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第4章:恋愛『相性診断をやってみた編』
210 タマゴ型のデバイス
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「相性診断ってあの相性診断か?」
「はい。あの相性診断です」
あのと、マサキとビエルネスは言っているものの、はっきりしたものを想像していない。なぜなら相性診断というものは一つしかないからだ。
マサキは立ち上がり、ウッドテーブルの上に置かれているタマゴサイズの機械を観察する。決して手に取ろうとしないのは、人間不信や臆病な性格が原因だ。
ネージュとクレールもマサキと同じようにタマゴサイズの機械を観察する。興味津々なのだが、二人も怖がりな部分があり手に取ろうとはしなかった。
「なんかタマゴみたいな形ですね」
「確かにな……」
冷静に答えるマサキだったが、彼はタマゴサイズの卵型の機械を見て衝撃を受けていた。なぜ衝撃を受けていたのかというとその形に見覚えがあったからである。
(これって日本でめちゃくちゃ流行ってたタマゴ型の育成ゲームに似てるんだが……気のせいか? いや、たとえ異世界だとしても酷似してる物くらいあるよな。家具とか調理器具とかまんま一緒だし……)
マサキの頭の中にあるのは、日本で大人気のタマゴ型育成ゲームの機械だ。その機械とビエルネスが持ってきた相性を診断する機械が酷似しているのである。
その一致率はあまりにも高く、タマゴ型でタマゴサイズの機械というだけでなく、画面やボタンの位置までも正確に一致しているのだ。
ただ、一つだけ違うのは上部に二箇所、何かを入れる部分が存在するのである。コントローラーなどで表すとLとRの部分だ。
「そんなに怖がらないでくださいよ。触っても襲ったりしませんよ」
「いや、襲われるとは思ってないよ。ただ精密機械っぽいから壊してしまわないかってことで恐れてる」
「大丈夫ですよ。見た目はタマゴみたいですが、素材は火竜の牙とか爪ですから滅多なことがないと壊れませんよ」
「さ、さすが火竜……見たことはないけど……」
この世界で何かと素材に使われるのが火竜の爪や牙そして鱗などだ。実際この家の中でも火を起こすのに必要な道具として火竜の鱗がある。そして以前ノギリを作る際にも鍛冶場で火竜の爪をマサキとネージュは見たことがあるのだ。
それほど、火竜の素材は生活には欠かせない素材なのである。
「マスターは火竜を見たことがないんですか?」
「普通見たことないだろ? え? あるの? ネージュとクレールは?」
ビエルネスの当たり前のように出た言葉に、普通というものがなんなのか分からなくなってしまったマサキは、ネージュとクレールに問いかけた。
そもそもここは異世界だ。マサキの普通というものは通用しない世界である。
「見たことありませんね」
「クーも絵本でしか見たことがないぞー」
どうやらマサキの火竜を見たことがないというのは普通のことだった。
「良かった。俺は普通だった」
しかし、次のビエルネスの発言でマサキの火竜に対する常識が覆されてしまう。
「火竜は二足歩行で歩いて、人目を気にする謂わばネージュ様と同じく恥ずかしがり屋な種族ですよ。いつもタイジュグループに素材を持ってくるんですが、影でこそこそやってて怪しい取引して流みたいなんですよ~。それほど恥ずかしがり屋なんです」
「え? マジで? 素材って自ら提供してる感じなの?」
想像の火竜と現実の火竜の違いにマサキは、カルチャーショックを受けた。
そんなマサキの横にいる白銀髪の美少女ネージュは――
「わかります。わかります」
火竜の気持ちを理解して勝手に親近感を湧いていたのだった。
そしてマサキの火竜に対するイメージを崩す発言はこれだけではなかった。
「翼が小さすぎて空も飛べないんだぞー」
「あー、もうやめて。俺の中のかっこいい火竜がどんどんみすぼらしくなっていくー!」
「あと火もちょっとしか――」
「やめてくれー!」
クレールの発言にマサキは頭を抱えて項垂れるのであった。
こうしている間にも時間は過ぎていき、気が付けばダールたちが朝食を食べにくる時間になっていた。
そして家の扉が開く音と足音がマサキたちの耳に届いた。
「おはよー」
「おはよー」
と、太陽のように明るい笑顔で元気いっぱいに挨拶をする双子の姉妹のデールとドール。
そんな双子の姉妹とは対極的で、げっそりとして腹を空かしながら入ったのは長女のダールだった。
「おはよう……ざい……ッス」
部屋に入った双子の姉妹が真っ先に目に入ったのは、やはりビエルネスだった。
「ビエルネスちゃんだー」
「ビエルネスちゃんだー」
「デール様ドール様そしてデール様、おはようございます! これで役者は揃いましたね!」
普段はいない存在のビエルネスがいることによって朝からテンションが上がるデールとドール。
ジェラ三姉妹が来たということでビエルネスは、相性診断の機械を使いたくてうずうずし始める。
しかし、すぐに相性診断へと移行しない。なぜなら今は朝。そう、朝食の時間なのだから。
「もうこんな時間に。急いで朝食を用意しないと!」
壁にかけてある小さな時計を見てネージュは慌て始めた。朝食が遅れてしまえば学舎に通うデールとドールが遅刻してしまうからである。
しかし、その心配は必要ない。なぜなら――
「ね、姉さん……きょ、うは、学舎……やす、み、ッス……」
「あっ、そうでした。今日は休みでしたね!」
ビエルネスが今日やって来たのも、デールとドールの学舎が休みだと知っていたからである。
相性診断をビエルネスとルナを含めた八人全員で、全通りつまり二十八通りやりたいと考えているのだ。
「だから、ゆっく、り……でも、はや、く……おな、かが……ッス……」
「わかりましたよ。待っててください」
ダールはネージュに気を使いゆっくりでもいいと言おうとしたが、腹ペコなせいで一刻も早く食べ物を胃に入れたかったのである。
そんなダールの要望に応えるべくネージュは、ニンジン柄のエプロンを着て腕をまくり調理に取り掛かかり始めた。
「おねーちゃん手伝うぞー!」
「はい。よろしくお願いします」
クレールはネージュの手伝いをするため、ネージュと同じニンジン柄のエプロンを着て台所へと向かった。
そんな中、ウッドテーブルの前の自分の席についたデールとドールは、ウッドテーブルの上に置かれている相性診断ができるタマゴ型の機械に気が付いた。
「これなーに?」
「これなーに?」
双子の姉妹のシンクロ率は高く、ほぼ同時に首を傾げて口を開いたのだった。
そんな双子の姉妹の質問に答えるべく、ビエルネスは口を開く。
「ちょうど全員揃いましたし、簡単にこの機械の説明しましょう!」
ビエルネスは意気揚々とタマゴ型の『相性診断』の機械について説明を始めた。
ビエルネスが話した内容はこうだ。
タマゴ型の相性を診断する機械の主な機能は三つ。
まず一つ目はモニター。
中央にあるモニターで相性診断した者の相性が表示されるというもの。その表示段階は細かく0から100だ。数字が高ければ高いほど相性も高い。
続いて二つ目はボタン。
これは操作するためのボタン。主にモニターに映し出された相性診断に必要な情報を入力する際に使うとのこと。その項目は種族と性別と年齢の三つだ。この三つを入力しなければならないのである。
最後に三つ目はポケット。
タマゴ型の機械の上部には二つのポケットがあり、そのポケットには相性診断する者の髪の毛を一本入れなければならない。髪の毛がない場合は他の毛でも構わない。そして毛がない場合は皮膚などでも代用することが可能だ。
この相性診断は特殊な魔法が施されており、相性を正確に判断することができる。誤差は無いに等しいと思っても構わないほどに。
「――という感じなんですよ~。朝食食べ終わったらやりましょうよ~」
ウキウキと胸を躍らせているビエルネスに対してマサキは悩んでいた。
この相性診断の結果次第で告白の返事を先送りにしているダールとの関係が変わってしまうのでは無いかと懸念しているのだ。
相性が良ければそれでいい、しかし相性が最悪だった場合、告白の返事をする前に絶望を与えてしまう可能性がある。
(そうなった場合が最悪だよな。というかこの相性診断の機械なんのために作られたんだよ。下手したら争いしか生まないんじゃ無いか? とにかく早めに断らなきゃな)
マサキは断ることを選んだ。
マサキは、マスターマスターと慕うビエルネスなら自分の言うことを聞いてくれると、この時まではそう思っていた。
「すっごく正確な相性診断なんだろ? 気まずくなるからやめない?」
「いいえ。絶対やりたいです」
「うんうん。ビエルネスなら俺の言うこと聞いてくれるとおも……今なんて言った?」
「絶対やりたいですって言いましたよ」
マサキは絶望した。
言うことを聞いてくれると思っていたはずのビエルネスがマサキの言葉を瞬時に拒否したからだ。
「なんでだよー! いつもなら『マスターが言うなら~』とか言って言うこと聞いてくれるだろー!」
「だって、これによってマスターとの相性が判明するんですよ。私とマスターの100という数字がここに表示されるんですよ!」
「もしも0だったらどうすんだよ。な? 嫌だろ? やめようぜ」
「いいえ。0だった場合はこれから100にしていけばいいじゃないですか~。お互いの愛を深め合いましょうよ~」
「なんてポジティブな妖精なんだ。くそっ……ダメだ。俺の力じゃ説得できねー」
マサキは膝から崩れ落ち悔しそうに床を何度も叩いた。
ネガティブ思考なマサキだからこそ、ポジティブな発言には弱くラリーを続けることが困難なのである。
「たまにはいいじゃないですか、こういうのも」
と、朝食を作り終えたネージュが、朝食をウッドテーブルの上に置きながら言った。
「相性が最悪だったら恥ずかしくないのか?」
「う~ん。それでしたら相性が高い方が恥ずかしいですね。低かったら残念な気持ちになります」
「だよなだよな。だったらやめようぜ」
「でもですねマサキさん」
ネージュは細くて綺麗な人差し指を立てた。左手は腰に当てている。
「この相性診断は今の相性診断ですよ。ビエルネスちゃんが言っていたように0だったら100にしていけばいいんですよ!」
そんなネージュの前向きな発言に、ビエルネスはうんうんと何度も頷き共感するのであった。
「ネージュの言いたいことはわかるけど……お、俺はパスだ。やりたくない」
臆病なマサキは、それでも拒む。拒み続ける。
そんなマサキを見てさすがのビエルネスもマサキの意見を汲むしかなかった。
「マスターわかりましたよ」
「ほ、本当か!? 本当だな!?」
まるで無実が証明された子供のように満面の笑みを浮かべるマサキ。
「はい。本当ですよ。でもせっかく持って来たので、やりたい人だけでやりましょう! それならいいですよね?」
「うん! うん! ありがとうビエルネス。やっぱりお前は最高の妖精だよ」
「うっ、えっ? マ、マスターが私に発情している!? ハァハァ……なんて幸せな……ハァハァ……これは相性診断120点~。機械が壊れちゃいますよ~ハァハァ、わ、私も壊れちゃいそうです~ハァハァ……」
ビエルネスは半透明の羽を物凄い勢いでパタパタとさせて喜びを表現していた。
「もうずっと前から壊れてるぞ」
「あはは~マスターったら~、照れないでくださいよ~ハァハァ……」
息を荒げるビエルネスはマサキの頭の上に乗った。普段なら嫌がるマサキだが、今日だけは嫌がれずに好きにやらせている。
もしも、ここで嫌がってしまえば、せっかく手に入れた相性診断の不参加が取り消されてしまうかもしれないからだ。
「ハァハァ……」
マサキは黒髪がビエルネスのヨダレで濡れたとしても拒むことはなかった。
そうこうしているうちに、朝食の準備が終了する。
「いつまで漫才してるんですか? 食べますよー」
マサキに優しく声をかけたネージュは、マサキの隣の席に座る。そこがいつもの定位置だからだ。
そしてネージュが席についたことによって、全員が席についたことになる。あとは挨拶をするだけ。
「いただきますだぞー!」
今日の『いただきます』の挨拶はクレールが言った。クレールの可愛らしい声が耳に届くと、皆、反射的に口を開く。『いただきます』と。
マサキは相性診断に対する懸念が晴れて一安心しながら朝食を食べることができたのだった。
「はい。あの相性診断です」
あのと、マサキとビエルネスは言っているものの、はっきりしたものを想像していない。なぜなら相性診断というものは一つしかないからだ。
マサキは立ち上がり、ウッドテーブルの上に置かれているタマゴサイズの機械を観察する。決して手に取ろうとしないのは、人間不信や臆病な性格が原因だ。
ネージュとクレールもマサキと同じようにタマゴサイズの機械を観察する。興味津々なのだが、二人も怖がりな部分があり手に取ろうとはしなかった。
「なんかタマゴみたいな形ですね」
「確かにな……」
冷静に答えるマサキだったが、彼はタマゴサイズの卵型の機械を見て衝撃を受けていた。なぜ衝撃を受けていたのかというとその形に見覚えがあったからである。
(これって日本でめちゃくちゃ流行ってたタマゴ型の育成ゲームに似てるんだが……気のせいか? いや、たとえ異世界だとしても酷似してる物くらいあるよな。家具とか調理器具とかまんま一緒だし……)
マサキの頭の中にあるのは、日本で大人気のタマゴ型育成ゲームの機械だ。その機械とビエルネスが持ってきた相性を診断する機械が酷似しているのである。
その一致率はあまりにも高く、タマゴ型でタマゴサイズの機械というだけでなく、画面やボタンの位置までも正確に一致しているのだ。
ただ、一つだけ違うのは上部に二箇所、何かを入れる部分が存在するのである。コントローラーなどで表すとLとRの部分だ。
「そんなに怖がらないでくださいよ。触っても襲ったりしませんよ」
「いや、襲われるとは思ってないよ。ただ精密機械っぽいから壊してしまわないかってことで恐れてる」
「大丈夫ですよ。見た目はタマゴみたいですが、素材は火竜の牙とか爪ですから滅多なことがないと壊れませんよ」
「さ、さすが火竜……見たことはないけど……」
この世界で何かと素材に使われるのが火竜の爪や牙そして鱗などだ。実際この家の中でも火を起こすのに必要な道具として火竜の鱗がある。そして以前ノギリを作る際にも鍛冶場で火竜の爪をマサキとネージュは見たことがあるのだ。
それほど、火竜の素材は生活には欠かせない素材なのである。
「マスターは火竜を見たことがないんですか?」
「普通見たことないだろ? え? あるの? ネージュとクレールは?」
ビエルネスの当たり前のように出た言葉に、普通というものがなんなのか分からなくなってしまったマサキは、ネージュとクレールに問いかけた。
そもそもここは異世界だ。マサキの普通というものは通用しない世界である。
「見たことありませんね」
「クーも絵本でしか見たことがないぞー」
どうやらマサキの火竜を見たことがないというのは普通のことだった。
「良かった。俺は普通だった」
しかし、次のビエルネスの発言でマサキの火竜に対する常識が覆されてしまう。
「火竜は二足歩行で歩いて、人目を気にする謂わばネージュ様と同じく恥ずかしがり屋な種族ですよ。いつもタイジュグループに素材を持ってくるんですが、影でこそこそやってて怪しい取引して流みたいなんですよ~。それほど恥ずかしがり屋なんです」
「え? マジで? 素材って自ら提供してる感じなの?」
想像の火竜と現実の火竜の違いにマサキは、カルチャーショックを受けた。
そんなマサキの横にいる白銀髪の美少女ネージュは――
「わかります。わかります」
火竜の気持ちを理解して勝手に親近感を湧いていたのだった。
そしてマサキの火竜に対するイメージを崩す発言はこれだけではなかった。
「翼が小さすぎて空も飛べないんだぞー」
「あー、もうやめて。俺の中のかっこいい火竜がどんどんみすぼらしくなっていくー!」
「あと火もちょっとしか――」
「やめてくれー!」
クレールの発言にマサキは頭を抱えて項垂れるのであった。
こうしている間にも時間は過ぎていき、気が付けばダールたちが朝食を食べにくる時間になっていた。
そして家の扉が開く音と足音がマサキたちの耳に届いた。
「おはよー」
「おはよー」
と、太陽のように明るい笑顔で元気いっぱいに挨拶をする双子の姉妹のデールとドール。
そんな双子の姉妹とは対極的で、げっそりとして腹を空かしながら入ったのは長女のダールだった。
「おはよう……ざい……ッス」
部屋に入った双子の姉妹が真っ先に目に入ったのは、やはりビエルネスだった。
「ビエルネスちゃんだー」
「ビエルネスちゃんだー」
「デール様ドール様そしてデール様、おはようございます! これで役者は揃いましたね!」
普段はいない存在のビエルネスがいることによって朝からテンションが上がるデールとドール。
ジェラ三姉妹が来たということでビエルネスは、相性診断の機械を使いたくてうずうずし始める。
しかし、すぐに相性診断へと移行しない。なぜなら今は朝。そう、朝食の時間なのだから。
「もうこんな時間に。急いで朝食を用意しないと!」
壁にかけてある小さな時計を見てネージュは慌て始めた。朝食が遅れてしまえば学舎に通うデールとドールが遅刻してしまうからである。
しかし、その心配は必要ない。なぜなら――
「ね、姉さん……きょ、うは、学舎……やす、み、ッス……」
「あっ、そうでした。今日は休みでしたね!」
ビエルネスが今日やって来たのも、デールとドールの学舎が休みだと知っていたからである。
相性診断をビエルネスとルナを含めた八人全員で、全通りつまり二十八通りやりたいと考えているのだ。
「だから、ゆっく、り……でも、はや、く……おな、かが……ッス……」
「わかりましたよ。待っててください」
ダールはネージュに気を使いゆっくりでもいいと言おうとしたが、腹ペコなせいで一刻も早く食べ物を胃に入れたかったのである。
そんなダールの要望に応えるべくネージュは、ニンジン柄のエプロンを着て腕をまくり調理に取り掛かかり始めた。
「おねーちゃん手伝うぞー!」
「はい。よろしくお願いします」
クレールはネージュの手伝いをするため、ネージュと同じニンジン柄のエプロンを着て台所へと向かった。
そんな中、ウッドテーブルの前の自分の席についたデールとドールは、ウッドテーブルの上に置かれている相性診断ができるタマゴ型の機械に気が付いた。
「これなーに?」
「これなーに?」
双子の姉妹のシンクロ率は高く、ほぼ同時に首を傾げて口を開いたのだった。
そんな双子の姉妹の質問に答えるべく、ビエルネスは口を開く。
「ちょうど全員揃いましたし、簡単にこの機械の説明しましょう!」
ビエルネスは意気揚々とタマゴ型の『相性診断』の機械について説明を始めた。
ビエルネスが話した内容はこうだ。
タマゴ型の相性を診断する機械の主な機能は三つ。
まず一つ目はモニター。
中央にあるモニターで相性診断した者の相性が表示されるというもの。その表示段階は細かく0から100だ。数字が高ければ高いほど相性も高い。
続いて二つ目はボタン。
これは操作するためのボタン。主にモニターに映し出された相性診断に必要な情報を入力する際に使うとのこと。その項目は種族と性別と年齢の三つだ。この三つを入力しなければならないのである。
最後に三つ目はポケット。
タマゴ型の機械の上部には二つのポケットがあり、そのポケットには相性診断する者の髪の毛を一本入れなければならない。髪の毛がない場合は他の毛でも構わない。そして毛がない場合は皮膚などでも代用することが可能だ。
この相性診断は特殊な魔法が施されており、相性を正確に判断することができる。誤差は無いに等しいと思っても構わないほどに。
「――という感じなんですよ~。朝食食べ終わったらやりましょうよ~」
ウキウキと胸を躍らせているビエルネスに対してマサキは悩んでいた。
この相性診断の結果次第で告白の返事を先送りにしているダールとの関係が変わってしまうのでは無いかと懸念しているのだ。
相性が良ければそれでいい、しかし相性が最悪だった場合、告白の返事をする前に絶望を与えてしまう可能性がある。
(そうなった場合が最悪だよな。というかこの相性診断の機械なんのために作られたんだよ。下手したら争いしか生まないんじゃ無いか? とにかく早めに断らなきゃな)
マサキは断ることを選んだ。
マサキは、マスターマスターと慕うビエルネスなら自分の言うことを聞いてくれると、この時まではそう思っていた。
「すっごく正確な相性診断なんだろ? 気まずくなるからやめない?」
「いいえ。絶対やりたいです」
「うんうん。ビエルネスなら俺の言うこと聞いてくれるとおも……今なんて言った?」
「絶対やりたいですって言いましたよ」
マサキは絶望した。
言うことを聞いてくれると思っていたはずのビエルネスがマサキの言葉を瞬時に拒否したからだ。
「なんでだよー! いつもなら『マスターが言うなら~』とか言って言うこと聞いてくれるだろー!」
「だって、これによってマスターとの相性が判明するんですよ。私とマスターの100という数字がここに表示されるんですよ!」
「もしも0だったらどうすんだよ。な? 嫌だろ? やめようぜ」
「いいえ。0だった場合はこれから100にしていけばいいじゃないですか~。お互いの愛を深め合いましょうよ~」
「なんてポジティブな妖精なんだ。くそっ……ダメだ。俺の力じゃ説得できねー」
マサキは膝から崩れ落ち悔しそうに床を何度も叩いた。
ネガティブ思考なマサキだからこそ、ポジティブな発言には弱くラリーを続けることが困難なのである。
「たまにはいいじゃないですか、こういうのも」
と、朝食を作り終えたネージュが、朝食をウッドテーブルの上に置きながら言った。
「相性が最悪だったら恥ずかしくないのか?」
「う~ん。それでしたら相性が高い方が恥ずかしいですね。低かったら残念な気持ちになります」
「だよなだよな。だったらやめようぜ」
「でもですねマサキさん」
ネージュは細くて綺麗な人差し指を立てた。左手は腰に当てている。
「この相性診断は今の相性診断ですよ。ビエルネスちゃんが言っていたように0だったら100にしていけばいいんですよ!」
そんなネージュの前向きな発言に、ビエルネスはうんうんと何度も頷き共感するのであった。
「ネージュの言いたいことはわかるけど……お、俺はパスだ。やりたくない」
臆病なマサキは、それでも拒む。拒み続ける。
そんなマサキを見てさすがのビエルネスもマサキの意見を汲むしかなかった。
「マスターわかりましたよ」
「ほ、本当か!? 本当だな!?」
まるで無実が証明された子供のように満面の笑みを浮かべるマサキ。
「はい。本当ですよ。でもせっかく持って来たので、やりたい人だけでやりましょう! それならいいですよね?」
「うん! うん! ありがとうビエルネス。やっぱりお前は最高の妖精だよ」
「うっ、えっ? マ、マスターが私に発情している!? ハァハァ……なんて幸せな……ハァハァ……これは相性診断120点~。機械が壊れちゃいますよ~ハァハァ、わ、私も壊れちゃいそうです~ハァハァ……」
ビエルネスは半透明の羽を物凄い勢いでパタパタとさせて喜びを表現していた。
「もうずっと前から壊れてるぞ」
「あはは~マスターったら~、照れないでくださいよ~ハァハァ……」
息を荒げるビエルネスはマサキの頭の上に乗った。普段なら嫌がるマサキだが、今日だけは嫌がれずに好きにやらせている。
もしも、ここで嫌がってしまえば、せっかく手に入れた相性診断の不参加が取り消されてしまうかもしれないからだ。
「ハァハァ……」
マサキは黒髪がビエルネスのヨダレで濡れたとしても拒むことはなかった。
そうこうしているうちに、朝食の準備が終了する。
「いつまで漫才してるんですか? 食べますよー」
マサキに優しく声をかけたネージュは、マサキの隣の席に座る。そこがいつもの定位置だからだ。
そしてネージュが席についたことによって、全員が席についたことになる。あとは挨拶をするだけ。
「いただきますだぞー!」
今日の『いただきます』の挨拶はクレールが言った。クレールの可愛らしい声が耳に届くと、皆、反射的に口を開く。『いただきます』と。
マサキは相性診断に対する懸念が晴れて一安心しながら朝食を食べることができたのだった。
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この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。
戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
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