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第3章:成長『ウサギレース編』

110 妖精との再会

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 マサキたちの頭上から聞こえる謎の声。その声の主を確認すべく、その場にいる全員が同時に上を向いた。
 薄桃色の髪の美少女クレールだけは透明スキルを瞬時に発動させ姿を消しながら上を向いた。
 マサキたちの頭上にいたのは――

「マスター! 兎人族とじんぞくの皆様! お久しぶりです~」

 キラキラと光る薄緑色の髪と透き通るほど綺麗な薄水色の瞳を持った生き物。
 その生き物は人間にしては小さすぎる。そのサイズ子兎こうさぎほど。そして獣の毛皮で作った衣装から半透明の羽が生えている。
 まさに幻想的な生き物。そう。妖精だ。

「ガガガッガガガガッガ……って、お、お前は――」

 その妖精の姿を見た途端、マサキの小刻みに震える体はピタリと止まった。その代わり背筋がゾッと震える感覚を味わう。

「ビエルネス!」

 マサキたちの頭上にいる妖精は、タイジュグループの幹部にして創業者の一人。妖精族のフェ・ビエルネスだ。

「マスター! 私のことを一時も忘れずに覚えててくれたんですね~。私嬉しいですよ~。二週間もマスターに会えなくて寂しかったんですよ~。マスターもきっと同じ気持ちですよね~」

 ビエルネスはマサキの頬に小さな体を擦り付けている。そのハエのように鬱陶しい妖精をマサキは軽く払った。

「いや、一時も忘れてないなんて一言も言ってないだろ。ビエルネスには変なことされたからな……忘れたくても忘れられない。トラウマ以外の何かを心に植え付けられた感じだよ……」

「それはつまり、私の体を求めてるってことでよろしいですか~? も~うマスターはえっちっちなんですから~」

「なんでそうなるんだよ。というか子供たちの前で変なこと言うな! 悪影響だ!」

 マサキは『しっしっ』とビエルネスを払い、デールとドールから遠ざけた。

「そんな~。今日のマスターはちょっと辛辣ですよね~。ドSってやつですか~?」

「だからこれ以上、変なこと言うなよ。またネージュに誤解されるだろ!」

 マサキは、先ほどまで抱き付きながら一緒に震えていたネージュを黒瞳に映した。
 ネージュはマサキの左隣にいる。謎の声の正体がビエルネスだとわかった瞬間にマサキの体の震えが止まり抱き合っていたネージュから離れたのである。
 そんなネージュはマサキとは違い体の震えは変わらずに止まっていなかった。

「お、おいネージュ大丈夫か?」

 マサキは右手でネージュの肩を優しく触った。
 ネージュはマサキの手のひらの温もりを感じた途端、少しではあるが震えが治る。だが、まだ小刻みに震えている。

「な、なんで俺だけ……いや、今までも俺だけ震えが弱いこととかあったけど、ここまで差が出たのは初めてだ……」

 マサキはネージュとの怯え方の違いに原因があるのではないかと考え始める。そしてすぐに原因は目の前の妖精だと気付く。

「ビエルネス」

「はい。なんですかマスター」

「お前、俺に何かしたか? それかネージュに何かしたか?」

 ビエルネスを疑うのは当然だ。
 頭上から聞こえる謎の声に驚き、怯えて小刻みに震えたのは事実。そしてその正体がビエルネスだとわかった途端にマサキの体の震えが止まったのも事実だ。
 なのでビエルネスを疑うのは当然なのである。
 しかし疑いの目を向けられたビエルネスは必死に否定を始めた。

「マスター違いますよ! 私は何もしてませんよ~」

「え? 本当か?」

「本当ですよ~。マスターの体の震えが止まったのはマスターが私に対してそういった感情がないからですよ~。別の感情、つまり愛情が芽生えていると言ってもいいでしょう!」

 ビエルネスは冗談を交えながら否定を続ける。そしてマサキの隣で小刻みに震えるネージュを薄水色の瞳に映しながら言葉を続けた。

「白銀の兎人族とじんぞく様は、魔法の効果がないと、私に対して恐怖心や緊張感、不安感などを感じてしまっているみたいですね~」

 ビエルネスの意見は正しい。
 マサキが震えなくなったのはビエルネスに対して耐性ができたのである。これは人間関係に置いて親しみやすい相手にしか感じない感情だ。
 家族や親しい友人、話しやすい相手などに感じる感情に近い。
 対してネージュは絡みが薄いビエルネスに対して心に壁を作っている。その壁を壊さない限り恐怖心や緊張感、不安感などの感情を拭うことはできないのである。

「つまり、俺はビエルネスに慣れたってことか」

「いいえ違います。私の体を――」

 求めていると、ビエルネスが言おうとした瞬間、マサキの右手の人差し指がビエルネスのおしゃべりな口を塞いだ。

「わかったから……これ以上変なこと言わないでくれよ……」

「ぷはぁっ! これが噂の『息止めプレイ』ってやつですか! ハァハァ……いきなりそんな激しいプレイを。ハァハァ……マスターったら~私を求めすぎです~ハァハァ……えっちっちです~」

「あ、もうダメだ……」

 マサキは何を言っても聞いてくれない変態妖精のビエルネスを諦め大きなため息を吐いた。クソデカため息だ。 

 小刻みに震えるネージュ、ビエルネスを諦めて俯くマサキ、姿を隠しているクレール。
 そんな三人ではこの状況から進展するのは時間がかかってしまう。そんな時にダールだ。この状況を良い方へと導くために口を開こうとするが、先にダールの双子の妹たちが口を開いた。

「妖精さんだー」
「妖精さんだー」

 デールとドールは妖精を初めて見て感動している。
 ビエルネスは変態すぎる妖精だが、双子の姉妹はそんなことは気にしていない。ぷかぷかと浮かぶビエルネスを黄色の双眸で追いかけて興味津々に見ている。

「二人は妖精を見るのは初めてだよね」

 ダールが妹たちに向かって言った。
 その言葉を聞いた妹たちはすごく嬉しそうな表情で「うん!」と、元気よく答える。

「私が初めての妖精ですか~。双子の兎人族様はご利益がありますね~」

「やったー!」
「やったー!」

 ビエルネスはデールとドールの黄色の双眸の前まで降下し豊満な胸を激しく揺らし顔を赤らめながら言った。
 なんのご利益があるのかは知らないが、純粋無垢な双子の姉妹の前で変なことはしないでほしいと、ダールは思った。そして妹たちに変態妖精を見せないように激しく両の手を動かし視界を遮る。

「妹たちの前で変なことしないでくださいッスよー」

「やっぱりオレンジの兎人族様の妹さんですか。どうりで似てるわけですね。となると将来おっぱっぱは……」

 ビエルネスは双子の姉妹のダールの兎人族の胸マフマフを見ながら言った。
 大きくもなく小さくもないダールのマフマフ。妖精族の中では豊満な胸のビエルネスは何を思ったのだろうか。

「兄さんの次はアタシッスか!? やめてくださいッス!」

「いや、私、女性の体には発情しないです。あ、でもでも人体実験としては興味がありますよ~ハァハァ……」

「ひぃぃぃ」

 珍しくダールが怖気付き後ずさった。そして小刻みに震えるネージュの横にピタリとくっつき抱き合った。

 ダールが後ずさったせいでデールとドールの黄色の瞳には子供に悪影響を及ぼす可能性が高い変態妖精が直に映される。
 ビエルネスはぷかぷかと浮かびながら、初めて妖精を見た双子の姉妹に様々なポージングを見せている。ビエルネスなりのサービス精神なのだろう。
 しかしどのポーズもグラビアアイドルがやるようなポーズばかりでやはり子供には悪影響を及ぼしかねない。

「おー」
「おー」

 興味津々で見ているデールとドールは思わず声を漏らした。そして目を離すことなくビエルネスのポージングショーを見続ける。
 その真下でチョコレートカラーのもふもふ、イングリッシュロップイヤーのルナもじーっと見ていた。

「ンッンッ」

 鼻をひくひくさせながら声を漏らし、漆黒の瞳で変態妖精のポージングショーを見ている。

「はいっ! はいっ! 刺激的っ! セクシーにっ! キュートな感じにっ! 妖艶にっ!」

 モデルばりにポージングが尽きないビエルネス。そこだけは感心できるポイントだ。

「ンッンッ」

「ウサギ様も私の魅力に気付いちゃいましたか~?」

「ンッンッ」

「そうですかーそうですかー! マスターのお嫁さんになってほしいですか~。正直者のウサギさんですね~」

 妖精ならウサギの言葉も分かりそうだが、確実にそんなことは言っていないだろうとため息を吐きながらマサキは思った。
 そしてゆっくりと口を開く。

「かなり話が脱線してるんだが、ビエルネスはなんでここに来たんだ?」

 話を本筋に戻そうとするマサキ。
 ビエルネスがここにきた理由は不明だ。
 無人販売所イースターパーティーの客として来て挨拶しに来た可能性はあるが、第一声が「ちょっと待ってくださいよ」だった。
 この言葉はウサギレースを諦めたマサキたちに向けられた言葉である。そしてビエルネスはウサギレースの主催者側でもある。
 マサキはこの時、直感した。

「ウサギレースのことか?」

 ビエルネスが答える前にマサキが考察し導き出した答えを口にする。
 その瞬間、ビエルネスは絶頂を感じたかのように己の体を抱き寄せた。

「はぁあ~んっ。マスターには私の心が丸見えなんですね~ハァハァ……」

 マサキの導き出した答えは正しかったようだ。
 ビエルネスはウサギレースのことについてマサキたちの前に現れたのである。

「このまま私を丸裸にしてもいいですよ。文字通りま・る・は・だ・か。チラッ」

 獣の毛皮でできた衣装を捲り真っ白な肌を露出させるビエルネス。
 相当な変態っぷりにマサキは引いてしまう。そして背筋がゾッと震えた。

「うう、寒気が……」

 マサキは寒気を感じ温かなものを求めた。その結果、床に座るチョコレートカラーのもふもふを抱っこすることになる。
 マサキに抱っこされたルナは、全く嫌がる様子もなく体の自由をマサキに委ねる。マサキならルナをどんな体勢にしても抱っこできるだろう。それくらいルナの体には力が入っていない。
 しかしマサキはルナを普通に抱っこする。お尻を左手で持ち前足の脇の部分を右手で優しく支える感じだ。

「ンッンッ!」

 ルナもマサキに抱っこされて嬉しいのだろう。いつも以上に声が漏れている。

 そんなルナの漆黒の瞳とマサキの日本人らしい黒瞳が目の前でぷかぷかと浮かぶ妖精の薄水色の瞳を見た。

「用件はなんだ? あと、もう話を脱線させるなよな」

「ハァハァ……は、はい……ハァハァ……」

 ビエルネスは息を荒くしながらも返事をする。そして脱線し続けた話が本題へと戻る。

「マスターたちがウサギレースに参加できるようにお手伝いに来たのですよ~」

「お手伝い?」
「ンッンッ」

「はい! お手伝いです!」

 諦めていたウサギレースに希望の光が差し込んだ。
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