上 下
94 / 108
番外編

【彼方誕生日編(二)】遊佐彼方にとっての誕生日。(二)(彼方視点)

しおりを挟む
 彼方達がやって来たのはゲームセンターだ。昔、水樹の誕生日に訪れた場所。内装はあの頃と少々異なっているが、賑わい度は全く変わっていない。
「久々だなあ!! ね、何から遊ぶ?」
「彼方の好きなのでいいよ」
 水樹も相変わらずパートナーの気持ちを優先してくれる。今でもときどき「我慢してるんじゃないだろうか」と心配にはなる。
 だが、ポジティブに捉えれば『腕の見せ所』でもあった。さりげなく視線や態度など感情が浮き彫りとなる仕草を読み取り、相手の願いや想いを叶える。
(毎回成功するとは限らないのが悔しいけど……)
 彼方は水樹の手を引っ張り、中へ入っていった。
 ぐるりと一周して感じたこと。クレーンゲームがあの時よりも充実している。大きい箱に詰められたスナック類や、ぬいぐるみをはじめとしたキャラクター系グッズも種類が豊富だ。
(あ。あの苺味のクッキー、歩美の好きなお菓子だ。あっちのチーズスナックは、愛翔が大ハマりしてた時期があったな)
「歩美が好きな苺クッキーも、愛翔がよく食べてたチーズスナックもあるね」
 ゲームセンターを回っていた足を止め、水樹を見上げる。本人は頭に疑問符を浮かべていた。
「同じこと考えてたなんて、僕達、似た者夫夫だよね」
 「嬉しいな」と素直な気持ちを述べると、水樹は目を細めて幸せそうに微笑んだ。
 番の笑顔は健康に良い。それに毎日見ていても、可愛らしさと愛しさで胸がきゅんきゅんするのだ。
(やばい。キスしたくなる。落ち着け、僕の理性)
 水樹が変装しない理由の一つに「意外と気づかれない」がある。伊達メガネや帽子を被らなくても「守谷水樹さんですか?」と、声を掛けられることは滅多にない。イチャイチャしても許されると思うが……、モヤッとはする。
(ひたむきに努力する水樹の存在、もっと知られてもいいのに)
 また考えてしまった。頭を振って気持ちを切り替え、どれをやりたいのかと水樹の方を見る。
 水樹は彼方の反対側を眺めていた。瞳をキラキラとさせ、無意識なのか握る手を強められる。
 ゲームセンターの奥にはとあるコーナーがあり、若い女性達や制服を着たカップルが列を作っている。
(ああ、なるほど)
 昔を思い出す。アクセサリーショップでカラーコーナーにいた水樹の大きな背中を。あの時は近くまで寄れなかったが、きっとこんな風に「羨ましい」と心の底で思っていたんだろう。
 今、水樹の首元にはプレゼントした青いカラーが着けられている。もう誰にも噛まれる心配はなくても、番の証が長髪で隠れようとも、アクセサリー……もしくはお守りのように普段使いしてくれる。
 列に並ぶカップルらしき中にも、カラーを着けた人が何人かいた。きっと、世の中の流れや水樹達が動いたから、外でも安心して身に着けるオメガが増えたに違いない。
「……よしっ、先にお菓子制覇しよ!」
 彼方達は息子達の好きな菓子台に挑戦していく。菓子をあまり好まない陽翔には、ペンギンのマスコットを取って贈ることにした。
「そろそろお昼にする?」
 腕時計に視線を落とした水樹が、声を掛けてくれる。彼方も確認すると正午ピッタリ。二人の両手には景品が入った袋が提げてあり、 クレーンゲームを遊び尽くした。
「そうだね。でも、最後に寄っていい?」
 首を傾げた水樹と一緒に向かった先は。
「か、彼方……! 俺達がプリクラしてもいい……の?」 
 半ば強制的に連れてきた場所は、水樹が羨ましそうに見つめていたプリクラ機の一つ。
「ゲームに『この歳より上の方はやっちゃいけません』なんてないと思うよ。反対はあるけど」
 昼の時間帯まで待って正解だった。誰も並んでおらず、まだ抵抗感のある水樹とこうしてプリクラ機の中にいる。あと一押しだ。
「僕の誕生日でもあるから、記念に水樹と撮りたいな」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 ハッピーエンド保証! 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります) 11月9日~毎日21時更新。ストックが溜まったら毎日2話更新していきたいと思います。 ※…このマークは少しでもエッチなシーンがあるときにつけます。 自衛お願いします。

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

伸ばしたこの手を掴むのは〜愛されない俺は番の道具〜

にゃーつ
BL
大きなお屋敷の蔵の中。 そこが俺の全て。 聞こえてくる子供の声、楽しそうな家族の音。 そんな音を聞きながら、今日も一日中をこのベッドの上で過ごすんだろう。 11年前、進路の決まっていなかった俺はこの柊家本家の長男である柊結弦さんから縁談の話が来た。由緒正しい家からの縁談に驚いたが、俺が18年を過ごした児童養護施設ひまわり園への寄付の話もあったので高校卒業してすぐに柊さんの家へと足を踏み入れた。 だが実際は縁談なんて話は嘘で、不妊の奥さんの代わりに子どもを産むためにΩである俺が連れてこられたのだった。 逃げないように番契約をされ、3人の子供を産んだ俺は番欠乏で1人で起き上がることもできなくなっていた。そんなある日、見たこともない人が蔵を訪ねてきた。 彼は、柊さんの弟だという。俺をここから救い出したいとそう言ってくれたが俺は・・・・・・

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

王と正妃~アルファの夫に恋がしてみたいと言われたので、初恋をやり直してみることにした~

仁茂田もに
BL
「恋がしてみたいんだが」 アルファの夫から突然そう告げられたオメガのアレクシスはただひたすら困惑していた。 政略結婚して三十年近く――夫夫として関係を持って二十年以上が経つ。 その間、自分たちは国王と正妃として正しく義務を果たしてきた。 しかし、そこに必要以上の感情は含まれなかったはずだ。 何も期待せず、ただ妃としての役割を全うしようと思っていたアレクシスだったが、国王エドワードはその発言以来急激に距離を詰めてきて――。 一度、決定的にすれ違ってしまったふたりが二十年以上経って初恋をやり直そうとする話です。 昔若気の至りでやらかした王様×王様の昔のやらかしを別に怒ってない正妃(男)

処理中です...