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外伝:白兎月歌『入団試験編』
外伝5 模擬試合開始
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午後の部、合格者八名による模擬試合が始まる時間となった。
「それでは午後の部を始めるとしよう」
白く長い髭を触りながら言ったのは人間族の王ジングウジ・ローテルだ。
わざわざ用意された玉座に腰を下ろし楽しげに見物を始めた。
人間族の王に見物されピリピリとした空気が流れる中、嫌な雰囲気を漂わせる赤や黄を含んだ深みのある黒色の制服を身に纏った鹿人族の男が口を開く。
「午後の部の試験官、あー、この場合は審判か。審判を務めさせてもらう聖騎士団玄鹿団長のセルフ・ビッシュだ。以後お見知り置きを」
お辞儀をするため大きな二本のツノが生えている頭を軽く下げた。たったそれだけのはずなのに頭と共に下がった二本の角から凶悪な殺気を感じ取ることができる。
おそらく合格者の八人がその殺気に気付いているだろう。
そしてその殺気を浴びた八人のうちの二人が生まれたての小鹿のように震え始めた。この例えの通り震え始めたのは審判を務めるセルフ・ビッシュと同じ鹿人族の二人だ。
「こんな殺気で震えるなんて情けない。それにお前たちだけだぞ震えてるのは。なぁ? ヒルシュ、フォーン」
「「は、はいッ!」」
揃って返事をする震える鹿人族の二人。
彼らと団長の関係は――
「いやいや、驚かしてすまないねー。兄として弟たちに気合いを入れたくなったもんで。あー、でも安心してくれ身内だからといって模擬試合中に甘い審判や厳しい審判なんてしない。審判を務めるからには、全員平等に審判するからよ」
――兄弟だったのだ。
ヒルシュとフォーンは団長の弟ということでかなりのプレッシャーがかかっているだろう。そのせいでまともに殺気を浴びてしまい体の震えが止まらなくなってしまっている。
そして尋常ではないほどのプレッシャーも感じているのだ。
可哀想と思ってしまえば可哀想だが、それも聖騎士団玄鹿の団長の弟としての宿命だ。
「それじゃ、ご挨拶はこの辺でっと……あー、トーナメントの組み合わせなんだが、勝手ながら午前の部の合格順にさせてもらった。あー、早速だが一回戦を始めようと思う。俺の指示通りに動いてくれ」
ビッシュの指示に動かされた八名は四箇所に分けられた。八人で行うトーナメントでは初戦に戦う組み合わせが四つある。その四つで分けたのだ。
それぞれの位置は均等に配置されている。そして対戦相手と向き合いながら仕切りなどもないただの平地で待機している。
「そんじゃいくぞ――」
そう大声を上げたビッシュは地面を思いっきり殴った。
すると地響きが起き、透明の壁のようなものが、均等に配置された四つの組み合わせを囲んだ。
その広さはテニスコート一個分に相当する。それほど大きな壁を四箇所に、しかも同時に発動させたのである。
その壁が張り終わった後、ブランシュの脳内ではステレオチックな機械音が流れた。
《個体名セルフ・ビッシュによる結界です》
(結界?)
《はい。土風光の三属性の魔法を合わせて作られたものです》
(この広さをか……)
《はい。縦23.77m、横10.97mを四箇所正確に配置してあります》
(さすが玄鹿の団長だ……)
ブランシュは目を丸くし、口を大きく開けながら驚いていた。八歳の幼女の年相応の驚き方だ。
そんな驚いた表情のブランシュに対して対戦相手は鼻を鳴らしドヤ顔だ。
「見たかッ。これが兄様の力だッ」
ブランシュの対戦相手は先ほどまで震えていた鹿人族の一人。セルフ・フォーンだ。
兄様と呼ぶほど兄を慕っており、大きく両手を広げながら兄の結界を自慢している。
「……ああ、本当にすごい」
ブランシュも正直に称賛の言葉をかけるしかなかった。
「そうだろッ。そうだろッ」
フォーンはブランシュの称賛の言葉を受け、自分のことのように嬉しそうにしている。
今から戦うとは思えないほど、二人からは戦意が全く感じ取れない。それほど結界に心を奪われているのである。
他の三つの対戦カードはどうだろうか?
トーナメント表においてブランシュとフォーンの対戦カードをDブロックとするのなら、一番離れているAブロックでは――
犬人族同士が睨み合い牙を鳴らしていた。
合格順ということで共にゴールした犬人族の二人が対戦することとなったのだ。
午前の部では背中を預け共に戦った同志であっただろう。そんな二人は戦意剥き出しだ。
その隣のBブロックの対戦カードの組み合わせは猿人族の二人。犬人族と同じく午前の部を共に戦った同志だろう。
二人とも頭の後ろで手を組みながらやる気のなさそうにしている。作戦なのだろうか。それともそういう性格なのだろうか。
どちらにせよ戦意は感じられない。ブランシュたちとはまた違った戦意の感じられなさだ。
そして最後のCブロックの対戦カードの組み合わせは、聖騎士団玄鹿の団長セルフ・ビッシュのもう一人の弟でもある鹿人族のヒルシュと不適に笑う猫人族の男だ。
このCブロックの勝利者が、Dブロックのブランシュとフォーンの対戦カードの勝利したどちらかと戦うこととなる。
「俺の魔法の結界だが、反則や行き過ぎた行動があった場合、その者に罰を与える。俺が止めに入るよりも正確で迅速だ。そういう魔法をかけてあるからな。あー、だからルールを守って正々堂々と戦ってくれ」
ビッシュの言う反則や行き過ぎた行動とは、模擬試合の最低限のルールのことだ。
対戦相手が戦闘不能もしくは降参するまで戦う。これが最低限のルールであって絶対に守らなくてはいけないルールである。
言われなくてもわかるようにこのルールの中に命を奪うほどの行き過ぎた行動は禁じられている。
もちろん先頭において殺意を放つのは仕方がないこと。むしろ当たり前のことだ。しかし模擬試合においては、殺意を放ったとしても相手を殺すまでに至ってはならないのである。
暗黙の了解ということだ。
「あー、それでは四試合同時に行う。試合――」
開始と、言おうとしたがビッシュは言葉を止めた。そして振り向き玉座に腰をかける白髪頭の人間族の王を見る。
人間族の王ローテルの黒瞳は、ビッシュの玄色の瞳と交差した。その瞬間、ニコッと笑顔を溢し白くて長い髭を触った。
「試合開始じゃ!」
試合開始の合図をローテルの譲ったのである。
その掛け声と共に一斉に八名の参加者は動き出す。
「兄様の結界の中で戦えるだなんて夢のようだッ! そしてどこからともなく力が湧いてくるッ!」
ブランシュの対戦相手のフォーンが叫びながら突進をする。
その突進は、まさにシカそのもの。強固なツノを突き出し、触れたものを全てを粉々に砕いてしまうかもしれないと思わせるほどの重圧だ。
「お前に恨みはないが、兄様の前で負けるわけにはいかないッ! ここでくたばってもらうぞッ!」
「――ッ!」
ブランシュは間一髪のところでフォーンの突進を飛び跳ねて回避する。
そのまま背後へと通り過ぎていくフォーンを尻目で追いながら空中で方向転換をしようと試みる。方向転換さえすればフォーンの背後を取れるからだ。
しかし方向転換したブランシュはフォーンの背後を取ることができなかった。
なぜならフォーンは、ビッシュが作り出した結界の壁を突進した勢いのまま登っているのである。
そして空中で方向転換したブランシュと同じ高さまで並んでからブランシュに向かって飛んだ。
(防御するか?)
《生身で受けるのは危険と判断します。迎え撃つ方が得策かと思われます》
(仕方ない……)
ブランシュは飛んでくるフォーンのツノに迎え撃つべく、腰にかけてある短剣を一本左手で抜いた。
そしてその短剣で向かってくるフォーンのツノ目掛けて斬撃を喰らわせる。
音を置き去りにするほどの激しい衝撃の後に両者は吹き飛んだ。そして結界の壁に激突する。
結界の壁は無傷のまま吹き飛ぶ二人を受け止めたのだ。もしも結界や障害物がなければ、二人はどこまで吹き飛ばされていたかわからない。それほどの激しい衝撃だったのである。
結界の壁に激突したブランシュはすぐさま臨戦態勢を取る。その左手には粒子の粒となり風に流され消えていく短剣の姿があった。
この短剣がなければブランシュの体はただでは済まなかっただろう。
消えていく短剣に感謝をしながら次の短剣を抜いた。これで残りの短剣の本数は七本だ。
(さすが玄鹿の団長の弟だ……強い。ギルティクラウンと同等……いや、それ以上か?)
《それ以上だと思います》
セルフ・フォーンは、ブランシュと月の声が認めるほどの実力の持ち主。特級の魔獣と比べてもそれ以上の実力だと言えるほどだ。
しかし白き幼女ブランシュも特級レベルの魔獣を倒すほどの実力者。お互い一歩も引けぬ戦いが始まったのである。
「今の突進を交わすなんてなッ。驚いたッ。だけどこれならどうだッ?」
突如フォーンは薄黒い光に包まれた。
(解説を頼む)
《個体名セルフ・フォーンは闇属性の魔法を使用しました》
(闇属性の魔法か……)
《個体名セルフ・ビッシュが殺気を放っていた際にも闇の魔法を使用していました》
(それで、どんな攻撃を仕掛けてくるんだ?)
《解析不能です》
(一番困る答えだな)
ブランシュは予測不能の未知の攻撃に備えるため短剣を二本抜き両手で構えた。
先ほどの突進よりも遥に強い攻撃が来ることは目に見えている。なので悠長に受け身など取っている時間はない。
ここで攻めなければブランシュに敗北の烙印が捺されてしまうかもしれない。
ブランシュは短剣を両手で持ちながら『瞬発スキル』を使用し一気にフォーンとの距離を詰めた。
そして回転しながら薄黒い光を纏うフォーンに斬撃を喰らわせようとするが――
「――消えた!?」
深青の瞳で完全に捉えていたはずのフォーンが突然姿を消したのである。
前にも左右にも背後にも足元にもいない。別空間に移動していないのならばフォーンの居場所は一つ。真上だ。
「――がはッ!」
真上にいると理解した瞬間激しい重力がブランシュを襲った。
その重力から逃げることができず地面に叩きつけられる。
その後、ブランシュの深青の瞳にフォーンの姿が映った。
フォーンは無重力空間にいるかのようにぷかぷかと浮いている。そしてブランシュ目掛けて勢いよく降ってきた。
「――くッ!」
倒れながらも両手に持つ短剣でフォーンの攻撃を防ぐ。そしてフォーンの攻撃の反動を利用して押し潰されるほどの重力から逃れることに成功した。
《理解。闇属性の魔法は重力系の効果を使用しています》
(たった今、体験したよ……)
冷や汗を流すブランシュ。両手に握っていた短剣は粒子の粒となり風に流される。
これで腰にかけている短剣の本数は残り五本となった。
「まだまだ終わらねーぞッ!」
フォーンは自らにかかる重力そしてブランシュの周りの重力を自由自在に操り予測不可能な突進攻撃を次々と繰り出す。
「それでは午後の部を始めるとしよう」
白く長い髭を触りながら言ったのは人間族の王ジングウジ・ローテルだ。
わざわざ用意された玉座に腰を下ろし楽しげに見物を始めた。
人間族の王に見物されピリピリとした空気が流れる中、嫌な雰囲気を漂わせる赤や黄を含んだ深みのある黒色の制服を身に纏った鹿人族の男が口を開く。
「午後の部の試験官、あー、この場合は審判か。審判を務めさせてもらう聖騎士団玄鹿団長のセルフ・ビッシュだ。以後お見知り置きを」
お辞儀をするため大きな二本のツノが生えている頭を軽く下げた。たったそれだけのはずなのに頭と共に下がった二本の角から凶悪な殺気を感じ取ることができる。
おそらく合格者の八人がその殺気に気付いているだろう。
そしてその殺気を浴びた八人のうちの二人が生まれたての小鹿のように震え始めた。この例えの通り震え始めたのは審判を務めるセルフ・ビッシュと同じ鹿人族の二人だ。
「こんな殺気で震えるなんて情けない。それにお前たちだけだぞ震えてるのは。なぁ? ヒルシュ、フォーン」
「「は、はいッ!」」
揃って返事をする震える鹿人族の二人。
彼らと団長の関係は――
「いやいや、驚かしてすまないねー。兄として弟たちに気合いを入れたくなったもんで。あー、でも安心してくれ身内だからといって模擬試合中に甘い審判や厳しい審判なんてしない。審判を務めるからには、全員平等に審判するからよ」
――兄弟だったのだ。
ヒルシュとフォーンは団長の弟ということでかなりのプレッシャーがかかっているだろう。そのせいでまともに殺気を浴びてしまい体の震えが止まらなくなってしまっている。
そして尋常ではないほどのプレッシャーも感じているのだ。
可哀想と思ってしまえば可哀想だが、それも聖騎士団玄鹿の団長の弟としての宿命だ。
「それじゃ、ご挨拶はこの辺でっと……あー、トーナメントの組み合わせなんだが、勝手ながら午前の部の合格順にさせてもらった。あー、早速だが一回戦を始めようと思う。俺の指示通りに動いてくれ」
ビッシュの指示に動かされた八名は四箇所に分けられた。八人で行うトーナメントでは初戦に戦う組み合わせが四つある。その四つで分けたのだ。
それぞれの位置は均等に配置されている。そして対戦相手と向き合いながら仕切りなどもないただの平地で待機している。
「そんじゃいくぞ――」
そう大声を上げたビッシュは地面を思いっきり殴った。
すると地響きが起き、透明の壁のようなものが、均等に配置された四つの組み合わせを囲んだ。
その広さはテニスコート一個分に相当する。それほど大きな壁を四箇所に、しかも同時に発動させたのである。
その壁が張り終わった後、ブランシュの脳内ではステレオチックな機械音が流れた。
《個体名セルフ・ビッシュによる結界です》
(結界?)
《はい。土風光の三属性の魔法を合わせて作られたものです》
(この広さをか……)
《はい。縦23.77m、横10.97mを四箇所正確に配置してあります》
(さすが玄鹿の団長だ……)
ブランシュは目を丸くし、口を大きく開けながら驚いていた。八歳の幼女の年相応の驚き方だ。
そんな驚いた表情のブランシュに対して対戦相手は鼻を鳴らしドヤ顔だ。
「見たかッ。これが兄様の力だッ」
ブランシュの対戦相手は先ほどまで震えていた鹿人族の一人。セルフ・フォーンだ。
兄様と呼ぶほど兄を慕っており、大きく両手を広げながら兄の結界を自慢している。
「……ああ、本当にすごい」
ブランシュも正直に称賛の言葉をかけるしかなかった。
「そうだろッ。そうだろッ」
フォーンはブランシュの称賛の言葉を受け、自分のことのように嬉しそうにしている。
今から戦うとは思えないほど、二人からは戦意が全く感じ取れない。それほど結界に心を奪われているのである。
他の三つの対戦カードはどうだろうか?
トーナメント表においてブランシュとフォーンの対戦カードをDブロックとするのなら、一番離れているAブロックでは――
犬人族同士が睨み合い牙を鳴らしていた。
合格順ということで共にゴールした犬人族の二人が対戦することとなったのだ。
午前の部では背中を預け共に戦った同志であっただろう。そんな二人は戦意剥き出しだ。
その隣のBブロックの対戦カードの組み合わせは猿人族の二人。犬人族と同じく午前の部を共に戦った同志だろう。
二人とも頭の後ろで手を組みながらやる気のなさそうにしている。作戦なのだろうか。それともそういう性格なのだろうか。
どちらにせよ戦意は感じられない。ブランシュたちとはまた違った戦意の感じられなさだ。
そして最後のCブロックの対戦カードの組み合わせは、聖騎士団玄鹿の団長セルフ・ビッシュのもう一人の弟でもある鹿人族のヒルシュと不適に笑う猫人族の男だ。
このCブロックの勝利者が、Dブロックのブランシュとフォーンの対戦カードの勝利したどちらかと戦うこととなる。
「俺の魔法の結界だが、反則や行き過ぎた行動があった場合、その者に罰を与える。俺が止めに入るよりも正確で迅速だ。そういう魔法をかけてあるからな。あー、だからルールを守って正々堂々と戦ってくれ」
ビッシュの言う反則や行き過ぎた行動とは、模擬試合の最低限のルールのことだ。
対戦相手が戦闘不能もしくは降参するまで戦う。これが最低限のルールであって絶対に守らなくてはいけないルールである。
言われなくてもわかるようにこのルールの中に命を奪うほどの行き過ぎた行動は禁じられている。
もちろん先頭において殺意を放つのは仕方がないこと。むしろ当たり前のことだ。しかし模擬試合においては、殺意を放ったとしても相手を殺すまでに至ってはならないのである。
暗黙の了解ということだ。
「あー、それでは四試合同時に行う。試合――」
開始と、言おうとしたがビッシュは言葉を止めた。そして振り向き玉座に腰をかける白髪頭の人間族の王を見る。
人間族の王ローテルの黒瞳は、ビッシュの玄色の瞳と交差した。その瞬間、ニコッと笑顔を溢し白くて長い髭を触った。
「試合開始じゃ!」
試合開始の合図をローテルの譲ったのである。
その掛け声と共に一斉に八名の参加者は動き出す。
「兄様の結界の中で戦えるだなんて夢のようだッ! そしてどこからともなく力が湧いてくるッ!」
ブランシュの対戦相手のフォーンが叫びながら突進をする。
その突進は、まさにシカそのもの。強固なツノを突き出し、触れたものを全てを粉々に砕いてしまうかもしれないと思わせるほどの重圧だ。
「お前に恨みはないが、兄様の前で負けるわけにはいかないッ! ここでくたばってもらうぞッ!」
「――ッ!」
ブランシュは間一髪のところでフォーンの突進を飛び跳ねて回避する。
そのまま背後へと通り過ぎていくフォーンを尻目で追いながら空中で方向転換をしようと試みる。方向転換さえすればフォーンの背後を取れるからだ。
しかし方向転換したブランシュはフォーンの背後を取ることができなかった。
なぜならフォーンは、ビッシュが作り出した結界の壁を突進した勢いのまま登っているのである。
そして空中で方向転換したブランシュと同じ高さまで並んでからブランシュに向かって飛んだ。
(防御するか?)
《生身で受けるのは危険と判断します。迎え撃つ方が得策かと思われます》
(仕方ない……)
ブランシュは飛んでくるフォーンのツノに迎え撃つべく、腰にかけてある短剣を一本左手で抜いた。
そしてその短剣で向かってくるフォーンのツノ目掛けて斬撃を喰らわせる。
音を置き去りにするほどの激しい衝撃の後に両者は吹き飛んだ。そして結界の壁に激突する。
結界の壁は無傷のまま吹き飛ぶ二人を受け止めたのだ。もしも結界や障害物がなければ、二人はどこまで吹き飛ばされていたかわからない。それほどの激しい衝撃だったのである。
結界の壁に激突したブランシュはすぐさま臨戦態勢を取る。その左手には粒子の粒となり風に流され消えていく短剣の姿があった。
この短剣がなければブランシュの体はただでは済まなかっただろう。
消えていく短剣に感謝をしながら次の短剣を抜いた。これで残りの短剣の本数は七本だ。
(さすが玄鹿の団長の弟だ……強い。ギルティクラウンと同等……いや、それ以上か?)
《それ以上だと思います》
セルフ・フォーンは、ブランシュと月の声が認めるほどの実力の持ち主。特級の魔獣と比べてもそれ以上の実力だと言えるほどだ。
しかし白き幼女ブランシュも特級レベルの魔獣を倒すほどの実力者。お互い一歩も引けぬ戦いが始まったのである。
「今の突進を交わすなんてなッ。驚いたッ。だけどこれならどうだッ?」
突如フォーンは薄黒い光に包まれた。
(解説を頼む)
《個体名セルフ・フォーンは闇属性の魔法を使用しました》
(闇属性の魔法か……)
《個体名セルフ・ビッシュが殺気を放っていた際にも闇の魔法を使用していました》
(それで、どんな攻撃を仕掛けてくるんだ?)
《解析不能です》
(一番困る答えだな)
ブランシュは予測不能の未知の攻撃に備えるため短剣を二本抜き両手で構えた。
先ほどの突進よりも遥に強い攻撃が来ることは目に見えている。なので悠長に受け身など取っている時間はない。
ここで攻めなければブランシュに敗北の烙印が捺されてしまうかもしれない。
ブランシュは短剣を両手で持ちながら『瞬発スキル』を使用し一気にフォーンとの距離を詰めた。
そして回転しながら薄黒い光を纏うフォーンに斬撃を喰らわせようとするが――
「――消えた!?」
深青の瞳で完全に捉えていたはずのフォーンが突然姿を消したのである。
前にも左右にも背後にも足元にもいない。別空間に移動していないのならばフォーンの居場所は一つ。真上だ。
「――がはッ!」
真上にいると理解した瞬間激しい重力がブランシュを襲った。
その重力から逃げることができず地面に叩きつけられる。
その後、ブランシュの深青の瞳にフォーンの姿が映った。
フォーンは無重力空間にいるかのようにぷかぷかと浮いている。そしてブランシュ目掛けて勢いよく降ってきた。
「――くッ!」
倒れながらも両手に持つ短剣でフォーンの攻撃を防ぐ。そしてフォーンの攻撃の反動を利用して押し潰されるほどの重力から逃れることに成功した。
《理解。闇属性の魔法は重力系の効果を使用しています》
(たった今、体験したよ……)
冷や汗を流すブランシュ。両手に握っていた短剣は粒子の粒となり風に流される。
これで腰にかけている短剣の本数は残り五本となった。
「まだまだ終わらねーぞッ!」
フォーンは自らにかかる重力そしてブランシュの周りの重力を自由自在に操り予測不可能な突進攻撃を次々と繰り出す。
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