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第三章 十九回目の誕生日
アクセサリー。
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昼にはケーキ専門店に入り、オーダー式のケーキバイキングを堪能した。ホワイトチョコのプレートで『遊佐 水樹君、誕生日おめでとう!』とお祝いメッセージが書かれた時には涙が溢れ、二つに割ったプレートを各々のショートケーキに乗せて食べた。今までに味わったことのない、とても甘くて幸せな誕生日パーティの余韻に今も浸れる。
そんな至れり尽くせりの誕生日は休憩に入った。
彼方を待つ時間も口角が緩みきっていた水樹は視線を気にし、ベンチから腰を上げ、手洗い近くに店を構えるアクセサリーショップに逃げ込むように入店する。
(うわあ! 素敵なアクセサリーがいっぱいだあ!)
柔らかなオレンジを基調としたライトの下では様々なアクセサリーや雑貨が商品展開されている。価格はお手頃なものから高級なものまであった。
胸元までの高さしかない棚に視線を合わせ、覗いてみる。長さの違うネックレスも多々あり、彼方に似合いそうだ。
誕生日の主役とはいえ、今日は彼方にプレゼントされまくりだ。なにかお返しがしたい気持ちが芽生えた水樹だった。
(彼方君なら、見せずにシャツに隠していても様になるだろうな)
ワイシャツを脱いだら姿を見せるシルバーのネックレス。鎖骨の隙間を通り、胸でダブルリングのアクセが揺れる。読者モデルみたいですごく似合うが、値段を確認すると零の数が二つ多い。
(あんまり高いと気にしちゃうだろうしな……。うん?)
中腰の体を起こせば、奥でキラリと光るものがあった。吸い寄せられるように足がそちらへ向かう。
ガラスケースに収納されたそれは、オメガの首輪だ。
オメガにとって項は危機感を持たなければならない部位だ。ヒート中、アルファに項を噛まれると番にされてしまう。ベータやオメガ同士でも跡はつくが、番にはなれず、どんどん噛み跡は消えていくと噂で聞いた。
首の付け根までレースで伸ばしたものや、がっちり皮で覆ったもの、『サイズや素材などのオーダーメイドも承ります。色も豊富にありますよ』とガラスケースに貼られたカードには気遣いがある。
首輪をつけただけでオメガだと名乗っているようなものだ。それをアクセサリーとして、項をオシャレに華やげる。
水樹は想像してみた。命を守ることと一緒である項を彩り、街に出かける様子を。首輪をつけた姿を見ても「似合っているよ」と笑ってくれる太陽のような誰かを。
──とくん、とくん、とくん。
(に、似合わないしっ! 俺にはせいぜいチョーカーとかネックレスとか……!)
昔と違い、今は首輪をつけなくてもよくなった。抑制剤の発達によりヒートを抑えて項を守れるからだ。
そもそも自分のを噛んで番にしたい者なんて……。
「遊佐君、みーつけた!」
屈んだ腰が真っ直ぐ伸びる。心臓を吐きそうになったのは生まれてから初めてのことだ。
彼方は棚から少しだけ顔を出し、入り口で水樹に手を振る。きっと、踵を浮かせて背伸びをしているんだろう。あの位置だと首輪の存在は確かめられない。彼方が近寄る前に水樹は店内を駆けだした。
そんな至れり尽くせりの誕生日は休憩に入った。
彼方を待つ時間も口角が緩みきっていた水樹は視線を気にし、ベンチから腰を上げ、手洗い近くに店を構えるアクセサリーショップに逃げ込むように入店する。
(うわあ! 素敵なアクセサリーがいっぱいだあ!)
柔らかなオレンジを基調としたライトの下では様々なアクセサリーや雑貨が商品展開されている。価格はお手頃なものから高級なものまであった。
胸元までの高さしかない棚に視線を合わせ、覗いてみる。長さの違うネックレスも多々あり、彼方に似合いそうだ。
誕生日の主役とはいえ、今日は彼方にプレゼントされまくりだ。なにかお返しがしたい気持ちが芽生えた水樹だった。
(彼方君なら、見せずにシャツに隠していても様になるだろうな)
ワイシャツを脱いだら姿を見せるシルバーのネックレス。鎖骨の隙間を通り、胸でダブルリングのアクセが揺れる。読者モデルみたいですごく似合うが、値段を確認すると零の数が二つ多い。
(あんまり高いと気にしちゃうだろうしな……。うん?)
中腰の体を起こせば、奥でキラリと光るものがあった。吸い寄せられるように足がそちらへ向かう。
ガラスケースに収納されたそれは、オメガの首輪だ。
オメガにとって項は危機感を持たなければならない部位だ。ヒート中、アルファに項を噛まれると番にされてしまう。ベータやオメガ同士でも跡はつくが、番にはなれず、どんどん噛み跡は消えていくと噂で聞いた。
首の付け根までレースで伸ばしたものや、がっちり皮で覆ったもの、『サイズや素材などのオーダーメイドも承ります。色も豊富にありますよ』とガラスケースに貼られたカードには気遣いがある。
首輪をつけただけでオメガだと名乗っているようなものだ。それをアクセサリーとして、項をオシャレに華やげる。
水樹は想像してみた。命を守ることと一緒である項を彩り、街に出かける様子を。首輪をつけた姿を見ても「似合っているよ」と笑ってくれる太陽のような誰かを。
──とくん、とくん、とくん。
(に、似合わないしっ! 俺にはせいぜいチョーカーとかネックレスとか……!)
昔と違い、今は首輪をつけなくてもよくなった。抑制剤の発達によりヒートを抑えて項を守れるからだ。
そもそも自分のを噛んで番にしたい者なんて……。
「遊佐君、みーつけた!」
屈んだ腰が真っ直ぐ伸びる。心臓を吐きそうになったのは生まれてから初めてのことだ。
彼方は棚から少しだけ顔を出し、入り口で水樹に手を振る。きっと、踵を浮かせて背伸びをしているんだろう。あの位置だと首輪の存在は確かめられない。彼方が近寄る前に水樹は店内を駆けだした。
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