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第2章:出逢い『腹ぺこな兎人ちゃんが来た編』

58 尾行

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 ネージュとクレールが嫉妬で妬いている中、マサキは嫉妬の元凶のダールのことが気になり思考する。

(ちゃんと食べてるならこんなにも早くに腹が減るはずない。半日で死にかけてるのもおかしいだろ。クダモノハサミ食べてないとしか思えないんだよね。だとしたら俺たちのクダモノハサミはどうなったんだ? 今渡したクダモノハサミもちゃんと食べるのか気になる……)

 クダモノハサミを渡したのにも関わらずわずか半日で腹ぺこ状態。明らかにおかしいとマサキは考えているのだ。
 そんなマサキは行動に出ようとする。そのために嫉妬しているネージュとクレールに向けて口を開いた。

「あ、あの……ダールのあとをついていこうと思うんだけど…………」

 そんなマサキの発言を聞いたネージュの雪のように白い頬はぷくーっとさらに大きく膨れ上がった。
 そして青く澄んだ瞳でマサキのことを睨む。

「なんであとをつけたいんですか? ストーカーですよ。そんなにダールのことが気になったんですか? 好きになっちゃったんですか? 太ももがそんなに良かったんですか?」

「おいおいおい……ネージュさっきからおかしいぞ……」

「おかしいのはマサキさんです。なんでストーカーなんてしたいんですか? ストーカーするなら一人ですればいいじゃないですか。私たちを巻き込まないでくださいよ」

「ちょ、ちょっと待ってよ。ダールの腹の減りようは明らかにおかしいだろ? だからダールのあとをついていって様子をみようかと……ってさっきからストーカーストーカーって心外だぞ。尾行って言ってくれ!」

「尾行もストーカーも一緒です!」

 正直に話すマサキだったがネージュは話を聞こうとしない。嫉妬の感情が全面的に出てしまっているのである。
 そんな中ネージュと同じように嫉妬していたクレールが口を開いた。

「クーもダールおかしいと思う。あげたクダモノハサミ食べてないと思う。クーも何も食べてない時期があったからわかる。だからクーもストーカーしてみたい。ストーカー楽しそう!」

「おぉ。そうだよな。そうだよな。クレールはわかってくれるよな。ってストーカーじゃなくて尾行だって!」

 クレールの薄桃色の髪と大きなウサ耳を撫でるマサキ。クレールは撫でてくる手に向かって頭をグリグリと動かして嬉しそうにしている。
 クレールはネージュとは違いすぐにマサキの味方になった。マサキと同じようにダールのことが気になるのである。
 好奇心が嫉妬心を忘れさせてくれたのである。そのおかげで頭も撫ででもらえてクレールはご機嫌を取り戻した。

「ほらなクレールもこう言ってるんだ。機嫌直してくれよ。そんでネージュも一緒に尾行しよう。っていうか一緒じゃないと俺が尾行できない……」

 マサキは頬を膨らませ妬いているネージュに向かって右手を差し出した。手を繋ごうとしているのだ。
 マサキとネージュは手を繋がなければ平常心を保てず外出ができない。だからここで意見が食い違ってしまえば尾行することが困難になってしまう。
 ネージュはマサキのいつも通りの右手を見てからため息を吐いた。そして吸い込まれるようにマサキの右手を掴んだ。

「……もう仕方ないですね。私も少しだけダールのこと気になってましたし……一緒に尾行してあげてもいいですよ」

「おぉ、ネージュさすがだ。やっぱりネージュは優しい兎人ちゃんだ。そういうところ大好きだぞ」

「と、兎人ちゃんって……それに大好きって……マサキさんはいつも調子がいいんですから都合がいいんですから……仕方なくですよ。私はまだ怒ってますからね」

 大好きと言われて嬉しくなったのかネージュの顔はほぐれて少しだけ笑顔が戻った。そして雪のように白い肌と垂れたウサ耳が少しだけ赤く染まった。

「なんかツンデレみたいになってて可愛いんだが……そんな一面もあったのか」

「い、行くなら早く行きましょう。ダールのこと見失っちゃいますよ」

「そ、そうだな。行くぞー」

 ネージュはマサキの発言に恥ずかしくなり、誤魔化すために尾行を急ぐ。
 三人はダールを尾行するために無人販売所イースターパーティーの開店準備を終わらせて外に出た。
 無人販売所は店員がいなくても成り立つ。なので店のことは気にすることなく尾行をすることができるのである。

「クーは透明になってストーカーするぞー!」

 クレールは透明スキルを使い透明になった。そばにいるマサキとネージュにすら気配が感じられずどこにいるか全くわからない。ストーカー行為にうってつけのスキルである。

「だからストーカーじゃなくて尾行な! てか気配がわからないし、わかったとしても透明だもんな……尾行のプロだな」

「そうですね。私たち必要ないんじゃ……」

「そ、それを言うな。自分の目で確かめたいんだからさ」

「そうですよね」

 絶対に尾行がバレないクレールがいるのならマサキとネージュは邪魔でしかない。
 しかし自分の目で確かめたいという気持ちがある。なのでマサキとネージュはダールに気付かれないようにそしてクレールの邪魔をしないように尾行をする。

 透明のクレールが先頭でその後ろを体を寄せ合いながら手を繋ぐマサキとネージュの陣形だ。
 体を寄せ合っているのは隠れるためであって少しでも見つかるリスクを減らしたいからである。
 たとえダールの姿を見失ったとしてもクレールがいる。透明のクレールの姿は見えないがそれは透明だからだ。マサキたちがダールを見失ったと判断すれば姿を現し導いてくれるのである。
 クレールは尾行の最中、尾行のターゲットのダールと後ろをついてくるマサキとネージュの二人を見なければいけない。この陣形で一番大変な役割を担っているのはクレールなのである。

 しばらく尾行をしていくとネージュは何かに気が付いた。

「おかしいですね……」

 ネージュが小声でボソッと呟いた言葉だ。その言葉を体を寄せ合っているマサキが聞き逃すはずもなく何がおかしいかを問う。

「何がおかしいの?」

「仕事を探すって言ってましたよね。こっちの道の先にはお店とかありませんよ。あるのはただのだけですよ」

「荒れた土地か……」

 ダールが向かう先は兎人族の里ガルドマンジェから少し離れた荒れた土地。兎人族の森アントルメティエと隣接している場所ではあるが、草木が育たない。兎人族とじんぞくの力だけではどうにもならない土地なのである。
 その荒れた土地は兎人族の国キュイジーヌが管理しているのだが草木が育たないという理由で国は完全に放置してしまっている。
 国が放置していることもありゴミなどが溜まっていたりもする。

「……事件の匂いがするぞ。ネージュくん」

「ネ、ネージュくん!?」

 マサキは事件の匂いを感じ取って名探偵が相棒に言う名台詞をマサキの相棒でもあるネージュに向かって言った。
 何度もこのやりとりはしているが毎回同じようなリアクションをネージュはとっている。新鮮だ。

「じ、事件ってなんですか?」

「それがだな。俺はてっきりクダモノハサミをどっかに落として食べられなくなったのかと思ってたんだよ。でも荒れた土地に向かうんならきっと……悪の組織がいるはずだ」

「悪の組織ですか……」

「ああ、そいつらにクダモノハサミをとられたに違いない。そんでダールはクダモノハサミを食べられずまたうちの店にやってきた。でもまた悪の組織に献上しなくてはならなくなっているって感じだろ。きっと弄ばれているんだ。だから俺にあんなことを……」

 マサキはむちむちな太ももを一瞬だけ想像してしまったがすぐにかき消して尾行に集中した。
 このまま想像してしまうとネージュの機嫌がまた悪くなると思ったからだ。

「う~ん……悪の組織ですか……平和な世界ですけどたまに悪い人いますからね……ありえない話では無いですね……」

 マサキの考えにネージュも納得している。
 平和な世界に悪の組織がいるというのは考えにくい話だが悪い人は時々現れるのである。その悪の組織とダールが関わっている可能性が浮上したのである。

 そのまま静かに尾行は続いた。荒れた土地に入ってからもしばらく歩いていく。そしてついにダールの目的地に到着したのだ。
 それは大きな岩。悪の組織のアジトには見えない。
 そして大きな岩をよく見ると大きな岩の隣には雨風を凌ぐことができないほどボロボロになっているテントが張られていた。
 そのボロボロなテントには草木やダンボールなどで簡単に補強されている。しかし強い風が吹けばすぐに吹っ飛ばされてしまうくらいの強度のテントだ。

 ダールはボロボロのテントに向かって声を出した。

「持ってきたぞ。クダモノハサミだ」

 いつもと違うダールの口調だ。そしてクダモノハサミをテントの中にいる誰かに全て渡した。

「や、やっぱりな。クダモノハサミを誰かに渡したぞ。きっと悪の組織の誰かだ。だから自分は食べられずに腹を空かしてたんだ。それにあの口調……いつもと違う。俺たちが知ってるダールなら『持ってきたッス。クダモノハサミッス』とか言いそうなのにな」

「た、確かにそうですね。マサキさんの予想が当たってしまったみたいです。で、でもどうするんですか。悪の組織がいるなんて、私たちじゃどうすることもできないですよ。それに怖いです。怖いです。もう帰りましょう。関わりたくないです」

「そ、そうだよな。俺も無理。怖すぎる。この世界の悪の組織って絶対やばそう……捕まったら殺されるかも……こ、ここは引き返して今日の出来事は忘れよう……」

「そ、そうしましょう」

 悪の組織と関わり合いを持ちたくはないマサキとネージュは尾行をやめて引き返そうとしている。
 その時、パキッと木の枝が折れる音が二人の足元から聞こえた。
 恐る恐る視線を下に向けるとマサキとネージュは枝の木を踏んでいた。二人三脚のように出した足だ。マサキは右足でネージュは左足。二人で木の枝を踏んでしまったのだ。

 その枝が折れる音に気付いたダールは声を上げる。

「誰だ!」

 その声に反応したマサキとネージュは恐怖で足がすくみ身動きが取れなくなった。

「やばい……最後の最後でヘマした……こ、殺される」

「マサキさん……私まだ死にたくないですよ。怖いです怖いですよ」

「お、俺だってまだ死にたくない……い、嫌だ」

「ガタガガタガタガタガタガタガタガタガタガタガ……」

 ネージュはマサキに抱き付き震え出してしまった。そのままマサキに恐怖が伝染。マサキも震え出す。

「ガガガッガガガガガガガッガガガッガガガガガッ……」
「ガタガガタガタガタガタガタガタガタガタガタガ……」

 小刻みに震えた体はもう止まらない。二人は抱き合いながら腰が抜けてその場に座り込んでしまった。
 そのまま二人に追い討ちをかけるかのようにダールは声を上げながら近付いく。

「クダモノハサミの匂いに釣られてやってきたか。魔獣ならこの命に変えてでも

「ガガガッガガガガガガガッガガガッガガガガガッ……」
「ガタガガタガタガタガタガタガタガタガタガタガ……」

 脅迫じみたダールの言葉にさらに怯えるマサキとネージュ。止まらないのは体の震えだけではなかった。涙と鼻水も止まらない。
 そのままゆっくりと足音が近付いてくる。一歩、また一歩。死の足音だ。死が近付いている。

「ネネネネネージュ……い、今までありがとう。お、お前がいなかったら、お、俺はもっと早くに死んでた……」

 最後の力を振り絞ってネージュに感謝を告げるマサキ。
 それに応えようとネージュも感謝を告げようとするが震えて声が出ない。口から出た音は上下の歯がぶつかり合う音だけだった。

「ガタガガタガタガタガタガタガタガタガタガタガ……」

 言葉が出ない分、力強くマサキを抱きしめた。それがネージュなりの返事だ。

「夢……叶えられなかった……ご、ごめんな……ネージュのこと……大好きだぞ」

 マサキは震える口で最後の言葉を告げた。

「ガタガガタガタガタガタガタガタガタガタガタガガタガガタガタガタガタガタガタガタガタガタガ……」

 マサキの最後の言葉を聞いてさらに震えだすネージュ。マサキと離れたくない一心でさらに強くマサキを抱きしめた。
 その直後、二人に近付いてくる死の足音が止まった。
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