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第3章:成長『ウサギレース編』
114 ウサギレースに向けての作戦会議
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部屋へと戻ったマサキたちは、ウサギレースに向けての作戦会議を始めた。
作戦会議の前にマサキたちが気になっていた懸念は先ほどのビエルネスの大胆な行動により一つ解消された。
それは飼い主一名の参加だ。
マサキとネージュは、ビエルネスの妖精の魔法の粉の効果によって二十四時間手を繋がなくても、心を乱すことなく離れられることが先ほどのビエルネスの大胆な行動で証明された。
それによってマサキはウサギレースに参加可能となった。そして必然的に飼い主一名の枠がマサキとなる。
外出中にマサキから離れるのを拒むルナにとってマサキ以外とウサギレースに参加することは、ほぼ不可能だ。
なのでマサキとルナのコンビがウサギレースに参加することができる絶対条件。
その条件をクリアしたということになる。
しかし問題はこれだけではない。その問題を今からの作戦会議で話し合うのである。
「兄さんって足速いんッスか?」
それは唐突にオレンジ色の髪の兎人族の美少女の口から出た言葉だ。
レースというだけあって足の速さが気になるのは当たり前だ。しかしこのレースは『ウサギレース』。運動不足のマサキでも流石にウサギよりは足は速い。
「おいおいダール。馬鹿にするなよ。俺はウサギよりは足は速いぞ。それに飼い主はウサギのペースに合わせて走ればいいだろ。俺の足の速さは関係ないはず」
マサキの意見は正しい。
ウサギレースはウサギのレースであって飼い主の足の速さは関係ない。
パートナーのウサギに合わせて走ればいいのだ。
「いや、馬鹿にしてないッスよ。ただ兄さんが走った方がルナちゃんも速く走れると思っただけッスよ」
「どういうこと?」
疑問に思うのは当然。
マサキはダールの考えを深掘りしていく。それでこそ作戦会議だ。
「ルナちゃんは今はこんな感じでぬいぐるみみたいに大人しいッスけど、兄さんがいない時はすごい暴れるじゃないッスか。だから兄さんがルナちゃんから離れれば、ルナちゃんは物凄いスピードで追いかけるんじゃないかなって思ったッス」
「な、なるほど。確かにな」
納得のいくダールの考えに思わず頷くマサキ。
そんなマサキを見たダールは言葉を続けた。
「そうでもしないとルナちゃんって走らないと思うッス」
「それもそうだな。飼い主がエサとか使って誘導するのがありなら俺自身がルナちゃんをゴールまで導くのもありだよな?」
細かいルールは主催者側の一人、タイジュグループの幹部ビエルネスに聞くのが手っ取り早い。
「もちろん大丈夫ですよ~。その場合私もマスターを追いかけちゃうかもしれないです~」
「あはは。ウサギと妖精に追われてる俺を想像すると、なんか笑えるな……」
マサキの言葉に「ブフッ」と、ネージュが耐え切れずに吹き出した。
マサキがルナとビエルネスに追われている姿を想像したのだ。
「そんな吹き出すほど面白くはないだろ」
「面白いですよ。マサキさんが全力で走って逃げてるところとか笑っちゃいます。ふふふっ。はははっ」
ツボに入ったのだろう。ネージュの笑いは止まらない。
そんなネージュの笑いに釣られてか、オレンジ色の髪の双子の姉妹デールとドールも笑い出す。
「ふふふっ」
「ふふふっ」
笑うタイミングや笑い方までも同じ。さすが双子だ。
そして笑う双子の姉妹に合わせてルナも声を漏らす。
「ンッンッ」
鼻をひくひくとさせているだけの無表情のウサギだが状況を理解して笑っているようにも思えた。
「とにかくだ。参加する飼い主は俺で決まった。そんで俺が先に走ってルナちゃんをゴールまで導く作戦も取り入れよう。でも問題は肝心のルナちゃんだ」
マサキは話の中心であるチョコレートカラーのウサギを持ち上げて掲げた。
「ルナちゃんの手足は短い。それに比べてウサ耳はめちゃくちゃ長い。走ってる最中にウサ耳が足に絡まったりしたらかわいそうだ」
マサキの言葉に青く澄んだ瞳でルナを見ているネージュが口を開く。
「確かにそうですよね。転んだら痛いですもんね。でもルナちゃんは飛べるじゃないですか! 飛んじゃえば他のウサギさんよりも早くゴールに着くと思いますよ!」
そんなネージュの言葉にビエルネスが反応する。
「飛べる?」
「はい! ルナちゃんは飛べるんですよ!」
「飛ぶって跳ねるってことですか?」
「いいえ! 鳥さんのように飛ぶんです!」
ネージュの言葉を聞いたビエルネスは信じられない様子でルナのことを見つめた。
そしてルナの目線の高さまで移動して鼻頭を優しく撫でながら口を開く。
「ウサギ様が鳥のように飛ぶなんて信じられないですね。さっきも言いましたが私、三千年以上生きてるんですよ。そんなウサギ様は見たことありませんよ~」
ビエルネスに撫でられているルナは思わず声が漏れる。
「ンッンッ!」
気持ちいいのだろうか。いつもよりも声のボリュームが大きい。
そのタイミングでマサキはルナを床に下ろした。ルナを持ち上げている腕が疲れてしまったのだ。
「空飛ぶウサギ様は幻獣って話をむかーし誰かに聞いたことがありますが、それは兎人族様の神様の作り話だと思ってましたよ」
「ンッンッ」
「ということはウサギ様は幻獣なんですか?」
「ンッンッ」
ビエルネスと会話をしているかのように返事をするルナだが表情は無表情のまま。
鼻をひくひくさせているだけで話を理解しているようには見えない。
「もしかして飛んだりしたら反則とかになったりする?」
マサキは一番気になることについてを聞いた。
「う~ん。事例もありませんし、ルール上、魔法とスキルじゃなければ問題ないかと……でも念のため飛ばない方がいいかもしれませんよ」
「だよな。反則になるのはキツい。一生心に刻まれるわ……」
ルナが飛んだことによって反則してしまう可能性があるのなら、ルナが飛んでしまわない方法を考えなければならない。
「兄さんを探すときはいつも飛び回ってるッスよ。だからさっきの誘導作戦でも兄さんを追いかけてすぐに飛んじゃうかもしれないッス」
「だよなー。どうにかして飛ばない方法とかないのかな?」
その場にいる全員が手に顎を乗せて首を捻りながら考え始めた。そんな中、最初に口を開いたのは薄緑色の髪の妖精ビエルネスだ。
「ウサギ様はどうやって飛ぶんですか? 私たちみたいに羽ばたいて飛ぶのか、悪魔族みたいに浮遊型なのか」
その疑問にデールとドールの双子の姉妹が答える。
「こうやってパタパタと飛ぶんだよー」
「こうやってパタパタと飛ぶんだよー」
ルナの大きなウサ耳をパタパタと動かす双子の姉妹。
デールが右耳、ドールが左耳をパタパタとさせている。
「なるほどですね。それでしたらウサギ様のウサ耳を縛るのはどうですか? それでしたら飛びたくても飛べないはずですよ。これぞ束縛プレイ。ハァハァ……」
変態なプレイを想像して息を荒げるビエルネス。
そんなビエルネスの考えは一理ある。しかし縛るなどかわいそうなことはマサキたちは絶対にしない。
そんなことをするのならウサギレースに参加しない方がいい。
「縛るんじゃなくてリボンとかで可愛く結んであげるのはどうですか?」
ルナと同じ垂れたウサ耳を持つネージュがアイディアを出した。
垂れたウサ耳同士をリボンで結べばウサ耳は立ち上がり垂れなくなるのだ。
そのアイディアにマサキは賛同する。
「リボンか。絶対可愛いだろうな。よし! ルナちゃんにリボンを付けてあげよう」
「そうしましょう! ルナちゃんも女の子ですし、たまにはオシャレをさせてあげないとですよ」
「だよなだよな。ルナちゃんならどんなリボンでも似合いそうだな。うん。絶対に似合う!」
マサキとネージュはルナを見つめ口元を緩めていた。
「ぬふふふ。想像するだけでもニヤニヤしちゃうぞ。ぬふふふ」
「そうですねそうですね。可愛いのを選んであげましょうよ!」
ルナに付けてあげるリボンを想像してニヤけているのだ。
「よし! 大体話はまとまったな! ウサギレース出場のためにも、明日はルナちゃんのリボン探しに行くぞ!」
「「「おー!!」」」
その場にいる全員が息を合わせて声を上げた。ビエルネスも
透明状態のクレールも同じように声を上げているが、『透明スキル』の効果によりその声は誰にも届いていない。
声を出す必要はなかったが、クレールは声を上げずにはいられなかったのである。
そしてマサキとネージュの二人が積極的に買い物に出かける計画を立てたのは初めてだ。
いつもの二人なら人間不信と恥ずかしがり屋の性格から人混みが多い買い物に乗り気ではない。
これもビエルネスがかけた魔法の効果なのかもしれない。それかルナへの愛情が負の感情に勝ったのかもしれない。
もしくはそのどちらもかもしれない。
どちらにせよ魔法の効果の持続時間は二十四時間。明日のリボンの買い物中も魔法の効果は持続する。
有意義な買い物が期待できるだろう。
作戦会議が切りのいいところになった。その瞬間、一息吸ったビエルネスが口を開く。
「ではでは作戦会議が良い方向に進んだということで、今日のところは私は帰らせてもらいますね」
「意外だな。もっと長居するかと思ってた」
意外なビエルネスに驚くマサキ。そんなマサキをいつのように変態的にビエルネスは迫る。
「本当は今夜マスターとあんなことやこんなことをしたかったんですけど~ハァハァ……でも仕事が残ってて帰らないとマルテスに怒られちゃうんですよ~。だから寂しがらないでくださいねマスター」
「寂しくはない」
「そうやって照れ隠しするマスター大好きですよ~。ハァハァ……」
「どう見ても照れ隠しじゃないだろ。どんな捉え方してんだ。というか息荒くしすぎだろ」
「ハァハァハァハァ……マスターとの別れが辛くて、マスターの姿を目に焼き付けていたら興奮してきただけです~ハァハァ……」
ビエルネスは息を荒げてるだけでなくヨダレも垂らしている。もはや狂気的な変態妖精だ。
そのビエルネスのヨダレが真下にいるルナに垂れそうになるが、すかさずマサキがルナを抱っこしヨダレから守った。
しかしその代償としてマサキの黒ジャージにヨダレがつく。すでにネージュの涙と鼻水がいっぱい付いている黒ジャージだ。これ以上汚れても痛くも痒くもない。
だが、なぜだろうか。マサキはビエルネスのヨダレを不快に思ってしまった。
その原因はビエルネス本人にあるだろう。
「マスターが私の体液を求めている~。ハァハァ……この上ない幸せです~。ハァハァ……」
「やっぱりそうなるよな……って俺に向けてヨダレを垂らそうとするな!」
「ブベェェェェェ」
「やめろー! 早く帰れー!」
ヨダレを垂らそうとするビエルネスをマサキは必死に抵抗する。
叩いたり殴ったり乱暴に抵抗しないのはマサキの優しさだろう。
「そんなに嫌がらないでくださいよ~。妖精のヨダレですよ~」
「ヨダレはヨダレだろうが!」
「ぬぅー! 皆様の前だから恥ずかしいんですねー。わかりましたよ~」
「変な解釈するな!」
このままビエルネスはマサキにヨダレを垂らすことを辞めて部屋から出ようとする。
「それでは私は帰らせていただきます。ウサギレースが始まるまでに何度か顔を見せに来ますのでご安心を! 明日のリボン探し楽しんでくださいね~」
羽をパタパタと羽ばたかせ上昇するビエルネス。
部屋を出る通路は上にはない。そしてこの建物から出る扉も上にはない。
しかしビエルネスはどんどん上昇する。そして何もない部屋の天井すなわち大樹の木の内側部分に止まった。
「お疲れ様でした~」
そう言うと、大樹の木の内側部分が長方形に開き、夕暮れの空を映した。その広さ、妖精のビエルネスが出入りするのにちょうど良い広さだ。
そのままビエルネスはその穴から出て行った。
「あれの穴ってなんだ?」
「確かおばあちゃんが『妖精の扉』がどこかにあるとか言っていたような気がします」
「ガチの妖精の扉じゃんか……」
「ンッンッ」
全員がビエルネスが出て行った妖精の扉を見上げながら今日の作戦会議の幕が閉じたのであった。
作戦会議の前にマサキたちが気になっていた懸念は先ほどのビエルネスの大胆な行動により一つ解消された。
それは飼い主一名の参加だ。
マサキとネージュは、ビエルネスの妖精の魔法の粉の効果によって二十四時間手を繋がなくても、心を乱すことなく離れられることが先ほどのビエルネスの大胆な行動で証明された。
それによってマサキはウサギレースに参加可能となった。そして必然的に飼い主一名の枠がマサキとなる。
外出中にマサキから離れるのを拒むルナにとってマサキ以外とウサギレースに参加することは、ほぼ不可能だ。
なのでマサキとルナのコンビがウサギレースに参加することができる絶対条件。
その条件をクリアしたということになる。
しかし問題はこれだけではない。その問題を今からの作戦会議で話し合うのである。
「兄さんって足速いんッスか?」
それは唐突にオレンジ色の髪の兎人族の美少女の口から出た言葉だ。
レースというだけあって足の速さが気になるのは当たり前だ。しかしこのレースは『ウサギレース』。運動不足のマサキでも流石にウサギよりは足は速い。
「おいおいダール。馬鹿にするなよ。俺はウサギよりは足は速いぞ。それに飼い主はウサギのペースに合わせて走ればいいだろ。俺の足の速さは関係ないはず」
マサキの意見は正しい。
ウサギレースはウサギのレースであって飼い主の足の速さは関係ない。
パートナーのウサギに合わせて走ればいいのだ。
「いや、馬鹿にしてないッスよ。ただ兄さんが走った方がルナちゃんも速く走れると思っただけッスよ」
「どういうこと?」
疑問に思うのは当然。
マサキはダールの考えを深掘りしていく。それでこそ作戦会議だ。
「ルナちゃんは今はこんな感じでぬいぐるみみたいに大人しいッスけど、兄さんがいない時はすごい暴れるじゃないッスか。だから兄さんがルナちゃんから離れれば、ルナちゃんは物凄いスピードで追いかけるんじゃないかなって思ったッス」
「な、なるほど。確かにな」
納得のいくダールの考えに思わず頷くマサキ。
そんなマサキを見たダールは言葉を続けた。
「そうでもしないとルナちゃんって走らないと思うッス」
「それもそうだな。飼い主がエサとか使って誘導するのがありなら俺自身がルナちゃんをゴールまで導くのもありだよな?」
細かいルールは主催者側の一人、タイジュグループの幹部ビエルネスに聞くのが手っ取り早い。
「もちろん大丈夫ですよ~。その場合私もマスターを追いかけちゃうかもしれないです~」
「あはは。ウサギと妖精に追われてる俺を想像すると、なんか笑えるな……」
マサキの言葉に「ブフッ」と、ネージュが耐え切れずに吹き出した。
マサキがルナとビエルネスに追われている姿を想像したのだ。
「そんな吹き出すほど面白くはないだろ」
「面白いですよ。マサキさんが全力で走って逃げてるところとか笑っちゃいます。ふふふっ。はははっ」
ツボに入ったのだろう。ネージュの笑いは止まらない。
そんなネージュの笑いに釣られてか、オレンジ色の髪の双子の姉妹デールとドールも笑い出す。
「ふふふっ」
「ふふふっ」
笑うタイミングや笑い方までも同じ。さすが双子だ。
そして笑う双子の姉妹に合わせてルナも声を漏らす。
「ンッンッ」
鼻をひくひくとさせているだけの無表情のウサギだが状況を理解して笑っているようにも思えた。
「とにかくだ。参加する飼い主は俺で決まった。そんで俺が先に走ってルナちゃんをゴールまで導く作戦も取り入れよう。でも問題は肝心のルナちゃんだ」
マサキは話の中心であるチョコレートカラーのウサギを持ち上げて掲げた。
「ルナちゃんの手足は短い。それに比べてウサ耳はめちゃくちゃ長い。走ってる最中にウサ耳が足に絡まったりしたらかわいそうだ」
マサキの言葉に青く澄んだ瞳でルナを見ているネージュが口を開く。
「確かにそうですよね。転んだら痛いですもんね。でもルナちゃんは飛べるじゃないですか! 飛んじゃえば他のウサギさんよりも早くゴールに着くと思いますよ!」
そんなネージュの言葉にビエルネスが反応する。
「飛べる?」
「はい! ルナちゃんは飛べるんですよ!」
「飛ぶって跳ねるってことですか?」
「いいえ! 鳥さんのように飛ぶんです!」
ネージュの言葉を聞いたビエルネスは信じられない様子でルナのことを見つめた。
そしてルナの目線の高さまで移動して鼻頭を優しく撫でながら口を開く。
「ウサギ様が鳥のように飛ぶなんて信じられないですね。さっきも言いましたが私、三千年以上生きてるんですよ。そんなウサギ様は見たことありませんよ~」
ビエルネスに撫でられているルナは思わず声が漏れる。
「ンッンッ!」
気持ちいいのだろうか。いつもよりも声のボリュームが大きい。
そのタイミングでマサキはルナを床に下ろした。ルナを持ち上げている腕が疲れてしまったのだ。
「空飛ぶウサギ様は幻獣って話をむかーし誰かに聞いたことがありますが、それは兎人族様の神様の作り話だと思ってましたよ」
「ンッンッ」
「ということはウサギ様は幻獣なんですか?」
「ンッンッ」
ビエルネスと会話をしているかのように返事をするルナだが表情は無表情のまま。
鼻をひくひくさせているだけで話を理解しているようには見えない。
「もしかして飛んだりしたら反則とかになったりする?」
マサキは一番気になることについてを聞いた。
「う~ん。事例もありませんし、ルール上、魔法とスキルじゃなければ問題ないかと……でも念のため飛ばない方がいいかもしれませんよ」
「だよな。反則になるのはキツい。一生心に刻まれるわ……」
ルナが飛んだことによって反則してしまう可能性があるのなら、ルナが飛んでしまわない方法を考えなければならない。
「兄さんを探すときはいつも飛び回ってるッスよ。だからさっきの誘導作戦でも兄さんを追いかけてすぐに飛んじゃうかもしれないッス」
「だよなー。どうにかして飛ばない方法とかないのかな?」
その場にいる全員が手に顎を乗せて首を捻りながら考え始めた。そんな中、最初に口を開いたのは薄緑色の髪の妖精ビエルネスだ。
「ウサギ様はどうやって飛ぶんですか? 私たちみたいに羽ばたいて飛ぶのか、悪魔族みたいに浮遊型なのか」
その疑問にデールとドールの双子の姉妹が答える。
「こうやってパタパタと飛ぶんだよー」
「こうやってパタパタと飛ぶんだよー」
ルナの大きなウサ耳をパタパタと動かす双子の姉妹。
デールが右耳、ドールが左耳をパタパタとさせている。
「なるほどですね。それでしたらウサギ様のウサ耳を縛るのはどうですか? それでしたら飛びたくても飛べないはずですよ。これぞ束縛プレイ。ハァハァ……」
変態なプレイを想像して息を荒げるビエルネス。
そんなビエルネスの考えは一理ある。しかし縛るなどかわいそうなことはマサキたちは絶対にしない。
そんなことをするのならウサギレースに参加しない方がいい。
「縛るんじゃなくてリボンとかで可愛く結んであげるのはどうですか?」
ルナと同じ垂れたウサ耳を持つネージュがアイディアを出した。
垂れたウサ耳同士をリボンで結べばウサ耳は立ち上がり垂れなくなるのだ。
そのアイディアにマサキは賛同する。
「リボンか。絶対可愛いだろうな。よし! ルナちゃんにリボンを付けてあげよう」
「そうしましょう! ルナちゃんも女の子ですし、たまにはオシャレをさせてあげないとですよ」
「だよなだよな。ルナちゃんならどんなリボンでも似合いそうだな。うん。絶対に似合う!」
マサキとネージュはルナを見つめ口元を緩めていた。
「ぬふふふ。想像するだけでもニヤニヤしちゃうぞ。ぬふふふ」
「そうですねそうですね。可愛いのを選んであげましょうよ!」
ルナに付けてあげるリボンを想像してニヤけているのだ。
「よし! 大体話はまとまったな! ウサギレース出場のためにも、明日はルナちゃんのリボン探しに行くぞ!」
「「「おー!!」」」
その場にいる全員が息を合わせて声を上げた。ビエルネスも
透明状態のクレールも同じように声を上げているが、『透明スキル』の効果によりその声は誰にも届いていない。
声を出す必要はなかったが、クレールは声を上げずにはいられなかったのである。
そしてマサキとネージュの二人が積極的に買い物に出かける計画を立てたのは初めてだ。
いつもの二人なら人間不信と恥ずかしがり屋の性格から人混みが多い買い物に乗り気ではない。
これもビエルネスがかけた魔法の効果なのかもしれない。それかルナへの愛情が負の感情に勝ったのかもしれない。
もしくはそのどちらもかもしれない。
どちらにせよ魔法の効果の持続時間は二十四時間。明日のリボンの買い物中も魔法の効果は持続する。
有意義な買い物が期待できるだろう。
作戦会議が切りのいいところになった。その瞬間、一息吸ったビエルネスが口を開く。
「ではでは作戦会議が良い方向に進んだということで、今日のところは私は帰らせてもらいますね」
「意外だな。もっと長居するかと思ってた」
意外なビエルネスに驚くマサキ。そんなマサキをいつのように変態的にビエルネスは迫る。
「本当は今夜マスターとあんなことやこんなことをしたかったんですけど~ハァハァ……でも仕事が残ってて帰らないとマルテスに怒られちゃうんですよ~。だから寂しがらないでくださいねマスター」
「寂しくはない」
「そうやって照れ隠しするマスター大好きですよ~。ハァハァ……」
「どう見ても照れ隠しじゃないだろ。どんな捉え方してんだ。というか息荒くしすぎだろ」
「ハァハァハァハァ……マスターとの別れが辛くて、マスターの姿を目に焼き付けていたら興奮してきただけです~ハァハァ……」
ビエルネスは息を荒げてるだけでなくヨダレも垂らしている。もはや狂気的な変態妖精だ。
そのビエルネスのヨダレが真下にいるルナに垂れそうになるが、すかさずマサキがルナを抱っこしヨダレから守った。
しかしその代償としてマサキの黒ジャージにヨダレがつく。すでにネージュの涙と鼻水がいっぱい付いている黒ジャージだ。これ以上汚れても痛くも痒くもない。
だが、なぜだろうか。マサキはビエルネスのヨダレを不快に思ってしまった。
その原因はビエルネス本人にあるだろう。
「マスターが私の体液を求めている~。ハァハァ……この上ない幸せです~。ハァハァ……」
「やっぱりそうなるよな……って俺に向けてヨダレを垂らそうとするな!」
「ブベェェェェェ」
「やめろー! 早く帰れー!」
ヨダレを垂らそうとするビエルネスをマサキは必死に抵抗する。
叩いたり殴ったり乱暴に抵抗しないのはマサキの優しさだろう。
「そんなに嫌がらないでくださいよ~。妖精のヨダレですよ~」
「ヨダレはヨダレだろうが!」
「ぬぅー! 皆様の前だから恥ずかしいんですねー。わかりましたよ~」
「変な解釈するな!」
このままビエルネスはマサキにヨダレを垂らすことを辞めて部屋から出ようとする。
「それでは私は帰らせていただきます。ウサギレースが始まるまでに何度か顔を見せに来ますのでご安心を! 明日のリボン探し楽しんでくださいね~」
羽をパタパタと羽ばたかせ上昇するビエルネス。
部屋を出る通路は上にはない。そしてこの建物から出る扉も上にはない。
しかしビエルネスはどんどん上昇する。そして何もない部屋の天井すなわち大樹の木の内側部分に止まった。
「お疲れ様でした~」
そう言うと、大樹の木の内側部分が長方形に開き、夕暮れの空を映した。その広さ、妖精のビエルネスが出入りするのにちょうど良い広さだ。
そのままビエルネスはその穴から出て行った。
「あれの穴ってなんだ?」
「確かおばあちゃんが『妖精の扉』がどこかにあるとか言っていたような気がします」
「ガチの妖精の扉じゃんか……」
「ンッンッ」
全員がビエルネスが出て行った妖精の扉を見上げながら今日の作戦会議の幕が閉じたのであった。
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ファンタジー
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辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
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