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第2章:出逢い『空飛ぶウサギが来た編』
82 園長の怒り
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力を使い果たし腹ぺこで倒れてしまったダールに再び爪の斬撃が向けられた。
死の爪がダールに届くまでの刹那、詠唱が唱えられる。
「風よ我に力を――爆風!」
それは風属性の魔法の詠唱だ。
空気の大砲が爆風となって放たれる風の攻撃魔法。その魔法は爪の斬撃がダールの肉体に届くよりも先にウサギ泥棒に届いた。
ウサギ泥棒は襲いかかってくる爆風から身を防ぐためにダールに向けていた鋭い爪を引っ込めて体勢を変えた。
それは防御の構えだ。両腕をクロスにし爆風から身を守ろうとしている。それほど反射的に体が動かされてしまったのである。
「ぐはぁッ! こ、今度はなんだァ!?」
ダメージを受けるウサギ泥棒。
防御の構えを反射的に取ったのは正しかった。なぜなら風の魔法を防いだ両腕のダメージは凄まじく黒服を破り打撲傷を与えていたのである。
黒服が破れたことによってウサギ泥棒の強靭な腕の筋肉と鋭い爪が露わになった。
もしも両腕で風の魔法を防いでなければ体ごと吹っ飛ばされ致命傷を負っていたに違いない。そしてフードが外れ素顔が見えていたかもしれない。
そんな強力な風の魔法を放った人物をウサギ泥棒は睨みつけた。
「さすがに……バレるよなァ……」
ウサギ泥棒は後退った。風属性の魔法を放った人物が判明したからだ。
その人物は兎園のウサギエリアに入る扉、つまり受付の方角から鬼のように恐ろしい顔つきをしながら強者のオーラを漂わせ歩いている。
「ワシの兎園になんのようだ? コソ泥!」
その人物は兎園の園長マグーレンだ。ウサ耳をピーンっと立たせて怒っているのがわかる。
なぜか上半身が裸になっており、齢七十代とは思えないほどの強靭な肉体が露わになっていた。
マグーレンとウサギ泥棒の距離およそ百メートル。
百メートルほど遠い距離で正確に尚且つ強力な風属性の魔法をマグーレンは放ったのである。
そしてマグーレンの隣には薄桃色の髪の美少女がいる。
「クレール!」
クレールがマグーレンの前で姿を現していることに驚くマサキ。
クレールは自らの姿を園長のマグーレンの前に現し、ウサギ泥棒が襲撃して来たことを伝えたのである。
あれほど姿を現すのを拒み続けていたクレールが真っ先に行動していたのだ。
その行動のおかげでダールの命、そしてイングリッシュロップイヤーたちは救われたのである。
「風よ我に力を――爆風!」
「チッ! ここまでかァ……クソがァ!!」
ウサギ泥棒は舌打ちを打った。
そして風属性の魔法から逃げるためにマクーターを操縦して空へと向かっていった。
「逃がさんぞ! コソ泥! 風よ我に力を――爆風!」
マグーレンは逃げるウサギ泥棒に向かって手をかざし風属性の攻撃魔法を放つ。
兎園を荒らしたウサギ泥棒に怒りの風属性の魔法を放ち続ける。
「風よ我に力を――爆風! 風よ我に力を――爆風! 風よ我に力を――爆風!」
怒りがおさまらないマグーレンは、魔力の残量を気にすることなく風属性の魔法を放ち続けた。
その魔力が尽きるまで風属性の魔法は続くだろう。
しかし空中へと逃げていったウサギ泥棒には当たらなかった。空中ではそれほど命中率が落ちるのだ。それに加えウサギ泥棒はマクーターをうまく操縦して風属性の魔法を回避している。
「クソがァ……邪魔が入りすぎなんだよ……クソがァ!」
ウサギ泥棒は怒号を飛ばしながら空の彼方へと消えていった。
「風よ我に力を――爆風! はぁ……はぁ……「風よ我に力を――爆風! はぁ……はぁ……風よ我に力を――爆風!」
「お、おじーさん! おじーさん!」
怒りに身を任せて風属性の魔法を放ち続けるマグーレンにクレールは声をかけた。
そして風属性の魔法を放ち続けるマグーレンの手に小さな手を添えた。
「おじーさん! もういなくなっちゃったぞ! だからもう大丈夫だぞ!」
そのクレールの言葉に我を忘れていたマグーレンが冷静さを取り戻す。
「逃げられてしまったか……我を忘れていた。すまなかった。ありがとう」
冷静さを取り戻し優しい表情に戻ったマグーレンは暴走を止めてくれた小さな手の持ち主の頭を撫でた。
悪魔が宿ると言われているウサ耳を持つクレールの頭をなんの躊躇いもなく撫でたのだ。
その後、マグーレンはマサキたちに聞こえるように大声を出した。
「ワシの管理不足だ。すまなかった。そっちは大丈夫か?」
そのままマグーレンは走りながらマサキたちの方へと駆けていった。
年老いたおじいさんの走り方は、先ほどの強力な風属性の魔法を放っていた人物と同じ人物だとは思えないほど、年寄りらしい走り方をしていた。
マサキたちのところへ到着したマグーレンは真っ先に倒れて動けないダールに声をかけた。
「はぁ……はぁ……受付をしたお嬢ちゃんだな。大丈夫か?」
しゃがみ込むマグーレンはダールの肩を揺さぶる。風の魔法は使えても治癒魔法は使えないようだ。
しかし治癒魔法が使えたとしてもダールは腹ぺこで倒れているだけなので治癒魔法を使っても意味はないのだ。
「……ぉ……ぁ……」
弱々しい声でダールが口を開いたが耳の遠いマグーレンには何を言っているのかさっぱり聞き取れなかった。
そんなマグーレンに向かってマサキが口を開く。
「ニ、ニンジンを……ニンジンを……た、食べさせて……」
マサキはぎこちない喋り方だったが、ダールの言葉を代わりに伝えることができた。
マサキが喋れたのはマグーレンに対する評価が変わったからである。
最初は怖い顔という印象でマサキは怯えていた。しかし今は命を救ってもらい優しく声をかけてもらっている。
そんなマグーレンの優しさに触れたマサキは心のどこかでマグーレンに対する評価が変わったのだ。だから今のマサキは少しの震えだけになっていて言葉を発することができたのである。
そんなマサキは左腕でウサギを抱き抱え、右手でネージュを抱きしめている。
「ニンジンだな。わかった」
マグーレンが立ち上がろうとした時、クレールの可愛らしい声がその場にいる全員の耳に届く。
「クーがニンジンを持ってきたよ!」
クレールの小さな腕の中には大量のニンジンがあった。ウサギのエサが置いてある小屋から大量に持ってきたのである。
ダールに食べさせるのなら一本で十分なのだがクレールは大量にニンジン持ってきた。
その理由は、ウサギ泥棒に捕まりそうになったイングリッシュロップイヤーたちにもニンジンを食べてもらい、今起きた怖い思いを忘れさせるためだ。
兎人族の美少女クレールはよく周りが見えている。そして相手が欲するものを正確に迅速に持ってきてくれるのだ。
幼い少女ながらにしっかりしているのだ。
「ダールはこれ食べてー!」
クレールはダールの口にニンジンを一本入れた。
その後、ダールはニンジンを一口咀嚼。ガリガリとニンジンが咀嚼される音がダールの口元から聞こえてくる。そして飲み込んだ。
一口サイズ分のニンジンを食べたダールは倒れながら目の前に置かれたニンジンに手を伸ばした。そしてニンジンにかぶりつく。
「ウサギさーんおいでー!」
クレールはダールにニンジンを渡した後、小さな腕で大量に持ってきたニンジンを一箇所にまとめて置いた。
そのニンジンにイングリッシュロップイヤーたちは気付いた。そして辺りを警戒しながらゆっくりと近付いてくる。短い手足でゆっくりと歩いてきたのだ。
「ンッンッ」
「ンッンッ」
「ンッンッ」
イングリッシュロップイヤーたちは声を漏らしながらクレールが持ってきたニンジンを食べ始めた。
クレールはウサギたちがニンジンを食べる様子を見てご満悦だ。
その間にダールはニンジンを一本食べ終えて自分の力でその場に座れるまで回復した。
「クレールの姉さんニンジンをありがとうッス。おかげで復活したっッス。マサキの兄さんとネージュの姉さんも助けてくれたありがとうッス。また兄さんたちには命を救われたッス。それに園長さんもありがとうございましたッス。園長さんにも命を救われたッス。あとウサギちゃんも助けてくれてありがとうッス」
座っているダールは頭を下げてこの場にいる全員に感謝を告げた。座りながら頭を下げたことによって土下座のような体勢になっている。
「お嬢ちゃん頭を上げてくれ。それに感謝するのはワシの方だ。大事なウサギたちを……ワシの家族を守ってくれてありがとう。もちろんお嬢ちゃんだけじゃない。兄ちゃんやお嬢ちゃんたちもありがとう」
マグーレンは深々と頭を下げた。人間不信のマサキでさえマグーレンの誠意が伝わる。それほどマグーレンは誠心誠意、頭を下げているのだ。
「ところで……やつは誰だ? なぜウサギを狙ったんだ……」
マグーレンはウサギ泥棒の話へと話題を変えた。
その話題に真っ先に答えたのはダールだ。
「フードを被ってて顔までは見えなかったッスけど、鋭い爪と鋭い牙があったッス……少なくても兎人族ではないッスね。別の種族ッスよ……」
間近でウサギ泥棒を見ていたダールの発言は正しい。
爪や牙は兎人族には無い特徴だ。ウサギ泥棒は兎人族以外の別の種族で間違いない。
「に、人間族は? お、俺を……襲わなかった……」
マサキはぎこちない喋り方のまま話し合いに参加した。
ダールを庇ったマサキは爪の斬撃を受けると思っていた。しかし爪の斬撃は飛んでこなかったのだ。まるで人間族に害を与えることができないかのように。
そしてマサキたちに見覚えがある異世界の乗り物マクーターと黒服。これは以前に無人販売所イースターパーティーにやってきた人間族の盗賊団と同じ特徴だ。
その観点からマサキはウサギ泥棒が人間族の可能性があるのでは無いかと提示したのである。
「で、でも……爪や牙や尻尾は……に、人間族には……あ、ありませんよ……」
ネージュも話し合いに参加する。マサキと同様にぎこちない喋り方をしている。
「尻尾か……」
ネージュの口から出たウサギ泥棒の新たな特徴に髭を触り考え始めるマグーレン。
「は、はい。わ、私が……こ、ここでダールの……隣にいたときに……チ、チラッと、み、見えました。な、長い尻尾でした」
ネージュはダールを助けた際にウサギ泥棒の黒服とローブの中にある尻尾を見たのである。それも長い尻尾だ。
その特徴からマグーレンはある種族を特定した。
「長い尻尾……爪と牙……猫人族……」
猫人族。それは猫と人の血が混ざり合った亜人だ。兎人族がウサギと人の血が混ざり合っているように、他の種族も人と動物の血が混ざり合っているのである。
「びょうじんぞく?」
マサキはその言葉にピンときていない様子で小首を傾げていた。
そんなマサキにダールが猫人族を簡単に説明する。
「猫人族は猫と人の亜人ッス。牙と爪そして長い尻尾が特徴の種族ッスよ」
「な、なるほど……泥棒猫ってことか……で、でもなんで猫人族がウサギを盗もうとしたんだ? そ、それに俺を襲わなかった理由はなんだ?」
「そ、それはわからないッス……」
ウサギ泥棒の猫人族はなぜウサギを盗もうとしたのか。なぜマサキを襲えなかったのか。その理由はここにいる誰もがわからなかった。
死の爪がダールに届くまでの刹那、詠唱が唱えられる。
「風よ我に力を――爆風!」
それは風属性の魔法の詠唱だ。
空気の大砲が爆風となって放たれる風の攻撃魔法。その魔法は爪の斬撃がダールの肉体に届くよりも先にウサギ泥棒に届いた。
ウサギ泥棒は襲いかかってくる爆風から身を防ぐためにダールに向けていた鋭い爪を引っ込めて体勢を変えた。
それは防御の構えだ。両腕をクロスにし爆風から身を守ろうとしている。それほど反射的に体が動かされてしまったのである。
「ぐはぁッ! こ、今度はなんだァ!?」
ダメージを受けるウサギ泥棒。
防御の構えを反射的に取ったのは正しかった。なぜなら風の魔法を防いだ両腕のダメージは凄まじく黒服を破り打撲傷を与えていたのである。
黒服が破れたことによってウサギ泥棒の強靭な腕の筋肉と鋭い爪が露わになった。
もしも両腕で風の魔法を防いでなければ体ごと吹っ飛ばされ致命傷を負っていたに違いない。そしてフードが外れ素顔が見えていたかもしれない。
そんな強力な風の魔法を放った人物をウサギ泥棒は睨みつけた。
「さすがに……バレるよなァ……」
ウサギ泥棒は後退った。風属性の魔法を放った人物が判明したからだ。
その人物は兎園のウサギエリアに入る扉、つまり受付の方角から鬼のように恐ろしい顔つきをしながら強者のオーラを漂わせ歩いている。
「ワシの兎園になんのようだ? コソ泥!」
その人物は兎園の園長マグーレンだ。ウサ耳をピーンっと立たせて怒っているのがわかる。
なぜか上半身が裸になっており、齢七十代とは思えないほどの強靭な肉体が露わになっていた。
マグーレンとウサギ泥棒の距離およそ百メートル。
百メートルほど遠い距離で正確に尚且つ強力な風属性の魔法をマグーレンは放ったのである。
そしてマグーレンの隣には薄桃色の髪の美少女がいる。
「クレール!」
クレールがマグーレンの前で姿を現していることに驚くマサキ。
クレールは自らの姿を園長のマグーレンの前に現し、ウサギ泥棒が襲撃して来たことを伝えたのである。
あれほど姿を現すのを拒み続けていたクレールが真っ先に行動していたのだ。
その行動のおかげでダールの命、そしてイングリッシュロップイヤーたちは救われたのである。
「風よ我に力を――爆風!」
「チッ! ここまでかァ……クソがァ!!」
ウサギ泥棒は舌打ちを打った。
そして風属性の魔法から逃げるためにマクーターを操縦して空へと向かっていった。
「逃がさんぞ! コソ泥! 風よ我に力を――爆風!」
マグーレンは逃げるウサギ泥棒に向かって手をかざし風属性の攻撃魔法を放つ。
兎園を荒らしたウサギ泥棒に怒りの風属性の魔法を放ち続ける。
「風よ我に力を――爆風! 風よ我に力を――爆風! 風よ我に力を――爆風!」
怒りがおさまらないマグーレンは、魔力の残量を気にすることなく風属性の魔法を放ち続けた。
その魔力が尽きるまで風属性の魔法は続くだろう。
しかし空中へと逃げていったウサギ泥棒には当たらなかった。空中ではそれほど命中率が落ちるのだ。それに加えウサギ泥棒はマクーターをうまく操縦して風属性の魔法を回避している。
「クソがァ……邪魔が入りすぎなんだよ……クソがァ!」
ウサギ泥棒は怒号を飛ばしながら空の彼方へと消えていった。
「風よ我に力を――爆風! はぁ……はぁ……「風よ我に力を――爆風! はぁ……はぁ……風よ我に力を――爆風!」
「お、おじーさん! おじーさん!」
怒りに身を任せて風属性の魔法を放ち続けるマグーレンにクレールは声をかけた。
そして風属性の魔法を放ち続けるマグーレンの手に小さな手を添えた。
「おじーさん! もういなくなっちゃったぞ! だからもう大丈夫だぞ!」
そのクレールの言葉に我を忘れていたマグーレンが冷静さを取り戻す。
「逃げられてしまったか……我を忘れていた。すまなかった。ありがとう」
冷静さを取り戻し優しい表情に戻ったマグーレンは暴走を止めてくれた小さな手の持ち主の頭を撫でた。
悪魔が宿ると言われているウサ耳を持つクレールの頭をなんの躊躇いもなく撫でたのだ。
その後、マグーレンはマサキたちに聞こえるように大声を出した。
「ワシの管理不足だ。すまなかった。そっちは大丈夫か?」
そのままマグーレンは走りながらマサキたちの方へと駆けていった。
年老いたおじいさんの走り方は、先ほどの強力な風属性の魔法を放っていた人物と同じ人物だとは思えないほど、年寄りらしい走り方をしていた。
マサキたちのところへ到着したマグーレンは真っ先に倒れて動けないダールに声をかけた。
「はぁ……はぁ……受付をしたお嬢ちゃんだな。大丈夫か?」
しゃがみ込むマグーレンはダールの肩を揺さぶる。風の魔法は使えても治癒魔法は使えないようだ。
しかし治癒魔法が使えたとしてもダールは腹ぺこで倒れているだけなので治癒魔法を使っても意味はないのだ。
「……ぉ……ぁ……」
弱々しい声でダールが口を開いたが耳の遠いマグーレンには何を言っているのかさっぱり聞き取れなかった。
そんなマグーレンに向かってマサキが口を開く。
「ニ、ニンジンを……ニンジンを……た、食べさせて……」
マサキはぎこちない喋り方だったが、ダールの言葉を代わりに伝えることができた。
マサキが喋れたのはマグーレンに対する評価が変わったからである。
最初は怖い顔という印象でマサキは怯えていた。しかし今は命を救ってもらい優しく声をかけてもらっている。
そんなマグーレンの優しさに触れたマサキは心のどこかでマグーレンに対する評価が変わったのだ。だから今のマサキは少しの震えだけになっていて言葉を発することができたのである。
そんなマサキは左腕でウサギを抱き抱え、右手でネージュを抱きしめている。
「ニンジンだな。わかった」
マグーレンが立ち上がろうとした時、クレールの可愛らしい声がその場にいる全員の耳に届く。
「クーがニンジンを持ってきたよ!」
クレールの小さな腕の中には大量のニンジンがあった。ウサギのエサが置いてある小屋から大量に持ってきたのである。
ダールに食べさせるのなら一本で十分なのだがクレールは大量にニンジン持ってきた。
その理由は、ウサギ泥棒に捕まりそうになったイングリッシュロップイヤーたちにもニンジンを食べてもらい、今起きた怖い思いを忘れさせるためだ。
兎人族の美少女クレールはよく周りが見えている。そして相手が欲するものを正確に迅速に持ってきてくれるのだ。
幼い少女ながらにしっかりしているのだ。
「ダールはこれ食べてー!」
クレールはダールの口にニンジンを一本入れた。
その後、ダールはニンジンを一口咀嚼。ガリガリとニンジンが咀嚼される音がダールの口元から聞こえてくる。そして飲み込んだ。
一口サイズ分のニンジンを食べたダールは倒れながら目の前に置かれたニンジンに手を伸ばした。そしてニンジンにかぶりつく。
「ウサギさーんおいでー!」
クレールはダールにニンジンを渡した後、小さな腕で大量に持ってきたニンジンを一箇所にまとめて置いた。
そのニンジンにイングリッシュロップイヤーたちは気付いた。そして辺りを警戒しながらゆっくりと近付いてくる。短い手足でゆっくりと歩いてきたのだ。
「ンッンッ」
「ンッンッ」
「ンッンッ」
イングリッシュロップイヤーたちは声を漏らしながらクレールが持ってきたニンジンを食べ始めた。
クレールはウサギたちがニンジンを食べる様子を見てご満悦だ。
その間にダールはニンジンを一本食べ終えて自分の力でその場に座れるまで回復した。
「クレールの姉さんニンジンをありがとうッス。おかげで復活したっッス。マサキの兄さんとネージュの姉さんも助けてくれたありがとうッス。また兄さんたちには命を救われたッス。それに園長さんもありがとうございましたッス。園長さんにも命を救われたッス。あとウサギちゃんも助けてくれてありがとうッス」
座っているダールは頭を下げてこの場にいる全員に感謝を告げた。座りながら頭を下げたことによって土下座のような体勢になっている。
「お嬢ちゃん頭を上げてくれ。それに感謝するのはワシの方だ。大事なウサギたちを……ワシの家族を守ってくれてありがとう。もちろんお嬢ちゃんだけじゃない。兄ちゃんやお嬢ちゃんたちもありがとう」
マグーレンは深々と頭を下げた。人間不信のマサキでさえマグーレンの誠意が伝わる。それほどマグーレンは誠心誠意、頭を下げているのだ。
「ところで……やつは誰だ? なぜウサギを狙ったんだ……」
マグーレンはウサギ泥棒の話へと話題を変えた。
その話題に真っ先に答えたのはダールだ。
「フードを被ってて顔までは見えなかったッスけど、鋭い爪と鋭い牙があったッス……少なくても兎人族ではないッスね。別の種族ッスよ……」
間近でウサギ泥棒を見ていたダールの発言は正しい。
爪や牙は兎人族には無い特徴だ。ウサギ泥棒は兎人族以外の別の種族で間違いない。
「に、人間族は? お、俺を……襲わなかった……」
マサキはぎこちない喋り方のまま話し合いに参加した。
ダールを庇ったマサキは爪の斬撃を受けると思っていた。しかし爪の斬撃は飛んでこなかったのだ。まるで人間族に害を与えることができないかのように。
そしてマサキたちに見覚えがある異世界の乗り物マクーターと黒服。これは以前に無人販売所イースターパーティーにやってきた人間族の盗賊団と同じ特徴だ。
その観点からマサキはウサギ泥棒が人間族の可能性があるのでは無いかと提示したのである。
「で、でも……爪や牙や尻尾は……に、人間族には……あ、ありませんよ……」
ネージュも話し合いに参加する。マサキと同様にぎこちない喋り方をしている。
「尻尾か……」
ネージュの口から出たウサギ泥棒の新たな特徴に髭を触り考え始めるマグーレン。
「は、はい。わ、私が……こ、ここでダールの……隣にいたときに……チ、チラッと、み、見えました。な、長い尻尾でした」
ネージュはダールを助けた際にウサギ泥棒の黒服とローブの中にある尻尾を見たのである。それも長い尻尾だ。
その特徴からマグーレンはある種族を特定した。
「長い尻尾……爪と牙……猫人族……」
猫人族。それは猫と人の血が混ざり合った亜人だ。兎人族がウサギと人の血が混ざり合っているように、他の種族も人と動物の血が混ざり合っているのである。
「びょうじんぞく?」
マサキはその言葉にピンときていない様子で小首を傾げていた。
そんなマサキにダールが猫人族を簡単に説明する。
「猫人族は猫と人の亜人ッス。牙と爪そして長い尻尾が特徴の種族ッスよ」
「な、なるほど……泥棒猫ってことか……で、でもなんで猫人族がウサギを盗もうとしたんだ? そ、それに俺を襲わなかった理由はなんだ?」
「そ、それはわからないッス……」
ウサギ泥棒の猫人族はなぜウサギを盗もうとしたのか。なぜマサキを襲えなかったのか。その理由はここにいる誰もがわからなかった。
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7章 時操新代魔王編
終章 無双者一般人編
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