79 / 108
番外編
【エイプリルフール編(完)】元気になる魔法をかけられて。(四)(水樹視点)
しおりを挟む「……なんかそれはそれで、ぼく達の存在意義を考えてしまうな」
「そんざ……、いぎ? よくわからないけど、きっと大丈夫だ! だって二人がラブラブで結婚しなかったらおれ達は卵から生まれてない。つまーり、おれたちは二人から愛されてるんだぞ」
「お前、ほん……。ん? 卵?」
「え、だってそうだろ。おれの友達を信用しない気か?」
「まなとおにーちゃんのともだちものしり! ダチョウさんのよりおおきいのかな」
「だああ、問題事を増やすなこの、こっの、兄貴がああ!!」
子供達の親子愛と勘違いが語られているとはつゆ知らず。
「んっ、ふぁ……」
「じゅ……んんっ」
水樹がペットボトルを取ろうとしたら、彼方が口を膨らませたまま吸い付いてきた。彼方は舌を伝わせて水を与えてくれるが、受け取る側からすると甘い味がする。
ポタポタ。水溜まりが出来たシーツの上に水滴が落ちる。
「ぷはっ。ご馳走さまでした」
水分補給という名の接吻。目尻を下げる彼方を前に、水樹は頬を赤く染めて「お、お粗末さまでした」
「もーお、お粗末じゃないよ水樹は」
「だ、だって……俺ばっかり良い思いしてるし」
「……またキスするよ?」
悪戯っぽく笑われ、水樹は目を閉じて唇を差し出す。狼狽える声がしたが、数秒も経たない内にキスを味わった。
「美味し……」
──トクトク、トクトク。
(ほら、結局俺の方が得しちゃう)
瞼を持ち上げると明るい色が目に入る。綺麗なビー玉見たいだ。
倒れるように二人で横になった。
「ビシャビシャだね」
「は、はしたないね……」
「ぜーんぜん。良い匂いするよ?」
くんくんとシーツを嗅ぎ出す彼方を止めようとしたが一歩遅かった。
「僕と水樹の液体が混ざった匂い」
顔の中心に熱が集まった水樹に対し、彼方は「可愛い」
とにこやかな笑みを浮かべる。
「俺のこと可愛いって褒めるの、彼方かあの子達くらいだよ」
「おお。さすが僕らの子。見る目ある」
僕らの子。彼方が発した言葉を胸の中で反芻する。
(僕と彼方の子供。彼方の血だけじゃなくて、僕の……)
「一緒にいてよく思うけどさ、愛翔も陽翔も歩美も、水樹にとっても似てるよね」
「お、俺に……?」
「うん。愛らしさとか純粋で優しいところはもちろん、大切な人のために真剣に悩んで不安がるところとか」
不安がるところと聞き、たしかに自分の悪いところが遺伝したかもしれないと拳を握り締める。その手を、彼方は包んだ。子供体温のように温かい。
「でも、不安がった後にちゃんと行動に移せてる。すっごく勇気のいることだし、なんたって相手のためだよ。格好良くない?」
向けられる瞳に濁りはなく、緩んだ口元から嬉しさがダダ漏れていた。
「今日は特に一回り成長したところを見られたし、どんな子達に成長していくんだろうな」
彼方の言葉や振る舞いは、いつも温かい気持ちにさせてくれる。じわじわ込み上げてくる熱に何度も救われてきた。
「俺やあの子達が勇気を持って行動できるのは、彼方が応援してくれて安心させてくれるからだよ。すごく格好良いことだ。いつもありがとう」
嘘偽りなく、はっきりと言える。
あの子達もいつかきちんと実感し、感謝の言葉を伝えられる日が来るだろう。
彼方は驚いてから少し顔を伏せ、チラリと水樹を窺う。頬がピンク色に染まっていた。
「僕、格好良い?」
「とっても。世界一格好良くて、優しくて、温かいよ」
また本心から伝える。彼方は歯をこぼして笑ってみせたけど、ぽろぽろと涙を流しながら「安心した」と呟いた。
「これからも大好きな水樹と愛おしいあの子達、守るからっ」
「じゃあ、俺は彼方とあの子達を守るね」
彼方の手が目元に触れて、自分が泣いているのがわかった。苦しくない、悲しくない涙。感情は伝わってしまう。
これからも彼方と一緒にあの子達を守っていく。共通の誓いを立てながら、二人はもう嘘をつかなくても良い夜を過ごしたのであった。
1
お気に入りに追加
501
あなたにおすすめの小説
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
ハッピーエンド保証!
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)
11月9日~毎日21時更新。ストックが溜まったら毎日2話更新していきたいと思います。
※…このマークは少しでもエッチなシーンがあるときにつけます。
自衛お願いします。
成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
伸ばしたこの手を掴むのは〜愛されない俺は番の道具〜
にゃーつ
BL
大きなお屋敷の蔵の中。
そこが俺の全て。
聞こえてくる子供の声、楽しそうな家族の音。
そんな音を聞きながら、今日も一日中をこのベッドの上で過ごすんだろう。
11年前、進路の決まっていなかった俺はこの柊家本家の長男である柊結弦さんから縁談の話が来た。由緒正しい家からの縁談に驚いたが、俺が18年を過ごした児童養護施設ひまわり園への寄付の話もあったので高校卒業してすぐに柊さんの家へと足を踏み入れた。
だが実際は縁談なんて話は嘘で、不妊の奥さんの代わりに子どもを産むためにΩである俺が連れてこられたのだった。
逃げないように番契約をされ、3人の子供を産んだ俺は番欠乏で1人で起き上がることもできなくなっていた。そんなある日、見たこともない人が蔵を訪ねてきた。
彼は、柊さんの弟だという。俺をここから救い出したいとそう言ってくれたが俺は・・・・・・
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
王と正妃~アルファの夫に恋がしてみたいと言われたので、初恋をやり直してみることにした~
仁茂田もに
BL
「恋がしてみたいんだが」
アルファの夫から突然そう告げられたオメガのアレクシスはただひたすら困惑していた。
政略結婚して三十年近く――夫夫として関係を持って二十年以上が経つ。
その間、自分たちは国王と正妃として正しく義務を果たしてきた。
しかし、そこに必要以上の感情は含まれなかったはずだ。
何も期待せず、ただ妃としての役割を全うしようと思っていたアレクシスだったが、国王エドワードはその発言以来急激に距離を詰めてきて――。
一度、決定的にすれ違ってしまったふたりが二十年以上経って初恋をやり直そうとする話です。
昔若気の至りでやらかした王様×王様の昔のやらかしを別に怒ってない正妃(男)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる