231 / 417
第4章:恋愛『授業参観編』
201 授業参観へ行くための特訓
しおりを挟む
夕焼け色の空の下、マサキとダールはデールとドールの授業参観へ行くための特訓が行われていた。
マサキたちがいるのは、敷地を出てすぐの道。ここなら何かあってもすぐに敷地内へと入れば問題が生じないからだ。
「お兄ちゃん頑張ってー!」
「お姉ちゃん頑張ってー!」
「頑張るんだぞー! わわわわわ、距離が近い……わわわわ」
デール、ドール、クレールの三人はマサキとダールを応援するちびっこ応援団だ。クレールだけ応援しながらそわそわとしていた。
「俺が震え出したら敷地内に投げ飛ばしてくれよ。これマジだかんな」
「わかってるッスよ。って投げ飛ばさないッスよ! 抱き抱えながら走って敷地内に戻すッスよ」
「だ、大丈夫かなぁ……」
不安しかないマサキ。
なぜなら外出中にマサキとネージュは二メートル以上離れることができないからだ。もし離れてしまった場合、『死ぬほどの苦しみ』を味わうこととなる。
それを避けたいマサキの心はすでに恐怖という鎖に縛り付けられていた。
「マ、マ、マ、マサキさ、さ、さん、ん、がん、ばっ……く…………さ、い……」
震えた声で応援するネージュもまた、マサキ同様に心を恐怖という鎖に縛り付けられていた。
あの『死ぬほどの苦しみ』を知っているからこその反応だ。
(俺がこんな感じってことはネージュも同じだよな…………怖いよ……嫌だよ……というか、あれだ。授業参観は三人で行けばいいんじゃね? それなら苦しくなることもないだろうし、デールとドールの願いも叶う。クレールを置いていくのも可哀想だから透明になって付いてきてもらおう。それがいい!)
思考の中、新たな策が浮かぶマサキだった。
しかし、それはなんの解決にもなっていない事にすぐ気が付く。
(…………授業参観で母親が二人って、デールとドールはともかく、他の子供たち、親たちはどう思う? ダメだ。みんなで行ってもなんの解決にもならない。親が個性的すぎていじめに遭うってケースも結構聞いたことあるからな。そうなられたら困る。ここは大人しく、ダールと二人で行ける方法を試行錯誤するしかない……)
少しだけ勇気が湧いてきたマサキだったが、
(そ、それでも、怖いもんは怖ぇえええ)
ネージュの怯える顔を見てしまい湧いたはずの勇気が蒸発して消えてしまった。
「……ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ……」
「……ガガガッガガガガッガガガガッガガガガッガガガガッガガガガッガガガガッガ……」
むしろ二人の恐怖心は増幅していく一方だ。
「に、兄さん! 大丈夫ッスか?」
「だ、だ、だ、だいじょぶ……ガガガッガガガガッガガガガッガ……」
全く大丈夫ではない。
「やめときますッスか? やっぱりデールとドールに他の方法を……」
提案してもらおうと、言おうとしたダールの言葉をマサキとネージュが同時に遮った。
「ダメだ」
「ダメですよ」
それははっきりと拒否する言葉。
デールとドールの気持ちに応えてあげたいがための言葉だ。
「ダダ、ダ、ダール……絶対に助けろよ」
「も、もちろんッス」
「ネネ、ネ、ネージュ……もうやるしかない……か、覚悟を、決めよう」
「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ……」
小刻みに震えながらもネージュは激しく頷いた。
そんなネージュの姿を目に焼き付けて、マサキは正面を向いた。
そして、左横にいるダールに向かって口を開く。
「ガガガッガ……い、いくぞ……ガガガッガガガガッガ……」
「はいッス!」
その瞬間、マサキとダールは手を繋いだ。マサキは左手、ダールは右手だ。
「ンッンッ!」
そして、マサキの頭の上にいるルナの掛け声と共に、マサキとダールは一歩ずつゆっくりと確実に前に進み始めた。
一歩、二歩、三歩。
その歩幅は、半歩とも呼べるほど短い。しかし前進し続ける。
そしてついに、超えなければならない壁に到達する。それはネージュとマサキが外出中に離れられる最大の距離。二メートルの距離だ。
(つ、次の一歩でおそらく二メートルを超える。また、あの苦しみがくるって思うと……)
足がすくんで動けなくなってしまう。
しかし、そんなことを知る由もないダールは前進する。マサキを引っ張るような形での前進だ。
恐怖で抵抗する力がないマサキはダールに引っ張られるまま一歩踏み出した。
「ガガガッガガガガッガガガガッガガガガッガ…………ん?」
一歩、二歩、三歩と、止まることない脚。その逆に小刻みに震えていた体が止まり正常に戻っていく。
「……よ、よっしっ、こ、これで授業参観に行けるぞ!」
「兄さん! やりましたッスね!」
「ああ! ……そ、そうだ、ネージュ、ネージュは大丈夫か!?」
振り向くマサキは嫌な想像をしてしまう。
ダールと手を繋いでいるおかげで自分だけが『死ぬほどの苦しみ』を乗り越えたのではないか。その場合、ネージュは『死ぬほどの苦しみ』を今もなお味わっているのではないかと。
戦慄が走る中、振り向いたマサキの黒瞳には白銀色で雪の結晶のように美しい兎人族の姿が映った。
彼女との距離はあまりにも近い。二メートル以上離れたであろうという計算は間違っていたのか。
否、違う。歩き出したスタート地点からすでに三メートルほど離れているのだ。
ならなぜ、ネージュは近くにいるのだろうか。その答えは単純明白。マサキとダールが歩く後ろをネージュが付いてきていたからだ。
「マ、マ、マ、マサキさん……ガタガタガタガタガタガタ……」
遠ざかるマサキを見て居ても立っても居られなくなり歩き出してしまったのである。
目の前で『死ぬほどの苦しみ』のカウントダウンが始まってしまえば、それに抗うのが自然だ。
「マサキさんっ!」
そのままネージュは、マサキの右手を掴んだ。その瞬間、マサキは無意識にダールと繋いでいる左手を離した。そして、マサキとネージュはその場に座り込み泣き叫び始めた。
「うわぁああぁん。やっぱりそうだよな、無理だよな。怖いよな。うわぁああぁん」
「うぅうぅ、ぐすんっ。む、無理です。無理です。無理です。怖すぎます。怖すぎます。ぅうう、ぁぅ、あぅ……」
泣き叫ぶマサキの頭の上では、ルナが振動を感じ「ンッンッ」と、声を漏らす。
このような事態になり、ダールは呆れることなく心配の眼差しを向けた。
「……やっぱりアタシじゃ無理ッスよね」
色んな意味が詰まった重く暗い言葉を口の中で呟く。泣き叫んでいる二人には聞こえないほど小さな声で。
「……デールとドールに相談してくるッス。母親役は、やっぱりネージュの姉さんがいいって……」
ダールは敷地内から見守っているデールとドールそしてクレールの方へと歩き出そうとする。
しかし、彼女の足はすぐに止まった。否、止められたのだ。
「……兄さん?」
「ダメだ。ダール」
ダールを止めたのは顔面涙と鼻水まみれのマサキだ。ダールの右手を掴んで止めたのだ。
「もう一回だ。もう一回……今度はネージュの方を見ながらやる」
「……もういいッスよ。無理ッスよ。二人に辛い思いをさせたくないッス……」
ダールはマサキの手を振り解いた。
しかし、その手をマサキは再び掴む。そして、振り解かせづらくするために指と指を絡め合わせた。
「デールとドールは俺とお前に親役をやってもらいたいんだろ。だったらちゃんと応えてあげるのが親ってもんだ。まあ俺たちは親役なんだけどな」
「で、でも……」
「大丈夫。あの手この手と全部ダメでもビエルネスがいる。二日酔いで寝込んでるけど、もし二日酔いしなかったら帰ってたかもしれない。これは何かの縁だ。絶対に大丈夫。やってみよう」
マサキの黒瞳は真っ直ぐダールの黄色の瞳を見ていた。
その黒瞳にダールの心は吸い込まれていく。まるで全てを呑み込むブラックホールのように。
「……兄さん」
「まだ暗くなってない。出来ることは全てやろうぜ」
マサキの横を見れば、ネージュも真っ直ぐな眼差しでダールを見つめ頷いている。
二人は……二人だと心強く頼り甲斐のある兄さんと姉さんなのである。
「……そういうセリフは抱き合わずに言ってもらいたいッスね」
「あはは……だ、だよな」
「その手を離して、少しでも姉さんから離れたら、また濡れた子ウサギみたいに震えるんッスからね」
「し、仕方ないだろ。ネージュと手を繋げば勇気が湧いてくるっていうか、負の感情が収まるというか……」
「わかってるッスよ……わかってるッス……」
(アタシにはネージュの姉さんのようにできないことぐらい……ネージュの姉さんに敵わないことくらいわかってるッスよ……だから姉さんが告白する前に告白したんじゃないッスか。それでも……それでもやっぱりアタシは……)
ダールの瞳が一瞬だけ光ったようにマサキは見えた。その光は涙の反射だ。涙を堪えて瞳が潤んでしまったのである。
その証拠にダールはマサキとネージュから目を逸らして、明後日の方向を向いた。
そんなダールをカバーするかのようにマサキは立ち上がり、ネージュとの手を離してダールの横に並んだ。
「もう一回挑戦してみるようぜ、ダール。俺とお前ならきっと出来る気がする。いや、出来る。だからやってみせようぜ」
その声、その言葉、その瞳、その仕草、その横顔、その力強く握る手、その手から感じる温もり。全てがダールの心を優しく包む。
ダールはセトヤ・マサキという人物を心から尊敬し愛しているのだ。
だからマサキが立ち上がる限り、ダールも立ち上がる。そうでなければ、この気持ちが嘘になってしまうから。
「は、はいッス。兄さんがそこまで言うならやってみるッス」
「おう! ネージュもよろしく頼むぞ」
「はい。もちろんです。デールとドールのためにも頑張ります」
大きなマフマフの前で小さくガッツポーズを取るネージュ。
マサキとネージュは再び『死ぬほどの苦しみ』に挑むのであった。
マサキたちがいるのは、敷地を出てすぐの道。ここなら何かあってもすぐに敷地内へと入れば問題が生じないからだ。
「お兄ちゃん頑張ってー!」
「お姉ちゃん頑張ってー!」
「頑張るんだぞー! わわわわわ、距離が近い……わわわわ」
デール、ドール、クレールの三人はマサキとダールを応援するちびっこ応援団だ。クレールだけ応援しながらそわそわとしていた。
「俺が震え出したら敷地内に投げ飛ばしてくれよ。これマジだかんな」
「わかってるッスよ。って投げ飛ばさないッスよ! 抱き抱えながら走って敷地内に戻すッスよ」
「だ、大丈夫かなぁ……」
不安しかないマサキ。
なぜなら外出中にマサキとネージュは二メートル以上離れることができないからだ。もし離れてしまった場合、『死ぬほどの苦しみ』を味わうこととなる。
それを避けたいマサキの心はすでに恐怖という鎖に縛り付けられていた。
「マ、マ、マ、マサキさ、さ、さん、ん、がん、ばっ……く…………さ、い……」
震えた声で応援するネージュもまた、マサキ同様に心を恐怖という鎖に縛り付けられていた。
あの『死ぬほどの苦しみ』を知っているからこその反応だ。
(俺がこんな感じってことはネージュも同じだよな…………怖いよ……嫌だよ……というか、あれだ。授業参観は三人で行けばいいんじゃね? それなら苦しくなることもないだろうし、デールとドールの願いも叶う。クレールを置いていくのも可哀想だから透明になって付いてきてもらおう。それがいい!)
思考の中、新たな策が浮かぶマサキだった。
しかし、それはなんの解決にもなっていない事にすぐ気が付く。
(…………授業参観で母親が二人って、デールとドールはともかく、他の子供たち、親たちはどう思う? ダメだ。みんなで行ってもなんの解決にもならない。親が個性的すぎていじめに遭うってケースも結構聞いたことあるからな。そうなられたら困る。ここは大人しく、ダールと二人で行ける方法を試行錯誤するしかない……)
少しだけ勇気が湧いてきたマサキだったが、
(そ、それでも、怖いもんは怖ぇえええ)
ネージュの怯える顔を見てしまい湧いたはずの勇気が蒸発して消えてしまった。
「……ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ……」
「……ガガガッガガガガッガガガガッガガガガッガガガガッガガガガッガガガガッガ……」
むしろ二人の恐怖心は増幅していく一方だ。
「に、兄さん! 大丈夫ッスか?」
「だ、だ、だ、だいじょぶ……ガガガッガガガガッガガガガッガ……」
全く大丈夫ではない。
「やめときますッスか? やっぱりデールとドールに他の方法を……」
提案してもらおうと、言おうとしたダールの言葉をマサキとネージュが同時に遮った。
「ダメだ」
「ダメですよ」
それははっきりと拒否する言葉。
デールとドールの気持ちに応えてあげたいがための言葉だ。
「ダダ、ダ、ダール……絶対に助けろよ」
「も、もちろんッス」
「ネネ、ネ、ネージュ……もうやるしかない……か、覚悟を、決めよう」
「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ……」
小刻みに震えながらもネージュは激しく頷いた。
そんなネージュの姿を目に焼き付けて、マサキは正面を向いた。
そして、左横にいるダールに向かって口を開く。
「ガガガッガ……い、いくぞ……ガガガッガガガガッガ……」
「はいッス!」
その瞬間、マサキとダールは手を繋いだ。マサキは左手、ダールは右手だ。
「ンッンッ!」
そして、マサキの頭の上にいるルナの掛け声と共に、マサキとダールは一歩ずつゆっくりと確実に前に進み始めた。
一歩、二歩、三歩。
その歩幅は、半歩とも呼べるほど短い。しかし前進し続ける。
そしてついに、超えなければならない壁に到達する。それはネージュとマサキが外出中に離れられる最大の距離。二メートルの距離だ。
(つ、次の一歩でおそらく二メートルを超える。また、あの苦しみがくるって思うと……)
足がすくんで動けなくなってしまう。
しかし、そんなことを知る由もないダールは前進する。マサキを引っ張るような形での前進だ。
恐怖で抵抗する力がないマサキはダールに引っ張られるまま一歩踏み出した。
「ガガガッガガガガッガガガガッガガガガッガ…………ん?」
一歩、二歩、三歩と、止まることない脚。その逆に小刻みに震えていた体が止まり正常に戻っていく。
「……よ、よっしっ、こ、これで授業参観に行けるぞ!」
「兄さん! やりましたッスね!」
「ああ! ……そ、そうだ、ネージュ、ネージュは大丈夫か!?」
振り向くマサキは嫌な想像をしてしまう。
ダールと手を繋いでいるおかげで自分だけが『死ぬほどの苦しみ』を乗り越えたのではないか。その場合、ネージュは『死ぬほどの苦しみ』を今もなお味わっているのではないかと。
戦慄が走る中、振り向いたマサキの黒瞳には白銀色で雪の結晶のように美しい兎人族の姿が映った。
彼女との距離はあまりにも近い。二メートル以上離れたであろうという計算は間違っていたのか。
否、違う。歩き出したスタート地点からすでに三メートルほど離れているのだ。
ならなぜ、ネージュは近くにいるのだろうか。その答えは単純明白。マサキとダールが歩く後ろをネージュが付いてきていたからだ。
「マ、マ、マ、マサキさん……ガタガタガタガタガタガタ……」
遠ざかるマサキを見て居ても立っても居られなくなり歩き出してしまったのである。
目の前で『死ぬほどの苦しみ』のカウントダウンが始まってしまえば、それに抗うのが自然だ。
「マサキさんっ!」
そのままネージュは、マサキの右手を掴んだ。その瞬間、マサキは無意識にダールと繋いでいる左手を離した。そして、マサキとネージュはその場に座り込み泣き叫び始めた。
「うわぁああぁん。やっぱりそうだよな、無理だよな。怖いよな。うわぁああぁん」
「うぅうぅ、ぐすんっ。む、無理です。無理です。無理です。怖すぎます。怖すぎます。ぅうう、ぁぅ、あぅ……」
泣き叫ぶマサキの頭の上では、ルナが振動を感じ「ンッンッ」と、声を漏らす。
このような事態になり、ダールは呆れることなく心配の眼差しを向けた。
「……やっぱりアタシじゃ無理ッスよね」
色んな意味が詰まった重く暗い言葉を口の中で呟く。泣き叫んでいる二人には聞こえないほど小さな声で。
「……デールとドールに相談してくるッス。母親役は、やっぱりネージュの姉さんがいいって……」
ダールは敷地内から見守っているデールとドールそしてクレールの方へと歩き出そうとする。
しかし、彼女の足はすぐに止まった。否、止められたのだ。
「……兄さん?」
「ダメだ。ダール」
ダールを止めたのは顔面涙と鼻水まみれのマサキだ。ダールの右手を掴んで止めたのだ。
「もう一回だ。もう一回……今度はネージュの方を見ながらやる」
「……もういいッスよ。無理ッスよ。二人に辛い思いをさせたくないッス……」
ダールはマサキの手を振り解いた。
しかし、その手をマサキは再び掴む。そして、振り解かせづらくするために指と指を絡め合わせた。
「デールとドールは俺とお前に親役をやってもらいたいんだろ。だったらちゃんと応えてあげるのが親ってもんだ。まあ俺たちは親役なんだけどな」
「で、でも……」
「大丈夫。あの手この手と全部ダメでもビエルネスがいる。二日酔いで寝込んでるけど、もし二日酔いしなかったら帰ってたかもしれない。これは何かの縁だ。絶対に大丈夫。やってみよう」
マサキの黒瞳は真っ直ぐダールの黄色の瞳を見ていた。
その黒瞳にダールの心は吸い込まれていく。まるで全てを呑み込むブラックホールのように。
「……兄さん」
「まだ暗くなってない。出来ることは全てやろうぜ」
マサキの横を見れば、ネージュも真っ直ぐな眼差しでダールを見つめ頷いている。
二人は……二人だと心強く頼り甲斐のある兄さんと姉さんなのである。
「……そういうセリフは抱き合わずに言ってもらいたいッスね」
「あはは……だ、だよな」
「その手を離して、少しでも姉さんから離れたら、また濡れた子ウサギみたいに震えるんッスからね」
「し、仕方ないだろ。ネージュと手を繋げば勇気が湧いてくるっていうか、負の感情が収まるというか……」
「わかってるッスよ……わかってるッス……」
(アタシにはネージュの姉さんのようにできないことぐらい……ネージュの姉さんに敵わないことくらいわかってるッスよ……だから姉さんが告白する前に告白したんじゃないッスか。それでも……それでもやっぱりアタシは……)
ダールの瞳が一瞬だけ光ったようにマサキは見えた。その光は涙の反射だ。涙を堪えて瞳が潤んでしまったのである。
その証拠にダールはマサキとネージュから目を逸らして、明後日の方向を向いた。
そんなダールをカバーするかのようにマサキは立ち上がり、ネージュとの手を離してダールの横に並んだ。
「もう一回挑戦してみるようぜ、ダール。俺とお前ならきっと出来る気がする。いや、出来る。だからやってみせようぜ」
その声、その言葉、その瞳、その仕草、その横顔、その力強く握る手、その手から感じる温もり。全てがダールの心を優しく包む。
ダールはセトヤ・マサキという人物を心から尊敬し愛しているのだ。
だからマサキが立ち上がる限り、ダールも立ち上がる。そうでなければ、この気持ちが嘘になってしまうから。
「は、はいッス。兄さんがそこまで言うならやってみるッス」
「おう! ネージュもよろしく頼むぞ」
「はい。もちろんです。デールとドールのためにも頑張ります」
大きなマフマフの前で小さくガッツポーズを取るネージュ。
マサキとネージュは再び『死ぬほどの苦しみ』に挑むのであった。
0
お気に入りに追加
449
あなたにおすすめの小説
ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果
安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。
そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。
煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。
学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。
ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。
ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は……
基本的には、ほのぼのです。
設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。
器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜
白銀六花
ファンタジー
理科室に描かれた魔法陣。
光を放つ床に目を瞑る器用さんと頑張り屋さん。
目を開いてみればそこは異世界だった!
魔法のある世界で赤ちゃん並みの魔力を持つ二人は武器を作る。
あれ?武器作りって楽しいんじゃない?
武器を作って素手で戦う器用さんと、武器を振るって無双する頑張り屋さんの異世界生活。
なろうでも掲載中です。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~
暇人太一
ファンタジー
仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。
ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。
結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。
そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
魔王の息子に転生したら、いきなり魔王が討伐された
ふぉ
ファンタジー
魔王の息子に転生したら、生後三ヶ月で魔王が討伐される。
魔領の山で、幼くして他の魔族から隠れ住む生活。
逃亡の果て、気が付けば魔王の息子のはずなのに、辺境で豆スープをすする極貧の暮らし。
魔族や人間の陰謀に巻き込まれつつ、
いつも美味しいところを持って行くのはジイイ、ババア。
いつか強くなって無双できる日が来るんだろうか?
1章 辺境極貧生活編
2章 都会発明探偵編
3章 魔術師冒険者編
4章 似非魔法剣士編
5章 内政全知賢者編
6章 無双暗黒魔王編
7章 時操新代魔王編
終章 無双者一般人編
サブタイを駄洒落にしつつ、全261話まで突き進みます。
---------
《異界の国に召喚されたら、いきなり魔王に攻め滅ぼされた》
http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/952068299/
同じ世界の別の場所での話になります。
オキス君が生まれる少し前から始まります。
薄幸召喚士令嬢もふもふの霊獣の未来予知で破滅フラグをへし折ります
盛平
ファンタジー
レティシアは薄幸な少女だった。亡くなった母の再婚相手に辛く当たられ、使用人のように働かされていた。そんなレティシアにも幸せになれるかもしれないチャンスがおとずれた。亡くなった母の遺言で、十八歳になったら召喚の儀式をするようにといわれていたのだ。レティシアが召喚の儀式をすると、可愛いシマリスの霊獣があらわれた。これから幸せがおとずれると思っていた矢先、レティシアはハンサムな王子からプロポーズされた。だがこれは、レティシアの契約霊獣の力を手に入れるための結婚だった。レティシアは冷血王子の策略により、無惨に殺される運命にあった。レティシアは霊獣の力で、未来の夢を視ていたのだ。最悪の未来を変えるため、レティシアは剣を取り戦う道を選んだ。
目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し
gari
ファンタジー
突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。
知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。
正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。
過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。
一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。
父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!
地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……
ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!
どうする? どうなる? 召喚勇者。
※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる