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第4章:恋愛『相性診断をやってみた編』

209 突然の目覚め

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 目覚めは突然だ。異世界へ転移した二百八十日前だって突然だった。
 しかし、その突然は運命や意味があってのこと。

 今まさに眠りから目覚めたマサキも意味があって目覚めたのである。

「……おばあ、ちゃ、ん……」

 月明かりだけが照らす部屋の中、その月明かりに照らされている白銀髪の美少女は涙を流しながら眠っていた。
 亡き祖母の名を呼ぶことから、亡き祖母が夢に出てきているのだろう。寂しさからか、懐かしさからか、はたまた悲しさからか、亡き祖母のことを想い白銀髪の美少女ネージュは涙を流す。

 そんな彼女の綺麗な一粒の涙を黒瞳に映した青年は自分が目覚めた意味を悟った。
 彼女を――ネージュを慰めるためなのだと。否、慰めや励ましとは少し違う。夢を見ている相手に対しての行動ならば、『安心させる』が正しいだろうと、この時のマサキは無意識にそう思った。

「悪夢……ではなさそうだな」

 マサキは、艶めく白銀の髪にゆっくり手を伸ばす。そして子供を寝かしつける親のように優しく髪を撫でる。
 眠っている相手、しかも異性の体の一部を触るなど卑劣な行動だと思われ誤解されるだろう。
 ただマサキはそれでもいいと思っている。誤解されて変態扱いされてもいい。辛辣な言葉が返ってきてもいい。殴られてもいい。今のマサキは、涙を流すネージュに安心してもらいたいのだ。ただそれだけなのだ。

 そんなマサキの想いが届いたのか、ネージュの涙は止まり、寝息を溢すまで落ち着きを取り戻した。

「……フヌーフヌー」

 聴き慣れた寝息とリズムに、マサキも安堵する。そして耳を澄ませば、クレールとルナの寝息もマサキの耳に届く。

「……ハフーハフー」
「……ンーンッンッンー」

 マサキにとっては癒しのBGM。独りじゃないんだと心が落ち着き、眠りへと誘うヒーリングミュージックなのだ。

(あっぶない。このまま寝落ちするところだった。髪触ってんのバレたら絶対変な目で見られるからな。『ウサ耳も触りましたよね』とか怒鳴られそう)

 マサキは、すやすやと眠るネージュの頭から手を離して布団の中へと戻した。そして、ネージュの顔を一度確認してから瞳を閉じ眠るための準備を始める。

 ネージュ、クレール、ルナの癒しの寝息のおかげで一瞬で寝れると思っていたマサキだったが、すぐに瞳を開いた。
 眠れないと悟っとからではない。異常を感じたからだ。その異常とは――

「フヌーフヌー」

 ネージュだ。
 ネージュがマサキの体を抱き枕にしているのである。

「……ちょっ!」

 ネージュの寝相は悪い。しかし、今回ばかりは違う理由で寝相が悪いのである。

「……おばあ、ちゃん」

 マサキが髪を撫でてネージュを安心させてしまったがために、夢の中のネージュはマサキをおばあちゃんだと思って抱き付いてしまったのである。

(……まぁ、抱き枕になるくらい、いつものことか。どうせ寝相を直しても朝には抱き枕になってるか、してるかのどっちかだしな。このまま寝るか)

 マサキもネージュと同じく寝相が悪いのだ。だからここで抱きつき返したとしても誰も責めたりはしないだろう。

(ミルク石鹸の香り……それに、柔ら、か、い…………)

 マサキの意識はネージュの香りと癒しボディ――豊満な兎人族の胸マフマフによって、すぐに夢の中へと誘われたのであった。



 ――翌朝。


 眠りとは目覚めてしまえば刹那の一瞬。瞳を閉じてから開けるまでの長い瞬きだ。

「……んうぅ、ぁ……」

 マサキは寝苦しさから起床する。そしていつも通りの朝を迎える。

「ンッンッ」

 可愛らしい漏れた声を出しているイングリッシュロップイヤーのルナは、マサキの寝苦しさの原因の一つだ。
 ルナは仰向けになっているマサキの顔面の上で、鼻をひくひくとさせながら箱座りをしていた。マサキの鼻や口は塞がっていないため、大きめのもふもふのアイマスクだと思ってもらって構わない。

「ぬぅうん。おにーちゃぬぅん……」

 可愛らしい寝言が聞こえてきたのはマサキの布団の中から。
 マサキの布団の中に潜り込み、マサキの上でよだれを垂らしながら寝ているのは薄桃色の髪をした兎人族とじんぞくの美少女クレールだ。
 仰向けで眠るマサキの体の上におさまるほど、クレールの体は小柄で小さい。そして軽い。だが、寝苦しさの原因の一つである。

「フヌーフヌー」

 寝息をこぼしながら気持ちよく寝ているのは、昨夜、眠りながら泣いていた白銀色の髪をした兎人族とじんぞくの美少女のネージュだ。
 昨夜と変わらずにマサキを横から抱きしめ、マサキを抱き枕にしながら寝ている。そして豊満な胸、兎人族の胸マフマフからは、いやらしいフェロモンとミルク石鹸の香りがマサキの鼻腔を通っていく。

(……う、動けん)

 正確には動けないのではなく、動きたくないのだ。

(こういう時は二度寝に限るよな。これが俺が求めているスローライフの一つってことで……)

 マサキは再び眠りにつこうと試みる。だがしかし、マサキは先ほどまで感じなかった別の違和感を感じ取った。


 カサカサ


(ん? カサカサ?)


 カサカサ


(ん? ん?)

 マサキの首元に謎の違和感、カサカサと紙のようなものが当たる感覚があったのだ。その違和感はネージュでもクレールでもルナのものでもない。
 その瞬間、マサキの頭の中で警報が鳴った。危険を知らせる警報だ。

「む、虫ぃいい!?」

 マサキは飛び起きた。

 頭の上にいたルナは、マサキが飛び起きたことにより吹き飛ぶ。しかし、イングリッシュロップイヤーの特徴的な長いウサ耳を器用に使い、落下速度を落として短い手足で怪我なく無事に着地する。

 マサキの腹の上で寝ていたクレールはというと――

「いてててて、な、なんだ?」

 マサキの腹の上から転がり、床に背中を打ってしまっていた。目覚めとしては最悪の目覚めだ。
 そんな中、最も最悪な目覚めをしたのはネージュだった。

「……ちょ、ちょ、ちょっと、マサキさん! な、な、な、何してるんですかー!」

 ネージュは顔を赤らめ恥ずかしがりながら目覚めたのだ。
 なぜなら、首元の違和感を感じて飛び起きたマサキの飛んだ先がネージュのおっぱいマフマフだったからである。おしどり夫婦であっても、長年夫婦だとしても、寝ている自分の胸にパートナーが飛び込んできたら驚くし恥ずかしいものだ。
 特に恥ずかしがり屋のネージュは正気ではいられなかった。

「こ、この変態さん!!」

 ネージュは勢いのまま谷間に挟まるマサキを両腕で押して吹き飛ばした。

「――ヌ、ゴログァッ」

 ネージュに吹き飛ばされたマサキは、誤解を解くために慌てながら口を開く。

「ち、違うんだ。誤解だ」

「な、何が違うんですか! 私のことを襲おうとしてたじゃないですか!」

「それが誤解だって言ってるんだよ」

「じゃあなんなんですか!? 説明してください」

「あ、あれはだな。ラッキースケベというもので……」

「そうやってラッキースケベさんのせいにして。や、やっぱり、私のことを……」

 ネージュは顔を赤らめたまま布団に包まり豊満な胸どころか全身を隠す。そして会話を続行するために顔だけをひょっこりと出した。

「しまった。余計にややこしくしてしまった。えーっとだな。首元に虫がいたんだよ。カサカサって音がして、なんか羽みたいなのが当たってて、それで反射的に逃げようとしたら……ネージュのマフマフに……」

「ええ! む、虫ですか!? ど、どこですか!?」

「お、おにーちゃん、早く言ってよ! 虫ってどんな虫なのー?」

「マスター! 虫が出たって本当ですか? 私自分より大きい虫無理なんですよー!」

 異世界でも、兎人族とじんぞくでも、でも女の子は女の子。虫が苦手なのである。

「い、いや待て、みんな落ち着け。ただ、違和感を感じただけであって、どんな虫だったか見てなかった。逃げた先がネージュのマフマフだったし、確認する余裕がなかったんだよ」

「そ、それじゃ、私よりも大きい可能性が!?」

「いや、さすがにビエルネスよりも大きかったら今視界の中に入ってるだろ。というかビエルネスも虫が嫌いなんだな」

「はい。可愛らしいマスターだけの女の子なので」

「なんだそれ……って、虫の正体お前じゃねーか!?」

 カサカサと音が鳴りそうな半透明の羽。そして、普段はいるはずのないビエルネス。明らかにマサキが感じた違和感の正体がマサキの頭の上にいたのである。

「マスター。私のことを虫呼ばわりですか? ハァハァ……朝から激しいですね。ハァハァ……」

「不法侵入罪とセクハラの罪で聖騎士団を呼びますよ」

「も~う。マスターったら照れ隠しですか~?」

「うるせー! マジで虫だと思ってビビったんだからな」

「えへへ~。すいませんね」

「で、今日は何しにここに? というかいつから? いや、いつからって質問は却下。何しに来たかだけ教えてくれ」

 マサキは頭の上にいるビエルネスを優しく掴み手のひらの上に置いてから質問を始めた。
 いつから来たのかという質問の答えによっては、昨夜のネージュへのためにおこなったネージュを安心させるための行動の時からこの場にいた可能性か浮上してしまう。
 その可能性の有無を知りたくないマサキは、いつから来たのかという質問を取り消したのだった。

「ふっふっふっふ。今日はですね、タイジュグループの新商品で遊んでもらおうと思いやってきたのですよ」

 ビエルネスは自信に満ち溢れながら答えた。それほど新商品とやらがすごいのであろう。

「新商品って、お前何も持ってないじゃん」

「マスター、あちらをご覧ください」

 ビエルネスが指を差す方――ウッドテーブルの上へとマサキとネージュとクレールは視線を向けた。

「何もないじゃんかって言おうとしたが、なんか置いてあるわな……」

 ウッドテーブルの上には、この世界には不相応な小さな機械が置かれていた。
 どれほど小さいのかというと、子ウサギサイズのビエルネスが運べるほどのサイズ。ちょっと大きめの鶏卵くらいの大きさだ。

「そんで、この小さいのは何ができるんだ?」

「魔法を使った相性診断です!」

「「「相性診断!?」」」

 双子の姉妹デールとドールのようにマサキとネージュとクレールは声が揃ったのだった。
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