410 / 417
第5章:大戦争『最終決戦編』
354 ブランシュの死を悼む者たち
しおりを挟む
喜びと悲しみが目の前で同時に転がっているとしたら、人はどちらの感情を優先するのだろう。
その答えは悲しみの感情だ。悲しみの感情が先に立ち優先される。
人として生を授かったのならば当然のこと。自然の摂理だ。
今この物語の登場人物たちの前には喜びと悲しみが転がっている。
喜びは大戦争を企てた悪の組織の親玉ジングウジ・ロイを倒したこと。そしてマサキとルナが生きているということ。
対して悲しみは、大戦争を終結させた功労者、白き英雄になるべき人物――アンブル・ブランシュの死だ。
「うぅ……真っ白な団長さん……助けられなかった……うぅ……あぅ……」
人間不信の男は人のために泣けるほどまで成長していた。
それを退化とも呼ぶ人はいるかもしれない。
けれどこの涙は紛れもなく成長の証だ。
「マサキさん」
白銀髪と垂れたウサ耳が特徴的な兎人族の美少女が、マサキの右隣で彼の名を呼んだ。
「マスター」
子ウサギサイズの小さな妖精族の美少女が、マサキの肩の上で羽を休めながら彼の名を呼んだ。
「おにーちゃん」
薄桃色の髪と左右非対称のウサ耳が特徴的な兎人族の美少女が、マサキの左隣で彼の名を呼んだ。
「兄さん」
オレンジ色の髪と小さなウサ耳が特徴的な兎人族の美少女が、双子の姉妹に体を預けながら彼の名を呼んだ。
「お兄ちゃん」
「お兄ちゃん」
オレンジ色の髪と小さなウサ耳が特徴的な双子の姉妹が、長女を支えながら彼の名を呼んだ。
「……ンッンッ」
地面に付くほど長いウサ耳とチョコレートカラーのもふもふの体毛が特徴的なウサギが、小さな声を漏らした。
人間不信で孤独だった男には、一緒に寄り添ってくれる家族ができていた。
嬉しい時には一緒に喜び合える家族。悲しい時は一緒に泣いてくれる家族。
マサキたちは互いに体を寄り添いながら、ブランシュの死を悼んだ。
マサキたちの他にもブランシュの死を悼む者は当然いる。
「ふざけるなッ! 勝ち逃げなんて許さゲフッゴフッ――」
血を吐きながら訴えるのは、ブランシュのライバルであるセルフ・フォーンだ。
「フォーンさん! 血が! 傷が開いちゃってますよ!」
「落ち着け。フォーン。気持ちはわかるが一旦落ち着くんだ」
フォーンを宥めるのは、ブランシュの部下でもあるズゥジィ・エームとフォーンの義理の姉であるセルフ・メジカだ。
歩くことが困難なフォーンをブランシュの亡骸のところまで連れて行ったのは二人だ。
ブランシュの死を悼むと思われていたフォーンだったが、現実が受け止め切れずに案の定暴れてしまったのである。
その横ではガルドマンジェが涙を流していた。
「ブランシュ様……あなたは世界を救った。よく頑張りました……」
頬に伝う大粒の涙は何度も何度も砕けた地面へと落ちていく。
ガルドマンジェの斜め横には小さな傭兵団の三人――スクイラル、リリィ、モモンがいる。
三人も涙を流しながら静かにブランシュの死を悼んでいた。
そして上半身と下半身の半分に斬られたロイのところには、ハクトシンとフレンムがいる。
ロイの死を確認しない限り、この大戦争は本当の意味で終結したことにはならない。
だからこそハクトシンとフレンムは、己の責務としてロイの死を確認するためにロイの傍にいるのである。
ハクトシンには神としての責務。フレンムは聖騎士団としての責務だ。
「まだ生きているネ。しぶといヨ」
「回復はしていないようだから時期に死ぬだろうね。その時は『死後の呪い』に気をつけよう」
ハクトシンの一番の懸念は『死後の呪い』だ。
死後の呪いはその名の通り、死後強い念によってもたらされる呪いで、その念が強ければ強いほど強力な呪いと化す。
ブランシュが亡骸となったこの状況で、ロイほどの凶悪な人物がもたらす死後の呪いはどれほど強力なものなのだろうか。
ハクトシンは緊張と不安の感情に駆られながら、ロイの死後の呪いに備える。
「ブランシュのためにも必ず死後の呪いがもたらす厄災を阻止しよう」
「殺さず監禁し続けるって手もありますヨ。それなら死後の呪いは発動しないネ」
「それだとダメだね。ジングウジ・ロイの念が強力になる。この先の未来へと厄災を先延ばしにするだけの行為になってしまうよ」
「そうだネ。オレたちの時代で全てを終わらせるネ」
ハクトシンとフレンムの会話を終始朧げな瞳で聞いていたロイだったが、突然豹変する。
『ケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタ……』
壊れたおもちゃのように笑い始めたのだ。
その笑い声に不協和音を合わさり、本能が危険であると警鐘を鳴らす。
「ど、どうしたネ!?」
「そろそろだよ。ジングウジ・ロイの死後の呪い」
そう言ったハクトシンに対してロイが口を開く。
『マスターは死後の呪いを発動できない。マスターは一億三千年前にこの世を去った人物。マスターが生き続けているのは呪いである私のおかげ。ケタケタケタケタケタ……』
話しているのはロイではない。
ロイの体を乗っ取った、ロイの内にある『呪い』である。
これはブランシュの『月の声』やギンの『心の声』と同じもの。つまり『呪いの声』だ。
『呪いの声』がロイの体を使いハクトシンたちに向けて喋っているのである。
「それじゃあボクが解呪させてもらうよ」
『無駄だね。個体名アルミラージ・ハクトシンが、私を解呪するよりも先に契約が実行される』
「契約?」
小首を傾げるハクトシン。
それに対して呪いの声はケタケタと笑いながら答える。
『マスターの死後実行される契約さ。キミたちからしたら死後の呪いのようなものだけどね。ケタケタケタケタケタ――』
「うるさいネ」
ケタケタと笑う呪いの声の口にフレンムは容赦無く長剣を突き刺した。
フレンムの加護『ヤサイコロ』で出現させた長ネギの長剣だ。
それと同時にハクトシンは呪いの声の解呪を試みる。
手のひらから幻想的な白い光を放出しロイに浴びせている。神の力で呪いを解呪しようとしているのである。
しかしその白い光はロイの体に触れた瞬間、水と油のように決して混ざり合うことなく弾かれていく。
黒雷も呪いの鎧も身に纏っていない状態だ。それなのに弾かれるということは、それほど強力な“契約”というものを実行しているという証拠なのである。
呪いの声はこの契約を死後の呪いのように受け取ってもいいと言っていた。
しかしハクトシンはそのようには受け取らない。
「これは……死後の呪いの比じゃないよ……」
ハクトシンが感じているものは死後の呪い以上のものだったのだ。
隣にいるフレンムもハクトシンの意見に共感している。冷や汗や震えが止まらなくなるほどに。
「ブランシュ……死ぬには少し早すぎたかもネ……」
そう思ってしまうほど、目の前の敵の亡骸に宿る呪いのエネルギーが強大に膨れ上がっていく。
もちろんブランシュの死を悼んでいる者たちにもその異変に気付いていた。
「ハクトシン様……これは一体……」
ガルドマンジェが問う。
「なんだこれはッ!」
ガルドマンジェとほぼ同じタイミングでフォーンは驚いていた。
そしてガルドマンジェとフォーンに続いて声を上げたのはマサキだった。
「まさかこれは……ラスボスを倒した後に発生する……真のラスボスイベントってやつか」
そのまさかである。
ゲームプレイヤーがブランシュなら既にゲームオーバーとなっているが、この世界はゲームではない。ゲームプレイヤーがいなくとも時間は進む。
真のラスボスイベントは発生されるのである。
「全員この場から――」
離れて、と指示しようとしたハクトシンだったが、その声は呪いの声が言う契約とやらに遮られた。
その場にいた者たちはロイの亡骸を中心に吹き飛ばされてしまったのだ。
「いててて……」
腰を思いっきり打ったマサキは、その痛みに耐えながら立ち上がり、叫んだ。
「ルナちゃん、ネージュ、クレール、ダール!」
叫んだ際も腰を打った痛みが芯から痛んだが、そんなことは気にせずに叫び続ける。
「デール、ドール、ビエルネス!」
家族の名を叫ぶ。
それだけ煙が煙がまっていて視界が悪いのだ。
さらに時刻は深夜。月と星の輝きが最も綺麗に見える時間帯だ。その分暗闇も多い。
余計に視界が悪いのだ。
しかし煙が待っていたとしても爆風の前と比べるとやけに暗すぎると感じるマサキ。
まるで何か大きな壁が出現し、月や星の輝きを遮断しているのではないかと思うほどに。
「マサキ殿!」
「スクイラルさん!」
マサキの叫び声を聞いて最初にやってきたのはスクイラルだった。
スクイラルは短剣を構え警戒しながらマサキの正面へと立った。
「気を付けるでござる。何か……何か恐ろしい存在がいるでござるよ……」
「恐ろしい存在?」
それがなんなのか。マサキの瞳はそれを確認するように動く。
恐ろしい存在なら見ない方がいいのだが、それでも確認してしまうのは、人としての性だ。
スクイラルが見ている先、そこは暗くて何もいない。
だからマサキは何かに吸い込まれるように上を見てしまう。
普通、何かがいるのなら正面を見るはずだが、どうしても上から何かを感じていたのだ。
「星?」
マサキの視界に映ったのは、二つの星。
この暗闇と煙の中でもハッキリと見えるほどの星だ。
しかしその星はマサキの知識にはない色をしていた。
「紫色……」
異世界に紫色の星があってもおかしくはない。
しかしこの一年間の異世界生活で一度たりとも見たことがない色の星だ。
だから紫色の星は星ではないのではないかと頭を過ぎる。
その瞬間、それが正しいのだと肯定するかのようにスクイラルは口を開いた。
「あれは目でござるな」
「……目?」
確かに紫色の二つの星は並行していて目のようにも見える。
『恐ろしい存在』と『目』その二つからもたらされたマサキなりの回答は――
「魔獣……」
誰もがこの状況では目の前の存在を魔獣だと思うだろう。
目の位置も星と見間違えてしまうほど位置にある。巨人や巨大な魔獣でしかあり得ないような位置だ。
それなのにスクイラルは首を横に振り否定する。
「違うでござる。あれは魔獣なんかじゃないでござるな」
「そ、それじゃ一体……」
その疑問に答えたのは、スクイラルではない別の声だ。
「あれは神ですよ」
「ビエ……ルーネスさん!」
答えたのは妖精族のルーネスだった。
ビエルネスと見間違えてしまうほど似ている見た目からビエルネスの名前を言いそうになるマサキ。
口調や雰囲気が違うことにすぐ気付き、ビエルネスの名前を言い切る前に訂正したのである。
「神ってどういうことですか? 神様ってもっと明るい存在かと思うんですが」
「そうですね。その解釈は間違ってません。実際ハクトシン様はどんな星よりも輝いていらっしゃいますから。でも私たちの目の前にいる神は全くの別物。悪魔族の神なのです」
「悪魔族の……神……」
マサキたちの目の前に出現した恐ろしい存在の正体は、悪魔族の神だった。
その答えは悲しみの感情だ。悲しみの感情が先に立ち優先される。
人として生を授かったのならば当然のこと。自然の摂理だ。
今この物語の登場人物たちの前には喜びと悲しみが転がっている。
喜びは大戦争を企てた悪の組織の親玉ジングウジ・ロイを倒したこと。そしてマサキとルナが生きているということ。
対して悲しみは、大戦争を終結させた功労者、白き英雄になるべき人物――アンブル・ブランシュの死だ。
「うぅ……真っ白な団長さん……助けられなかった……うぅ……あぅ……」
人間不信の男は人のために泣けるほどまで成長していた。
それを退化とも呼ぶ人はいるかもしれない。
けれどこの涙は紛れもなく成長の証だ。
「マサキさん」
白銀髪と垂れたウサ耳が特徴的な兎人族の美少女が、マサキの右隣で彼の名を呼んだ。
「マスター」
子ウサギサイズの小さな妖精族の美少女が、マサキの肩の上で羽を休めながら彼の名を呼んだ。
「おにーちゃん」
薄桃色の髪と左右非対称のウサ耳が特徴的な兎人族の美少女が、マサキの左隣で彼の名を呼んだ。
「兄さん」
オレンジ色の髪と小さなウサ耳が特徴的な兎人族の美少女が、双子の姉妹に体を預けながら彼の名を呼んだ。
「お兄ちゃん」
「お兄ちゃん」
オレンジ色の髪と小さなウサ耳が特徴的な双子の姉妹が、長女を支えながら彼の名を呼んだ。
「……ンッンッ」
地面に付くほど長いウサ耳とチョコレートカラーのもふもふの体毛が特徴的なウサギが、小さな声を漏らした。
人間不信で孤独だった男には、一緒に寄り添ってくれる家族ができていた。
嬉しい時には一緒に喜び合える家族。悲しい時は一緒に泣いてくれる家族。
マサキたちは互いに体を寄り添いながら、ブランシュの死を悼んだ。
マサキたちの他にもブランシュの死を悼む者は当然いる。
「ふざけるなッ! 勝ち逃げなんて許さゲフッゴフッ――」
血を吐きながら訴えるのは、ブランシュのライバルであるセルフ・フォーンだ。
「フォーンさん! 血が! 傷が開いちゃってますよ!」
「落ち着け。フォーン。気持ちはわかるが一旦落ち着くんだ」
フォーンを宥めるのは、ブランシュの部下でもあるズゥジィ・エームとフォーンの義理の姉であるセルフ・メジカだ。
歩くことが困難なフォーンをブランシュの亡骸のところまで連れて行ったのは二人だ。
ブランシュの死を悼むと思われていたフォーンだったが、現実が受け止め切れずに案の定暴れてしまったのである。
その横ではガルドマンジェが涙を流していた。
「ブランシュ様……あなたは世界を救った。よく頑張りました……」
頬に伝う大粒の涙は何度も何度も砕けた地面へと落ちていく。
ガルドマンジェの斜め横には小さな傭兵団の三人――スクイラル、リリィ、モモンがいる。
三人も涙を流しながら静かにブランシュの死を悼んでいた。
そして上半身と下半身の半分に斬られたロイのところには、ハクトシンとフレンムがいる。
ロイの死を確認しない限り、この大戦争は本当の意味で終結したことにはならない。
だからこそハクトシンとフレンムは、己の責務としてロイの死を確認するためにロイの傍にいるのである。
ハクトシンには神としての責務。フレンムは聖騎士団としての責務だ。
「まだ生きているネ。しぶといヨ」
「回復はしていないようだから時期に死ぬだろうね。その時は『死後の呪い』に気をつけよう」
ハクトシンの一番の懸念は『死後の呪い』だ。
死後の呪いはその名の通り、死後強い念によってもたらされる呪いで、その念が強ければ強いほど強力な呪いと化す。
ブランシュが亡骸となったこの状況で、ロイほどの凶悪な人物がもたらす死後の呪いはどれほど強力なものなのだろうか。
ハクトシンは緊張と不安の感情に駆られながら、ロイの死後の呪いに備える。
「ブランシュのためにも必ず死後の呪いがもたらす厄災を阻止しよう」
「殺さず監禁し続けるって手もありますヨ。それなら死後の呪いは発動しないネ」
「それだとダメだね。ジングウジ・ロイの念が強力になる。この先の未来へと厄災を先延ばしにするだけの行為になってしまうよ」
「そうだネ。オレたちの時代で全てを終わらせるネ」
ハクトシンとフレンムの会話を終始朧げな瞳で聞いていたロイだったが、突然豹変する。
『ケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタ……』
壊れたおもちゃのように笑い始めたのだ。
その笑い声に不協和音を合わさり、本能が危険であると警鐘を鳴らす。
「ど、どうしたネ!?」
「そろそろだよ。ジングウジ・ロイの死後の呪い」
そう言ったハクトシンに対してロイが口を開く。
『マスターは死後の呪いを発動できない。マスターは一億三千年前にこの世を去った人物。マスターが生き続けているのは呪いである私のおかげ。ケタケタケタケタケタ……』
話しているのはロイではない。
ロイの体を乗っ取った、ロイの内にある『呪い』である。
これはブランシュの『月の声』やギンの『心の声』と同じもの。つまり『呪いの声』だ。
『呪いの声』がロイの体を使いハクトシンたちに向けて喋っているのである。
「それじゃあボクが解呪させてもらうよ」
『無駄だね。個体名アルミラージ・ハクトシンが、私を解呪するよりも先に契約が実行される』
「契約?」
小首を傾げるハクトシン。
それに対して呪いの声はケタケタと笑いながら答える。
『マスターの死後実行される契約さ。キミたちからしたら死後の呪いのようなものだけどね。ケタケタケタケタケタ――』
「うるさいネ」
ケタケタと笑う呪いの声の口にフレンムは容赦無く長剣を突き刺した。
フレンムの加護『ヤサイコロ』で出現させた長ネギの長剣だ。
それと同時にハクトシンは呪いの声の解呪を試みる。
手のひらから幻想的な白い光を放出しロイに浴びせている。神の力で呪いを解呪しようとしているのである。
しかしその白い光はロイの体に触れた瞬間、水と油のように決して混ざり合うことなく弾かれていく。
黒雷も呪いの鎧も身に纏っていない状態だ。それなのに弾かれるということは、それほど強力な“契約”というものを実行しているという証拠なのである。
呪いの声はこの契約を死後の呪いのように受け取ってもいいと言っていた。
しかしハクトシンはそのようには受け取らない。
「これは……死後の呪いの比じゃないよ……」
ハクトシンが感じているものは死後の呪い以上のものだったのだ。
隣にいるフレンムもハクトシンの意見に共感している。冷や汗や震えが止まらなくなるほどに。
「ブランシュ……死ぬには少し早すぎたかもネ……」
そう思ってしまうほど、目の前の敵の亡骸に宿る呪いのエネルギーが強大に膨れ上がっていく。
もちろんブランシュの死を悼んでいる者たちにもその異変に気付いていた。
「ハクトシン様……これは一体……」
ガルドマンジェが問う。
「なんだこれはッ!」
ガルドマンジェとほぼ同じタイミングでフォーンは驚いていた。
そしてガルドマンジェとフォーンに続いて声を上げたのはマサキだった。
「まさかこれは……ラスボスを倒した後に発生する……真のラスボスイベントってやつか」
そのまさかである。
ゲームプレイヤーがブランシュなら既にゲームオーバーとなっているが、この世界はゲームではない。ゲームプレイヤーがいなくとも時間は進む。
真のラスボスイベントは発生されるのである。
「全員この場から――」
離れて、と指示しようとしたハクトシンだったが、その声は呪いの声が言う契約とやらに遮られた。
その場にいた者たちはロイの亡骸を中心に吹き飛ばされてしまったのだ。
「いててて……」
腰を思いっきり打ったマサキは、その痛みに耐えながら立ち上がり、叫んだ。
「ルナちゃん、ネージュ、クレール、ダール!」
叫んだ際も腰を打った痛みが芯から痛んだが、そんなことは気にせずに叫び続ける。
「デール、ドール、ビエルネス!」
家族の名を叫ぶ。
それだけ煙が煙がまっていて視界が悪いのだ。
さらに時刻は深夜。月と星の輝きが最も綺麗に見える時間帯だ。その分暗闇も多い。
余計に視界が悪いのだ。
しかし煙が待っていたとしても爆風の前と比べるとやけに暗すぎると感じるマサキ。
まるで何か大きな壁が出現し、月や星の輝きを遮断しているのではないかと思うほどに。
「マサキ殿!」
「スクイラルさん!」
マサキの叫び声を聞いて最初にやってきたのはスクイラルだった。
スクイラルは短剣を構え警戒しながらマサキの正面へと立った。
「気を付けるでござる。何か……何か恐ろしい存在がいるでござるよ……」
「恐ろしい存在?」
それがなんなのか。マサキの瞳はそれを確認するように動く。
恐ろしい存在なら見ない方がいいのだが、それでも確認してしまうのは、人としての性だ。
スクイラルが見ている先、そこは暗くて何もいない。
だからマサキは何かに吸い込まれるように上を見てしまう。
普通、何かがいるのなら正面を見るはずだが、どうしても上から何かを感じていたのだ。
「星?」
マサキの視界に映ったのは、二つの星。
この暗闇と煙の中でもハッキリと見えるほどの星だ。
しかしその星はマサキの知識にはない色をしていた。
「紫色……」
異世界に紫色の星があってもおかしくはない。
しかしこの一年間の異世界生活で一度たりとも見たことがない色の星だ。
だから紫色の星は星ではないのではないかと頭を過ぎる。
その瞬間、それが正しいのだと肯定するかのようにスクイラルは口を開いた。
「あれは目でござるな」
「……目?」
確かに紫色の二つの星は並行していて目のようにも見える。
『恐ろしい存在』と『目』その二つからもたらされたマサキなりの回答は――
「魔獣……」
誰もがこの状況では目の前の存在を魔獣だと思うだろう。
目の位置も星と見間違えてしまうほど位置にある。巨人や巨大な魔獣でしかあり得ないような位置だ。
それなのにスクイラルは首を横に振り否定する。
「違うでござる。あれは魔獣なんかじゃないでござるな」
「そ、それじゃ一体……」
その疑問に答えたのは、スクイラルではない別の声だ。
「あれは神ですよ」
「ビエ……ルーネスさん!」
答えたのは妖精族のルーネスだった。
ビエルネスと見間違えてしまうほど似ている見た目からビエルネスの名前を言いそうになるマサキ。
口調や雰囲気が違うことにすぐ気付き、ビエルネスの名前を言い切る前に訂正したのである。
「神ってどういうことですか? 神様ってもっと明るい存在かと思うんですが」
「そうですね。その解釈は間違ってません。実際ハクトシン様はどんな星よりも輝いていらっしゃいますから。でも私たちの目の前にいる神は全くの別物。悪魔族の神なのです」
「悪魔族の……神……」
マサキたちの目の前に出現した恐ろしい存在の正体は、悪魔族の神だった。
0
お気に入りに追加
449
あなたにおすすめの小説
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
異世界で生きていく。
モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。
素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。
魔法と調合スキルを使って成長していく。
小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。
旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。
3/8申し訳ありません。
章の編集をしました。
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
おっさんの異世界建国記
なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる