族の男シアンだ。
「開始の合図は俺がやりましょう」
「助かるぜェ。シアン」
「ええ。お互い様ですよ」
シアンはルークとミオレが組んでいる手の上に自らの手を添えた。そして開始の合図を始める。
「三、二、一、始め!」
その開始の合図とほぼ同時。ミオレの手の甲がテーブルに付き、ルークの勝利が決まった。刹那の一瞬だ。
「勝者ルーク」
敗北したミオレは悔しがる様子を一つも見せていなかった。わかっているのだ。龍人族と猫人族の超えることのない力の差を。そしてルークとの圧倒的な力の差を。
「こうなることは最初から予想がついたけど、改めてすごい力だなァ」
「素直に褒められると嬉しいものだな」
勝利の余韻すらも感じないまま次の一回戦第二試合が始まろうとする。
瞬殺の腕相撲だったが、テーブルは壊れていない。よって同じテーブルで第二試合の腕相撲が始まる。
《一回戦第二試合クイーンVSアマゾン》
大きな傭兵団団長の牛人族のアマゾンは、筋肉を擬人化したかのような存在。全身はち切れそうなほど大きな筋肉に包まれている大男だ。実際、このメンバーの中では一番の筋肉の持ち主でもある。
対してエルフの女性クイーンは、枝のように細い腕で、筋肉からかけ離れた体をしている。極端に言えばアマゾンとは真逆の体型だ。
そんな筋肉モリモリの大男と細腕の女性なら、誰もが筋肉モリモリの大男が勝つと予想するであろう。普通に考えればそうだ。
「早く始めましょう。うふふっ」
「ブモッモッモッモッ! そう焦らなくてもっ」
先に細腕を出して準備していたクイーンの手をアマゾンの豪腕の手が握る。こうして腕相撲の準備が整った。
開始の合図をする審判役はシアンに変わり、本来の担当でもあるミオレが務める。
「準備はいいですね?」
ミオレは二人の手の上に自らの手を添える。その直後、開始の合図を始めた。
「三、二、一、始めェ!」
開始の合図の直後、牛人族の大男がテーブルを突き抜けて床に叩きつけられた。瞬殺だ。
「勝者、クイーン!」
見た目からは想像もできない結果だが、ここにいる全員、アマゾンも含めて全員、こうなることは予想できていたのだ。それほどクイーンに対しての強さの信頼をしているということでもある。
「うふふっ」
クイーンは舌で唇を妖艶に舐めたあと微笑んだ。
床に倒れているアマゾンの額からは真っ赤な血が流れている。その流血を気にすることなくゆっくりと立ち上がり、自分を負かしたエルフに向かって口を開いた。
「……クイーン」
「あら? もしかして納得いかなかった?」
「いいや。納得の結果だ。そこでだ、クイーン」
「何かしら?」
「これからあんたのこと姐さんって呼んでもいいか?」
「構わないわ。好きに呼んでちょうだい」
「ブモッモッモッモッ!」
どうやらアマゾンは気持ち良すぎるくらいの敗北を経験したらしい。そしてその経験をさせてくれたクイーンを尊敬の意を込めて姐さんと呼ぶことにしたのだった。
この結果によってグループAの準決勝戦に出場する二名が決定した。
次の一回戦第三試合を始める前に審判役のミオレと絶賛流血中のアマゾンの二人が、壊れたテーブルの代わりとなる同じ形のテーブルの準備を始める。
その間、ヴェルとシアンは準備運動をしながら待っていた。
《一回戦第三試合シアンVSヴェル》
聖騎士団朱猿と聖騎士団青犬の団長対決だ。
「お前と戦うのは何年ぶりだ?」
「入団試験以来ですので十五、十六年くらい前かと」
「そんなに経つのか」
「ええ。時の流れは早いものです。あの時は完膚なきまでにやられましたが、今度はそうはいきませんよ」
二人は懐かしい記憶を思い出しながら手を組んで腕相撲の体勢へとなった。ここで勝者したものが準決勝戦に進みシード枠のロイと戦うことになるのだ。
すぐに審判役のミオレが、腕相撲をする二人の手に自分の手を添えて、開始の合図を始めた。
「三、二、一、始め!」
その瞬間、ヴェルの朱色の気迫とシアンの青色の気迫がぶつかり合う。
二つの気迫がぶつかり合うたびに、禍々しい紫色の衝撃となって辺りに降り注ぐ。そして無法となった紫色の気迫は、腕相撲ようのテーブルを粉々に砕け散った。
煙と埃が舞い上がる中、妖艶に微笑むクイーンと腕組みをしながら観戦しているルークが口を開く。
「うふふっ。どっちが勝ったのかしら?」
「この場合でも勝敗を決められるのか?」
そのルークの質問に対して審判役のミオレが煙と埃を払いながら答える。
「二人の体勢がどうなってるかによってだなァ。たくッ。力のコントロールくらいしろよォ。おい。そのまま動くなよ」
苛立ちながらもミオレは審判役の務めを果たすため、ヴェルとシアンの体勢を紅色の瞳に映した。そしてすぐに勝者の名を叫ぶ。
「勝者、ヴェル!」
二人とも床に倒れているが、腕相撲で組んだ手は離れていなかった。そして粉々に砕けたテーブルの下に位置する床に手の甲を付けていたのはシアンだったのだ。
勝敗が決したことがわかったヴェルとシアンは、ゆっくりと立ち上がる。
「いてて……全力を出す前に砕けやがった。こんなに脆かったのかよ。おかげさまで顔面ぶつけたぞ」
「受け身ではなく投げ飛ばすように体勢をかえるべきでしたね。俺の判断ミスです」
体に付いた埃やテーブルの破片をはたきながら言った。その二人に対してロイが拍手を送る。
「いやぁ~、すごい気迫だったよ。いいものが見れた。二人ともずいぶんと成長したんだね」
そのロイの言葉にヴェルは頭を掻きながら照れ始めた。
「な、なんか、キングに言われると、て、照れる……」
「勿体ないお言葉。感謝です」
シアンはヴェルとは違い、膝をつき頭を垂れて敬意を表していた。
こうして準決勝戦へ出場する四名が決定した。
龍人族のルーク。エルフのクイーン。聖騎士団朱猿団長のミリオン・ヴェル。そして、人間族の国の王ジングウジ・ロイ。この四名だ。
0
お気に入りに追加
449
あなたにおすすめの小説
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
クリエイタースキルを使って、異世界最強の文字召喚術師になります。
月海水
ファンタジー
ゲーム会社でスマホ向けゲームのモンスター設定を作っていた主人公は、残業中のオフィスで突然異世界に転移させられてしまう。
その異世界には、自分が考えたオリジナルモンスターを召喚できる文字召喚術というものが存在した!
転移時に一瞬で120体のアンデッドの召喚主となった主人公に対し、異世界の文字召喚は速度も遅ければ、召喚数も少ない。これはもしや、かなりの能力なのでは……?
自分が考えたオリジナルモンスターを召喚しまくり、最強の文字召喚術師を目指します!
職業選択の自由~ネクロマンサーを選択した男~
新米少尉
ファンタジー
「私は私の評価を他人に委ねるつもりはありません」
多くの者達が英雄を目指す中、彼はそんなことは望んでいなかった。
ただ一つ、自ら選択した道を黙々と歩むだけを目指した。
その道が他者からは忌み嫌われるものであろうとも彼には誇りと信念があった。
彼が自ら選んだのはネクロマンサーとしての生き方。
これは職業「死霊術師」を自ら選んだ男の物語。
~他のサイトで投稿していた小説の転載です。完結済の作品ですが、若干の修正をしながらきりのよい部分で一括投稿していきますので試しに覗いていただけると嬉しく思います~
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
おっさんの異世界建国記
なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる