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第3章:成長『ウサギレース編』
109 双子の姉妹が持ってきたチラシ
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マサキが異世界転移してから百六十四日目が過ぎた日――食品展示会に参加してから二週間が経過した夕方のこと。
無人販売所イースターパーティーに向かってオレンジ色の髪をした元気な兎人族の女の子が二人走っている。
「お姉ちゃん! お姉ちゃん!」
「お姉ちゃん! お姉ちゃん!」
無人販売所イースターパーティーの入り口の扉をものすごい勢いで開けたのは双子の幼女だ。二人の大きな声は店内に響き渡る。
その声の主は、学舎から帰ってきた双子の姉妹デールとドールだ。ウキウキワクワクとした表情で何かを伝えたそうにしている。学舎で何かいいことでもあったのだろうか?
「おっ! おかえり。どうしたんだ? そんなに慌てて」
「お兄ちゃん!」
「お兄ちゃん!」
二人の声に気付き先に顔を出したのは黒髪の青年セトヤ・マサキだった。
マサキは部屋と店内を繋ぐ通路から顔を出してオレンジ色の髪の双子の幼女の様子を見る。
そんなマサキの後ろには他のメンバーも少し遅れてやってきた。
マサキの次に顔を見せたのは白銀色の髪と垂れたウサ耳が特徴的な兎人族の美少女フロコン・ド・ネージュだ。
「おかえりなさい。どうしましたか?」
「お姉ちゃん!」
「お姉ちゃん!」
ネージュの次に顔を見せたのは、オレンジ色のボブヘアーから小さなウサ耳がちょこんと生えているネージュにも負けないほどの美少女ジェラ・ダールだ。
ダールは双子の姉妹の姉でもあり大声を出した妹たちの声に慌てた様子で顔を見せたのだった。
「デールドールどうしたの? 何かあったの?」
「お姉ちゃん!」
「お姉ちゃん!」
ダールの次に顔を見せたのは、薄桃色の髪から顔の右半分を覆い隠すほどの大きなウサ耳が特徴的な低身長の兎人族の美少女クレールだ。
クレールは先に顔を出したマサキたちの最後尾でぴょんぴょんと飛び跳ねながら顔を見せている。跳ねるたびに大きなウサ耳がふわっと浮かび右顔が現れている。
「み、見えないぞー」
「クレールのお姉ちゃん!」
「クレールのお姉ちゃん!」
最後に顔を見せたのは先頭のマサキの足元までに短い手足で歩いてきたチョコレートカラーのウサギ、イングリッシュロップイヤーのルナだ。
短い手足とは対照的にウサ耳は長い。そのアンバランスな体型のせいで特徴的な長いウサ耳を引きずって歩いてきたのである。
そしてマサキの足に自分の顔を擦り付けて「ンッンッ」と、声を漏らしている。
「ルナちゃん!」
「ルナちゃん!」
ルナの登場によりデールとドールは一歩前に出た。そしてしゃがみ込み顔を見せてくれたイングリッシュロップイヤーのルナのもふもふな体を撫でる。撫でまくる。そしてもふもふを堪能する。
そんなルナのもふもふの魅力に取り憑かれているデールとドールを黒瞳で見るマサキは、デールの小さな左手で持っている白い紙に気付いた。
「えーっと……」
双子なので見分けがつかないマサキはデールとドールどちらの名前を呼べばいいのか戸惑う。
「その紙は?」
二択を間違えるよりも二択の選択肢を排除した方法で言葉を続けた。
マサキの言葉で用件を思い出したデールは飛び跳ねながら白い紙の表面を見せ始めた。
「みてーみてー!」
その紙に目を通すマサキとネージュそしてダール。
黒瞳と青く澄んだ瞳そして黄色の瞳は同じように目線が動いていく。そして同時に口も動く。
「「「大樹杯ウサギレース」」」
ネージュとダールが紙に書いてある文字を同時に読み上げた。
文字を読むのが遅いマサキは言葉に追いつけず途中で読むのをやめて二人の読み上げを聞く事に専念する。
三人の後ろで飛び跳ねているクレールも、その顔の右半分を覆い隠すほどのウサ耳とちょこんと立っている小さなウサ耳でネージュとダールが交互に読み上げる内容を聞きはじめた。
「えーっとですね……大樹杯ウサギレースは、タイジュグループが主催する四年に一度しか開催されないウサギのウサギによるウサギのためのレースです」
「大樹杯ウサギレースは、今回で第三十二回目となりますッス」
「ウサギを愛する飼い主たちよ。自慢のウサギをレースに参加させて優勝商品を手に入れよう」
「第三十二回開催の優勝商品は『飼い主とウサギの二泊三日貸し切り温泉ツアー』ッス」
「準優勝の商品はタイジュグループの全商品に使える『十万ラビ分の割引券』ですって!?」
「参加者は下記の申込欄に必要事項を記入して冒険者ギルドに提出してください。だそうッスよ」
「詳細は裏面ですね」
デールとドールが持ってきた白い紙の内容を読み終えたネージュとダール。
その白い紙はタイジュグループが主催するウサギレースのチラシだったのだ。
「お兄ちゃんお姉ちゃん。ルナちゃんを参加させてみようよー」
デールのキラキラと輝く黄色の瞳がマサキとネージュの胸に突き刺さる。
もう一人の双子の姉妹ドールは、ルナのもふもふを堪能したままだ。自分の顔を擦り付けてウサギ臭を嗅いでいる。もはやウサギ中毒に陥っている。
マサキとネージュは一度お互いの顔を見合わせた。その後すぐにマサキが口を開く。
「とりあえず中でゆっくり話そう」
「はーい」
「もっふもっふ」
元気に返事をするデール。ウサギ中毒のドールはマサキの声が届いておらずもふもふし続けていた。
そんなドールを姉であるダールが持ち上げて部屋の中へと強制連行。ルナから離れさせウサギ中毒から救う。
マサキたちも部屋へと戻るとその足並みに揃えてルナも短い手足で一生懸命にウサ尻尾を振りながらよちよちと歩く。
全員が部屋に入り席に着いたところで先ほどのウサギレースについての話が再開される。
「このウサギレースどうするよ?」
「ルナちゃんに参加してほしいの!」
「ルナちゃんに参加してほしいの!」
マサキの言葉に黄色の瞳をキラキラと輝かせる双子の姉妹。
一人だけでも破壊力がすごかったキラキラの瞳だが二人になるとさらに破壊力がすごい。
マサキもついつい断ることができず――
「参加するぞ!」
と、座ったばかりの椅子から立ち上がり叫んだ。
そんなマサキに対して冷静なネージュは現実的に話を進めようとする。
「参加するのはいいと思いますが、誰がルナちゃんと一緒に参加するんですか?」
「一緒にってルナちゃん一匹で参加するんじゃないの?」
「いいえ違いますよ。飼い主一名とウサギ一匹の参加と、裏面に記載してあります」
「マジか。でもレースはウサギだけだろ? 飼い主は何をするんだ?」
マサキの素朴な疑問に対してウサギレースのチラシを持ってきたデールとドールが答える。
「飼い主はウサギをゴールまで誘導するんだよ」
「飼い主はウサギをゴールまで誘導するんだよ」
声を揃えて言った双子の姉妹。聴き心地の良い声がマサキの耳に届く。
「なるほどそういうことか。エサとか使って誘導するってわけね」
「そんな感じだよー」
「そんな感じだよー」
手に顎を乗せた体勢で理解するマサキ。そして理解したマサキを、両手を大きく広げて肯定するデールとドール。
大樹杯ウサギレースは、飼い主とウサギがペアとなり一周四百メートルのコースを走りゴールを目指す大会だ。
障害物は一切ない四百メートルのコース。そのコースを一番にゴールすればいいだけの簡単なルールだ。
飼い主は自分のウサギが一番にゴールテープを切るために誘導することができる。他のウサギや飼い主への直接的な妨害をしなければどんな誘導でも許されるのだ。
例として『エサでの誘導」『メスウサギの匂いでの誘導』『ヘビのおもちゃで怖がらせて走らせる』などウサギを走らせる方法は様々ある。
中にはトレーニングを積み重ね、飼い主に誘導などされず、己の足のみで走り切る強者もいるのである。
「ルナちゃんを誘導する飼い主を誰にするかだよな」
マサキたちが飼っているウサギはイングリッシュロップイヤーのルナしかいない。なのでウサギレースに参加するのならルナの参加は絶対だ。
あとは参加する飼い主を決めるだけ。そう思ったマサキは飼い主として参加する人を誰にするのかを考え始める。
「俺とネージュとクレールは人前に出るのは無理だからダールたちの誰か一人がレースに参加することになるよな」
「アタシたちの誰かッスか?」
三姉妹は黄色の瞳を交互に見合わせた。
「それならお姉ちゃんが出てよ」
「足が速いお姉ちゃんが絶対いいよ」
そんな妹たちの声にマサキもすぐに賛同する。
「決まりだな。ダールが飼い主としてウサギレースに参加してくれ!」
「ア、アタシッスか! ちょ、ちょっと待ってくださいッスよ」
本人の意見も聞かずに当然決定してしまったことだ。ダール自身にも意見はあるだろう。
マサキは大人しくダールの意見に耳を傾ける。
「アタシが出てもいいッスけど。ルナちゃんは外に出ると兄さんから絶対に離れないじゃないッスか。そこのところはどうするんッスか?」
「た、確かに……」
ダールの意見よりもまずルナの気持ちの方が重要だった。
ルナは外出をする際、マサキから決して離れようとしない。他の人が抱っこをしてマサキから離れさせようとすると、無表情で無気力な顔からは想像もできないほど激しく抵抗するのだ。
「だからアタシじゃなくて兄さんが参加した方がいいと思うッス」
「でも俺も外だとネージュと手を繋がないと平常心を保てないし……というか人前になんて絶対出れないぞ」
人間不信のマサキ自身にも問題があるのだ。
ルナのマサキから離れない性質とマサキのネージュと手を繋いでいなければ平常心を保てない心の病がこの会議を狂わせる。
うまく噛み合わない歯車をどう噛み合わせるかがこの会議の重要なポイントとなる。
「ネージュと一緒でも大丈夫なら――」
参加してもいいと、言おうとしたマサキの言葉をネージュが遮る。
「残念ですが飼い主の参加が認められてるのは一名のみです。そう書かれてます」
「マジか……そうだよな。普通一人だけだよな……」
早々に積んだ。
マサキたちはそれぞれの事情によって四年に一度のウサギレースに参加することが困難であると判明した。
「残念ですけど私たちでは参加はできませんね。ウサギレースのことを教えてくれてありがとうございます」
ネージュは優しくデールとドールの頭を撫でた。
ウサギレースの情報をウキウキワクワクとしながら持ってきた双子の姉妹。情報を速く伝えたいが故に学舎から走って帰ってきたことを壁にかけてある丸時計を見ているネージュは気付いている。
だからこそネージュは優しい手のひらで双子の姉妹を悲しませないためにも頭を撫で続けたのだ。
そんなネージュの気持ちを感じたのだろうか。双子の姉妹は口を揃えて開いた
「残念だね」
「残念だね」
本当に残念そうな顔をしている。今にも泣き出しそうだ。
しかし泣き出さなかったのはデールとドールがしっかり者だからだろう。そしてネージュの気持ちを感じ取ったからだろう。
そんな諦めムードの中、大声がマサキたちの耳に届いた。
「ちょっと待ってくださいよー!」
その声はこの場にいる者の声ではなかった。そして店内から聞こえる声でもなかった。
部屋の中から聞こえる声だ。なのにこの場にいる者の声ではない。
そんな謎の声にマサキとネージュは飛び付き抱き合った。そして小刻みに震えだす。
「ガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガ……」
「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ……」
謎の声の主を探すため一同は部屋の中をキョロキョロとし探し始める。
しかし謎の声の主はどこにも見つからない。
そんな中、謎の声の主は再び口を開いた。
「ここですよーここー!」
その声はマサキたちの頭上――大樹の内側でできた茶色の天井から聞こえた。
謎の声の正体は――。
無人販売所イースターパーティーに向かってオレンジ色の髪をした元気な兎人族の女の子が二人走っている。
「お姉ちゃん! お姉ちゃん!」
「お姉ちゃん! お姉ちゃん!」
無人販売所イースターパーティーの入り口の扉をものすごい勢いで開けたのは双子の幼女だ。二人の大きな声は店内に響き渡る。
その声の主は、学舎から帰ってきた双子の姉妹デールとドールだ。ウキウキワクワクとした表情で何かを伝えたそうにしている。学舎で何かいいことでもあったのだろうか?
「おっ! おかえり。どうしたんだ? そんなに慌てて」
「お兄ちゃん!」
「お兄ちゃん!」
二人の声に気付き先に顔を出したのは黒髪の青年セトヤ・マサキだった。
マサキは部屋と店内を繋ぐ通路から顔を出してオレンジ色の髪の双子の幼女の様子を見る。
そんなマサキの後ろには他のメンバーも少し遅れてやってきた。
マサキの次に顔を見せたのは白銀色の髪と垂れたウサ耳が特徴的な兎人族の美少女フロコン・ド・ネージュだ。
「おかえりなさい。どうしましたか?」
「お姉ちゃん!」
「お姉ちゃん!」
ネージュの次に顔を見せたのは、オレンジ色のボブヘアーから小さなウサ耳がちょこんと生えているネージュにも負けないほどの美少女ジェラ・ダールだ。
ダールは双子の姉妹の姉でもあり大声を出した妹たちの声に慌てた様子で顔を見せたのだった。
「デールドールどうしたの? 何かあったの?」
「お姉ちゃん!」
「お姉ちゃん!」
ダールの次に顔を見せたのは、薄桃色の髪から顔の右半分を覆い隠すほどの大きなウサ耳が特徴的な低身長の兎人族の美少女クレールだ。
クレールは先に顔を出したマサキたちの最後尾でぴょんぴょんと飛び跳ねながら顔を見せている。跳ねるたびに大きなウサ耳がふわっと浮かび右顔が現れている。
「み、見えないぞー」
「クレールのお姉ちゃん!」
「クレールのお姉ちゃん!」
最後に顔を見せたのは先頭のマサキの足元までに短い手足で歩いてきたチョコレートカラーのウサギ、イングリッシュロップイヤーのルナだ。
短い手足とは対照的にウサ耳は長い。そのアンバランスな体型のせいで特徴的な長いウサ耳を引きずって歩いてきたのである。
そしてマサキの足に自分の顔を擦り付けて「ンッンッ」と、声を漏らしている。
「ルナちゃん!」
「ルナちゃん!」
ルナの登場によりデールとドールは一歩前に出た。そしてしゃがみ込み顔を見せてくれたイングリッシュロップイヤーのルナのもふもふな体を撫でる。撫でまくる。そしてもふもふを堪能する。
そんなルナのもふもふの魅力に取り憑かれているデールとドールを黒瞳で見るマサキは、デールの小さな左手で持っている白い紙に気付いた。
「えーっと……」
双子なので見分けがつかないマサキはデールとドールどちらの名前を呼べばいいのか戸惑う。
「その紙は?」
二択を間違えるよりも二択の選択肢を排除した方法で言葉を続けた。
マサキの言葉で用件を思い出したデールは飛び跳ねながら白い紙の表面を見せ始めた。
「みてーみてー!」
その紙に目を通すマサキとネージュそしてダール。
黒瞳と青く澄んだ瞳そして黄色の瞳は同じように目線が動いていく。そして同時に口も動く。
「「「大樹杯ウサギレース」」」
ネージュとダールが紙に書いてある文字を同時に読み上げた。
文字を読むのが遅いマサキは言葉に追いつけず途中で読むのをやめて二人の読み上げを聞く事に専念する。
三人の後ろで飛び跳ねているクレールも、その顔の右半分を覆い隠すほどのウサ耳とちょこんと立っている小さなウサ耳でネージュとダールが交互に読み上げる内容を聞きはじめた。
「えーっとですね……大樹杯ウサギレースは、タイジュグループが主催する四年に一度しか開催されないウサギのウサギによるウサギのためのレースです」
「大樹杯ウサギレースは、今回で第三十二回目となりますッス」
「ウサギを愛する飼い主たちよ。自慢のウサギをレースに参加させて優勝商品を手に入れよう」
「第三十二回開催の優勝商品は『飼い主とウサギの二泊三日貸し切り温泉ツアー』ッス」
「準優勝の商品はタイジュグループの全商品に使える『十万ラビ分の割引券』ですって!?」
「参加者は下記の申込欄に必要事項を記入して冒険者ギルドに提出してください。だそうッスよ」
「詳細は裏面ですね」
デールとドールが持ってきた白い紙の内容を読み終えたネージュとダール。
その白い紙はタイジュグループが主催するウサギレースのチラシだったのだ。
「お兄ちゃんお姉ちゃん。ルナちゃんを参加させてみようよー」
デールのキラキラと輝く黄色の瞳がマサキとネージュの胸に突き刺さる。
もう一人の双子の姉妹ドールは、ルナのもふもふを堪能したままだ。自分の顔を擦り付けてウサギ臭を嗅いでいる。もはやウサギ中毒に陥っている。
マサキとネージュは一度お互いの顔を見合わせた。その後すぐにマサキが口を開く。
「とりあえず中でゆっくり話そう」
「はーい」
「もっふもっふ」
元気に返事をするデール。ウサギ中毒のドールはマサキの声が届いておらずもふもふし続けていた。
そんなドールを姉であるダールが持ち上げて部屋の中へと強制連行。ルナから離れさせウサギ中毒から救う。
マサキたちも部屋へと戻るとその足並みに揃えてルナも短い手足で一生懸命にウサ尻尾を振りながらよちよちと歩く。
全員が部屋に入り席に着いたところで先ほどのウサギレースについての話が再開される。
「このウサギレースどうするよ?」
「ルナちゃんに参加してほしいの!」
「ルナちゃんに参加してほしいの!」
マサキの言葉に黄色の瞳をキラキラと輝かせる双子の姉妹。
一人だけでも破壊力がすごかったキラキラの瞳だが二人になるとさらに破壊力がすごい。
マサキもついつい断ることができず――
「参加するぞ!」
と、座ったばかりの椅子から立ち上がり叫んだ。
そんなマサキに対して冷静なネージュは現実的に話を進めようとする。
「参加するのはいいと思いますが、誰がルナちゃんと一緒に参加するんですか?」
「一緒にってルナちゃん一匹で参加するんじゃないの?」
「いいえ違いますよ。飼い主一名とウサギ一匹の参加と、裏面に記載してあります」
「マジか。でもレースはウサギだけだろ? 飼い主は何をするんだ?」
マサキの素朴な疑問に対してウサギレースのチラシを持ってきたデールとドールが答える。
「飼い主はウサギをゴールまで誘導するんだよ」
「飼い主はウサギをゴールまで誘導するんだよ」
声を揃えて言った双子の姉妹。聴き心地の良い声がマサキの耳に届く。
「なるほどそういうことか。エサとか使って誘導するってわけね」
「そんな感じだよー」
「そんな感じだよー」
手に顎を乗せた体勢で理解するマサキ。そして理解したマサキを、両手を大きく広げて肯定するデールとドール。
大樹杯ウサギレースは、飼い主とウサギがペアとなり一周四百メートルのコースを走りゴールを目指す大会だ。
障害物は一切ない四百メートルのコース。そのコースを一番にゴールすればいいだけの簡単なルールだ。
飼い主は自分のウサギが一番にゴールテープを切るために誘導することができる。他のウサギや飼い主への直接的な妨害をしなければどんな誘導でも許されるのだ。
例として『エサでの誘導」『メスウサギの匂いでの誘導』『ヘビのおもちゃで怖がらせて走らせる』などウサギを走らせる方法は様々ある。
中にはトレーニングを積み重ね、飼い主に誘導などされず、己の足のみで走り切る強者もいるのである。
「ルナちゃんを誘導する飼い主を誰にするかだよな」
マサキたちが飼っているウサギはイングリッシュロップイヤーのルナしかいない。なのでウサギレースに参加するのならルナの参加は絶対だ。
あとは参加する飼い主を決めるだけ。そう思ったマサキは飼い主として参加する人を誰にするのかを考え始める。
「俺とネージュとクレールは人前に出るのは無理だからダールたちの誰か一人がレースに参加することになるよな」
「アタシたちの誰かッスか?」
三姉妹は黄色の瞳を交互に見合わせた。
「それならお姉ちゃんが出てよ」
「足が速いお姉ちゃんが絶対いいよ」
そんな妹たちの声にマサキもすぐに賛同する。
「決まりだな。ダールが飼い主としてウサギレースに参加してくれ!」
「ア、アタシッスか! ちょ、ちょっと待ってくださいッスよ」
本人の意見も聞かずに当然決定してしまったことだ。ダール自身にも意見はあるだろう。
マサキは大人しくダールの意見に耳を傾ける。
「アタシが出てもいいッスけど。ルナちゃんは外に出ると兄さんから絶対に離れないじゃないッスか。そこのところはどうするんッスか?」
「た、確かに……」
ダールの意見よりもまずルナの気持ちの方が重要だった。
ルナは外出をする際、マサキから決して離れようとしない。他の人が抱っこをしてマサキから離れさせようとすると、無表情で無気力な顔からは想像もできないほど激しく抵抗するのだ。
「だからアタシじゃなくて兄さんが参加した方がいいと思うッス」
「でも俺も外だとネージュと手を繋がないと平常心を保てないし……というか人前になんて絶対出れないぞ」
人間不信のマサキ自身にも問題があるのだ。
ルナのマサキから離れない性質とマサキのネージュと手を繋いでいなければ平常心を保てない心の病がこの会議を狂わせる。
うまく噛み合わない歯車をどう噛み合わせるかがこの会議の重要なポイントとなる。
「ネージュと一緒でも大丈夫なら――」
参加してもいいと、言おうとしたマサキの言葉をネージュが遮る。
「残念ですが飼い主の参加が認められてるのは一名のみです。そう書かれてます」
「マジか……そうだよな。普通一人だけだよな……」
早々に積んだ。
マサキたちはそれぞれの事情によって四年に一度のウサギレースに参加することが困難であると判明した。
「残念ですけど私たちでは参加はできませんね。ウサギレースのことを教えてくれてありがとうございます」
ネージュは優しくデールとドールの頭を撫でた。
ウサギレースの情報をウキウキワクワクとしながら持ってきた双子の姉妹。情報を速く伝えたいが故に学舎から走って帰ってきたことを壁にかけてある丸時計を見ているネージュは気付いている。
だからこそネージュは優しい手のひらで双子の姉妹を悲しませないためにも頭を撫で続けたのだ。
そんなネージュの気持ちを感じたのだろうか。双子の姉妹は口を揃えて開いた
「残念だね」
「残念だね」
本当に残念そうな顔をしている。今にも泣き出しそうだ。
しかし泣き出さなかったのはデールとドールがしっかり者だからだろう。そしてネージュの気持ちを感じ取ったからだろう。
そんな諦めムードの中、大声がマサキたちの耳に届いた。
「ちょっと待ってくださいよー!」
その声はこの場にいる者の声ではなかった。そして店内から聞こえる声でもなかった。
部屋の中から聞こえる声だ。なのにこの場にいる者の声ではない。
そんな謎の声にマサキとネージュは飛び付き抱き合った。そして小刻みに震えだす。
「ガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガガガッガ……」
「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ……」
謎の声の主を探すため一同は部屋の中をキョロキョロとし探し始める。
しかし謎の声の主はどこにも見つからない。
そんな中、謎の声の主は再び口を開いた。
「ここですよーここー!」
その声はマサキたちの頭上――大樹の内側でできた茶色の天井から聞こえた。
謎の声の正体は――。
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