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外伝:白兎月歌『白いウサギ編』
外伝31 好敵手
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――およそ四年前のこと。
聖騎士団白兎の団員――アンブル・ブランシュとズゥジィ・エームは、魔獣の気配がする方へと向かって走っていた。
ブランシュとエームは年齢は同じ二十歳だが、聖騎士団へ入団した時期が違い、先輩と後輩の関係だ。
「ブランシュ先輩。本当にこっちに魔獣がいるんですか?」
「感じないのか?」
「生憎ですが、ブランシュ先輩みたいに感知系のスキルは持ってませんので……」
「いや、スキルなんて使わなくても感じるだろ」
「スキルなし……本当にブランシュ先輩は規格外ですね……」
エームは規格外すぎるブランシュの感知能力に、すごいという感情を通り越して呆気にとられていた。
そんな二人が駆けている道は、人間族の国のさらに北の国――猿人族の国の国道だ。
その国道から森の方角へ――魔獣の気配がする方へと向かっているのだ。
(月の声、魔獣まであとどのくらいだ?)
《はい。およそ、二キロメートルです》
(魔獣の数は?)
《二千体です》
(二千体だと……)
ブランシュの加護である『月の声』は、魔獣の数を『およそ』や『約』などの不確かな数ではなく、はっきりと『二千体』という数字で答えた。
その数は、負け知らずのブランシュでさえ、不安に思ってしまうほどの数なのだ。
(下級が二千体ならいいのだがな……)
そんなことを心の中で呟いているうちに、目的地の森に到着した。
森と言っても木々は細く、見晴らしのいい森だ。そんな森に二千体ものの魔獣がいればすぐに見つけられるはずなのだが、その姿はどこにもなかった。
「先輩……魔獣なんていないじゃないですか。やっぱり先輩の勘違いだったんですよ」
(……おかしい。確かに感じるのだが、どこにいる? まさか小さすぎて見えないとでもいうのか? それとも透明に? いや、透明は有り得ないか……)
「お~い。せんぱーい。聞いてますか?」
「…………」
「ダメだ……聞いてない……」
ブランシュの深青の瞳の前でエームは手を振るも、ブランシュから全く反応がなく、エームはため息を吐いた。
「……本部に戻って報告しに行きますよ。他にもたくさん任務があるんですから」
エームは、来た道を戻ろうと、歩き出した。次の瞬間、エームは岩のように硬い何かにぶつかった。
「いてて、こんなところに木なんて――」
あったのかと、言おうとしたが、そのぶつかった何かの正体が分かり言葉を止めた。
「フォ、フォ、フォ……」
エームがぶつかった岩のように硬い何かの正体は――
「フォーンさん!?」
「よおッ、なんでお前らがここにいるんだッ?」
聖騎士団玄鹿の団員――鹿人族のセルフ・フォーンだ。
エームとは違い、彼の存在に最初から気付いていたブランシュは、彼の質問に答えた。
「魔獣の気配がしたんでな。鹿男はどうしてここに?」
「鹿男じゃなくて、フォーンなッ。俺もお前たちと同じで、変な気配を感じたんからここに来たんだよッ」
フォーンもブランシュと同じく、魔獣の気配を感知してやってきたのだ。彼は、聖騎士団玄鹿の任務でたまたま近くに来ていたのである。
そんなフォーンに向かってエームは恐る恐る質問をする。
「フォーンさんは感知系のスキルで気配を感じ取ったんですか?」
「スキルッ? いいや、使ってないぞッ」
「あはは……あなたも規格外でしたね……」
エームは苦笑いをした。そして、規格外の二人に挟まれている事に居心地を悪く感じていた。
そんなエームの肩をフォーンは優しく叩いた。そしてブランシュに向かって口を開く。
「ところで魔獣はどこにいるッ? 気配はするんだけど、全然見つからねーぞッ」
「あぁ、そうだな。見られている感じもするから、近くにいることは間違いないな」
「お前はどこから見られてると思うッ?」
「その質問をするということは」
「あぁッ。そうだッ」
その瞬間、ブランシュとフォーンは垂直に飛んだ。
フォーンの右手には、子猫のように首根っこを掴まれているエームがいる。
「ちょ、いきなり、どうしたんですか!?」
そんなエームの叫びに二人は答えない。ただ一点に――地面に向かって集中力を研ぎ澄ましている。
次の瞬間――
「そこか!」
ブランシュの手のひらから閃光のように激しい光が放たれ、地面を白く光らせた。
これは光属性魔法の暗闇を光に照らす技だ。ブランシュは無詠唱で魔法を使えるのである。
閃光が消えるのと同時に、垂直に飛んでいたブランシュとフォーン、そして首根っこをフォーンに掴まれていたエームの三人は綺麗に着地をする。
着地した三人の正面には、先ほどまで無かったものが出現していた。
それは――
「人型の影……魔獣か」
「俺たちを地面から、いや、影から見てた魔獣だなッ。二体か」
ブランシュとフォーンが気配を感じていた魔獣だった。
その魔獣が出現した事により、月の声が鑑定を始めた。
《千の命を持つ幻級の魔獣――千影です》
(幻級……クジラと同じか……)
《はい。以前マスターが討伐した星喰い鯨と、同じ階級に分類されております》
ブランシュが幻級の魔獣と遭遇したのはこれで二回目だ。
一回目は十二歳の時、月へ行った際に遭遇した。その時は、全力を尽くし魔獣を討伐したものの、ブランシュ自身致命傷を負ってしまった。
ブランシュには、『体力自動回復』 『体力高速回復』 『体力回復量増加』などの回復系のスキルがあり、時間が経過すれば致命傷でも完全に回復することが可能だ。
しかし、その回復には時間がかかり、その間、意識を失っていた。幸いにも意識を失っている時、月の古代都市モチツキに住んでいるハクトシンとガルドマンジェに助けてもらい、身の安全を守られた。そして回復の手助けをしてもらったのだ。
それほど強力な敵を前にブランシュは一歩も引かなかった。それどころか胸を躍らせていた。
(クジラと戦ったあの日からどれほど成長できたか、試すのも悪くないな)
ニヤリと笑うブランシュ。それを横から見ていたエームは嫌な予感を感じていた。
(魔獣を前にして先輩が笑った……暴れる気満々だ……あぁ、どうか、猿人族の国の森だけはめちゃくちゃにしないでください)
エームが言葉に出さずに願ったのは、ブランシュに直接言っても話を聞いてもらえず無駄だからだ。なのでエームは神に祈ったのだ。祈るしかなかったのだ。
そんなエームの願いが届いたかのように、神ではなく、フォーンが動き出した。
「結界ッ!」
フォーンは二つの結界を張った。自分自身と千影一体を閉じ込める結界と、ブランシュともう一体の千影を閉じ込める結界の二つだ。
結界は土風光の三属性の魔法を合わせて作られるもの。ブランシュが聖騎士団の入団試験の模擬試合の際に、フォーンの兄であり聖騎士団玄鹿の団長のセルフ・ビッシュが作った結界と同じものだ。
「ブランシュよッ。どっちが先にこの魔獣を倒せるか勝負しようやッ」
「いいだろう。受けて立つ」
「よしッ。そうこなくっちゃなッ」
二人の騎士は魔獣を前にして笑った。戦いを前に胸を躍らせているのだ。
その戦いとは、魔獣との戦いではない。ライバルとの戦いにだ。
「フェアに戦いたいので、この魔獣――千影の情報を共有しよう」
「サウザン……? あぁ、もらえるもんは、もらっとくぜッ」
「千影は幻級の魔獣だ。討伐方法は千回殺すこと」
「ほぉッ~、それだけかッ? 単純だなッ」
「あぁ、それだけしか知らないらしい」
「らしいッ?」
ブランシュは月の声が知っている情報しか知らない。だから『らしい』などという、いかにも他人から教えてもらったかのような言い方をしてしまったのである。
「幻級と聞いて慄かないとは意外だな」
「おいおいッ。俺を馬鹿にしてるのかッ?」
「いいや、普通ならあのような反応をすると思ってな」
ブランシュが指を差した先にはエームの姿があった。
「げ、げ、げ、げ、幻級!?」
と、エームは慌てふためいていた。
そんなエームを一度だけ見て、何も言わずに再び正面にいる魔獣を瞳に映すフォーン。
「幻級くらい倒さなきゃ、兄様たちに追いつけないだろうがッ」
「ふん。いい心構えだな」
「……それにだッ」
「……?」
「お前にも追いつけないからなッ。アンブル・ブランシュッ!」
「追いつけるものなら追いついてみな。セルフ・鹿男」
「だからフォーンだッ!」
フォーンが目標に掲げるのは、聖騎士団玄鹿の団長および兄でもあるセルフ・ビッシュ。そして、もう一人の兄で副団長にまで上り詰めたセルフ・ヒルシュ。さらに、フォーンに敗北の傷を負わせたライバル――アンブル・ブランシュの三人だ。
フォーンにとって目標の三人以外は、ただの通過点に過ぎないのである。
「あ、あの~、俺はどうしたらいいんでしょうか?」
ライバル同士の魔獣討伐対決に水を差さないようにと、結界の外にいるエームは申し訳なさそうに口を開いたのだ。
「そうだなッ。とりあえず、始めの合図をよろしく頼むッ」
「はぁ~、分かりましたよ。まったく……なんで強者はみんなこんな感じなんですかね……幻級の魔獣ですから、本当は止めるべきなんですけど……先輩たちの負ける未来が見えないのはなんなんでしょうね……」
ため息を吐きながらもエームは、フォーンに言われた通り行動を始める。その行動とは、右手を天高く掲げて、対決を始める合図をすることだ。
「では、いきますよ。相手は幻級の魔獣ですからね。お二人なら大丈夫だと思いますが、くれぐれも気をつけてくださいね。あと怪我したら僕の治癒魔法で治しますけど、無茶だけはしないように。僕の魔力は先輩たちとは違って限界がありますからね…………では、千影討伐対決――始めてください!」
エームは、天高く掲げた右手を思いっきり振り下げて始めの合図をした。
心の中では『呆れ』や『心配』などの感情が渦巻いているが、それと同じくらい二人の戦いに『興味』と『興奮』の気持ちを持っていた。
(規格外のお二人は、どんな戦いを……そしてどっちが先に幻級の魔獣を倒すんですかね……なんだかワクワクしてきました)
エームは手に汗を握る観客気分で、ブランシュとフォーンの対決を見守り始めた。
聖騎士団白兎の団員――アンブル・ブランシュとズゥジィ・エームは、魔獣の気配がする方へと向かって走っていた。
ブランシュとエームは年齢は同じ二十歳だが、聖騎士団へ入団した時期が違い、先輩と後輩の関係だ。
「ブランシュ先輩。本当にこっちに魔獣がいるんですか?」
「感じないのか?」
「生憎ですが、ブランシュ先輩みたいに感知系のスキルは持ってませんので……」
「いや、スキルなんて使わなくても感じるだろ」
「スキルなし……本当にブランシュ先輩は規格外ですね……」
エームは規格外すぎるブランシュの感知能力に、すごいという感情を通り越して呆気にとられていた。
そんな二人が駆けている道は、人間族の国のさらに北の国――猿人族の国の国道だ。
その国道から森の方角へ――魔獣の気配がする方へと向かっているのだ。
(月の声、魔獣まであとどのくらいだ?)
《はい。およそ、二キロメートルです》
(魔獣の数は?)
《二千体です》
(二千体だと……)
ブランシュの加護である『月の声』は、魔獣の数を『およそ』や『約』などの不確かな数ではなく、はっきりと『二千体』という数字で答えた。
その数は、負け知らずのブランシュでさえ、不安に思ってしまうほどの数なのだ。
(下級が二千体ならいいのだがな……)
そんなことを心の中で呟いているうちに、目的地の森に到着した。
森と言っても木々は細く、見晴らしのいい森だ。そんな森に二千体ものの魔獣がいればすぐに見つけられるはずなのだが、その姿はどこにもなかった。
「先輩……魔獣なんていないじゃないですか。やっぱり先輩の勘違いだったんですよ」
(……おかしい。確かに感じるのだが、どこにいる? まさか小さすぎて見えないとでもいうのか? それとも透明に? いや、透明は有り得ないか……)
「お~い。せんぱーい。聞いてますか?」
「…………」
「ダメだ……聞いてない……」
ブランシュの深青の瞳の前でエームは手を振るも、ブランシュから全く反応がなく、エームはため息を吐いた。
「……本部に戻って報告しに行きますよ。他にもたくさん任務があるんですから」
エームは、来た道を戻ろうと、歩き出した。次の瞬間、エームは岩のように硬い何かにぶつかった。
「いてて、こんなところに木なんて――」
あったのかと、言おうとしたが、そのぶつかった何かの正体が分かり言葉を止めた。
「フォ、フォ、フォ……」
エームがぶつかった岩のように硬い何かの正体は――
「フォーンさん!?」
「よおッ、なんでお前らがここにいるんだッ?」
聖騎士団玄鹿の団員――鹿人族のセルフ・フォーンだ。
エームとは違い、彼の存在に最初から気付いていたブランシュは、彼の質問に答えた。
「魔獣の気配がしたんでな。鹿男はどうしてここに?」
「鹿男じゃなくて、フォーンなッ。俺もお前たちと同じで、変な気配を感じたんからここに来たんだよッ」
フォーンもブランシュと同じく、魔獣の気配を感知してやってきたのだ。彼は、聖騎士団玄鹿の任務でたまたま近くに来ていたのである。
そんなフォーンに向かってエームは恐る恐る質問をする。
「フォーンさんは感知系のスキルで気配を感じ取ったんですか?」
「スキルッ? いいや、使ってないぞッ」
「あはは……あなたも規格外でしたね……」
エームは苦笑いをした。そして、規格外の二人に挟まれている事に居心地を悪く感じていた。
そんなエームの肩をフォーンは優しく叩いた。そしてブランシュに向かって口を開く。
「ところで魔獣はどこにいるッ? 気配はするんだけど、全然見つからねーぞッ」
「あぁ、そうだな。見られている感じもするから、近くにいることは間違いないな」
「お前はどこから見られてると思うッ?」
「その質問をするということは」
「あぁッ。そうだッ」
その瞬間、ブランシュとフォーンは垂直に飛んだ。
フォーンの右手には、子猫のように首根っこを掴まれているエームがいる。
「ちょ、いきなり、どうしたんですか!?」
そんなエームの叫びに二人は答えない。ただ一点に――地面に向かって集中力を研ぎ澄ましている。
次の瞬間――
「そこか!」
ブランシュの手のひらから閃光のように激しい光が放たれ、地面を白く光らせた。
これは光属性魔法の暗闇を光に照らす技だ。ブランシュは無詠唱で魔法を使えるのである。
閃光が消えるのと同時に、垂直に飛んでいたブランシュとフォーン、そして首根っこをフォーンに掴まれていたエームの三人は綺麗に着地をする。
着地した三人の正面には、先ほどまで無かったものが出現していた。
それは――
「人型の影……魔獣か」
「俺たちを地面から、いや、影から見てた魔獣だなッ。二体か」
ブランシュとフォーンが気配を感じていた魔獣だった。
その魔獣が出現した事により、月の声が鑑定を始めた。
《千の命を持つ幻級の魔獣――千影です》
(幻級……クジラと同じか……)
《はい。以前マスターが討伐した星喰い鯨と、同じ階級に分類されております》
ブランシュが幻級の魔獣と遭遇したのはこれで二回目だ。
一回目は十二歳の時、月へ行った際に遭遇した。その時は、全力を尽くし魔獣を討伐したものの、ブランシュ自身致命傷を負ってしまった。
ブランシュには、『体力自動回復』 『体力高速回復』 『体力回復量増加』などの回復系のスキルがあり、時間が経過すれば致命傷でも完全に回復することが可能だ。
しかし、その回復には時間がかかり、その間、意識を失っていた。幸いにも意識を失っている時、月の古代都市モチツキに住んでいるハクトシンとガルドマンジェに助けてもらい、身の安全を守られた。そして回復の手助けをしてもらったのだ。
それほど強力な敵を前にブランシュは一歩も引かなかった。それどころか胸を躍らせていた。
(クジラと戦ったあの日からどれほど成長できたか、試すのも悪くないな)
ニヤリと笑うブランシュ。それを横から見ていたエームは嫌な予感を感じていた。
(魔獣を前にして先輩が笑った……暴れる気満々だ……あぁ、どうか、猿人族の国の森だけはめちゃくちゃにしないでください)
エームが言葉に出さずに願ったのは、ブランシュに直接言っても話を聞いてもらえず無駄だからだ。なのでエームは神に祈ったのだ。祈るしかなかったのだ。
そんなエームの願いが届いたかのように、神ではなく、フォーンが動き出した。
「結界ッ!」
フォーンは二つの結界を張った。自分自身と千影一体を閉じ込める結界と、ブランシュともう一体の千影を閉じ込める結界の二つだ。
結界は土風光の三属性の魔法を合わせて作られるもの。ブランシュが聖騎士団の入団試験の模擬試合の際に、フォーンの兄であり聖騎士団玄鹿の団長のセルフ・ビッシュが作った結界と同じものだ。
「ブランシュよッ。どっちが先にこの魔獣を倒せるか勝負しようやッ」
「いいだろう。受けて立つ」
「よしッ。そうこなくっちゃなッ」
二人の騎士は魔獣を前にして笑った。戦いを前に胸を躍らせているのだ。
その戦いとは、魔獣との戦いではない。ライバルとの戦いにだ。
「フェアに戦いたいので、この魔獣――千影の情報を共有しよう」
「サウザン……? あぁ、もらえるもんは、もらっとくぜッ」
「千影は幻級の魔獣だ。討伐方法は千回殺すこと」
「ほぉッ~、それだけかッ? 単純だなッ」
「あぁ、それだけしか知らないらしい」
「らしいッ?」
ブランシュは月の声が知っている情報しか知らない。だから『らしい』などという、いかにも他人から教えてもらったかのような言い方をしてしまったのである。
「幻級と聞いて慄かないとは意外だな」
「おいおいッ。俺を馬鹿にしてるのかッ?」
「いいや、普通ならあのような反応をすると思ってな」
ブランシュが指を差した先にはエームの姿があった。
「げ、げ、げ、げ、幻級!?」
と、エームは慌てふためいていた。
そんなエームを一度だけ見て、何も言わずに再び正面にいる魔獣を瞳に映すフォーン。
「幻級くらい倒さなきゃ、兄様たちに追いつけないだろうがッ」
「ふん。いい心構えだな」
「……それにだッ」
「……?」
「お前にも追いつけないからなッ。アンブル・ブランシュッ!」
「追いつけるものなら追いついてみな。セルフ・鹿男」
「だからフォーンだッ!」
フォーンが目標に掲げるのは、聖騎士団玄鹿の団長および兄でもあるセルフ・ビッシュ。そして、もう一人の兄で副団長にまで上り詰めたセルフ・ヒルシュ。さらに、フォーンに敗北の傷を負わせたライバル――アンブル・ブランシュの三人だ。
フォーンにとって目標の三人以外は、ただの通過点に過ぎないのである。
「あ、あの~、俺はどうしたらいいんでしょうか?」
ライバル同士の魔獣討伐対決に水を差さないようにと、結界の外にいるエームは申し訳なさそうに口を開いたのだ。
「そうだなッ。とりあえず、始めの合図をよろしく頼むッ」
「はぁ~、分かりましたよ。まったく……なんで強者はみんなこんな感じなんですかね……幻級の魔獣ですから、本当は止めるべきなんですけど……先輩たちの負ける未来が見えないのはなんなんでしょうね……」
ため息を吐きながらもエームは、フォーンに言われた通り行動を始める。その行動とは、右手を天高く掲げて、対決を始める合図をすることだ。
「では、いきますよ。相手は幻級の魔獣ですからね。お二人なら大丈夫だと思いますが、くれぐれも気をつけてくださいね。あと怪我したら僕の治癒魔法で治しますけど、無茶だけはしないように。僕の魔力は先輩たちとは違って限界がありますからね…………では、千影討伐対決――始めてください!」
エームは、天高く掲げた右手を思いっきり振り下げて始めの合図をした。
心の中では『呆れ』や『心配』などの感情が渦巻いているが、それと同じくらい二人の戦いに『興味』と『興奮』の気持ちを持っていた。
(規格外のお二人は、どんな戦いを……そしてどっちが先に幻級の魔獣を倒すんですかね……なんだかワクワクしてきました)
エームは手に汗を握る観客気分で、ブランシュとフォーンの対決を見守り始めた。
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