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第4章:恋愛『ファンが来た編』
190 恋という名の毒花粉が蔓延
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熱狂的なファンの一人が、マサキことぴょんぴょんマスクに向かって口を開く。
「あの、ぴょんぴょんマスク様……」
全てが解決したと思われた矢先、不穏な空気がマサキの周囲を包み込んだ。
(い、嫌な予感がする……でもこういった場合、口にするとフラグになるからな。ここは大人しく相手の意見を聞くことにしよう。きっと別れの言葉とか謝罪の言葉とかだろう。うん。ポジティブに考えよう)
嫌なことが起こらないようにと、己の感情を押し殺して、ポジティブ思考に切り替えたマサキ。
そのまま覆面マスク越しに耳を澄まし、熱狂的なファンの言葉を待った。
しかし、マサキの耳に届いた声は熱狂的なファンのものではなかった。
「何か嫌な予感がしますね」
と、嫌なことが起こるであろうフラグを、白銀色の髪と垂れたウサ耳が特徴的な兎人族の美少女ネージュが口にしたのだった。
(そ、それフラグー!!)
心の中でネージュにツッコミを入れるマサキ。このツッコミでさえ口に出してしまうと、嫌なことが起こるフラグが確実なものに、予言の書以上に未来を予言するものに、なってしまうからだ。だから心の中だけに留めたのである。
しかし、そんなマサキの努力も虚しく、フラグは通りにことが進む。
「これからは迷惑をかけないです。なので……」
「ここに……」
「ここに来てもいいですか?」
「無人販売所」
「イースターパーティーに!」
「お客として!」
「お願いします!」
それは無人販売所イースターパーティーに客として訪れていいかどうかの提案だった。
もちろんマサキは熱狂的なファンたちを出禁にしたわけではない。ただ今回の騒動のようにならなければいいと思っている程度だ。
なのでマサキ、否、ぴょんぴょんマスクは、熱狂的なファンの言葉を繰り返すかのように答えた。
「店には来ても大丈夫。ただし他のお客さんや俺たちに迷惑をかけなければの話だけどな」
店の利益になるのなら儲けもの。迷惑をかけないと約束できるのならば、断る理由はどこにもない。
熱狂的なファンたちは、ぴょんぴょんマスクの言葉を聞いた瞬間、申し訳なさそうな表情から笑顔に戻った。
その笑顔は、ぴょんぴょんマスクと対面した先ほどよりも明るく輝いており、十人の熱狂的なファンたちが満開に咲く多種多様、彩り豊かな花畑のように見えるほど。
「なんてお優しいお方」
「こんな私たちを受け入れてくださるなんて」
「うぅ……うち、感動……した」
「わぁあああん」
「やっぱりぴょんぴょんマスク様は私たちの希望の月光ですわ」
「素敵。うぅ。素敵。あぅ……」
涙という蜜を流す花畑の花たち。その蜜はとても美しく煌びやかに輝いている。甘い蜜だ。
(な、泣くまでのことか? でも言うことを素直に聞いてくれるみたいだし、本当はいい人……兎人たちなのかもしれな)
しかし、そんな甘い蜜で輝いている花畑には毒があった。恋という名の猛毒が……。
「ぜひ私とお付き合いを!」
「へ?」
突然の言葉にマサキは困惑した。その後、その言葉の真意について思考を始める。
(なになになに? 付き合ってください? 告白? 流れからしてそんな言葉が出るとは思えないんだが……俺の聞き間違いか? それか告白の付き合ってくださいじゃなくて、何かに付き合ってほしいってこと?)
そのように考えるのは十中八九正しい。初対面、しかも覆面マスクで姿を隠している相手に、告白をするはずがないからだ。
しかし、彼女らは初対面という感覚はない。写真や映像などで毎日のように覆面マスクのことを見ている。
だからこそ告白に至ったのだ。そう。これは告白なのだ。
一人の熱狂的なファンが抜け駆けで告白をしたことによって、他の熱狂的なファンたちにもスイッチが入る。花畑の毒は花粉のように蔓延したのだ。
「抜け駆けなんてずるい!」
「そうよそうよ」
「ぴょんぴょんマスク様~。ぜひ私とお付き合いをー!」
「いいえ、私ですわ! 私とお付き合いを!」
「うち、うち、うちを見て! うちと結婚して」
「そんなのもっとずるい!」
「そうよそうよ」
「じゃあ私も結婚したい!」
「ぴょんぴょんマスク様ー! 結婚するなら私とー!」
私と私とと、熱狂的なファンたちはぴょんぴょんマスクに対して結婚をせがみ始めた。
(なんてカオスな状況なんだー! いい兎人だと一瞬でも思ってしまった俺がバカだったー! な、何? 発情期なの? 動物みたいに発情期とかあんの? 獣人って半分動物みたいな感じだし、やっぱり発情期ってことなの? あー、なんかファンたちの目がいっちゃってるし……こ、怖い……発情期ってよりも……変な薬でも服用してんじゃないのか? こ、怖ぇええ)
マサキは狂い始めた熱狂的なファンたちを見て、怯え小刻みに震えだしてしまった。
「私と結婚!」
「うちと結婚!」
「いいえ私とですわ」
「結婚! 結婚!」
「ぴょんぴょんマスク様~」
「アナタが欲しいわ~」
「結婚して~」
「ガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガ……」
「ンッンッンッンッンッンッ」
小刻みに震えるマサキと、その振動を感じ声を漏らすルナ。
そんな状態のマサキから答えを聞き出せるはずもない。
答えが聞けないからこそ、結婚をせがむ熱狂的なファンたちは畳み掛ける。
「ねー?」
「ねぇ?」
「ねえ?」
「どうなの?」
「どうなんです?」
「返事は?」
「返事を聞かせて」
「ガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガ……」
小刻みに震え自身をコントロールできなくなっているマサキは、断ることすらもままならなかった。
しかし熱狂的なファンたちの前では、小刻みに震える情けない姿は別のものに見えていた。
「頷いているわー!」
「ということは……」
「私と結婚してくれるってこと!?」
「違うよ。うちとだよ。うちと結婚!」
「いいえ。私の時に頷いていたわよ。ほら見て」
「私だって! 私とぴょんぴょんマスクが結婚するんだって!」
小窓という小さな区間から見えるぴょんぴょんマスクの小刻みに震える姿は、彼女ら熱狂的なファンにとって、肯定し頷いているかのように見えたのだ。
さらに覆面マスクで表情が隠れているため、ぴょんぴょんマスクが怯えているということすらも気付いていない。
誰とぴょんぴょんマスクが結婚するのか、熱狂的なファンたちの間で口論が始まる。
そして口論だけでは止まらず乱闘し始めた。
「私とよ! 私と結婚するのよ!」
「私だわ! 私と結婚だわ!」
「うちよ! うちと結婚!」
「私のぴょんぴょんマスク様を奪わないで」
「あなたこそ! 泥棒兎!」
女の戦い。人間族でも兎人族でもウサギのような動物でも、女という生物の争いは種族問わず恐ろしく醜いものだと、マサキの心に深く植え付けられた。
「ガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガ……」
「マ、マサキさん、け、喧嘩が始まっちゃいましたよ……ど、どうしましょう……」
女の戦いに圧倒されているマサキは、小刻みに震えるだけでネージュの言葉に返事すらできずにいた。
「このままだとまずいですよ……怪我人も出ちゃうかもしれないですよ……もし怪我人が出て噂なんて流れたら……無人販売所が営業停止に!? さらに引っ越しまで!? 私たちの夢が……スローライフが叶えられなく、なり、ま……ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ……」
この状況で真っ先に浮かぶのは解決方法や打開策ではなく、最悪の事態の想定だ。その想定はネガティブ思考が強ければ強いほど浮かぶ。
恥ずかしがり屋で小心者のネージュは、常人以上に最悪の事態を容易く想像できてしまうのだ。
さらには手を繋ぐマサキからの負の感情の伝染。ネージュも怯え小刻みに震えるのは必然なのである。
マサキたちは、何もできないまま、時が過ぎる。
乱闘も激しくなり熱狂的なファンたちの服は泥まみれ。傷を負い血を流すものも現れた。
(やばいやばいやばいやばいやばい……は、はやく、早くと、止めないと……でもどうやって……結婚しないってはっきり断るしか……いや、そんなこと言ってまた暴れ出したらどうするんだよ。じゃあ聖騎士団でも呼ぶか? こういう時は聖騎士団になんとかしてもらうってのが普通だろうな……って、この世界電話とかねーじゃん。呼べねーじゃん。何か、何か他に、良い手は……良い解決方法は……)
ここ数十分の間、頭を回しすぎたマサキの思考回路はショート寸前。そして軽い頭痛や疲労感も感じ始めている。もはや何も手が浮かばない。お手上げ状態だ。
同じく、隣で手を繋いでいるネージュも恐怖心と不安感に心を支配され、ギブアップ状態。小刻みに震えるだけの兎人族の人形へと化してしまっている。
透明状態のクレールからの助けや、すでに意気消沈しているポッシュの助けには期待できない。
最後の希望はドールだけとなったのだが、幼い子供に託すのも荷が重い。重すぎる。
マサキたちはもう手止まりなのであった。
そんな時――
「待つッスー!」
と、遠くから声がした。
小窓を開けているマサキたちの耳にも届くほどの大きな叫び声だ。
その声に反応して全員が振り向く。
そこには『ウサギの覆面マスク』を被っているパーカーとハーフパンツ姿の人物が、オレンジ色をしたショートヘアーの幼女を抱き抱えながら立っていた。
露わになっている太ももはむちむちで肉付きが良い。肩で呼吸をしているところから披露しているのだとわかる。
その人物をマサキはたちは『ダール』だと、熱狂的なファンたちは『偽物のぴょんぴょんマスク』だと、すぐに把握した。
ダールの登場に静まり返った空間。誰もがダールの一言を待っている。
次の瞬間、肩で呼吸をしていた肩の上下へと動く動きが止まった。その後、息を思いっきり吸い込んだ。
そして――吐き出す息とともに再び大声で叫び出した。
「ぴょんぴょんマスクはアタシの夫ッスー!」
さらなる誤解を生む言葉を発したのだった。
「あの、ぴょんぴょんマスク様……」
全てが解決したと思われた矢先、不穏な空気がマサキの周囲を包み込んだ。
(い、嫌な予感がする……でもこういった場合、口にするとフラグになるからな。ここは大人しく相手の意見を聞くことにしよう。きっと別れの言葉とか謝罪の言葉とかだろう。うん。ポジティブに考えよう)
嫌なことが起こらないようにと、己の感情を押し殺して、ポジティブ思考に切り替えたマサキ。
そのまま覆面マスク越しに耳を澄まし、熱狂的なファンの言葉を待った。
しかし、マサキの耳に届いた声は熱狂的なファンのものではなかった。
「何か嫌な予感がしますね」
と、嫌なことが起こるであろうフラグを、白銀色の髪と垂れたウサ耳が特徴的な兎人族の美少女ネージュが口にしたのだった。
(そ、それフラグー!!)
心の中でネージュにツッコミを入れるマサキ。このツッコミでさえ口に出してしまうと、嫌なことが起こるフラグが確実なものに、予言の書以上に未来を予言するものに、なってしまうからだ。だから心の中だけに留めたのである。
しかし、そんなマサキの努力も虚しく、フラグは通りにことが進む。
「これからは迷惑をかけないです。なので……」
「ここに……」
「ここに来てもいいですか?」
「無人販売所」
「イースターパーティーに!」
「お客として!」
「お願いします!」
それは無人販売所イースターパーティーに客として訪れていいかどうかの提案だった。
もちろんマサキは熱狂的なファンたちを出禁にしたわけではない。ただ今回の騒動のようにならなければいいと思っている程度だ。
なのでマサキ、否、ぴょんぴょんマスクは、熱狂的なファンの言葉を繰り返すかのように答えた。
「店には来ても大丈夫。ただし他のお客さんや俺たちに迷惑をかけなければの話だけどな」
店の利益になるのなら儲けもの。迷惑をかけないと約束できるのならば、断る理由はどこにもない。
熱狂的なファンたちは、ぴょんぴょんマスクの言葉を聞いた瞬間、申し訳なさそうな表情から笑顔に戻った。
その笑顔は、ぴょんぴょんマスクと対面した先ほどよりも明るく輝いており、十人の熱狂的なファンたちが満開に咲く多種多様、彩り豊かな花畑のように見えるほど。
「なんてお優しいお方」
「こんな私たちを受け入れてくださるなんて」
「うぅ……うち、感動……した」
「わぁあああん」
「やっぱりぴょんぴょんマスク様は私たちの希望の月光ですわ」
「素敵。うぅ。素敵。あぅ……」
涙という蜜を流す花畑の花たち。その蜜はとても美しく煌びやかに輝いている。甘い蜜だ。
(な、泣くまでのことか? でも言うことを素直に聞いてくれるみたいだし、本当はいい人……兎人たちなのかもしれな)
しかし、そんな甘い蜜で輝いている花畑には毒があった。恋という名の猛毒が……。
「ぜひ私とお付き合いを!」
「へ?」
突然の言葉にマサキは困惑した。その後、その言葉の真意について思考を始める。
(なになになに? 付き合ってください? 告白? 流れからしてそんな言葉が出るとは思えないんだが……俺の聞き間違いか? それか告白の付き合ってくださいじゃなくて、何かに付き合ってほしいってこと?)
そのように考えるのは十中八九正しい。初対面、しかも覆面マスクで姿を隠している相手に、告白をするはずがないからだ。
しかし、彼女らは初対面という感覚はない。写真や映像などで毎日のように覆面マスクのことを見ている。
だからこそ告白に至ったのだ。そう。これは告白なのだ。
一人の熱狂的なファンが抜け駆けで告白をしたことによって、他の熱狂的なファンたちにもスイッチが入る。花畑の毒は花粉のように蔓延したのだ。
「抜け駆けなんてずるい!」
「そうよそうよ」
「ぴょんぴょんマスク様~。ぜひ私とお付き合いをー!」
「いいえ、私ですわ! 私とお付き合いを!」
「うち、うち、うちを見て! うちと結婚して」
「そんなのもっとずるい!」
「そうよそうよ」
「じゃあ私も結婚したい!」
「ぴょんぴょんマスク様ー! 結婚するなら私とー!」
私と私とと、熱狂的なファンたちはぴょんぴょんマスクに対して結婚をせがみ始めた。
(なんてカオスな状況なんだー! いい兎人だと一瞬でも思ってしまった俺がバカだったー! な、何? 発情期なの? 動物みたいに発情期とかあんの? 獣人って半分動物みたいな感じだし、やっぱり発情期ってことなの? あー、なんかファンたちの目がいっちゃってるし……こ、怖い……発情期ってよりも……変な薬でも服用してんじゃないのか? こ、怖ぇええ)
マサキは狂い始めた熱狂的なファンたちを見て、怯え小刻みに震えだしてしまった。
「私と結婚!」
「うちと結婚!」
「いいえ私とですわ」
「結婚! 結婚!」
「ぴょんぴょんマスク様~」
「アナタが欲しいわ~」
「結婚して~」
「ガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガ……」
「ンッンッンッンッンッンッ」
小刻みに震えるマサキと、その振動を感じ声を漏らすルナ。
そんな状態のマサキから答えを聞き出せるはずもない。
答えが聞けないからこそ、結婚をせがむ熱狂的なファンたちは畳み掛ける。
「ねー?」
「ねぇ?」
「ねえ?」
「どうなの?」
「どうなんです?」
「返事は?」
「返事を聞かせて」
「ガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガ……」
小刻みに震え自身をコントロールできなくなっているマサキは、断ることすらもままならなかった。
しかし熱狂的なファンたちの前では、小刻みに震える情けない姿は別のものに見えていた。
「頷いているわー!」
「ということは……」
「私と結婚してくれるってこと!?」
「違うよ。うちとだよ。うちと結婚!」
「いいえ。私の時に頷いていたわよ。ほら見て」
「私だって! 私とぴょんぴょんマスクが結婚するんだって!」
小窓という小さな区間から見えるぴょんぴょんマスクの小刻みに震える姿は、彼女ら熱狂的なファンにとって、肯定し頷いているかのように見えたのだ。
さらに覆面マスクで表情が隠れているため、ぴょんぴょんマスクが怯えているということすらも気付いていない。
誰とぴょんぴょんマスクが結婚するのか、熱狂的なファンたちの間で口論が始まる。
そして口論だけでは止まらず乱闘し始めた。
「私とよ! 私と結婚するのよ!」
「私だわ! 私と結婚だわ!」
「うちよ! うちと結婚!」
「私のぴょんぴょんマスク様を奪わないで」
「あなたこそ! 泥棒兎!」
女の戦い。人間族でも兎人族でもウサギのような動物でも、女という生物の争いは種族問わず恐ろしく醜いものだと、マサキの心に深く植え付けられた。
「ガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガ……」
「マ、マサキさん、け、喧嘩が始まっちゃいましたよ……ど、どうしましょう……」
女の戦いに圧倒されているマサキは、小刻みに震えるだけでネージュの言葉に返事すらできずにいた。
「このままだとまずいですよ……怪我人も出ちゃうかもしれないですよ……もし怪我人が出て噂なんて流れたら……無人販売所が営業停止に!? さらに引っ越しまで!? 私たちの夢が……スローライフが叶えられなく、なり、ま……ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ……」
この状況で真っ先に浮かぶのは解決方法や打開策ではなく、最悪の事態の想定だ。その想定はネガティブ思考が強ければ強いほど浮かぶ。
恥ずかしがり屋で小心者のネージュは、常人以上に最悪の事態を容易く想像できてしまうのだ。
さらには手を繋ぐマサキからの負の感情の伝染。ネージュも怯え小刻みに震えるのは必然なのである。
マサキたちは、何もできないまま、時が過ぎる。
乱闘も激しくなり熱狂的なファンたちの服は泥まみれ。傷を負い血を流すものも現れた。
(やばいやばいやばいやばいやばい……は、はやく、早くと、止めないと……でもどうやって……結婚しないってはっきり断るしか……いや、そんなこと言ってまた暴れ出したらどうするんだよ。じゃあ聖騎士団でも呼ぶか? こういう時は聖騎士団になんとかしてもらうってのが普通だろうな……って、この世界電話とかねーじゃん。呼べねーじゃん。何か、何か他に、良い手は……良い解決方法は……)
ここ数十分の間、頭を回しすぎたマサキの思考回路はショート寸前。そして軽い頭痛や疲労感も感じ始めている。もはや何も手が浮かばない。お手上げ状態だ。
同じく、隣で手を繋いでいるネージュも恐怖心と不安感に心を支配され、ギブアップ状態。小刻みに震えるだけの兎人族の人形へと化してしまっている。
透明状態のクレールからの助けや、すでに意気消沈しているポッシュの助けには期待できない。
最後の希望はドールだけとなったのだが、幼い子供に託すのも荷が重い。重すぎる。
マサキたちはもう手止まりなのであった。
そんな時――
「待つッスー!」
と、遠くから声がした。
小窓を開けているマサキたちの耳にも届くほどの大きな叫び声だ。
その声に反応して全員が振り向く。
そこには『ウサギの覆面マスク』を被っているパーカーとハーフパンツ姿の人物が、オレンジ色をしたショートヘアーの幼女を抱き抱えながら立っていた。
露わになっている太ももはむちむちで肉付きが良い。肩で呼吸をしているところから披露しているのだとわかる。
その人物をマサキはたちは『ダール』だと、熱狂的なファンたちは『偽物のぴょんぴょんマスク』だと、すぐに把握した。
ダールの登場に静まり返った空間。誰もがダールの一言を待っている。
次の瞬間、肩で呼吸をしていた肩の上下へと動く動きが止まった。その後、息を思いっきり吸い込んだ。
そして――吐き出す息とともに再び大声で叫び出した。
「ぴょんぴょんマスクはアタシの夫ッスー!」
さらなる誤解を生む言葉を発したのだった。
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