320 / 417
第4章:恋愛『一億三千年前の記憶編』
264 喪失感
しおりを挟む
「ブドウ! イチゴ! ミカン!」
兎人族の国にある拠点――その上空にまで戻ってきたギンは、真っ先に兎人ちゃんたちの名前を叫んだ。
「ンッンッ! ンッンッ! ンッンッ!」
セレネもギンと同じように声を漏らす。兎人ちゃんたちに聞こえるように大きな声で。
もちろん返事は返って来ない。無事かどうかは関係無しに声帯を切られて声が出せない兎人ちゃんたちは声に出して返事を返すことができないのだ。
「ンッンッ。ンッンッ」
ギンを背中に乗せて飛んでいるセレネがゆっくりと地面に向かって降下していく。
地面に肉球のないもふもふの足が着く前――四メートルほどの高さからギンはセレネの背中から飛び降りた。
そしてすぐに兎人ちゃんたちを探し始める。
「はぁ……はぁ……」
少し動いただけで息が上がるのは、それだけ悪い未来を想像してしまっているからだ。
頭を激しく横に振り悪い未来をかき消そうとするがどうしても消えてくれない。
それどころか鼓動は早くなるばかり。悪寒のようなゾクゾクとした寒気も同時に感じるほど。
そんなギンに少しだけ希望が芽生えた瞬間があった。ギンの黒瞳に小さな大樹が映ったのだ。出発前と何一つ変わっていない小さな大樹。もしかしたら数ミリでも枝を伸ばしているかもしれないが、そこまで細かく測定していないので銀からしたら何一つ変わっていない小さな大樹なのだ。
(気配もしない。でもブドウたちがここを出るはずもない。それじゃ一体どこに? 誰かに連れて行かれたのか?)
そんなことを思考していると脳内から女性の声が。鼓膜にはウサギのような鳴き声が同時に届く。
《マスター》
「ンッンッ!」
《湧き水の方を》
「ンッンッ!」
その二つの声を聞いたギンは頭で言葉の処理するよりも先に体が動いていた。顔は湧き水が流れている方を向き、それに合わせて体が捻り付いていく。
言葉を処理し理解した頃には二、三歩足を動かし湧き水の方へと向かって行っていた。
そして嫌な予感を感じたのと同時にその予感が的中する。
「ブドウ! イチゴ! ミカン!」
拠点に戻ってきた時よりも遥かに大きく兎人ちゃんたちの名前を叫んだ。
不安、緊張、恐怖、絶望――ありとあらゆる全ての負の感情が混ざり合ったドス黒い『死の感情』がギンの心を支配しようと不協和音とともに向かっていく。
「……ブ、ド……ぅ……」
ブドウの名前を言い切る前に全てを理解してしまう。ブドウ、イチゴ、ミカンは死んだのだと。
では、黒瞳に映っているそれはなんだ?
ブドウ、イチゴ、ミカンの死体だ。それもウサ耳を両耳とも斬り落とされ、服を脱がされ、乱暴にされた後の死体だ。
そんな死体が人形のように倒れている。
ギンは死体の前で膝から崩れ落ちた。
似ている兎人ちゃんたちを見分ける特徴の一つであるウサ耳が斬り落とされていることで、ブドウ、イチゴ、ミカンの三人の見分けはつかない。
もう一つの特徴でもある宝石のような瞳は閉じていてわからない。
けれど約半年間共に過ごしたギンは、そんな特徴がなくても誰なのかすぐに見分けることができた。
だからこそすぐに悲しみがギンの心を包み込む。否、『死の感情』に混ざり合う。
「ブドウ……イチゴ……ミカン……ぅ……」
今度ははっきりと名前を呼んだ。そして名前を呼びながらその死体を一人ずつ自分の腕の中へと抱き寄せていく。
血なのか、涙なのか、涎なのか、はたまた別の液体なのか、兎人ちゃんたちを抱きしめるギンの膝に流れる。
流れている液体はまだ温かい。死後硬直もなく、小さな体も熱が残っている。そのことがギンにさらに追い討ちをかける。
もう少し早ければ助けられたのではないのか、蜃気楼を二重に張り、いち早く何者かの存在に気付くことができたのではないかと。
悔しさと情けなさ、そして後悔がさらにギンの『死の感情』へと混ざり合っていく。
抱きしめているブドウの頭にギンの大粒の涙がこぼれ落ちた。その瞬間、ギンは自分が泣いていることにやっと気付く。それも子供のように声を上げ、鼻水を垂らしながら。
あらゆる感情が混ざり合った『死の感情』というものは、どうやら五感や判断力を鈍らせるようだ。
ギンは自分が泣いていることを理解すると、今度は遠慮くすことなく泣き喚いた。
産声を上げた時と同じくらい泣き喚いているのだ。
生まれてくる命も失っていく命もどちらに対しても人は涙を流す生き物なのである。
怒りの感情がやってきたのはこの後だ。
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す――。
死の感情と怒りの感情を混ぜ合わせるのは危険だ。
どんな善人でも刹那の一瞬で悪人に変わってしまうのだから。
しかし、ギンは悪人にはならなかった。なれなかった。
腕の中で抱きしめる兎人ちゃんたちから離れたくなかったのだ。わずかな熱を逃したくなかったのだ。
兎人ちゃんたちの小さな体に熱が残っているということは、殺されてから時間はほとんど経過していないということ。
殺人犯は近くにいるのだ。今から殺人犯を探せば見つけられるかもしれない。むしろ今から探さなければ見つけられたものも見つけられなくなる可能性がある。
怒りの感情に身を任せて兎人ちゃんたちにしたこと以上のことをその殺人犯にすることも可能だ。
そんな復讐心を兎人ちゃんたちの小さな温もりが抑えてくれている。死の感情もゆっくりと溶かしてくれている。
死の感情と怒りの感情が溶けたら残るのは虚無感と喪失感だ。
「守るって……した、のに……守るって……約束、した、のに……守れなかった……守ってあげられなかった……」
虚無感と喪失感の中ギンは、兎人ちゃんたちを温かな緑色の光で包み込む。治癒魔法だ。
兎人ちゃんたち抱きしめている両腕腕や手のひら、胸、腹、兎人ちゃんたちの体に少しでも触れている箇所から治癒魔法を放ち続けている。
死者を生き返らせることができないと知りながらも治癒魔法を放ち続ける。
そして抱き締め続ける。冷たくなっても、硬直しても、流れる血が凝血しても、他の液体が乾いても、その小さな体を抱き続けた。
そんな状態が二日間続いたのだった。
時間が過ぎていく感覚はあるが、どれくらい過ぎたのかは全くと言っていいほどわかっていない。
兎人ちゃんたちを見つけた時となんら変わらない天気と時間帯が原因だ。
さらに言うと兎人ちゃんたちにかけ続けている治癒魔法が継続しているのも原因だろう。魔力が切れれば時間が経ったのだと普通ならわかるしそれが判定にもなる。しかし、膨大な魔力を持つギンの魔力は切れることがないのだ。
丸一日、もしかしたら丸二日、それ以上が経過しているかもしれないと思いながらも数分しか経っていないのではないかとも思ってしまう不思議な時間感覚に襲われている。
時差ぼけという言葉があるがそれとはまた違う異質の現象をギンは味わっているのだ。
虚無感と喪失感と怒りの感情と、兎人ちゃんたちの死体を発見したときに感じた負の感情、そこからの死の感情。
そのあらゆる全ての感情が小さくなり、自我を取り戻したギンはブドウ、イチゴ、ミカンの死体を大事そうに抱きしめながら立ち上がった。
振り向けばギンの後ろにはセレネがいた。セレネもギンと同じく二日間ありとあらゆる感情に心を支配されていたのである。
「ンッンッ」
「…………ごめん。もう大丈夫」
大丈夫と言ったギンだが、全くそうではなかった。
声は冷たく静か。瞳の色はさらに黒色に染まっている。肌も青白くなっており、目の下は赤く腫れていた。
「セレネこそ大丈夫?」
「ンッンッ」
セレネの『大丈夫』という声を聞いてギンは少しだけ安堵する。
セレネの心配をするほどギンの心は回復しているようだ。そもそも立ち上がった時点で一歩前進している。
ブドウ、イチゴ、ミカンの三人の硬直した小さな体を抱き抱えるギンは、そのまま歩いていく。
目的もなく歩いているわけではない。兎人ちゃんたちの墓を作るために歩き出したのだ。
その後ろをセレネはゆっくりと付いていく。
「兎人族は月に還るらしいが、それは魂だけだ。肉体はちゃんとここにある。それなら肉体は土に還してあげないといけないよな……」
ぶつぶつと呟くギン。
亡くなった兎人ちゃんたちに話しかけているのか、セレネに話しかけているのか、心の声に話しかけているのか。わからないほどギンは小声で呟いたのだった。
そしてギンは足を止めた。
ギンの正面には高さ四十センチほどの小さな大樹がある。
この大樹の隣に兎人ちゃんたちを埋めるつもりだ。
「来世というものがあるなら……またここで会おうな。この大樹を目印にしてさ。だからブドウ、イチゴ、ミカン。それまではゆっくりとお休み」
ギンは何度も何度も同じ言葉を語りかけながら兎人ちゃんたちを埋めていった。
セレネはそれを見守り続ける。漆黒の瞳で映し、心に刻みながら。
兎人ちゃんたちの墓ができると、ギンは黒いローブの内側に手を入れて何かを探り始めた。
直後、手を引くと三本の小型の刃物が出てきた。兎人ちゃんたちと初めて出会ったときに奪ったあの刃物だ。
その刃物を兎人ちゃんたちの墓の上に置いた。ブドウにはブドウの。イチゴにはイチゴの。ミカンにはミカンの。
その後、瞳を閉じて数分間合掌をした。
合掌を終えたギンは立ち上がり、東の方角を見た。
ギンの黒瞳はドス黒い殺気に満ち溢れていた。
兎人族の国にある拠点――その上空にまで戻ってきたギンは、真っ先に兎人ちゃんたちの名前を叫んだ。
「ンッンッ! ンッンッ! ンッンッ!」
セレネもギンと同じように声を漏らす。兎人ちゃんたちに聞こえるように大きな声で。
もちろん返事は返って来ない。無事かどうかは関係無しに声帯を切られて声が出せない兎人ちゃんたちは声に出して返事を返すことができないのだ。
「ンッンッ。ンッンッ」
ギンを背中に乗せて飛んでいるセレネがゆっくりと地面に向かって降下していく。
地面に肉球のないもふもふの足が着く前――四メートルほどの高さからギンはセレネの背中から飛び降りた。
そしてすぐに兎人ちゃんたちを探し始める。
「はぁ……はぁ……」
少し動いただけで息が上がるのは、それだけ悪い未来を想像してしまっているからだ。
頭を激しく横に振り悪い未来をかき消そうとするがどうしても消えてくれない。
それどころか鼓動は早くなるばかり。悪寒のようなゾクゾクとした寒気も同時に感じるほど。
そんなギンに少しだけ希望が芽生えた瞬間があった。ギンの黒瞳に小さな大樹が映ったのだ。出発前と何一つ変わっていない小さな大樹。もしかしたら数ミリでも枝を伸ばしているかもしれないが、そこまで細かく測定していないので銀からしたら何一つ変わっていない小さな大樹なのだ。
(気配もしない。でもブドウたちがここを出るはずもない。それじゃ一体どこに? 誰かに連れて行かれたのか?)
そんなことを思考していると脳内から女性の声が。鼓膜にはウサギのような鳴き声が同時に届く。
《マスター》
「ンッンッ!」
《湧き水の方を》
「ンッンッ!」
その二つの声を聞いたギンは頭で言葉の処理するよりも先に体が動いていた。顔は湧き水が流れている方を向き、それに合わせて体が捻り付いていく。
言葉を処理し理解した頃には二、三歩足を動かし湧き水の方へと向かって行っていた。
そして嫌な予感を感じたのと同時にその予感が的中する。
「ブドウ! イチゴ! ミカン!」
拠点に戻ってきた時よりも遥かに大きく兎人ちゃんたちの名前を叫んだ。
不安、緊張、恐怖、絶望――ありとあらゆる全ての負の感情が混ざり合ったドス黒い『死の感情』がギンの心を支配しようと不協和音とともに向かっていく。
「……ブ、ド……ぅ……」
ブドウの名前を言い切る前に全てを理解してしまう。ブドウ、イチゴ、ミカンは死んだのだと。
では、黒瞳に映っているそれはなんだ?
ブドウ、イチゴ、ミカンの死体だ。それもウサ耳を両耳とも斬り落とされ、服を脱がされ、乱暴にされた後の死体だ。
そんな死体が人形のように倒れている。
ギンは死体の前で膝から崩れ落ちた。
似ている兎人ちゃんたちを見分ける特徴の一つであるウサ耳が斬り落とされていることで、ブドウ、イチゴ、ミカンの三人の見分けはつかない。
もう一つの特徴でもある宝石のような瞳は閉じていてわからない。
けれど約半年間共に過ごしたギンは、そんな特徴がなくても誰なのかすぐに見分けることができた。
だからこそすぐに悲しみがギンの心を包み込む。否、『死の感情』に混ざり合う。
「ブドウ……イチゴ……ミカン……ぅ……」
今度ははっきりと名前を呼んだ。そして名前を呼びながらその死体を一人ずつ自分の腕の中へと抱き寄せていく。
血なのか、涙なのか、涎なのか、はたまた別の液体なのか、兎人ちゃんたちを抱きしめるギンの膝に流れる。
流れている液体はまだ温かい。死後硬直もなく、小さな体も熱が残っている。そのことがギンにさらに追い討ちをかける。
もう少し早ければ助けられたのではないのか、蜃気楼を二重に張り、いち早く何者かの存在に気付くことができたのではないかと。
悔しさと情けなさ、そして後悔がさらにギンの『死の感情』へと混ざり合っていく。
抱きしめているブドウの頭にギンの大粒の涙がこぼれ落ちた。その瞬間、ギンは自分が泣いていることにやっと気付く。それも子供のように声を上げ、鼻水を垂らしながら。
あらゆる感情が混ざり合った『死の感情』というものは、どうやら五感や判断力を鈍らせるようだ。
ギンは自分が泣いていることを理解すると、今度は遠慮くすことなく泣き喚いた。
産声を上げた時と同じくらい泣き喚いているのだ。
生まれてくる命も失っていく命もどちらに対しても人は涙を流す生き物なのである。
怒りの感情がやってきたのはこの後だ。
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す――。
死の感情と怒りの感情を混ぜ合わせるのは危険だ。
どんな善人でも刹那の一瞬で悪人に変わってしまうのだから。
しかし、ギンは悪人にはならなかった。なれなかった。
腕の中で抱きしめる兎人ちゃんたちから離れたくなかったのだ。わずかな熱を逃したくなかったのだ。
兎人ちゃんたちの小さな体に熱が残っているということは、殺されてから時間はほとんど経過していないということ。
殺人犯は近くにいるのだ。今から殺人犯を探せば見つけられるかもしれない。むしろ今から探さなければ見つけられたものも見つけられなくなる可能性がある。
怒りの感情に身を任せて兎人ちゃんたちにしたこと以上のことをその殺人犯にすることも可能だ。
そんな復讐心を兎人ちゃんたちの小さな温もりが抑えてくれている。死の感情もゆっくりと溶かしてくれている。
死の感情と怒りの感情が溶けたら残るのは虚無感と喪失感だ。
「守るって……した、のに……守るって……約束、した、のに……守れなかった……守ってあげられなかった……」
虚無感と喪失感の中ギンは、兎人ちゃんたちを温かな緑色の光で包み込む。治癒魔法だ。
兎人ちゃんたち抱きしめている両腕腕や手のひら、胸、腹、兎人ちゃんたちの体に少しでも触れている箇所から治癒魔法を放ち続けている。
死者を生き返らせることができないと知りながらも治癒魔法を放ち続ける。
そして抱き締め続ける。冷たくなっても、硬直しても、流れる血が凝血しても、他の液体が乾いても、その小さな体を抱き続けた。
そんな状態が二日間続いたのだった。
時間が過ぎていく感覚はあるが、どれくらい過ぎたのかは全くと言っていいほどわかっていない。
兎人ちゃんたちを見つけた時となんら変わらない天気と時間帯が原因だ。
さらに言うと兎人ちゃんたちにかけ続けている治癒魔法が継続しているのも原因だろう。魔力が切れれば時間が経ったのだと普通ならわかるしそれが判定にもなる。しかし、膨大な魔力を持つギンの魔力は切れることがないのだ。
丸一日、もしかしたら丸二日、それ以上が経過しているかもしれないと思いながらも数分しか経っていないのではないかとも思ってしまう不思議な時間感覚に襲われている。
時差ぼけという言葉があるがそれとはまた違う異質の現象をギンは味わっているのだ。
虚無感と喪失感と怒りの感情と、兎人ちゃんたちの死体を発見したときに感じた負の感情、そこからの死の感情。
そのあらゆる全ての感情が小さくなり、自我を取り戻したギンはブドウ、イチゴ、ミカンの死体を大事そうに抱きしめながら立ち上がった。
振り向けばギンの後ろにはセレネがいた。セレネもギンと同じく二日間ありとあらゆる感情に心を支配されていたのである。
「ンッンッ」
「…………ごめん。もう大丈夫」
大丈夫と言ったギンだが、全くそうではなかった。
声は冷たく静か。瞳の色はさらに黒色に染まっている。肌も青白くなっており、目の下は赤く腫れていた。
「セレネこそ大丈夫?」
「ンッンッ」
セレネの『大丈夫』という声を聞いてギンは少しだけ安堵する。
セレネの心配をするほどギンの心は回復しているようだ。そもそも立ち上がった時点で一歩前進している。
ブドウ、イチゴ、ミカンの三人の硬直した小さな体を抱き抱えるギンは、そのまま歩いていく。
目的もなく歩いているわけではない。兎人ちゃんたちの墓を作るために歩き出したのだ。
その後ろをセレネはゆっくりと付いていく。
「兎人族は月に還るらしいが、それは魂だけだ。肉体はちゃんとここにある。それなら肉体は土に還してあげないといけないよな……」
ぶつぶつと呟くギン。
亡くなった兎人ちゃんたちに話しかけているのか、セレネに話しかけているのか、心の声に話しかけているのか。わからないほどギンは小声で呟いたのだった。
そしてギンは足を止めた。
ギンの正面には高さ四十センチほどの小さな大樹がある。
この大樹の隣に兎人ちゃんたちを埋めるつもりだ。
「来世というものがあるなら……またここで会おうな。この大樹を目印にしてさ。だからブドウ、イチゴ、ミカン。それまではゆっくりとお休み」
ギンは何度も何度も同じ言葉を語りかけながら兎人ちゃんたちを埋めていった。
セレネはそれを見守り続ける。漆黒の瞳で映し、心に刻みながら。
兎人ちゃんたちの墓ができると、ギンは黒いローブの内側に手を入れて何かを探り始めた。
直後、手を引くと三本の小型の刃物が出てきた。兎人ちゃんたちと初めて出会ったときに奪ったあの刃物だ。
その刃物を兎人ちゃんたちの墓の上に置いた。ブドウにはブドウの。イチゴにはイチゴの。ミカンにはミカンの。
その後、瞳を閉じて数分間合掌をした。
合掌を終えたギンは立ち上がり、東の方角を見た。
ギンの黒瞳はドス黒い殺気に満ち溢れていた。
0
お気に入りに追加
449
あなたにおすすめの小説
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
【完結】契約結婚は円満に終了しました ~勘違い令嬢はお花屋さんを始めたい~
九條葉月
ファンタジー
【ファンタジー1位獲得!】
【HOTランキング1位獲得!】
とある公爵との契約結婚を無事に終えたシャーロットは、夢だったお花屋さんを始めるための準備に取りかかる。
花を包むビニールがなければ似たような素材を求めてダンジョンに潜り、吸水スポンジ代わりにスライムを捕まえたり……。そうして準備を進めているのに、なぜか店の実態はお花屋さんからかけ離れていって――?
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
おっさんの異世界建国記
なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。
本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。
なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。
しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。
探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。
だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。
――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。
Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。
Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。
それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。
失意の内に意識を失った一馬の脳裏に
――チュートリアルが完了しました。
と、いうシステムメッセージが流れる。
それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる