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第1章:異世界生活『兎人ちゃんと一緒に暮らそう編』
5 ニンジングラッセ
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固く交わされた握手が解かれた直後、ネージュは顔を少し赤らめながら口を開く。
「それでは私は、夕食の準備をしてきますね」
ネージュはウッドテーブルの上に置かれたラタン製のバスケットを手に取った。そのままキッチンの方へと歩いていく。細い体型のせいか足音は聞こえない。
「お、俺も手伝うよ。ただ住ませてもらうってのもあれだからさ……それに俺こう見えても料理はできる方だから!」
「いいえ。大丈夫ですよ。せっかくなので私の手料理でマサキさんをおもてなししたいのですよ」
振り向いたネージュの笑顔は雪の結晶のように眩しく美しいものだった。その笑顔を見たマサキは自分の心の中に潜む闇の本の一部が雪のように溶けていくを感じた。
今日、会ったばかりの見ず知らずの男におもてなしをするほどネージュはお人好しだ。
しかしマサキとネージュは既に見ず知らずの関係ではない。二人はビジネスパートナーという関係まで昇格していたのだ。
「そんじゃ、お言葉に甘えて。でも後ろで調理の様子を見ててもいいか? ちょっと気になるからさ。もちろん邪魔はしないよ」
「料理を見せるのは恥かしいですが……いいですよ。でもそんなに上手じゃないので笑わないでくださいね」
ネージュは恥ずかしそうにもじもじとしていた。そして止めていた足を再び動かしキッチンの方へと歩いていく。そして到着。
ネージュは作業台の上にラタン製のバスケットを置き、大樹の内側の壁に掛けてあったニンジンの模様が入ったピンク色のエプロンを身に纏った。
雪のように白い肌と白銀の髪。そして垂れたウサ耳を持つ美少女のエプロン姿はまるで天使。国宝級だ。
(か、可愛すぎる……エプロンひとつでここまで変わるとは……これもネージュが可愛すぎるからが故か。とにかくこの世界にもエプロンがあって良かったと心から思ったよ。問題は料理だよな。このパターンだとめちゃくちゃ上手かめちゃくちゃ下手かの二択だろう……)
心の中で歓喜の涙に咽ぶマサキは小さくガッツポーズをとった。それと同時に料理に対する不安の感情がマサキの心を徐々に支配していく。
エプロン姿のネージュはラタン製のバスケットを開け、中身を取り出す。出てきたのは土がついた立派なニンジンが三本だ。
「ニンジンが三本か。やっぱり食べ物が入ってたんだな……」
兎人族の森に一人でいた理由は食べ物を探していたのだろうと予想していたマサキの予想は的中していた。
そしてネージュが貧乏兎だということは周知の事実。マサキは少なすぎるニンジンの本数に申し訳ない気持ちと感謝の気持ちでいっぱいになった。
(この際どんなに不味くても完食してやる。改めて食べ物のありがたみを実感したよ。ってこれ不味い料理が出てくるフラグになるんじゃ……やばいな。余計なことは考えないようにしよう)
マサキは余計な雑念をやめて目の前の料理に集中する。
ネージュは一般的な家庭用冷蔵庫の二回りほど小さい古びた冷蔵庫を開けてニンジンを一本入れた。
「ニンジンさんは二本だけ使います。一本は非常食用ですね」
「朝食とかじゃなくて非常食!?」
「はい。非常食ですよ。いつ食料が尽きるかわかりませんからね」
ネージュは冗談とは思えない冗談を交えながら手洗いとニンジンの洗浄を済ませた。その後、冷蔵庫から黄色い固形のものを取り出した。
「バターかな?」
「はい。よくわかりましたね。その通りバターです」
黄色い固形のものはバターだった。そのバターはラップのようなものに包まれて丁寧に保存されていた。
(おっぱいがマフマフだからバターにも独特な呼び名があると思っていたがバターはそのままバターなのね。あとニンジンも……名前が違うだけでかなり苦労しそうだから日本と同じ名前で助かるぜ)
マサキはバターがラップから外されている間に異世界と日本の物の名称について思考し安堵したのだった。
バターをラップから外し終えたネージュは、大樹の内側に作られた棚に手を伸ばし、茶色の小さな袋を取った。キッチンにある棚のほとんどは、大樹の内側部分に作られている。
そしてネージュが手に取った茶色の小さな袋の中には、固形の調味料が入っているのだろうとマサキは予想した。
ネージュは、それを作業台に置いてマサキに見せた。
「材料はこれで全部です」
マサキに見やすいように並べられた料理の材料たち。
左からニンジンが二本、小さくスライスされたバター、茶色の小さな袋、水の入ったコップが並んでいる。
「にんじんとバターと水はわかったけど、その茶色い謎の袋の中身はなんだ? 俺の予想だと砂糖なんだが」
「マサキさん。すごいです。正解ですよ」
マサキは茶色の小さな袋の中身を見事に的中させた。ネージュはマサキが袋の中身を的中させたことに驚いていた。
そのまま袋を開けて、白い結晶の粒を皿の上に移した。粒の大きさからしてマサキの予想通りの砂糖だ。
「でもこれ本当に砂糖か? 完全に密封しきれてない袋で保存してるのに、俺が知ってる砂糖よりもなんか高級感あるって感じする。美しいというかなんというか……めちゃくちゃ白い!」
砂糖は湿気の影響を受けやすい調味料なので、袋よりも蓋付きの瓶のような密閉容器などで保存した方が良い。
しかしネージュが砂糖を保存していたのはなんの変哲もない、ただの茶色い袋だ。その袋から出された砂糖は普通の砂糖よりもサラサラで、マサキには輝いて見えたのだ。
「別にただの普通の砂糖ですよ。袋も普通の袋ですよ。大樹に住むと言われている妖精が、大樹の幹と葉で作った袋ですから」
「完全に原因はそれじゃねーか」
異世界の砂糖は日本の砂糖と比べて高級な可能性があるとマサキは砂糖を疑っていたが、その答えは茶色の袋にあった。
妖精が作り出した袋なら、密封状態が悪い袋でも砂糖をしっかり保存できるのだ。そして本来以上の上質な調味料へと進化をすることになる。
「妖精とか普通に会話に出てくると、異世界にいるんだなって実感が湧く。まあ、目の前の兎人族の美少女が、俺に料理を振る舞おうとしてる時点で実感が湧かなきゃ変だけどな……」
マサキは調理器具の少ないネージュのキッチンを見ながら小声でぶつぶつと呟いた。ネージュは鼻歌を歌いながらせっせと準備していて反応が一切なかったので、マサキの声は聞こえてないのかもしれない。
「では私の得意ニンジン料理。ニンジングラッセを作っていきます」
「おお~。ニンジングラッセか」
ニンジングラッセとは、ステーキやハンバーグなどの付け合わせでよく出されているあのニンジンだ。甘くて美味しいことから野菜嫌いの子供でも好んで食べることが多々あるので、主婦に大人気の付け合わせなのである。
ネージュは初めにニンジンの皮を包丁でむき始めた。美しい包丁さばきで、皮は驚くほど薄くむかれていった。その薄さは皮の表面が透けてその先が見えるほど。
これは貧乏兎だからこそできる節約術。そして調理技術なのだろう。
マサキはここまで薄くて美しいニンジンの皮を見たことはなかった。
その後、皮をむいたニンジンを輪切りで厚めに切っていく。
一般的によく見るニンジングラッセは円柱のような棒状の丸っこい形だ。その形にするにはネージュの切り方では不可能。輪切りではなくシャトー切りをしなくてはならないのだ。
ネージュが角を削ぐように切るシャトー切りにしなかった理由は、削がれた部分がもったいないからだろう。これも貧乏兎の節約術だ。
「料理の腕はプロ並み。いや、人間ごときのレベルじゃ計り知れないほどの実力……」
「そ、そんなにですか? 褒めてもハンバーグやステーキは出ませんよ」
「あ、なんか……そんな冗談を言わせてしまってごめん」
貧乏ジョークが返ってきて悲しくなってしまうマサキ。ネージュは上手いこと言えて、上機嫌で調理を進めた。
ネージュは雪平鍋に切ったばかりのニンジンと、薄くスライスしたバターそして砂糖を入れた。その後、入れた材料がかぶるくらいの水を投入。
「あとは弱火でじっくりことこと煮込むだけです」
ネージュは黒くて大きい石のようなものを素早く擦って、作業台の下にある焜炉のようなものに火をつけた。
見たこともない調理器具が出てきたことに驚いたマサキは質問をする。
「その黒い石は何? 一瞬で火がついたんだけど」
「これは火竜の鱗ですよ。さっきみたいに擦り合わせることで、簡単に火が出せます」
「火竜の鱗!? さ、さすが異世界……」
黒くて大きい石のようなものは火竜の鱗だった。日本ではあり得ないことにマサキは衝撃を受けている。カルチャーショックというものだろう。
「雪平鍋とか焜炉とか冷蔵庫とか、古びてるけど日本にあるやつとそんなに変わんないからまだ分かるが……妖精が作った万能な袋とか火竜の鱗やらの差が激しすぎて異世界酔いしそう……」
古びてはいるが、日本にある調理器具となんら変わらない。しかし性能は日本の最先端技術以上だ。なぜなら古びた調理器具を補うほどの異世界の道具が存在するからである。
これを魔道具と呼ぶ。日本の最先端技術を軽く凌駕するほどの代物だ。
ネージュは煮込んでいる間、陽気に鼻歌を歌いながら食器などの準備に取り掛かっている。
恥ずかしがり屋なら鼻歌を聴かれるだけでも嫌なはずだが、不思議とマサキの前では気にならないようだ。
人間不信のマサキも、ネージュの料理や行動に不信がる様子は一切ない。
気が合う。相性がいい。意気投合。それだけの言葉で片付けていいとは思えないほど、二人の関係は好適なのである。
ネージュが準備していた食器は異世界らしさはないが、高級フレンチなどで扱われていそうなほど光沢があり真っ白だった。
「そうだ。待ってる間、さっき言ってたムジンハンバイジョって仕事の話を聞かせてくださいよ」
「お、おう。そうだな。えーっと無人販売所ってのはな……」
マサキは無人販売所の説明を始めた。
「それでは私は、夕食の準備をしてきますね」
ネージュはウッドテーブルの上に置かれたラタン製のバスケットを手に取った。そのままキッチンの方へと歩いていく。細い体型のせいか足音は聞こえない。
「お、俺も手伝うよ。ただ住ませてもらうってのもあれだからさ……それに俺こう見えても料理はできる方だから!」
「いいえ。大丈夫ですよ。せっかくなので私の手料理でマサキさんをおもてなししたいのですよ」
振り向いたネージュの笑顔は雪の結晶のように眩しく美しいものだった。その笑顔を見たマサキは自分の心の中に潜む闇の本の一部が雪のように溶けていくを感じた。
今日、会ったばかりの見ず知らずの男におもてなしをするほどネージュはお人好しだ。
しかしマサキとネージュは既に見ず知らずの関係ではない。二人はビジネスパートナーという関係まで昇格していたのだ。
「そんじゃ、お言葉に甘えて。でも後ろで調理の様子を見ててもいいか? ちょっと気になるからさ。もちろん邪魔はしないよ」
「料理を見せるのは恥かしいですが……いいですよ。でもそんなに上手じゃないので笑わないでくださいね」
ネージュは恥ずかしそうにもじもじとしていた。そして止めていた足を再び動かしキッチンの方へと歩いていく。そして到着。
ネージュは作業台の上にラタン製のバスケットを置き、大樹の内側の壁に掛けてあったニンジンの模様が入ったピンク色のエプロンを身に纏った。
雪のように白い肌と白銀の髪。そして垂れたウサ耳を持つ美少女のエプロン姿はまるで天使。国宝級だ。
(か、可愛すぎる……エプロンひとつでここまで変わるとは……これもネージュが可愛すぎるからが故か。とにかくこの世界にもエプロンがあって良かったと心から思ったよ。問題は料理だよな。このパターンだとめちゃくちゃ上手かめちゃくちゃ下手かの二択だろう……)
心の中で歓喜の涙に咽ぶマサキは小さくガッツポーズをとった。それと同時に料理に対する不安の感情がマサキの心を徐々に支配していく。
エプロン姿のネージュはラタン製のバスケットを開け、中身を取り出す。出てきたのは土がついた立派なニンジンが三本だ。
「ニンジンが三本か。やっぱり食べ物が入ってたんだな……」
兎人族の森に一人でいた理由は食べ物を探していたのだろうと予想していたマサキの予想は的中していた。
そしてネージュが貧乏兎だということは周知の事実。マサキは少なすぎるニンジンの本数に申し訳ない気持ちと感謝の気持ちでいっぱいになった。
(この際どんなに不味くても完食してやる。改めて食べ物のありがたみを実感したよ。ってこれ不味い料理が出てくるフラグになるんじゃ……やばいな。余計なことは考えないようにしよう)
マサキは余計な雑念をやめて目の前の料理に集中する。
ネージュは一般的な家庭用冷蔵庫の二回りほど小さい古びた冷蔵庫を開けてニンジンを一本入れた。
「ニンジンさんは二本だけ使います。一本は非常食用ですね」
「朝食とかじゃなくて非常食!?」
「はい。非常食ですよ。いつ食料が尽きるかわかりませんからね」
ネージュは冗談とは思えない冗談を交えながら手洗いとニンジンの洗浄を済ませた。その後、冷蔵庫から黄色い固形のものを取り出した。
「バターかな?」
「はい。よくわかりましたね。その通りバターです」
黄色い固形のものはバターだった。そのバターはラップのようなものに包まれて丁寧に保存されていた。
(おっぱいがマフマフだからバターにも独特な呼び名があると思っていたがバターはそのままバターなのね。あとニンジンも……名前が違うだけでかなり苦労しそうだから日本と同じ名前で助かるぜ)
マサキはバターがラップから外されている間に異世界と日本の物の名称について思考し安堵したのだった。
バターをラップから外し終えたネージュは、大樹の内側に作られた棚に手を伸ばし、茶色の小さな袋を取った。キッチンにある棚のほとんどは、大樹の内側部分に作られている。
そしてネージュが手に取った茶色の小さな袋の中には、固形の調味料が入っているのだろうとマサキは予想した。
ネージュは、それを作業台に置いてマサキに見せた。
「材料はこれで全部です」
マサキに見やすいように並べられた料理の材料たち。
左からニンジンが二本、小さくスライスされたバター、茶色の小さな袋、水の入ったコップが並んでいる。
「にんじんとバターと水はわかったけど、その茶色い謎の袋の中身はなんだ? 俺の予想だと砂糖なんだが」
「マサキさん。すごいです。正解ですよ」
マサキは茶色の小さな袋の中身を見事に的中させた。ネージュはマサキが袋の中身を的中させたことに驚いていた。
そのまま袋を開けて、白い結晶の粒を皿の上に移した。粒の大きさからしてマサキの予想通りの砂糖だ。
「でもこれ本当に砂糖か? 完全に密封しきれてない袋で保存してるのに、俺が知ってる砂糖よりもなんか高級感あるって感じする。美しいというかなんというか……めちゃくちゃ白い!」
砂糖は湿気の影響を受けやすい調味料なので、袋よりも蓋付きの瓶のような密閉容器などで保存した方が良い。
しかしネージュが砂糖を保存していたのはなんの変哲もない、ただの茶色い袋だ。その袋から出された砂糖は普通の砂糖よりもサラサラで、マサキには輝いて見えたのだ。
「別にただの普通の砂糖ですよ。袋も普通の袋ですよ。大樹に住むと言われている妖精が、大樹の幹と葉で作った袋ですから」
「完全に原因はそれじゃねーか」
異世界の砂糖は日本の砂糖と比べて高級な可能性があるとマサキは砂糖を疑っていたが、その答えは茶色の袋にあった。
妖精が作り出した袋なら、密封状態が悪い袋でも砂糖をしっかり保存できるのだ。そして本来以上の上質な調味料へと進化をすることになる。
「妖精とか普通に会話に出てくると、異世界にいるんだなって実感が湧く。まあ、目の前の兎人族の美少女が、俺に料理を振る舞おうとしてる時点で実感が湧かなきゃ変だけどな……」
マサキは調理器具の少ないネージュのキッチンを見ながら小声でぶつぶつと呟いた。ネージュは鼻歌を歌いながらせっせと準備していて反応が一切なかったので、マサキの声は聞こえてないのかもしれない。
「では私の得意ニンジン料理。ニンジングラッセを作っていきます」
「おお~。ニンジングラッセか」
ニンジングラッセとは、ステーキやハンバーグなどの付け合わせでよく出されているあのニンジンだ。甘くて美味しいことから野菜嫌いの子供でも好んで食べることが多々あるので、主婦に大人気の付け合わせなのである。
ネージュは初めにニンジンの皮を包丁でむき始めた。美しい包丁さばきで、皮は驚くほど薄くむかれていった。その薄さは皮の表面が透けてその先が見えるほど。
これは貧乏兎だからこそできる節約術。そして調理技術なのだろう。
マサキはここまで薄くて美しいニンジンの皮を見たことはなかった。
その後、皮をむいたニンジンを輪切りで厚めに切っていく。
一般的によく見るニンジングラッセは円柱のような棒状の丸っこい形だ。その形にするにはネージュの切り方では不可能。輪切りではなくシャトー切りをしなくてはならないのだ。
ネージュが角を削ぐように切るシャトー切りにしなかった理由は、削がれた部分がもったいないからだろう。これも貧乏兎の節約術だ。
「料理の腕はプロ並み。いや、人間ごときのレベルじゃ計り知れないほどの実力……」
「そ、そんなにですか? 褒めてもハンバーグやステーキは出ませんよ」
「あ、なんか……そんな冗談を言わせてしまってごめん」
貧乏ジョークが返ってきて悲しくなってしまうマサキ。ネージュは上手いこと言えて、上機嫌で調理を進めた。
ネージュは雪平鍋に切ったばかりのニンジンと、薄くスライスしたバターそして砂糖を入れた。その後、入れた材料がかぶるくらいの水を投入。
「あとは弱火でじっくりことこと煮込むだけです」
ネージュは黒くて大きい石のようなものを素早く擦って、作業台の下にある焜炉のようなものに火をつけた。
見たこともない調理器具が出てきたことに驚いたマサキは質問をする。
「その黒い石は何? 一瞬で火がついたんだけど」
「これは火竜の鱗ですよ。さっきみたいに擦り合わせることで、簡単に火が出せます」
「火竜の鱗!? さ、さすが異世界……」
黒くて大きい石のようなものは火竜の鱗だった。日本ではあり得ないことにマサキは衝撃を受けている。カルチャーショックというものだろう。
「雪平鍋とか焜炉とか冷蔵庫とか、古びてるけど日本にあるやつとそんなに変わんないからまだ分かるが……妖精が作った万能な袋とか火竜の鱗やらの差が激しすぎて異世界酔いしそう……」
古びてはいるが、日本にある調理器具となんら変わらない。しかし性能は日本の最先端技術以上だ。なぜなら古びた調理器具を補うほどの異世界の道具が存在するからである。
これを魔道具と呼ぶ。日本の最先端技術を軽く凌駕するほどの代物だ。
ネージュは煮込んでいる間、陽気に鼻歌を歌いながら食器などの準備に取り掛かっている。
恥ずかしがり屋なら鼻歌を聴かれるだけでも嫌なはずだが、不思議とマサキの前では気にならないようだ。
人間不信のマサキも、ネージュの料理や行動に不信がる様子は一切ない。
気が合う。相性がいい。意気投合。それだけの言葉で片付けていいとは思えないほど、二人の関係は好適なのである。
ネージュが準備していた食器は異世界らしさはないが、高級フレンチなどで扱われていそうなほど光沢があり真っ白だった。
「そうだ。待ってる間、さっき言ってたムジンハンバイジョって仕事の話を聞かせてくださいよ」
「お、おう。そうだな。えーっと無人販売所ってのはな……」
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