58 / 417
第2章:出逢い『腹ぺこな兎人ちゃんが来た編』
58 尾行
しおりを挟む
ネージュとクレールが嫉妬で妬いている中、マサキは嫉妬の元凶のダールのことが気になり思考する。
(ちゃんと食べてるならこんなにも早くに腹が減るはずない。半日で死にかけてるのもおかしいだろ。クダモノハサミ食べてないとしか思えないんだよね。だとしたら俺たちのクダモノハサミはどうなったんだ? 今渡したクダモノハサミもちゃんと食べるのか気になる……)
クダモノハサミを渡したのにも関わらずわずか半日で腹ぺこ状態。明らかにおかしいとマサキは考えているのだ。
そんなマサキは行動に出ようとする。そのために嫉妬しているネージュとクレールに向けて口を開いた。
「あ、あの……ダールのあとをついていこうと思うんだけど…………」
そんなマサキの発言を聞いたネージュの雪のように白い頬はぷくーっとさらに大きく膨れ上がった。
そして青く澄んだ瞳でマサキのことを睨む。
「なんであとをつけたいんですか? ストーカーですよ。そんなにダールのことが気になったんですか? 好きになっちゃったんですか? 太ももがそんなに良かったんですか?」
「おいおいおい……ネージュさっきからおかしいぞ……」
「おかしいのはマサキさんです。なんでストーカーなんてしたいんですか? ストーカーするなら一人ですればいいじゃないですか。私たちを巻き込まないでくださいよ」
「ちょ、ちょっと待ってよ。ダールの腹の減りようは明らかにおかしいだろ? だからダールのあとをついていって様子をみようかと……ってさっきからストーカーストーカーって心外だぞ。尾行って言ってくれ!」
「尾行もストーカーも一緒です!」
正直に話すマサキだったがネージュは話を聞こうとしない。嫉妬の感情が全面的に出てしまっているのである。
そんな中ネージュと同じように嫉妬していたクレールが口を開いた。
「クーもダールおかしいと思う。あげたクダモノハサミ食べてないと思う。クーも何も食べてない時期があったからわかる。だからクーもストーカーしてみたい。ストーカー楽しそう!」
「おぉ。そうだよな。そうだよな。クレールはわかってくれるよな。ってストーカーじゃなくて尾行だって!」
クレールの薄桃色の髪と大きなウサ耳を撫でるマサキ。クレールは撫でてくる手に向かって頭をグリグリと動かして嬉しそうにしている。
クレールはネージュとは違いすぐにマサキの味方になった。マサキと同じようにダールのことが気になるのである。
好奇心が嫉妬心を忘れさせてくれたのである。そのおかげで頭も撫ででもらえてクレールはご機嫌を取り戻した。
「ほらなクレールもこう言ってるんだ。機嫌直してくれよ。そんでネージュも一緒に尾行しよう。っていうか一緒じゃないと俺が尾行できない……」
マサキは頬を膨らませ妬いているネージュに向かって右手を差し出した。手を繋ごうとしているのだ。
マサキとネージュは手を繋がなければ平常心を保てず外出ができない。だからここで意見が食い違ってしまえば尾行することが困難になってしまう。
ネージュはマサキのいつも通りの右手を見てからため息を吐いた。そして吸い込まれるようにマサキの右手を掴んだ。
「……もう仕方ないですね。私も少しだけダールのこと気になってましたし……一緒に尾行してあげてもいいですよ」
「おぉ、ネージュさすがだ。やっぱりネージュは優しい兎人ちゃんだ。そういうところ大好きだぞ」
「と、兎人ちゃんって……それに大好きって……マサキさんはいつも調子がいいんですから都合がいいんですから……仕方なくですよ。私はまだ怒ってますからね」
大好きと言われて嬉しくなったのかネージュの顔はほぐれて少しだけ笑顔が戻った。そして雪のように白い肌と垂れたウサ耳が少しだけ赤く染まった。
「なんかツンデレみたいになってて可愛いんだが……そんな一面もあったのか」
「い、行くなら早く行きましょう。ダールのこと見失っちゃいますよ」
「そ、そうだな。行くぞー」
ネージュはマサキの発言に恥ずかしくなり、誤魔化すために尾行を急ぐ。
三人はダールを尾行するために無人販売所イースターパーティーの開店準備を終わらせて外に出た。
無人販売所は店員がいなくても成り立つ。なので店のことは気にすることなく尾行をすることができるのである。
「クーは透明になってストーカーするぞー!」
クレールは透明スキルを使い透明になった。そばにいるマサキとネージュにすら気配が感じられずどこにいるか全くわからない。ストーカー行為にうってつけのスキルである。
「だからストーカーじゃなくて尾行な! てか気配がわからないし、わかったとしても透明だもんな……尾行のプロだな」
「そうですね。私たち必要ないんじゃ……」
「そ、それを言うな。自分の目で確かめたいんだからさ」
「そうですよね」
絶対に尾行がバレないクレールがいるのならマサキとネージュは邪魔でしかない。
しかし自分の目で確かめたいという気持ちがある。なのでマサキとネージュはダールに気付かれないようにそしてクレールの邪魔をしないように尾行をする。
透明のクレールが先頭でその後ろを体を寄せ合いながら手を繋ぐマサキとネージュの陣形だ。
体を寄せ合っているのは隠れるためであって少しでも見つかるリスクを減らしたいからである。
たとえダールの姿を見失ったとしてもクレールがいる。透明のクレールの姿は見えないがそれは透明だからだ。マサキたちがダールを見失ったと判断すれば姿を現し導いてくれるのである。
クレールは尾行の最中、尾行のターゲットのダールと後ろをついてくるマサキとネージュの二人を見なければいけない。この陣形で一番大変な役割を担っているのはクレールなのである。
しばらく尾行をしていくとネージュは何かに気が付いた。
「おかしいですね……」
ネージュが小声でボソッと呟いた言葉だ。その言葉を体を寄せ合っているマサキが聞き逃すはずもなく何がおかしいかを問う。
「何がおかしいの?」
「仕事を探すって言ってましたよね。こっちの道の先にはお店とかありませんよ。あるのはただの荒れた土地だけですよ」
「荒れた土地か……」
ダールが向かう先は兎人族の里から少し離れた荒れた土地。兎人族の森と隣接している場所ではあるが、草木が育たない。兎人族の力だけではどうにもならない土地なのである。
その荒れた土地は兎人族の国が管理しているのだが草木が育たないという理由で国は完全に放置してしまっている。
国が放置していることもありゴミなどが溜まっていたりもする。
「……事件の匂いがするぞ。ネージュくん」
「ネ、ネージュくん!?」
マサキは事件の匂いを感じ取って名探偵が相棒に言う名台詞をマサキの相棒でもあるネージュに向かって言った。
何度もこのやりとりはしているが毎回同じようなリアクションをネージュはとっている。新鮮だ。
「じ、事件ってなんですか?」
「それがだな。俺はてっきりクダモノハサミをどっかに落として食べられなくなったのかと思ってたんだよ。でも荒れた土地に向かうんならきっと……悪の組織がいるはずだ」
「悪の組織ですか……」
「ああ、そいつらにクダモノハサミをとられたに違いない。そんでダールはクダモノハサミを食べられずまたうちの店にやってきた。でもまた悪の組織に献上しなくてはならなくなっているって感じだろ。きっと弄ばれているんだ。だから俺にあんなことを……」
マサキはむちむちな太ももを一瞬だけ想像してしまったがすぐにかき消して尾行に集中した。
このまま想像してしまうとネージュの機嫌がまた悪くなると思ったからだ。
「う~ん……悪の組織ですか……平和な世界ですけどたまに悪い人いますからね……ありえない話では無いですね……」
マサキの考えにネージュも納得している。
平和な世界に悪の組織がいるというのは考えにくい話だが悪い人は時々現れるのである。その悪の組織とダールが関わっている可能性が浮上したのである。
そのまま静かに尾行は続いた。荒れた土地に入ってからもしばらく歩いていく。そしてついにダールの目的地に到着したのだ。
それは大きな岩。悪の組織のアジトには見えない。
そして大きな岩をよく見ると大きな岩の隣には雨風を凌ぐことができないほどボロボロになっているテントが張られていた。
そのボロボロなテントには草木やダンボールなどで簡単に補強されている。しかし強い風が吹けばすぐに吹っ飛ばされてしまうくらいの強度のテントだ。
ダールはボロボロのテントに向かって声を出した。
「持ってきたぞ。クダモノハサミだ」
いつもと違うダールの口調だ。そしてクダモノハサミをテントの中にいる誰かに全て渡した。
「や、やっぱりな。クダモノハサミを誰かに渡したぞ。きっと悪の組織の誰かだ。だから自分は食べられずに腹を空かしてたんだ。それにあの口調……いつもと違う。俺たちが知ってるダールなら『持ってきたッス。クダモノハサミッス』とか言いそうなのにな」
「た、確かにそうですね。マサキさんの予想が当たってしまったみたいです。で、でもどうするんですか。悪の組織がいるなんて、私たちじゃどうすることもできないですよ。それに怖いです。怖いです。もう帰りましょう。関わりたくないです」
「そ、そうだよな。俺も無理。怖すぎる。この世界の悪の組織って絶対やばそう……捕まったら殺されるかも……こ、ここは引き返して今日の出来事は忘れよう……」
「そ、そうしましょう」
悪の組織と関わり合いを持ちたくはないマサキとネージュは尾行をやめて引き返そうとしている。
その時、パキッと木の枝が折れる音が二人の足元から聞こえた。
恐る恐る視線を下に向けるとマサキとネージュは枝の木を踏んでいた。二人三脚のように出した足だ。マサキは右足でネージュは左足。二人で木の枝を踏んでしまったのだ。
その枝が折れる音に気付いたダールは声を上げる。
「誰だ!」
その声に反応したマサキとネージュは恐怖で足がすくみ身動きが取れなくなった。
「やばい……最後の最後でヘマした……こ、殺される」
「マサキさん……私まだ死にたくないですよ。怖いです怖いですよ」
「お、俺だってまだ死にたくない……い、嫌だ」
「ガタガガタガタガタガタガタガタガタガタガタガ……」
ネージュはマサキに抱き付き震え出してしまった。そのままマサキに恐怖が伝染。マサキも震え出す。
「ガガガッガガガガガガガッガガガッガガガガガッ……」
「ガタガガタガタガタガタガタガタガタガタガタガ……」
小刻みに震えた体はもう止まらない。二人は抱き合いながら腰が抜けてその場に座り込んでしまった。
そのまま二人に追い討ちをかけるかのようにダールは声を上げながら近付いく。
「クダモノハサミの匂いに釣られてやってきたか。魔獣ならこの命に変えてでも殺す」
「ガガガッガガガガガガガッガガガッガガガガガッ……」
「ガタガガタガタガタガタガタガタガタガタガタガ……」
脅迫じみたダールの言葉にさらに怯えるマサキとネージュ。止まらないのは体の震えだけではなかった。涙と鼻水も止まらない。
そのままゆっくりと足音が近付いてくる。一歩、また一歩。死の足音だ。死が近付いている。
「ネネネネネージュ……い、今までありがとう。お、お前がいなかったら、お、俺はもっと早くに死んでた……」
最後の力を振り絞ってネージュに感謝を告げるマサキ。
それに応えようとネージュも感謝を告げようとするが震えて声が出ない。口から出た音は上下の歯がぶつかり合う音だけだった。
「ガタガガタガタガタガタガタガタガタガタガタガ……」
言葉が出ない分、力強くマサキを抱きしめた。それがネージュなりの返事だ。
「夢……叶えられなかった……ご、ごめんな……ネージュのこと……大好きだぞ」
マサキは震える口で最後の言葉を告げた。
「ガタガガタガタガタガタガタガタガタガタガタガガタガガタガタガタガタガタガタガタガタガタガ……」
マサキの最後の言葉を聞いてさらに震えだすネージュ。マサキと離れたくない一心でさらに強くマサキを抱きしめた。
その直後、二人に近付いてくる死の足音が止まった。
(ちゃんと食べてるならこんなにも早くに腹が減るはずない。半日で死にかけてるのもおかしいだろ。クダモノハサミ食べてないとしか思えないんだよね。だとしたら俺たちのクダモノハサミはどうなったんだ? 今渡したクダモノハサミもちゃんと食べるのか気になる……)
クダモノハサミを渡したのにも関わらずわずか半日で腹ぺこ状態。明らかにおかしいとマサキは考えているのだ。
そんなマサキは行動に出ようとする。そのために嫉妬しているネージュとクレールに向けて口を開いた。
「あ、あの……ダールのあとをついていこうと思うんだけど…………」
そんなマサキの発言を聞いたネージュの雪のように白い頬はぷくーっとさらに大きく膨れ上がった。
そして青く澄んだ瞳でマサキのことを睨む。
「なんであとをつけたいんですか? ストーカーですよ。そんなにダールのことが気になったんですか? 好きになっちゃったんですか? 太ももがそんなに良かったんですか?」
「おいおいおい……ネージュさっきからおかしいぞ……」
「おかしいのはマサキさんです。なんでストーカーなんてしたいんですか? ストーカーするなら一人ですればいいじゃないですか。私たちを巻き込まないでくださいよ」
「ちょ、ちょっと待ってよ。ダールの腹の減りようは明らかにおかしいだろ? だからダールのあとをついていって様子をみようかと……ってさっきからストーカーストーカーって心外だぞ。尾行って言ってくれ!」
「尾行もストーカーも一緒です!」
正直に話すマサキだったがネージュは話を聞こうとしない。嫉妬の感情が全面的に出てしまっているのである。
そんな中ネージュと同じように嫉妬していたクレールが口を開いた。
「クーもダールおかしいと思う。あげたクダモノハサミ食べてないと思う。クーも何も食べてない時期があったからわかる。だからクーもストーカーしてみたい。ストーカー楽しそう!」
「おぉ。そうだよな。そうだよな。クレールはわかってくれるよな。ってストーカーじゃなくて尾行だって!」
クレールの薄桃色の髪と大きなウサ耳を撫でるマサキ。クレールは撫でてくる手に向かって頭をグリグリと動かして嬉しそうにしている。
クレールはネージュとは違いすぐにマサキの味方になった。マサキと同じようにダールのことが気になるのである。
好奇心が嫉妬心を忘れさせてくれたのである。そのおかげで頭も撫ででもらえてクレールはご機嫌を取り戻した。
「ほらなクレールもこう言ってるんだ。機嫌直してくれよ。そんでネージュも一緒に尾行しよう。っていうか一緒じゃないと俺が尾行できない……」
マサキは頬を膨らませ妬いているネージュに向かって右手を差し出した。手を繋ごうとしているのだ。
マサキとネージュは手を繋がなければ平常心を保てず外出ができない。だからここで意見が食い違ってしまえば尾行することが困難になってしまう。
ネージュはマサキのいつも通りの右手を見てからため息を吐いた。そして吸い込まれるようにマサキの右手を掴んだ。
「……もう仕方ないですね。私も少しだけダールのこと気になってましたし……一緒に尾行してあげてもいいですよ」
「おぉ、ネージュさすがだ。やっぱりネージュは優しい兎人ちゃんだ。そういうところ大好きだぞ」
「と、兎人ちゃんって……それに大好きって……マサキさんはいつも調子がいいんですから都合がいいんですから……仕方なくですよ。私はまだ怒ってますからね」
大好きと言われて嬉しくなったのかネージュの顔はほぐれて少しだけ笑顔が戻った。そして雪のように白い肌と垂れたウサ耳が少しだけ赤く染まった。
「なんかツンデレみたいになってて可愛いんだが……そんな一面もあったのか」
「い、行くなら早く行きましょう。ダールのこと見失っちゃいますよ」
「そ、そうだな。行くぞー」
ネージュはマサキの発言に恥ずかしくなり、誤魔化すために尾行を急ぐ。
三人はダールを尾行するために無人販売所イースターパーティーの開店準備を終わらせて外に出た。
無人販売所は店員がいなくても成り立つ。なので店のことは気にすることなく尾行をすることができるのである。
「クーは透明になってストーカーするぞー!」
クレールは透明スキルを使い透明になった。そばにいるマサキとネージュにすら気配が感じられずどこにいるか全くわからない。ストーカー行為にうってつけのスキルである。
「だからストーカーじゃなくて尾行な! てか気配がわからないし、わかったとしても透明だもんな……尾行のプロだな」
「そうですね。私たち必要ないんじゃ……」
「そ、それを言うな。自分の目で確かめたいんだからさ」
「そうですよね」
絶対に尾行がバレないクレールがいるのならマサキとネージュは邪魔でしかない。
しかし自分の目で確かめたいという気持ちがある。なのでマサキとネージュはダールに気付かれないようにそしてクレールの邪魔をしないように尾行をする。
透明のクレールが先頭でその後ろを体を寄せ合いながら手を繋ぐマサキとネージュの陣形だ。
体を寄せ合っているのは隠れるためであって少しでも見つかるリスクを減らしたいからである。
たとえダールの姿を見失ったとしてもクレールがいる。透明のクレールの姿は見えないがそれは透明だからだ。マサキたちがダールを見失ったと判断すれば姿を現し導いてくれるのである。
クレールは尾行の最中、尾行のターゲットのダールと後ろをついてくるマサキとネージュの二人を見なければいけない。この陣形で一番大変な役割を担っているのはクレールなのである。
しばらく尾行をしていくとネージュは何かに気が付いた。
「おかしいですね……」
ネージュが小声でボソッと呟いた言葉だ。その言葉を体を寄せ合っているマサキが聞き逃すはずもなく何がおかしいかを問う。
「何がおかしいの?」
「仕事を探すって言ってましたよね。こっちの道の先にはお店とかありませんよ。あるのはただの荒れた土地だけですよ」
「荒れた土地か……」
ダールが向かう先は兎人族の里から少し離れた荒れた土地。兎人族の森と隣接している場所ではあるが、草木が育たない。兎人族の力だけではどうにもならない土地なのである。
その荒れた土地は兎人族の国が管理しているのだが草木が育たないという理由で国は完全に放置してしまっている。
国が放置していることもありゴミなどが溜まっていたりもする。
「……事件の匂いがするぞ。ネージュくん」
「ネ、ネージュくん!?」
マサキは事件の匂いを感じ取って名探偵が相棒に言う名台詞をマサキの相棒でもあるネージュに向かって言った。
何度もこのやりとりはしているが毎回同じようなリアクションをネージュはとっている。新鮮だ。
「じ、事件ってなんですか?」
「それがだな。俺はてっきりクダモノハサミをどっかに落として食べられなくなったのかと思ってたんだよ。でも荒れた土地に向かうんならきっと……悪の組織がいるはずだ」
「悪の組織ですか……」
「ああ、そいつらにクダモノハサミをとられたに違いない。そんでダールはクダモノハサミを食べられずまたうちの店にやってきた。でもまた悪の組織に献上しなくてはならなくなっているって感じだろ。きっと弄ばれているんだ。だから俺にあんなことを……」
マサキはむちむちな太ももを一瞬だけ想像してしまったがすぐにかき消して尾行に集中した。
このまま想像してしまうとネージュの機嫌がまた悪くなると思ったからだ。
「う~ん……悪の組織ですか……平和な世界ですけどたまに悪い人いますからね……ありえない話では無いですね……」
マサキの考えにネージュも納得している。
平和な世界に悪の組織がいるというのは考えにくい話だが悪い人は時々現れるのである。その悪の組織とダールが関わっている可能性が浮上したのである。
そのまま静かに尾行は続いた。荒れた土地に入ってからもしばらく歩いていく。そしてついにダールの目的地に到着したのだ。
それは大きな岩。悪の組織のアジトには見えない。
そして大きな岩をよく見ると大きな岩の隣には雨風を凌ぐことができないほどボロボロになっているテントが張られていた。
そのボロボロなテントには草木やダンボールなどで簡単に補強されている。しかし強い風が吹けばすぐに吹っ飛ばされてしまうくらいの強度のテントだ。
ダールはボロボロのテントに向かって声を出した。
「持ってきたぞ。クダモノハサミだ」
いつもと違うダールの口調だ。そしてクダモノハサミをテントの中にいる誰かに全て渡した。
「や、やっぱりな。クダモノハサミを誰かに渡したぞ。きっと悪の組織の誰かだ。だから自分は食べられずに腹を空かしてたんだ。それにあの口調……いつもと違う。俺たちが知ってるダールなら『持ってきたッス。クダモノハサミッス』とか言いそうなのにな」
「た、確かにそうですね。マサキさんの予想が当たってしまったみたいです。で、でもどうするんですか。悪の組織がいるなんて、私たちじゃどうすることもできないですよ。それに怖いです。怖いです。もう帰りましょう。関わりたくないです」
「そ、そうだよな。俺も無理。怖すぎる。この世界の悪の組織って絶対やばそう……捕まったら殺されるかも……こ、ここは引き返して今日の出来事は忘れよう……」
「そ、そうしましょう」
悪の組織と関わり合いを持ちたくはないマサキとネージュは尾行をやめて引き返そうとしている。
その時、パキッと木の枝が折れる音が二人の足元から聞こえた。
恐る恐る視線を下に向けるとマサキとネージュは枝の木を踏んでいた。二人三脚のように出した足だ。マサキは右足でネージュは左足。二人で木の枝を踏んでしまったのだ。
その枝が折れる音に気付いたダールは声を上げる。
「誰だ!」
その声に反応したマサキとネージュは恐怖で足がすくみ身動きが取れなくなった。
「やばい……最後の最後でヘマした……こ、殺される」
「マサキさん……私まだ死にたくないですよ。怖いです怖いですよ」
「お、俺だってまだ死にたくない……い、嫌だ」
「ガタガガタガタガタガタガタガタガタガタガタガ……」
ネージュはマサキに抱き付き震え出してしまった。そのままマサキに恐怖が伝染。マサキも震え出す。
「ガガガッガガガガガガガッガガガッガガガガガッ……」
「ガタガガタガタガタガタガタガタガタガタガタガ……」
小刻みに震えた体はもう止まらない。二人は抱き合いながら腰が抜けてその場に座り込んでしまった。
そのまま二人に追い討ちをかけるかのようにダールは声を上げながら近付いく。
「クダモノハサミの匂いに釣られてやってきたか。魔獣ならこの命に変えてでも殺す」
「ガガガッガガガガガガガッガガガッガガガガガッ……」
「ガタガガタガタガタガタガタガタガタガタガタガ……」
脅迫じみたダールの言葉にさらに怯えるマサキとネージュ。止まらないのは体の震えだけではなかった。涙と鼻水も止まらない。
そのままゆっくりと足音が近付いてくる。一歩、また一歩。死の足音だ。死が近付いている。
「ネネネネネージュ……い、今までありがとう。お、お前がいなかったら、お、俺はもっと早くに死んでた……」
最後の力を振り絞ってネージュに感謝を告げるマサキ。
それに応えようとネージュも感謝を告げようとするが震えて声が出ない。口から出た音は上下の歯がぶつかり合う音だけだった。
「ガタガガタガタガタガタガタガタガタガタガタガ……」
言葉が出ない分、力強くマサキを抱きしめた。それがネージュなりの返事だ。
「夢……叶えられなかった……ご、ごめんな……ネージュのこと……大好きだぞ」
マサキは震える口で最後の言葉を告げた。
「ガタガガタガタガタガタガタガタガタガタガタガガタガガタガタガタガタガタガタガタガタガタガ……」
マサキの最後の言葉を聞いてさらに震えだすネージュ。マサキと離れたくない一心でさらに強くマサキを抱きしめた。
その直後、二人に近付いてくる死の足音が止まった。
0
お気に入りに追加
449
あなたにおすすめの小説
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
おっさんの異世界建国記
なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。
本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。
なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。
しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。
探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。
だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。
――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。
Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。
Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。
それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。
失意の内に意識を失った一馬の脳裏に
――チュートリアルが完了しました。
と、いうシステムメッセージが流れる。
それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる