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第1章:異世界生活『無人販売所を作ろう編』
24 店舗と住居を分ける壁
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兎人族の森に生えている竹のような茶色の木を伐採してから三週間が経過した。マサキが異世界転移してからちょうど四十日が経ったのだ。
二人は木の壁を作るのに十分なほどの竹ような茶色の木を集めることができたのだ。
そして今日から本格的に壁作りが始まる。
「ヒモとか釘とかはレーヴィルさんのところなんとか買うことができたし……壁作りを始めるぞー」
「はい。始めましょー!」
家の中にいる二人は拳を天に突き上げて『おー』と、気合いの掛け声を上げた。
このまま二人は作業に取り掛かった。
もちろんDIYのような組み立て方法を紹介する動画や組み立ての説明書などはこの世界には存在しない。そもそもマサキは異世界転移した際、スマホなどの電子機器を持っていなかった。
持ってきたものといえばお気に入りの黒いジャージだけだ。
そしてスマホを持っていたとしても電波がなければ意味がない。そして充電器も持っていなければただの四角い鉄の塊になる未来だっただろう。
なので壁の組み立てはマサキが想像した組み立て図を参考にしながら進めていくことになる。
阿吽の呼吸で息ピッタリのネージュでも、さすがにマサキの頭の中まではわからない。なのでマサキはネージュに指示を入れながら二人で仲良く壁を作っていく。
手を繋いでいなければ平常心を保てず外出ができない二人だが家から井戸までは一人でも歩ける。
なぜなら自分たちの他に人間や兎人族がいないからだ。そして自宅付近ということで手を繋がなくても大丈夫なのである。
だから家の外には兎人族の森で伐採した竹のような茶色の木がたくさん置いてある。
手を繋いでいないのなら、ひょろひょろなマサキでも一人で持ち運ぶことが可能なくらいの重さだ。
「さすがに外で組み立てて、いざ家の中に入れようとしたら入りませんでしたってアホな真似はしたくないからな……っと、まずはこんぐらいの木から始めようか」
マサキは竹のような茶色の木を十本、家の中へと運んだ。
すでに三メートルほどで長さを揃えてあるので、あとは横に並べ固定し壁のようにしていくだけだ。
「釘で穴を開けてヒモを通せば良いんですよね?」
「うん。そんな感じ。やり方は教えた通りだけど、もっと良さげなのがあれば教えてくれ」
マサキは竹で壁などを作ったことはない。そもそも人と人の間にできた心情的な壁以外は作ったことはない。
さらには壁作りの動画なども見たことはない。なのでネージュに指示した内容よりも良い作業工程をネージュが閃くかもしれないとマサキは思ったのだ。
「でもかなり頑丈に固定できてますよ。マサキさんのやり方でやっていきます」
竹のような茶色の木に穴を開けて縫い物をするかのようにヒモを通すネージュ。料理も器用にこなすだけあって丁寧に作業が進んでいる。
そして鼻歌を口ずさんでいてとても楽しそうだ。恥ずかしがり屋な性格のネージュだがマサキの前だと鼻歌も恥ずかしがらずに口ずさめる。
「マサキさん。穴がなかなか開かないので手伝ってもらって良いですか?」
「おう。やっぱりネージュの細い腕じゃ穴を開けんのはキツイか」
レーヴィルの道具屋で購入した釘はノコギリほどではないが硬い物に穴を開けるほどの鋭さはある。しかしその鋭さは力があってのものだ。
木の枝のように細い腕のネージュでは竹のような茶色の木に穴を開けるのは容易ではなかった。
「ハンマーみたいなのがあれば楽なんだけどな」
そう呟きながらマサキはネージュの元へと近付いていく。
すると、突然ネージュの背後に立ててあった竹のような茶色の木がゆっくりと倒れていくのが見えた。
このままでは竹のような茶色の木がネージュの頭に向かって倒れてしまう。マサキはネージュを助けるため、咄嗟に飛び込んだ。
「ネージュ!!」
「え!?」
脳が指示を出すよりも先に体が動き出したのだ。
飛び込んだマサキに押し倒されるネージュ。間一髪、倒れてくる竹のような茶色の木からネージュを守ることができた。
「いててて……」
「マ、マサキさん大丈夫ですか?」
身を挺してネージュを守ったマサキは竹のような茶色の木を背中で受け止めている。ゆっくり倒れてきた竹のような茶色の木だったが重量があり硬い。
背中を思いっきり殴られたような感覚のダメージをマサキは味わった。
「さすがに痛いけど……大丈夫。運よくクッションがあって顔面をぶつけずに済んだよ……ってこの家にクッションはないか。あるとしたらもふもふの枕だよな。でも待てよ。本当に枕か? 枕はもっと……こう、もふもふって感じだけど、俺の顔を守ってくれているこの枕はなんか……ぷるんぷるんって感じで……気持ちいい。それにいい匂いだ。こんな良い枕を隠し持ってたなんてな。知らなかったぞ。でもおかげで助かった。あーいい匂い」
「ちょ、ちょっとマ、マサキさん……そんなに顔を押し付けないでくださいよ! それに匂いを嗅がないでください! は、早く退いてください! 背中の怪我を見ますから! だから退いてください!」
マサキが顔を押し付けているのはネージュの胸、マフマフだった。
倒れた先がネージュの胸でそのまま視界が奪われている。なのでネージュの胸をぷるんぷるんの枕だと勘違いしているのだ。
そしてあまりの気持ちよさにネージュのマフマフを堪能してしまっている。
いつもなら叩いてでもマサキを退かすネージュだが状況が状況。
自分を助けてくれた人にそんな乱暴はできない。なのでネージュは顔をいつも以上に赤らめながら自分の豊満な胸に顔を押し付けるマサキに耐えているのだった。
「そ、それがだな。背中っていうか腰をやってしまったらしく動けん。まあ、木を運んでたせいもあるんだけど、腰が痛くて痛くて……そんでこのぷるんぷるん枕が気持ちよくて抜け出せんのよ。これが噂の人をダメにする枕ってやつか……」
「な、何言ってるんですか? 腰だけじゃなくて頭も打ったんじゃないですか? ゆっくりでいいから早く退いてくださいよ」
「いや、頭はしっかりこのぷるんぷるんな枕に守られたぞ。打ったのは腰だけだ。それにゆっくりでいいから早くってなんか言葉がおかしくないか? ゆっくりなのに早くって……俺は疲れたから少し休むよ。人をダメにする枕に気力が吸い取られていく……さ、最高だ」
「えぇえ!? こ、ここで休まれても困りますよ。背中に木が乗ったままじゃないですか!」
自分の胸で休まれている状況に焦るネージュ。しかしマサキからの返事はなかった。あまりの心地良さにマサキは本気で仮眠をとろうとしていたのだ。
「ど、退いてください~!」
ネージュの声は部屋中に響き渡ったが一瞬で眠りについてしまったマサキの耳には届かなかった。力仕事の重労働で疲れていたのだ。
そんな自由で楽しくはちゃめちゃな壁作りは毎日のように続いた。
壁作りは体に負担がかからない程度に作業を行っていた。そしてついに壁は完成したのだ。
時間をかけてゆっくりと作り上げた壁。その壁は完成するまでに十日間かかった。
マサキが異世界転移して五十日目だ。
「す、すごい。しっかりとした壁が完成したぞ」
「プロが作ったみたいですよ。これは本当にすごいですよ。マサキさん」
「そ、そうだな。さすがにこんなにうまくいくとは思わなかった。でもこれで完成だ!」
マサキとネージュは完成したばかりの壁を見て瞳が潤むほど感動していた。
自分たちで作り上げた壁だ。感動は尋常じゃないほど大きい。
壁は部屋のちょうど真ん中と九十度に向きを変えた方向に立っている。半分が居住スペース。残りの半分が店舗スペースだ。そして九十度に向きを変えた場所の壁は通路になっている。
大樹の中にある部屋だけあって天井はかなり高い。そのせいで三メートルほどの高さの壁は天井には全く達していなかった。
しかし窓が少ないことを考慮して換気のための空間なんだと納得がいく言い訳を自分たちに言い聞かせることにした。よって大きく開いた天井までの空間を気にすることは無くなった。
しかし通路として作った壁の先、入り口に近いところには扉ほどのサイズで開いているスペースがある。そこだけは気になって仕方がないのだ。
「扉はまだ我慢だな。というか扉とか作れる自信がないんだが……」
当初から予定していた居住スペースへと繋がる扉の空間だ。出入り口から入るとすぐそこは店舗スペースだ。その奥が居住スペースになる。
そして出入り口のすぐに左側にその扉の空間がある。そこから居住スペースへと行けるのだ。
完全に壁で塞いでしまったら居住スペースに入ることが不可能になってしまう。なのでこの通路のようなものを設置したのである。
「俺たちの技術と材料じゃ扉は無理だな。だから金が貯まったら頑丈な扉を作ってもらおうか」
「そうですね。最初のお金の使い道ができましたね。ワクワクします」
「それまではカーテンとかで隠すしかないな。よし。あとは棚を壁側にずらして商品棚の位置を決めようか」
二人は壁に沿って商品棚となる棚などを動かし始めた。
土台をしっかりと作った壁だ。マサキがタックルしても倒れることはない。そこに棚を置けばさらに壁の強度は増す。
壁に沿って並べた棚は二つ。どちらもネージュのおばあちゃんから譲り受けた物で何も入っていない空っぽの棚だ。
二つの棚はどちらも同じ物で高さは二メートルほどある。そして八段の収納できるスペースもある。
一番下の段は衛生上、食品を置けないので実質使える棚は七段だ。
「本当は食品を置くから冷蔵庫が良かったんだけど……それを補うのが異世界道具。魔道具だよな」
マサキは棚の二段目に魔道具の『氷のキューブ』を置いた。すると氷のキューブから冷気が放出されて氷のキューブを置いた二段目がゆっくりと冷えていく。
この氷のキューブも大樹に住んでいる妖精が作り出した魔道具だ。
「これはコンビニとかスーパーとかにある扉のない冷蔵庫……オープン型の冷蔵庫と同じだ!」
マサキは氷のキューブを使うことで扉のないオープン型の冷蔵庫を再現することに成功したのだ。
これによって冷蔵庫を購入せずに済んだ。
そして電気代の節約や機械の故障、メンテナンスなどの経費削減にも役に立ったのだ。
「さすが魔道具。氷のキューブ素晴らしい」
「冷蔵庫の中に入っててよかったですね。全部で三つしかなくて足りませんけどね。どこで買えるかもわかりませんし……」
本来の氷のキューブの使い道は冷蔵庫の内部温度を冷やし冷凍庫にする物だ。それを冷蔵庫ではなく普通の棚で行うと棚が冷蔵庫のようになるのだ。
大気中に漂っている魔力がある限り効果を発動し続けるので一生使えると言っても過言ではない。
そんな魔道具の氷のキューブをネージュは三つしか持っていない。
そしておばあちゃんから譲り受けた物なので購入方法や入手方法を全く知らなかったのだ。
「まあ、そのうち売ってる場所とかわかると思うし、その時に買おうか。それまでは上手く棚を使うしかないよな。それに盗まれないように置かなきゃいけないな……」
壁を完成させた二人だったがまだまだ課題は多い。
手を抜くことなく今の二人ができる最大限の知識を活用して無人販売所を完成させなければならないのだ。
「でも完成まであとちょっとだ。このままの勢いで内装作りを頑張るぞー」
「はい!」
二人は完成した壁の前で十日前よりも元気よく声を上げたのだった。
二人は木の壁を作るのに十分なほどの竹ような茶色の木を集めることができたのだ。
そして今日から本格的に壁作りが始まる。
「ヒモとか釘とかはレーヴィルさんのところなんとか買うことができたし……壁作りを始めるぞー」
「はい。始めましょー!」
家の中にいる二人は拳を天に突き上げて『おー』と、気合いの掛け声を上げた。
このまま二人は作業に取り掛かった。
もちろんDIYのような組み立て方法を紹介する動画や組み立ての説明書などはこの世界には存在しない。そもそもマサキは異世界転移した際、スマホなどの電子機器を持っていなかった。
持ってきたものといえばお気に入りの黒いジャージだけだ。
そしてスマホを持っていたとしても電波がなければ意味がない。そして充電器も持っていなければただの四角い鉄の塊になる未来だっただろう。
なので壁の組み立てはマサキが想像した組み立て図を参考にしながら進めていくことになる。
阿吽の呼吸で息ピッタリのネージュでも、さすがにマサキの頭の中まではわからない。なのでマサキはネージュに指示を入れながら二人で仲良く壁を作っていく。
手を繋いでいなければ平常心を保てず外出ができない二人だが家から井戸までは一人でも歩ける。
なぜなら自分たちの他に人間や兎人族がいないからだ。そして自宅付近ということで手を繋がなくても大丈夫なのである。
だから家の外には兎人族の森で伐採した竹のような茶色の木がたくさん置いてある。
手を繋いでいないのなら、ひょろひょろなマサキでも一人で持ち運ぶことが可能なくらいの重さだ。
「さすがに外で組み立てて、いざ家の中に入れようとしたら入りませんでしたってアホな真似はしたくないからな……っと、まずはこんぐらいの木から始めようか」
マサキは竹のような茶色の木を十本、家の中へと運んだ。
すでに三メートルほどで長さを揃えてあるので、あとは横に並べ固定し壁のようにしていくだけだ。
「釘で穴を開けてヒモを通せば良いんですよね?」
「うん。そんな感じ。やり方は教えた通りだけど、もっと良さげなのがあれば教えてくれ」
マサキは竹で壁などを作ったことはない。そもそも人と人の間にできた心情的な壁以外は作ったことはない。
さらには壁作りの動画なども見たことはない。なのでネージュに指示した内容よりも良い作業工程をネージュが閃くかもしれないとマサキは思ったのだ。
「でもかなり頑丈に固定できてますよ。マサキさんのやり方でやっていきます」
竹のような茶色の木に穴を開けて縫い物をするかのようにヒモを通すネージュ。料理も器用にこなすだけあって丁寧に作業が進んでいる。
そして鼻歌を口ずさんでいてとても楽しそうだ。恥ずかしがり屋な性格のネージュだがマサキの前だと鼻歌も恥ずかしがらずに口ずさめる。
「マサキさん。穴がなかなか開かないので手伝ってもらって良いですか?」
「おう。やっぱりネージュの細い腕じゃ穴を開けんのはキツイか」
レーヴィルの道具屋で購入した釘はノコギリほどではないが硬い物に穴を開けるほどの鋭さはある。しかしその鋭さは力があってのものだ。
木の枝のように細い腕のネージュでは竹のような茶色の木に穴を開けるのは容易ではなかった。
「ハンマーみたいなのがあれば楽なんだけどな」
そう呟きながらマサキはネージュの元へと近付いていく。
すると、突然ネージュの背後に立ててあった竹のような茶色の木がゆっくりと倒れていくのが見えた。
このままでは竹のような茶色の木がネージュの頭に向かって倒れてしまう。マサキはネージュを助けるため、咄嗟に飛び込んだ。
「ネージュ!!」
「え!?」
脳が指示を出すよりも先に体が動き出したのだ。
飛び込んだマサキに押し倒されるネージュ。間一髪、倒れてくる竹のような茶色の木からネージュを守ることができた。
「いててて……」
「マ、マサキさん大丈夫ですか?」
身を挺してネージュを守ったマサキは竹のような茶色の木を背中で受け止めている。ゆっくり倒れてきた竹のような茶色の木だったが重量があり硬い。
背中を思いっきり殴られたような感覚のダメージをマサキは味わった。
「さすがに痛いけど……大丈夫。運よくクッションがあって顔面をぶつけずに済んだよ……ってこの家にクッションはないか。あるとしたらもふもふの枕だよな。でも待てよ。本当に枕か? 枕はもっと……こう、もふもふって感じだけど、俺の顔を守ってくれているこの枕はなんか……ぷるんぷるんって感じで……気持ちいい。それにいい匂いだ。こんな良い枕を隠し持ってたなんてな。知らなかったぞ。でもおかげで助かった。あーいい匂い」
「ちょ、ちょっとマ、マサキさん……そんなに顔を押し付けないでくださいよ! それに匂いを嗅がないでください! は、早く退いてください! 背中の怪我を見ますから! だから退いてください!」
マサキが顔を押し付けているのはネージュの胸、マフマフだった。
倒れた先がネージュの胸でそのまま視界が奪われている。なのでネージュの胸をぷるんぷるんの枕だと勘違いしているのだ。
そしてあまりの気持ちよさにネージュのマフマフを堪能してしまっている。
いつもなら叩いてでもマサキを退かすネージュだが状況が状況。
自分を助けてくれた人にそんな乱暴はできない。なのでネージュは顔をいつも以上に赤らめながら自分の豊満な胸に顔を押し付けるマサキに耐えているのだった。
「そ、それがだな。背中っていうか腰をやってしまったらしく動けん。まあ、木を運んでたせいもあるんだけど、腰が痛くて痛くて……そんでこのぷるんぷるん枕が気持ちよくて抜け出せんのよ。これが噂の人をダメにする枕ってやつか……」
「な、何言ってるんですか? 腰だけじゃなくて頭も打ったんじゃないですか? ゆっくりでいいから早く退いてくださいよ」
「いや、頭はしっかりこのぷるんぷるんな枕に守られたぞ。打ったのは腰だけだ。それにゆっくりでいいから早くってなんか言葉がおかしくないか? ゆっくりなのに早くって……俺は疲れたから少し休むよ。人をダメにする枕に気力が吸い取られていく……さ、最高だ」
「えぇえ!? こ、ここで休まれても困りますよ。背中に木が乗ったままじゃないですか!」
自分の胸で休まれている状況に焦るネージュ。しかしマサキからの返事はなかった。あまりの心地良さにマサキは本気で仮眠をとろうとしていたのだ。
「ど、退いてください~!」
ネージュの声は部屋中に響き渡ったが一瞬で眠りについてしまったマサキの耳には届かなかった。力仕事の重労働で疲れていたのだ。
そんな自由で楽しくはちゃめちゃな壁作りは毎日のように続いた。
壁作りは体に負担がかからない程度に作業を行っていた。そしてついに壁は完成したのだ。
時間をかけてゆっくりと作り上げた壁。その壁は完成するまでに十日間かかった。
マサキが異世界転移して五十日目だ。
「す、すごい。しっかりとした壁が完成したぞ」
「プロが作ったみたいですよ。これは本当にすごいですよ。マサキさん」
「そ、そうだな。さすがにこんなにうまくいくとは思わなかった。でもこれで完成だ!」
マサキとネージュは完成したばかりの壁を見て瞳が潤むほど感動していた。
自分たちで作り上げた壁だ。感動は尋常じゃないほど大きい。
壁は部屋のちょうど真ん中と九十度に向きを変えた方向に立っている。半分が居住スペース。残りの半分が店舗スペースだ。そして九十度に向きを変えた場所の壁は通路になっている。
大樹の中にある部屋だけあって天井はかなり高い。そのせいで三メートルほどの高さの壁は天井には全く達していなかった。
しかし窓が少ないことを考慮して換気のための空間なんだと納得がいく言い訳を自分たちに言い聞かせることにした。よって大きく開いた天井までの空間を気にすることは無くなった。
しかし通路として作った壁の先、入り口に近いところには扉ほどのサイズで開いているスペースがある。そこだけは気になって仕方がないのだ。
「扉はまだ我慢だな。というか扉とか作れる自信がないんだが……」
当初から予定していた居住スペースへと繋がる扉の空間だ。出入り口から入るとすぐそこは店舗スペースだ。その奥が居住スペースになる。
そして出入り口のすぐに左側にその扉の空間がある。そこから居住スペースへと行けるのだ。
完全に壁で塞いでしまったら居住スペースに入ることが不可能になってしまう。なのでこの通路のようなものを設置したのである。
「俺たちの技術と材料じゃ扉は無理だな。だから金が貯まったら頑丈な扉を作ってもらおうか」
「そうですね。最初のお金の使い道ができましたね。ワクワクします」
「それまではカーテンとかで隠すしかないな。よし。あとは棚を壁側にずらして商品棚の位置を決めようか」
二人は壁に沿って商品棚となる棚などを動かし始めた。
土台をしっかりと作った壁だ。マサキがタックルしても倒れることはない。そこに棚を置けばさらに壁の強度は増す。
壁に沿って並べた棚は二つ。どちらもネージュのおばあちゃんから譲り受けた物で何も入っていない空っぽの棚だ。
二つの棚はどちらも同じ物で高さは二メートルほどある。そして八段の収納できるスペースもある。
一番下の段は衛生上、食品を置けないので実質使える棚は七段だ。
「本当は食品を置くから冷蔵庫が良かったんだけど……それを補うのが異世界道具。魔道具だよな」
マサキは棚の二段目に魔道具の『氷のキューブ』を置いた。すると氷のキューブから冷気が放出されて氷のキューブを置いた二段目がゆっくりと冷えていく。
この氷のキューブも大樹に住んでいる妖精が作り出した魔道具だ。
「これはコンビニとかスーパーとかにある扉のない冷蔵庫……オープン型の冷蔵庫と同じだ!」
マサキは氷のキューブを使うことで扉のないオープン型の冷蔵庫を再現することに成功したのだ。
これによって冷蔵庫を購入せずに済んだ。
そして電気代の節約や機械の故障、メンテナンスなどの経費削減にも役に立ったのだ。
「さすが魔道具。氷のキューブ素晴らしい」
「冷蔵庫の中に入っててよかったですね。全部で三つしかなくて足りませんけどね。どこで買えるかもわかりませんし……」
本来の氷のキューブの使い道は冷蔵庫の内部温度を冷やし冷凍庫にする物だ。それを冷蔵庫ではなく普通の棚で行うと棚が冷蔵庫のようになるのだ。
大気中に漂っている魔力がある限り効果を発動し続けるので一生使えると言っても過言ではない。
そんな魔道具の氷のキューブをネージュは三つしか持っていない。
そしておばあちゃんから譲り受けた物なので購入方法や入手方法を全く知らなかったのだ。
「まあ、そのうち売ってる場所とかわかると思うし、その時に買おうか。それまでは上手く棚を使うしかないよな。それに盗まれないように置かなきゃいけないな……」
壁を完成させた二人だったがまだまだ課題は多い。
手を抜くことなく今の二人ができる最大限の知識を活用して無人販売所を完成させなければならないのだ。
「でも完成まであとちょっとだ。このままの勢いで内装作りを頑張るぞー」
「はい!」
二人は完成した壁の前で十日前よりも元気よく声を上げたのだった。
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