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第5章:大戦争『悪王侵略編』
336 ロイVSガルドマンジェ&ルーネス -激闘-
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左右非対称の耳を持つ者には悪魔が宿るという伝承がある。
悪魔が宿るのではなく、悪魔族が残した力が宿るというのがこの伝承の真実だ。
その力こそ薄桃色の髪をした兎人族の美少女クレールが所持する『透明スキル』である。
ロイが探している力こそ『透明スキル』だ。
そんな『透明スキル』には真の名前がある。
『透明スキル』の真の名は、ロイが口にした『透明の呪い』である。
絶滅した悪魔族がどのようにしてクレールに『透明の呪い』を授けたのかは不明だ。これは授けた張本人、もしくはこの呪いにしかわからないこと。
実際に『透明の呪い』を授かっているのだから、ロイにとってその経緯などはどうでもいいこと。
世界を自分のものにするためにロイは、この『透明の呪い』の力が必要なのである。
その力の在り処をルークが空に光線を放ちロイに知らせた。
その場所は鹿人族の国よりも西側の国――兎人族の国。その国の中でもさらに西側。最西端と言っても良いほどの場所。
兎人族の家である大樹が二本しか立っておらず、ひとけが少ない場所。
そう。マサキたちの家でもあり無人販売所イースターパーティーでもある場所だ。
そにロイが求めている『透明の呪い』の所持者が――クレールがいるのである。
そしてロイはすでにその場所に辿り着いている。
「これはこれは随分と派手に暴れたみたいだね。ルーク」
ロイは粉々に砕けている地面と茜色から暗闇に変わる前の空、そして入り口が崩壊している大樹を見ながら言った。
この大戦争の影響か、街灯は点灯しておらず、辺りが暗闇に染まるのは時間の問題。辛うじて無人販売所イースターパーティーの外灯は点灯しているが、それだけでは心許ない。
「あとは……ミオレのところの三人組か……まあ、どうでもいいか」
「それ以上は近付くな!」
新たな刺客に猛獣の如く鋭い眼光を向けるガルドマンジェ。
ルークとの死闘後だが、その戦意の灯火はまだ燃え滾ったまま。この大戦争が終結するまでは消えることがない白銀色の灯火だ。
「キミがルークを倒したんだね。驚いたよ。ルークが負けるなんてね。でも未来を覗いた時にはルークの姿がなかったからこれも必然か。ということはしっかりと僕が視た未来通りに事が運んでいるということ! あはっ! 胸の高鳴りが止まらないよ!」
ロイの胸の高鳴りは止まらない。むしろその高鳴りは速くなる一方だ。
それもそのはず。ロイが視た未来通りならこの後、世界を自分のものにするために必須な力『透明の呪い』を手に入れるのだから。
そしてそのままの勢いで野望を阻む者を倒していき、西側の国を滅ぼして世界を手に入れるのだから。
「それで……どこにいるのかなぁ~?」
ロイは『透明の呪い』の所持者を探すために歩き出そうとする。
ガルドマンジェから近付くなと忠告を受けたのにも関わらず、その一歩を踏んだ。
次の瞬間、銀色の一閃がロイを横切る。
「忠告したぞ。近付くなと」
銀色の一閃を放ったのはガルドマンジェだ。その手には家庭用の包丁が握られていた。
ガルドマンジェの剣は全てルークとの戦いで消滅してしまったため、魔獣や敵襲に備えてネージュから包丁を借りていたのである。
そして腰にはネージュ愛用のノコギリ『ぴょんぴょん丸』もかけてある。これは包丁が使い物にならなくなったときのための予備だ。
不安な考えが多いネージュが自らの意思でガルドマンジェに持たせたのである。ひ孫から曽祖父への初めての贈り物だ。
「その包丁でここまでの威力を出したの? すごいねキミは。その力でルークを倒したのか。なるほどね。納得っ!」
ロイは飛んでくる銀色の一閃に臆することなく、ゆっくりと間合いを詰めていく。
躱さずとも呪いの触手が次々に銀色の一閃を防いでいるのだ。臆する理由など一つもなくて当然である。
その様子を見ていたハクトシンは、ネージュたち兎人ちゃんに向かって口を開く。
「みんな奥へ。急いで」
ハクトシンの顔には不安の色が出ていた。ハクトシン自身も兎人ちゃんたちに不安を見せてるわけにはいかないと、その不安を隠そうとしていたのだが、隠し切れないほどの不安が襲ってきているのだ。
「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ……」
ハクトシンの不安は最悪なことにネージュに伝染してしまう。
負の感情を感じやすいネージュだ。いずれこうなることはわかっていたとしても、自分のせいで怯えさせてしまいたくはなかったとハクトシンは後悔する。
しかし実際のところネージュはハクトシンが、不安の色を隠そうとしている前から小刻みに震えていた。ロイの姿が青く澄んだ瞳に映ったその瞬間から恐怖と不安が一気に押し寄せてきたのである。
「姉さん。大丈夫ッスよ。奥に避難するッス」
ダールがネージュに肩を貸して部屋の奥へと移動を始めた。
双子の姉妹のデールとドールは小さな体で枕を抱きしめながらネージュとダールの前を歩く。彼女らの体もネージュほどではないが恐怖と不安で小刻みに震えている。
その双子の姉妹よりも前にいるのは妖精族のビエルネスだ。
「こっちです。足元に気をつけてください」
部屋の奥に避難するだけなので案内は必要ないのだが、不安と恐怖に苦しめられている兎人ちゃんたちを少しでも安心させるため、ゆっくりと先頭を飛びながら案内していた。
そして『透明スキル』の効果によって透明になっているクレールは、ネージュとダールの二人の後ろにいる。ダールに支えられながら歩いているネージュをクレールも支えながら歩いているのだ。
こうして兎人ちゃんたちは部屋の奥へと移動する。
ガルドマンジェとロイの戦いが見えそうで見えないそんな位置だ。
「大丈夫。ボクの命に変えてでもキミたちを守るからね」
怯えている兎人ちゃんたちにハクトシンは優しく声をかけた。
そして兎人ちゃんたちを守るかのように正面に立つ。金色で艶やかな髪は床に付くほど長い。
小柄なクレールよりも一回り小柄なハクトシンだが、ネージュの青く澄んだ瞳には、この時だけはその背中は大きく見えていた。
子ウサギを肉食動物から守ろうとしている母ウサギのように。
子供たちを捨て身の覚悟で守ろうとしている戦士のように。
人々を守るため姿を現した神様のように。
ハクトシンの背中はネージュにはとても大きく見えたのだ。
そんなハクトシンは静かに口を開いた。
「ルーネス」
「はい」
名前を呼ばれたルーネスは、半透明の羽をパタパタと羽ばたかせながらハクトシンに近付く。
そしてハクトシンの言葉を一言一句逃さないように尖った耳を傾けた。
「ここはボクひとりに任せて。ルーネスはガルドマンジェのサポートをしてあげて」
「承知いたしました。必ずや刺客を倒して……滅してみせます」
「うん。頑張って。くれぐれも無茶しないようにね」
「はい!」
ルーネスはガルドマンジェの援護をするために戦場へと向かう。その際、風属性の魔法を無詠唱で放つ。
その魔法は大型台風を横向きにして発射したかのような規模のものだった。
地面を抉りながら進む横向きの台風はロイを完全に捉える。
「強烈な一撃だ。タイジュグループのルーネス」
ルーネスが放った大型の台風をそよ風のように感じているかのような表情でロイは受け止めた。
「余裕の表情とは頂けませんね。国王ジングウウジ・ロイ」
人間族の国の国王ロイと大手企業タイジュグループの代表のルーネス。大戦争が勃発する前の二人は友好な取引関係であった。だから互いのことを知っているのだ。
ロイが資金を提供しタイジュグループが要望の品を作る。それは武器や食品、薬品、施設、さらには魔法の開発など、様々な取引を行っていた。
その中でも取引が多かったのは武器だ。魔獣から人々を守るためという名目で作っていた武器や兵器。実際に多くの魔獣を倒し人々を救っていたが、今日だけは違う。
鳥人族の国と妖精族の国、鹿人族の国、さらには兎人族の国がその武器や兵器によって苦しめられているのだ。
人々を守るために作られた武器や兵器がその人々を苦しめているのだ。
そのことに対してルーネスは激怒している。穏やかだった表情も憤怒の色に変わっていた。
「あなたを信じて作り続けた武器。このような形で使われ、裏切られるだなんて許せません」
ルーネスは無詠唱で氷属性の魔法を放った。小さな島ほどある氷塊。それがロイに向かって放たれる。
氷塊の先端がロイに触れた瞬間、ロイに触れた部分がかき氷のように細々に砕ける。
「キミたちが作った兵器によって、キミたちの国は滅んでいった。その兵器を作った代表のキミは今どんな気――」
どんな気持ちかな、と言おうとしたロイだったが、その言葉は銀色の一閃によって遮られる。
「ルーネス、私に剣を!」
ガルドマンジェの言葉を聞いたルーネスは魔法を発動し氷の剣を作り始める。
先ほどの氷塊と比べると規模はかなり小さいが、込められている魔力は桁違いに高い。そして何より機械で精密に作ったかと思わせるほどの出来栄えの美しい氷の剣が誕生した。
その氷の剣をガルドマンジェに向かってルーネスは放った。
物凄いスピードで氷の剣の穂先がガルドマンジェに向かって行く。攻撃かと思うほどのスピードだ。
しかしガルドマンジェはいとも容易く高速で飛んでくる氷の剣の柄をキャッチした。
そして氷の剣を手に入れた余韻に浸ることもなく、ロイに向かって行く。
氷の剣を作ってからロイに向かって行くまでの時間はわずか数秒だ。
二人の息が合っていなければ為せない神業である。
「――らぁああー!!!!」
襲いかかってくる呪いの触手を斬り落としながら駆けるガルドマンジェ。
ガルドマンジェの洗練された剣技とルーネスの強力な魔法によって作られた氷の剣。二つの要素が合わさり相乗効果を生む。
それによってロイの呪いの触手は豆腐のように簡単に斬り落とされていく。その数四本。
呪いの触手による守りは消えた。この瞬間こそ好機であるとガルドマンジェとルーネスの思考が一致する。
その瞬間、二人は大技を繰り出す。
ルーネスは属性の最大魔法である爆龍氷。そしてガルドマンジェは――」
「月影流奥義――」
「へぇ~、キミも使えるんだ」
大技を受ける直前だというのに余裕の笑みを浮かべたロイ。ガルドマンジェの大技を――月影流を見るのが楽しみと言わんばかりの表情だ。
「――氷輪・朔月」
音を置き去りにした氷の一閃が炸裂する。
それと同時にルーネスの放った氷の龍の牙がロイを噛み砕く。
それでもロイに攻撃が通ることはなかった。
「ちょっとだけヒヤッとしちゃった」
ロイは四本の呪いの触手で二人の大技を完璧に防いでいたのだ。先ほどガルドマンジェに斬られた四本の呪いの触手ではなく、新たに出現させた呪いの触手だ。
直後、ガルドマンジェに斬られた四本の触手が再生する。ロイの背中には八本の呪いの触手が、その存在感を放っていた。
不規則的に動きながらもしっかりとロイの身を守ろうとしている。不気味で邪悪で恐ろしい八本の呪いの触手だ。
「キミは何者なの? 僕が視た未来にキミの姿はなかった。つまりこの後、僕に倒されるということだ。それでも僕はキミに興味が湧いた。ルークも倒せる実力だし、それにその技……キミは何者?」
ガルドマンジェに興味が湧くロイは何者なのかと尋ねる。
しかしガルドマンジェはその問いに答えることなく氷の剣を振るった。
その銀氷の一閃を一本の呪いの触手が防ごうとするが、豆腐のように斬り落とされる。直後、その銀氷の一閃を二本目の呪いの触手が防ぐ。
「答えてくれないか。まあいいさ。僕の呪いを斬り尚且つ正確に僕の首を狙える強者だってのはわかったからさ。あはっ!!! 楽しくなってきたよ! ははっ! あっははははははっ!!!!」
ロイの鼓動がビートを刻む。それに合わせて八本の呪いの触手が、さらに禍々しく邪悪に染まっていく。
嫌な予感がしたガルドマンジェは瞬時に動き出す。
「ルーネス。私が呪いの触手を斬る。再生される前に魔法を叩き込んでください」
「了解しました」
ルーネスは魔法の収束を始めた。魔力を一点に溜めることによってより強力な魔法を放てるのである。
その間にガルドマンジェは八本の呪いの触手を斬り落とすため、大技を放つ構えをする。大振りをする構えだ。
「月影流奥義――」
ガルドマンジェは全力で氷の剣を振った。全力も全力。体が一回転するほどの全力の大振り。
それによって氷の刃も一回転。大きな円を描き――
「――氷輪・雪月!」
氷のように冷たい満月の斬撃がロイに向かって放たれた。
呪いの触手はロイを守るために斬撃を防ごうとするが、八本すべてが無残に斬り落とされる。
その瞬間、ルーネスは魔法を放った。魔力を溜めに溜め込んだ光属性の最大魔法――爆龍光、そして風属性の最大魔法――爆龍風だ。
二つの魔法は重なり、風を纏った光の龍となった。その風光の龍は防備が手薄となったロイに向かっていく。
「すごい威力だねっ」
ロイは風光の牙を素手で、否、呪いを纏った素手で防いだ。
直後、ロイの体は後退していく。攻撃を防ぎ切れずに押されているのだ。
ガルドマンジェは、好機を逃さまいと間合いを詰める。このまま畳み掛けるつもりだ。
そしてルーネスも魔法を放つために両の手のひらをかざす。
「――終わりだ!」
ガルドマンジェはロイの首に向かって銀氷の一閃を与えようとする。
「――覚悟しなさい!」
ルーネスは水属性の最大魔法――爆龍水を放った。
この猛攻にロイは笑顔で応じる。
「あはっ!」
その瞬間、風光の龍が粒子となり、銀氷の一閃が弾かれ、水の龍が真っ二つに両断された。
呪いの触手の再生が間に合い、全ての攻撃からロイを守ったのである。
「残念っ。もう少し速ければ僕に怪我を――!?」
ロイは首から流れる真っ赤な血に衝撃を受けて言葉を止めた。
流血したことによって呪いの触手は完全に攻撃を防ぎ切れていなかったことに気付く。
首の擦り傷は一本の呪いの触手が触れた瞬間、すぐさま完治する。
「触手以外にも鱗のように呪いを纏っていたか」
「ですがもう少しですよ。ガルドマンジェ。このまま攻めましょう」
「――行くぞ!」
ガルドマンジェとルーネスは攻撃が通じると分かるや否いや、先ほどと同様の攻撃を仕掛けに入った。
ガルドマンジェは大技を、ルーネスは最大魔法を。
「月影流奥義――」
「――させないよ!」
二人が攻撃を発動するよりも先にロイが動き出した。
自らがガルドマンジェに向かい、八本の呪いの触手はルーネスに向かっていった。
ロイの手にはいつの間にか闇色の剣が握られている。そしてその剣を大技を発動しようとしているガルドマンジェの首目掛けて横一閃に振りかざす。
八本の呪いの触手は鋭い針にと化しルーネスの心臓を狙う。
二人は堪らず攻撃の発動を諦め、防ぐことに専念する。否、専念せざるを得ないほどの攻撃だったのである。
「……剣技もなかなか」
氷の剣と呪いの剣が激しく火花を散らす。
「ありがとう。こう見えても国王になる前は王直属の聖騎士団をまとめてたからね。あっ、もちろん呪いの力なしでだよ。僕の実力は本物ってこと。そしてキミよりも上ってこと!」
その言葉は虚言を含んではおらず、ガルドマンジェは剣の実力のみでロイに押されていた。
一方ルーネスは八本の呪いの針に追われている。
空を高速で移動しながら呪いの針の攻撃を躱しているが、どれも紙一重。
心臓や頭を貫かれてしまえば、当然それで終わりだ。しかし紙一重で躱しているこの状況、半透明の羽に擦り傷でもできてしまえば、ルーネスの命はないのも同然。
羽の先、髪の毛一本一本にも意識を集中しながらルーネスは飛び続けた。そうでもしなければいけないほど呪いの針の殺傷力は凄まじいのである。
「わ、私、助けに――」
実の姉であるルーネスのピンチにビエルネスが立ち上がろうとしたが、ハクトシンがそれを止める。
「キミが行って何ができる? 邪魔になるだけだよ」
辛辣なハクトシンだが、それは正しい。
ビエルネスの力では助けにいった瞬間に蜂の巣になってしまうだろう。それほどの死闘がビエルネスの前で繰り広げられているのである。
「そ、そうですけど……でも、ルーネスが、私の姉が!」
「キミの気持ちは分かるよ。痛いほどにね……」
ハクトシンもビエルネスと同じ気持ちだ。
助けに行きたい、守ってあげたい、敵を倒したい、と心が強く訴えてきている。しかし頭は冷静だ。
自分よりも強いガルドマンジェとルーネスが苦戦する相手に、自分の力が通用するはずがないと理解している。
自分の力を一番に理解しているのは自分自身。どう足掻いてもこの瞬間にロイよりも強くなるのは不可能。
助けに行きたい、守ってあげたい、敵を倒したい、と心が強く訴えてきているのなら、その確率を上げるために、下げないためにもじっと堪えるしかないのである。
拳を握り締めて、唇を噛み締めて、じっと堪えるしかないのだ。
「命を懸けてキミたちを守るのがボクの役目。だからキミをいかせるわけにはいかない。ルーネスを信じてあげて。ボクが知る限りあの子は妖精族の中で一番強いからよ。今までも。そしてこれからもね」
気休めで言った言葉ではない。事実だ。
ハクトシンが知る妖精族の中ではルーネスが一番強い。そして今後、ルーネスよりも強い妖精族は現れない。そう断言できるほどルーネスの強さは妖精族の次元を超える。
その瞬間、八本の呪いの針に追われているルーネスから八つの激しい光が放たれた。
その光は、紅蓮色、海色、風色、土色、雷色、氷色、白色、黒色の八つだ。
八つの光が八本の呪いの針とぶつかり合い、相殺した。
「ほらね。言った通りでしょ。ルーネスは神様が認めるほど魔法に愛されてるのさ」
ハクトシンの言葉、そして目の前に見える光景からビエルネスの不安の色が払拭される。
「わ、わかりました。信じます。だから私はマスターと交わした約束に集中します」
「うん。それがいい。きっとそのほうがセトヤ・マサキも喜ぶよ」
「はい! マスターの喜ぶ顔が見たいです!」
ビエルネスは半透明の羽を羽ばたかせて飛びながらネージュの頭の上に止まった。
ビエルネスがマサキと交わした約束。それはネージュたち兎人ちゃんを守ること。その約束を果たすためにビエルネスはルーネスとガルドマンジェの勝利を信じ、マサキたちの帰りを待つのである。
(白き英雄が……ブランシュが来るまでなんて考えずに……ガルドマンジェ、ルーネス。キミたち二人だけで世界を救っていいんだよ。だからこのまま勝って)
ハクトシンもまた勝負の行く末を見届けるのであった。
悪魔が宿るのではなく、悪魔族が残した力が宿るというのがこの伝承の真実だ。
その力こそ薄桃色の髪をした兎人族の美少女クレールが所持する『透明スキル』である。
ロイが探している力こそ『透明スキル』だ。
そんな『透明スキル』には真の名前がある。
『透明スキル』の真の名は、ロイが口にした『透明の呪い』である。
絶滅した悪魔族がどのようにしてクレールに『透明の呪い』を授けたのかは不明だ。これは授けた張本人、もしくはこの呪いにしかわからないこと。
実際に『透明の呪い』を授かっているのだから、ロイにとってその経緯などはどうでもいいこと。
世界を自分のものにするためにロイは、この『透明の呪い』の力が必要なのである。
その力の在り処をルークが空に光線を放ちロイに知らせた。
その場所は鹿人族の国よりも西側の国――兎人族の国。その国の中でもさらに西側。最西端と言っても良いほどの場所。
兎人族の家である大樹が二本しか立っておらず、ひとけが少ない場所。
そう。マサキたちの家でもあり無人販売所イースターパーティーでもある場所だ。
そにロイが求めている『透明の呪い』の所持者が――クレールがいるのである。
そしてロイはすでにその場所に辿り着いている。
「これはこれは随分と派手に暴れたみたいだね。ルーク」
ロイは粉々に砕けている地面と茜色から暗闇に変わる前の空、そして入り口が崩壊している大樹を見ながら言った。
この大戦争の影響か、街灯は点灯しておらず、辺りが暗闇に染まるのは時間の問題。辛うじて無人販売所イースターパーティーの外灯は点灯しているが、それだけでは心許ない。
「あとは……ミオレのところの三人組か……まあ、どうでもいいか」
「それ以上は近付くな!」
新たな刺客に猛獣の如く鋭い眼光を向けるガルドマンジェ。
ルークとの死闘後だが、その戦意の灯火はまだ燃え滾ったまま。この大戦争が終結するまでは消えることがない白銀色の灯火だ。
「キミがルークを倒したんだね。驚いたよ。ルークが負けるなんてね。でも未来を覗いた時にはルークの姿がなかったからこれも必然か。ということはしっかりと僕が視た未来通りに事が運んでいるということ! あはっ! 胸の高鳴りが止まらないよ!」
ロイの胸の高鳴りは止まらない。むしろその高鳴りは速くなる一方だ。
それもそのはず。ロイが視た未来通りならこの後、世界を自分のものにするために必須な力『透明の呪い』を手に入れるのだから。
そしてそのままの勢いで野望を阻む者を倒していき、西側の国を滅ぼして世界を手に入れるのだから。
「それで……どこにいるのかなぁ~?」
ロイは『透明の呪い』の所持者を探すために歩き出そうとする。
ガルドマンジェから近付くなと忠告を受けたのにも関わらず、その一歩を踏んだ。
次の瞬間、銀色の一閃がロイを横切る。
「忠告したぞ。近付くなと」
銀色の一閃を放ったのはガルドマンジェだ。その手には家庭用の包丁が握られていた。
ガルドマンジェの剣は全てルークとの戦いで消滅してしまったため、魔獣や敵襲に備えてネージュから包丁を借りていたのである。
そして腰にはネージュ愛用のノコギリ『ぴょんぴょん丸』もかけてある。これは包丁が使い物にならなくなったときのための予備だ。
不安な考えが多いネージュが自らの意思でガルドマンジェに持たせたのである。ひ孫から曽祖父への初めての贈り物だ。
「その包丁でここまでの威力を出したの? すごいねキミは。その力でルークを倒したのか。なるほどね。納得っ!」
ロイは飛んでくる銀色の一閃に臆することなく、ゆっくりと間合いを詰めていく。
躱さずとも呪いの触手が次々に銀色の一閃を防いでいるのだ。臆する理由など一つもなくて当然である。
その様子を見ていたハクトシンは、ネージュたち兎人ちゃんに向かって口を開く。
「みんな奥へ。急いで」
ハクトシンの顔には不安の色が出ていた。ハクトシン自身も兎人ちゃんたちに不安を見せてるわけにはいかないと、その不安を隠そうとしていたのだが、隠し切れないほどの不安が襲ってきているのだ。
「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ……」
ハクトシンの不安は最悪なことにネージュに伝染してしまう。
負の感情を感じやすいネージュだ。いずれこうなることはわかっていたとしても、自分のせいで怯えさせてしまいたくはなかったとハクトシンは後悔する。
しかし実際のところネージュはハクトシンが、不安の色を隠そうとしている前から小刻みに震えていた。ロイの姿が青く澄んだ瞳に映ったその瞬間から恐怖と不安が一気に押し寄せてきたのである。
「姉さん。大丈夫ッスよ。奥に避難するッス」
ダールがネージュに肩を貸して部屋の奥へと移動を始めた。
双子の姉妹のデールとドールは小さな体で枕を抱きしめながらネージュとダールの前を歩く。彼女らの体もネージュほどではないが恐怖と不安で小刻みに震えている。
その双子の姉妹よりも前にいるのは妖精族のビエルネスだ。
「こっちです。足元に気をつけてください」
部屋の奥に避難するだけなので案内は必要ないのだが、不安と恐怖に苦しめられている兎人ちゃんたちを少しでも安心させるため、ゆっくりと先頭を飛びながら案内していた。
そして『透明スキル』の効果によって透明になっているクレールは、ネージュとダールの二人の後ろにいる。ダールに支えられながら歩いているネージュをクレールも支えながら歩いているのだ。
こうして兎人ちゃんたちは部屋の奥へと移動する。
ガルドマンジェとロイの戦いが見えそうで見えないそんな位置だ。
「大丈夫。ボクの命に変えてでもキミたちを守るからね」
怯えている兎人ちゃんたちにハクトシンは優しく声をかけた。
そして兎人ちゃんたちを守るかのように正面に立つ。金色で艶やかな髪は床に付くほど長い。
小柄なクレールよりも一回り小柄なハクトシンだが、ネージュの青く澄んだ瞳には、この時だけはその背中は大きく見えていた。
子ウサギを肉食動物から守ろうとしている母ウサギのように。
子供たちを捨て身の覚悟で守ろうとしている戦士のように。
人々を守るため姿を現した神様のように。
ハクトシンの背中はネージュにはとても大きく見えたのだ。
そんなハクトシンは静かに口を開いた。
「ルーネス」
「はい」
名前を呼ばれたルーネスは、半透明の羽をパタパタと羽ばたかせながらハクトシンに近付く。
そしてハクトシンの言葉を一言一句逃さないように尖った耳を傾けた。
「ここはボクひとりに任せて。ルーネスはガルドマンジェのサポートをしてあげて」
「承知いたしました。必ずや刺客を倒して……滅してみせます」
「うん。頑張って。くれぐれも無茶しないようにね」
「はい!」
ルーネスはガルドマンジェの援護をするために戦場へと向かう。その際、風属性の魔法を無詠唱で放つ。
その魔法は大型台風を横向きにして発射したかのような規模のものだった。
地面を抉りながら進む横向きの台風はロイを完全に捉える。
「強烈な一撃だ。タイジュグループのルーネス」
ルーネスが放った大型の台風をそよ風のように感じているかのような表情でロイは受け止めた。
「余裕の表情とは頂けませんね。国王ジングウウジ・ロイ」
人間族の国の国王ロイと大手企業タイジュグループの代表のルーネス。大戦争が勃発する前の二人は友好な取引関係であった。だから互いのことを知っているのだ。
ロイが資金を提供しタイジュグループが要望の品を作る。それは武器や食品、薬品、施設、さらには魔法の開発など、様々な取引を行っていた。
その中でも取引が多かったのは武器だ。魔獣から人々を守るためという名目で作っていた武器や兵器。実際に多くの魔獣を倒し人々を救っていたが、今日だけは違う。
鳥人族の国と妖精族の国、鹿人族の国、さらには兎人族の国がその武器や兵器によって苦しめられているのだ。
人々を守るために作られた武器や兵器がその人々を苦しめているのだ。
そのことに対してルーネスは激怒している。穏やかだった表情も憤怒の色に変わっていた。
「あなたを信じて作り続けた武器。このような形で使われ、裏切られるだなんて許せません」
ルーネスは無詠唱で氷属性の魔法を放った。小さな島ほどある氷塊。それがロイに向かって放たれる。
氷塊の先端がロイに触れた瞬間、ロイに触れた部分がかき氷のように細々に砕ける。
「キミたちが作った兵器によって、キミたちの国は滅んでいった。その兵器を作った代表のキミは今どんな気――」
どんな気持ちかな、と言おうとしたロイだったが、その言葉は銀色の一閃によって遮られる。
「ルーネス、私に剣を!」
ガルドマンジェの言葉を聞いたルーネスは魔法を発動し氷の剣を作り始める。
先ほどの氷塊と比べると規模はかなり小さいが、込められている魔力は桁違いに高い。そして何より機械で精密に作ったかと思わせるほどの出来栄えの美しい氷の剣が誕生した。
その氷の剣をガルドマンジェに向かってルーネスは放った。
物凄いスピードで氷の剣の穂先がガルドマンジェに向かって行く。攻撃かと思うほどのスピードだ。
しかしガルドマンジェはいとも容易く高速で飛んでくる氷の剣の柄をキャッチした。
そして氷の剣を手に入れた余韻に浸ることもなく、ロイに向かって行く。
氷の剣を作ってからロイに向かって行くまでの時間はわずか数秒だ。
二人の息が合っていなければ為せない神業である。
「――らぁああー!!!!」
襲いかかってくる呪いの触手を斬り落としながら駆けるガルドマンジェ。
ガルドマンジェの洗練された剣技とルーネスの強力な魔法によって作られた氷の剣。二つの要素が合わさり相乗効果を生む。
それによってロイの呪いの触手は豆腐のように簡単に斬り落とされていく。その数四本。
呪いの触手による守りは消えた。この瞬間こそ好機であるとガルドマンジェとルーネスの思考が一致する。
その瞬間、二人は大技を繰り出す。
ルーネスは属性の最大魔法である爆龍氷。そしてガルドマンジェは――」
「月影流奥義――」
「へぇ~、キミも使えるんだ」
大技を受ける直前だというのに余裕の笑みを浮かべたロイ。ガルドマンジェの大技を――月影流を見るのが楽しみと言わんばかりの表情だ。
「――氷輪・朔月」
音を置き去りにした氷の一閃が炸裂する。
それと同時にルーネスの放った氷の龍の牙がロイを噛み砕く。
それでもロイに攻撃が通ることはなかった。
「ちょっとだけヒヤッとしちゃった」
ロイは四本の呪いの触手で二人の大技を完璧に防いでいたのだ。先ほどガルドマンジェに斬られた四本の呪いの触手ではなく、新たに出現させた呪いの触手だ。
直後、ガルドマンジェに斬られた四本の触手が再生する。ロイの背中には八本の呪いの触手が、その存在感を放っていた。
不規則的に動きながらもしっかりとロイの身を守ろうとしている。不気味で邪悪で恐ろしい八本の呪いの触手だ。
「キミは何者なの? 僕が視た未来にキミの姿はなかった。つまりこの後、僕に倒されるということだ。それでも僕はキミに興味が湧いた。ルークも倒せる実力だし、それにその技……キミは何者?」
ガルドマンジェに興味が湧くロイは何者なのかと尋ねる。
しかしガルドマンジェはその問いに答えることなく氷の剣を振るった。
その銀氷の一閃を一本の呪いの触手が防ごうとするが、豆腐のように斬り落とされる。直後、その銀氷の一閃を二本目の呪いの触手が防ぐ。
「答えてくれないか。まあいいさ。僕の呪いを斬り尚且つ正確に僕の首を狙える強者だってのはわかったからさ。あはっ!!! 楽しくなってきたよ! ははっ! あっははははははっ!!!!」
ロイの鼓動がビートを刻む。それに合わせて八本の呪いの触手が、さらに禍々しく邪悪に染まっていく。
嫌な予感がしたガルドマンジェは瞬時に動き出す。
「ルーネス。私が呪いの触手を斬る。再生される前に魔法を叩き込んでください」
「了解しました」
ルーネスは魔法の収束を始めた。魔力を一点に溜めることによってより強力な魔法を放てるのである。
その間にガルドマンジェは八本の呪いの触手を斬り落とすため、大技を放つ構えをする。大振りをする構えだ。
「月影流奥義――」
ガルドマンジェは全力で氷の剣を振った。全力も全力。体が一回転するほどの全力の大振り。
それによって氷の刃も一回転。大きな円を描き――
「――氷輪・雪月!」
氷のように冷たい満月の斬撃がロイに向かって放たれた。
呪いの触手はロイを守るために斬撃を防ごうとするが、八本すべてが無残に斬り落とされる。
その瞬間、ルーネスは魔法を放った。魔力を溜めに溜め込んだ光属性の最大魔法――爆龍光、そして風属性の最大魔法――爆龍風だ。
二つの魔法は重なり、風を纏った光の龍となった。その風光の龍は防備が手薄となったロイに向かっていく。
「すごい威力だねっ」
ロイは風光の牙を素手で、否、呪いを纏った素手で防いだ。
直後、ロイの体は後退していく。攻撃を防ぎ切れずに押されているのだ。
ガルドマンジェは、好機を逃さまいと間合いを詰める。このまま畳み掛けるつもりだ。
そしてルーネスも魔法を放つために両の手のひらをかざす。
「――終わりだ!」
ガルドマンジェはロイの首に向かって銀氷の一閃を与えようとする。
「――覚悟しなさい!」
ルーネスは水属性の最大魔法――爆龍水を放った。
この猛攻にロイは笑顔で応じる。
「あはっ!」
その瞬間、風光の龍が粒子となり、銀氷の一閃が弾かれ、水の龍が真っ二つに両断された。
呪いの触手の再生が間に合い、全ての攻撃からロイを守ったのである。
「残念っ。もう少し速ければ僕に怪我を――!?」
ロイは首から流れる真っ赤な血に衝撃を受けて言葉を止めた。
流血したことによって呪いの触手は完全に攻撃を防ぎ切れていなかったことに気付く。
首の擦り傷は一本の呪いの触手が触れた瞬間、すぐさま完治する。
「触手以外にも鱗のように呪いを纏っていたか」
「ですがもう少しですよ。ガルドマンジェ。このまま攻めましょう」
「――行くぞ!」
ガルドマンジェとルーネスは攻撃が通じると分かるや否いや、先ほどと同様の攻撃を仕掛けに入った。
ガルドマンジェは大技を、ルーネスは最大魔法を。
「月影流奥義――」
「――させないよ!」
二人が攻撃を発動するよりも先にロイが動き出した。
自らがガルドマンジェに向かい、八本の呪いの触手はルーネスに向かっていった。
ロイの手にはいつの間にか闇色の剣が握られている。そしてその剣を大技を発動しようとしているガルドマンジェの首目掛けて横一閃に振りかざす。
八本の呪いの触手は鋭い針にと化しルーネスの心臓を狙う。
二人は堪らず攻撃の発動を諦め、防ぐことに専念する。否、専念せざるを得ないほどの攻撃だったのである。
「……剣技もなかなか」
氷の剣と呪いの剣が激しく火花を散らす。
「ありがとう。こう見えても国王になる前は王直属の聖騎士団をまとめてたからね。あっ、もちろん呪いの力なしでだよ。僕の実力は本物ってこと。そしてキミよりも上ってこと!」
その言葉は虚言を含んではおらず、ガルドマンジェは剣の実力のみでロイに押されていた。
一方ルーネスは八本の呪いの針に追われている。
空を高速で移動しながら呪いの針の攻撃を躱しているが、どれも紙一重。
心臓や頭を貫かれてしまえば、当然それで終わりだ。しかし紙一重で躱しているこの状況、半透明の羽に擦り傷でもできてしまえば、ルーネスの命はないのも同然。
羽の先、髪の毛一本一本にも意識を集中しながらルーネスは飛び続けた。そうでもしなければいけないほど呪いの針の殺傷力は凄まじいのである。
「わ、私、助けに――」
実の姉であるルーネスのピンチにビエルネスが立ち上がろうとしたが、ハクトシンがそれを止める。
「キミが行って何ができる? 邪魔になるだけだよ」
辛辣なハクトシンだが、それは正しい。
ビエルネスの力では助けにいった瞬間に蜂の巣になってしまうだろう。それほどの死闘がビエルネスの前で繰り広げられているのである。
「そ、そうですけど……でも、ルーネスが、私の姉が!」
「キミの気持ちは分かるよ。痛いほどにね……」
ハクトシンもビエルネスと同じ気持ちだ。
助けに行きたい、守ってあげたい、敵を倒したい、と心が強く訴えてきている。しかし頭は冷静だ。
自分よりも強いガルドマンジェとルーネスが苦戦する相手に、自分の力が通用するはずがないと理解している。
自分の力を一番に理解しているのは自分自身。どう足掻いてもこの瞬間にロイよりも強くなるのは不可能。
助けに行きたい、守ってあげたい、敵を倒したい、と心が強く訴えてきているのなら、その確率を上げるために、下げないためにもじっと堪えるしかないのである。
拳を握り締めて、唇を噛み締めて、じっと堪えるしかないのだ。
「命を懸けてキミたちを守るのがボクの役目。だからキミをいかせるわけにはいかない。ルーネスを信じてあげて。ボクが知る限りあの子は妖精族の中で一番強いからよ。今までも。そしてこれからもね」
気休めで言った言葉ではない。事実だ。
ハクトシンが知る妖精族の中ではルーネスが一番強い。そして今後、ルーネスよりも強い妖精族は現れない。そう断言できるほどルーネスの強さは妖精族の次元を超える。
その瞬間、八本の呪いの針に追われているルーネスから八つの激しい光が放たれた。
その光は、紅蓮色、海色、風色、土色、雷色、氷色、白色、黒色の八つだ。
八つの光が八本の呪いの針とぶつかり合い、相殺した。
「ほらね。言った通りでしょ。ルーネスは神様が認めるほど魔法に愛されてるのさ」
ハクトシンの言葉、そして目の前に見える光景からビエルネスの不安の色が払拭される。
「わ、わかりました。信じます。だから私はマスターと交わした約束に集中します」
「うん。それがいい。きっとそのほうがセトヤ・マサキも喜ぶよ」
「はい! マスターの喜ぶ顔が見たいです!」
ビエルネスは半透明の羽を羽ばたかせて飛びながらネージュの頭の上に止まった。
ビエルネスがマサキと交わした約束。それはネージュたち兎人ちゃんを守ること。その約束を果たすためにビエルネスはルーネスとガルドマンジェの勝利を信じ、マサキたちの帰りを待つのである。
(白き英雄が……ブランシュが来るまでなんて考えずに……ガルドマンジェ、ルーネス。キミたち二人だけで世界を救っていいんだよ。だからこのまま勝って)
ハクトシンもまた勝負の行く末を見届けるのであった。
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