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第5章:大戦争『終わりの始まり編』
279 嫌な予感
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嫌な予感を妖精族の国または鳥人族の国から感じた聖騎士団白兎の団長アンブル・ブランシュは、空中を移動していた。
そんな彼女の深青の瞳には、その嫌な予感というものが的中してしまっているという事実が映っていた。
(森が、いや、国が燃えているな)
《はい。燃えているのは鳥人族の国全域です。何者かの手によって燃やされた可能性が高いです》
ブランシュの心の声に応えたのは『月の声』というブランシュの内に秘めた特殊な力だ。『月の声』の声は女性の声で流暢に喋りながらブランシュ脳内で再生される。
(何者かの手によってか……とにかく急いで消火しよう)
空中を駆けて移動しているブランシュはさらに加速する。そしてたった数秒で先ほど見ていた光景の中心へと到着する。
(これは酷いな……。一体誰がこんなことを)
そんなことを考えていると、燃え盛る炎から逃げている鳥人族の家族の姿が映った。男性一人、女性一人、女の子一人だ。
鳥人族の父親らしき男性は、炎の中で立ち尽くしているブランシュに向かって走りながら声をかけた。
「そこの白い制服の! 早く逃げた方がいいぞ! この国はもうダメだ!」
「パパーこわいよーこわいよー」
「……誰がこの国を燃やしたかわかりますか?」
家族を守ろうと必死になっている鳥人族の男性とは裏腹に、ブランシュは冷静に質問をした。
そのブランシュの問いに『それどころじゃない』といった表情で鳥人族の男性は口を開く。
「あ? 知らないよ。そんなやつ! いつの間にかこんなに燃えていたんだよ!」
「そうでしたか」
ブランシュが返事をするのと同時に鳥人族の家族はブランシュを横切る。鳥人族の家族は、このまま走って隣接する国妖精族の国に向かおうとしているのだ。
しかし、鳥人族の家族の足音が止まったのを横切ったばかりのブランシュの長いウサ耳に届く。
「どうかしましたか?」
と言いながらブランシュは、足を止めた鳥人族の家族の方を見た。
ブランシュの深青の瞳には、燃え盛る炎が炎の壁になり鳥人族の家族の行く手を阻んでいる場面が映った。
「パパー! ママー! うわぁああああああん!」
鳥人族の女の子が絶望で泣き叫んでいる光景を深青の瞳に映しながらブランシュはゆっくりと歩き出す。そして右腰にかけてある世界に一本しかないブランシュだけの剣――月の剣の柄を左手で握る。
「そこを退いてください」
「え?」
ブランシュの冷静な態度と静かな声に唖然としながら鳥人族の家族は、ブランシュに言われた通りこの場から退くために後退した。
その瞬間、ブランシュは月の剣を抜いた。
月の剣をただ抜いただけ。それだけで炎の壁となっていた炎が消火された。しかも妖精族の国に向かって一直線に炎が消えていたのだ。
「これでしばらくの間は、この道を通ることができます。けれど油断しないように。炎というものは一瞬で何もかも奪っていきますから」
「あ、あ……」
優しく声をかけているブランシュの言葉が聞こえていないほど、ブランシュが炎の壁を消したことに鳥人族の男性は衝撃を受けていた。
そんな鳥人族の男性の代わりに返事をしたのはその男性の妻と思わしき女性の鳥人族だった。
「あ、ありがとうございます。そういえばさっき逃げている時に二人組の男が暴れているって空を飛ぶ怪鳥たちが言ってました」
「有力な情報助かります」
「いえいえ。こちらこそ道を作ってくださりありがとうございます。私たちはこれで失礼します。ほらあなた、いつまでも驚いてないで走りなさい!」
「あ、あ、え? そ、そうだった! 妖精族の国に避難だ!」
理性を取り戻した鳥人族の男性を筆頭に鳥人族の家族は妖精族の国に避難するために再び走り出した。
その姿を見送りながらブランシュは思考する。
(二人組か……)
《マスター。二人組に心当たりが?》
(ここまで大きなことをするってなるとエルフの黒女クイーンと龍人族のルークという義手の男くらいかなと思ってな。この国に入ってから感じる強い気配もそれに近いものがある)
《そうですね。一度その気配を探ってみたらいかがでしょうか?》
(ああ。言われなくてもそうするよ)
ブランシュは鳥人族の国を燃やした犯人の気配を探すために精神を研ぎ澄ます。
燃え盛る炎から逃げようと、恐怖から逃れようとする者の気配を数百、数千と感じ取ったブランシュ。その中に三つ、全く別の感情を持った人物の気配を特定することに成功した。
その内の二人は、目的を果たそうとしている気配。つまり、この国を滅ぼそうとしている気持ちがあるということがわかる。そしてもう一人は、それを阻止しようと懸命に戦っている気配だ。
《マスターが今感じ取った三人の気配のうちの二人。その二人こそが鳥人族の国を燃やした犯人のもので間違いありません》
(ああ。わかってるよ。でもあと一人は何者だ? 二人と戦っているのか?)
《そうかもしれませんね。それと気になる点が一つあります》
(それもわかってるよ。この三人の気配。私たちが知ってる気配だ。逃げる国民の気配が紛れ込んでしまって誰なのかうまく特定できないが……。まあ、行けばわかるがな)
その瞬間、ブランシュは瞬間移動したかのようにその場から刹那の一瞬で消した。鳥人族の国を燃やした犯人と思われる二つの気配、そしてその二人と戦っているであろうもう一つの気配がする場所へと向かったのだ。
ブランシュはすぐに鳥人族の国を燃やした犯人と思われる二つの気配の正面に立った。
「!?」
ブランシュは目の前の光景に衝撃を受け、体が刹那の一瞬硬直した。
ブランシュが衝撃を受けているのは、犯人の二人を見たからではない。犯人の二人と戦っている一人の人物を見たからだ。
その人物の特徴は、薄緑色の髪と薄水色の瞳、子ウサギサイズの大きさで半透明の羽を生やしている。その見た目をした種族は一つしかない。そう。妖精族だ。
「フエベス!」
「……ブ、ブーちゃ、ん……」
ブランシュの深青の瞳に映っている妖精族は、フェ・フエベス。ブランシュと何年も同棲している妖精族の少女だ。ブランシュの唯一の友と言っても過言ではない人物でもある。
そんなフエベスは全身真っ赤な血を流している。半透明の羽もボロボロで今まさにとどめを刺される瞬間だったのだ。これがブランシュと月の声が感じた嫌な予感の正体だ。
だからこそブランシュは刹那の一瞬でも硬直したことを後悔した。その後悔を断ち切るために全力で傷付いたフエベスを助けるために動いた。
ブランシュはすぐにフエベスを己の手のひらの上に乗せた。すぐに割れてしまうしゃぼん玉を手に乗せるように優しくそっとフエベスを乗せたのである。
「フエベス。どうして鳥人族の国に……。どうしてこんなボロボロになるまで……」
「ブ、ブーちゃ……ん……」
超お喋りな性格でどんな時でも笑顔で喋り続けていたフエベスだったが、流石に血を流し傷だらけの状態ではその口は回らない。ブランシュの名前を呼ぶことで精一杯だったのだ。
しかし、精一杯だからこそフエベスは視線を送った。
その薄水色の視線を辿ると、怯え小刻みに震えている火竜の子供と血だらけで倒れている大人の火竜の姿があった。
それを見た瞬間、ブランシュは理解した。フエベスは親をやられて逃げることもできなくなった子供の火竜を守るために戦っていたのだと。
それを理解したのとほぼ同タイミングで、鳥人族の国を燃やした犯人のうちの一人が動き出した。
「ここは戦場だ! よそ見してると死ぬぞ! ウサギさんよぉ!」
犯人の一人は二メートルほどの鉄の棒をブランシュの背中目掛けて勢いよく振りかざした。
それをブランシュはノールックで、しかも音を立てずに軽く躱す。
「フエベス。しっかりしろ。今エームところに……」
連れて行くと、言おうとしたブランシュだったが、最後までその言葉を言い切ることはできなかった。なぜならフエベスはブランシュの手のひらの上で首を横に振ったからだ。
ブランシュがこの場を離れてフエベスだけを助けた場合、火竜の親子はどうなるのか? この鳥人族の国はどうなるのか? 全て悪い結末を迎えるだろう。
そうなることを安易に想像できてしまう。そして想像してしまったからこそ、フエベスは首を横に振ったのだ。
お喋りなフエベスが一言も発さずに首だけを振った。それがどういうことなのか。ブランシュは気付いている。
「ああ、わかったよ。すぐに終わらせる」
ブランシュはフエベスを両手に乗せたまま歩き出した。そして、鳥人族の国を燃やした二人組のことはお構いなしに火竜の親子のところへ歩み寄る。
「キミのお母さんかな?」
「……ゴ、ゴジョ……シュゴ……」
火竜の子供はブランシュの問いに答えた。火竜という種族は人語を喋ることができない。しかし、理解はしている。
ブランシュは火竜の言葉を喋ることができなければ、理解もできていない。数多のスキルを所持しているが、『翻訳スキル』という便利なものは未だに習得していないのだ。
それでもブランシュは火竜の子供の表情や仕草、喋り方や音域などで感情を理解し、コミュニケーションを取った。言葉だけがコミュニケーションではないのだ。
「キミのお母さんは、キミを守るために戦ったんだね」
「ジョゴ、シュジョ……」
「それでは、今度は私の番だ。キミとキミのお母さんを守る。その代わりフエベスを……この妖精族を見ててくれないか?」
「ジョ、シュシュゴ!」
「ああ。頼んだよ」
ブランシュは火竜の子供に傷付いたフエベスをそっと渡した。火竜の子供はゴツゴツした手のひらでフエベスを優しく受け取る。
ブランシュはフエベスが手のひらから離れると、一度その深青の瞳にフエベスの顔を映した。その直後、鳥人族の国を燃やした犯人の方を見る。そして鋭い眼光を向けた。
「おお、やっと目を合わせたか。ウサギさんよ」
「あまり挑発しないほうがいいですよ。彼女を怒らせると怖いですからね」
「もう怒ってるだろ。あいつの目を見ろよ」
「そうですね。それにこの威圧。完全に怒ってますね」
犯人の二人はブランシュの威圧に怯むことなく会話を続けた。
ブランシュの威圧に怯まなかったのはそれだけの実力があるからだ。
聖騎士団白兎の団長と同等の実力者。その実力者に向かってブランシュは口を開く。
「動機はわからないし聞かない。そんなことなんて私にはどうでもいい。だから……覚悟しろよ。サルとイヌ」
ブランシュの深青の瞳に映る鳥人族の国を燃やした犯人の二人は――聖騎士団朱猿の団長ミリオン・ヴェルと聖騎士団青犬の団長ヴァ・シアンだった。
――聖騎士団の団長たちによる死闘の火蓋が切られる。
そんな彼女の深青の瞳には、その嫌な予感というものが的中してしまっているという事実が映っていた。
(森が、いや、国が燃えているな)
《はい。燃えているのは鳥人族の国全域です。何者かの手によって燃やされた可能性が高いです》
ブランシュの心の声に応えたのは『月の声』というブランシュの内に秘めた特殊な力だ。『月の声』の声は女性の声で流暢に喋りながらブランシュ脳内で再生される。
(何者かの手によってか……とにかく急いで消火しよう)
空中を駆けて移動しているブランシュはさらに加速する。そしてたった数秒で先ほど見ていた光景の中心へと到着する。
(これは酷いな……。一体誰がこんなことを)
そんなことを考えていると、燃え盛る炎から逃げている鳥人族の家族の姿が映った。男性一人、女性一人、女の子一人だ。
鳥人族の父親らしき男性は、炎の中で立ち尽くしているブランシュに向かって走りながら声をかけた。
「そこの白い制服の! 早く逃げた方がいいぞ! この国はもうダメだ!」
「パパーこわいよーこわいよー」
「……誰がこの国を燃やしたかわかりますか?」
家族を守ろうと必死になっている鳥人族の男性とは裏腹に、ブランシュは冷静に質問をした。
そのブランシュの問いに『それどころじゃない』といった表情で鳥人族の男性は口を開く。
「あ? 知らないよ。そんなやつ! いつの間にかこんなに燃えていたんだよ!」
「そうでしたか」
ブランシュが返事をするのと同時に鳥人族の家族はブランシュを横切る。鳥人族の家族は、このまま走って隣接する国妖精族の国に向かおうとしているのだ。
しかし、鳥人族の家族の足音が止まったのを横切ったばかりのブランシュの長いウサ耳に届く。
「どうかしましたか?」
と言いながらブランシュは、足を止めた鳥人族の家族の方を見た。
ブランシュの深青の瞳には、燃え盛る炎が炎の壁になり鳥人族の家族の行く手を阻んでいる場面が映った。
「パパー! ママー! うわぁああああああん!」
鳥人族の女の子が絶望で泣き叫んでいる光景を深青の瞳に映しながらブランシュはゆっくりと歩き出す。そして右腰にかけてある世界に一本しかないブランシュだけの剣――月の剣の柄を左手で握る。
「そこを退いてください」
「え?」
ブランシュの冷静な態度と静かな声に唖然としながら鳥人族の家族は、ブランシュに言われた通りこの場から退くために後退した。
その瞬間、ブランシュは月の剣を抜いた。
月の剣をただ抜いただけ。それだけで炎の壁となっていた炎が消火された。しかも妖精族の国に向かって一直線に炎が消えていたのだ。
「これでしばらくの間は、この道を通ることができます。けれど油断しないように。炎というものは一瞬で何もかも奪っていきますから」
「あ、あ……」
優しく声をかけているブランシュの言葉が聞こえていないほど、ブランシュが炎の壁を消したことに鳥人族の男性は衝撃を受けていた。
そんな鳥人族の男性の代わりに返事をしたのはその男性の妻と思わしき女性の鳥人族だった。
「あ、ありがとうございます。そういえばさっき逃げている時に二人組の男が暴れているって空を飛ぶ怪鳥たちが言ってました」
「有力な情報助かります」
「いえいえ。こちらこそ道を作ってくださりありがとうございます。私たちはこれで失礼します。ほらあなた、いつまでも驚いてないで走りなさい!」
「あ、あ、え? そ、そうだった! 妖精族の国に避難だ!」
理性を取り戻した鳥人族の男性を筆頭に鳥人族の家族は妖精族の国に避難するために再び走り出した。
その姿を見送りながらブランシュは思考する。
(二人組か……)
《マスター。二人組に心当たりが?》
(ここまで大きなことをするってなるとエルフの黒女クイーンと龍人族のルークという義手の男くらいかなと思ってな。この国に入ってから感じる強い気配もそれに近いものがある)
《そうですね。一度その気配を探ってみたらいかがでしょうか?》
(ああ。言われなくてもそうするよ)
ブランシュは鳥人族の国を燃やした犯人の気配を探すために精神を研ぎ澄ます。
燃え盛る炎から逃げようと、恐怖から逃れようとする者の気配を数百、数千と感じ取ったブランシュ。その中に三つ、全く別の感情を持った人物の気配を特定することに成功した。
その内の二人は、目的を果たそうとしている気配。つまり、この国を滅ぼそうとしている気持ちがあるということがわかる。そしてもう一人は、それを阻止しようと懸命に戦っている気配だ。
《マスターが今感じ取った三人の気配のうちの二人。その二人こそが鳥人族の国を燃やした犯人のもので間違いありません》
(ああ。わかってるよ。でもあと一人は何者だ? 二人と戦っているのか?)
《そうかもしれませんね。それと気になる点が一つあります》
(それもわかってるよ。この三人の気配。私たちが知ってる気配だ。逃げる国民の気配が紛れ込んでしまって誰なのかうまく特定できないが……。まあ、行けばわかるがな)
その瞬間、ブランシュは瞬間移動したかのようにその場から刹那の一瞬で消した。鳥人族の国を燃やした犯人と思われる二つの気配、そしてその二人と戦っているであろうもう一つの気配がする場所へと向かったのだ。
ブランシュはすぐに鳥人族の国を燃やした犯人と思われる二つの気配の正面に立った。
「!?」
ブランシュは目の前の光景に衝撃を受け、体が刹那の一瞬硬直した。
ブランシュが衝撃を受けているのは、犯人の二人を見たからではない。犯人の二人と戦っている一人の人物を見たからだ。
その人物の特徴は、薄緑色の髪と薄水色の瞳、子ウサギサイズの大きさで半透明の羽を生やしている。その見た目をした種族は一つしかない。そう。妖精族だ。
「フエベス!」
「……ブ、ブーちゃ、ん……」
ブランシュの深青の瞳に映っている妖精族は、フェ・フエベス。ブランシュと何年も同棲している妖精族の少女だ。ブランシュの唯一の友と言っても過言ではない人物でもある。
そんなフエベスは全身真っ赤な血を流している。半透明の羽もボロボロで今まさにとどめを刺される瞬間だったのだ。これがブランシュと月の声が感じた嫌な予感の正体だ。
だからこそブランシュは刹那の一瞬でも硬直したことを後悔した。その後悔を断ち切るために全力で傷付いたフエベスを助けるために動いた。
ブランシュはすぐにフエベスを己の手のひらの上に乗せた。すぐに割れてしまうしゃぼん玉を手に乗せるように優しくそっとフエベスを乗せたのである。
「フエベス。どうして鳥人族の国に……。どうしてこんなボロボロになるまで……」
「ブ、ブーちゃ……ん……」
超お喋りな性格でどんな時でも笑顔で喋り続けていたフエベスだったが、流石に血を流し傷だらけの状態ではその口は回らない。ブランシュの名前を呼ぶことで精一杯だったのだ。
しかし、精一杯だからこそフエベスは視線を送った。
その薄水色の視線を辿ると、怯え小刻みに震えている火竜の子供と血だらけで倒れている大人の火竜の姿があった。
それを見た瞬間、ブランシュは理解した。フエベスは親をやられて逃げることもできなくなった子供の火竜を守るために戦っていたのだと。
それを理解したのとほぼ同タイミングで、鳥人族の国を燃やした犯人のうちの一人が動き出した。
「ここは戦場だ! よそ見してると死ぬぞ! ウサギさんよぉ!」
犯人の一人は二メートルほどの鉄の棒をブランシュの背中目掛けて勢いよく振りかざした。
それをブランシュはノールックで、しかも音を立てずに軽く躱す。
「フエベス。しっかりしろ。今エームところに……」
連れて行くと、言おうとしたブランシュだったが、最後までその言葉を言い切ることはできなかった。なぜならフエベスはブランシュの手のひらの上で首を横に振ったからだ。
ブランシュがこの場を離れてフエベスだけを助けた場合、火竜の親子はどうなるのか? この鳥人族の国はどうなるのか? 全て悪い結末を迎えるだろう。
そうなることを安易に想像できてしまう。そして想像してしまったからこそ、フエベスは首を横に振ったのだ。
お喋りなフエベスが一言も発さずに首だけを振った。それがどういうことなのか。ブランシュは気付いている。
「ああ、わかったよ。すぐに終わらせる」
ブランシュはフエベスを両手に乗せたまま歩き出した。そして、鳥人族の国を燃やした二人組のことはお構いなしに火竜の親子のところへ歩み寄る。
「キミのお母さんかな?」
「……ゴ、ゴジョ……シュゴ……」
火竜の子供はブランシュの問いに答えた。火竜という種族は人語を喋ることができない。しかし、理解はしている。
ブランシュは火竜の言葉を喋ることができなければ、理解もできていない。数多のスキルを所持しているが、『翻訳スキル』という便利なものは未だに習得していないのだ。
それでもブランシュは火竜の子供の表情や仕草、喋り方や音域などで感情を理解し、コミュニケーションを取った。言葉だけがコミュニケーションではないのだ。
「キミのお母さんは、キミを守るために戦ったんだね」
「ジョゴ、シュジョ……」
「それでは、今度は私の番だ。キミとキミのお母さんを守る。その代わりフエベスを……この妖精族を見ててくれないか?」
「ジョ、シュシュゴ!」
「ああ。頼んだよ」
ブランシュは火竜の子供に傷付いたフエベスをそっと渡した。火竜の子供はゴツゴツした手のひらでフエベスを優しく受け取る。
ブランシュはフエベスが手のひらから離れると、一度その深青の瞳にフエベスの顔を映した。その直後、鳥人族の国を燃やした犯人の方を見る。そして鋭い眼光を向けた。
「おお、やっと目を合わせたか。ウサギさんよ」
「あまり挑発しないほうがいいですよ。彼女を怒らせると怖いですからね」
「もう怒ってるだろ。あいつの目を見ろよ」
「そうですね。それにこの威圧。完全に怒ってますね」
犯人の二人はブランシュの威圧に怯むことなく会話を続けた。
ブランシュの威圧に怯まなかったのはそれだけの実力があるからだ。
聖騎士団白兎の団長と同等の実力者。その実力者に向かってブランシュは口を開く。
「動機はわからないし聞かない。そんなことなんて私にはどうでもいい。だから……覚悟しろよ。サルとイヌ」
ブランシュの深青の瞳に映る鳥人族の国を燃やした犯人の二人は――聖騎士団朱猿の団長ミリオン・ヴェルと聖騎士団青犬の団長ヴァ・シアンだった。
――聖騎士団の団長たちによる死闘の火蓋が切られる。
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