上 下
30 / 33

30話 レクリオ村の夜 ③

しおりを挟む



 「ねえ、おじさんは一体何者なの? 私達が倒せなかったホブゴブリンをあっさり倒しちゃったし、もしかして元冒険者だったりする? 」

「俺かい、俺はただの民間人だよ」

村の中を慎重に歩きながら、村長さんの家の納屋へ向けて、俺と少女冒険者二人は辺りを警戒しながら進んでいる。その間、少女冒険者の一人、弓使いのハーフエルフっぽい子が聞いて来た。

「民間人? 平民って事? うそ、そんなのであの場のゴブリン共を倒せる訳ないわ、戦闘職でもないのに」

ふーむ、やはり戦いにはそういった戦闘職が向いているという訳なのか、俺はただの民間人だからな。その辺ようわからん。スキルスロットが多いのは理解できるが、そもそも何故スロットが多いのかもわからんしな。やはり、この世界に来る前にやっていたゲームのキャラクターメイキングに何か関係があるのかもしれない。

俺達は辺りを警戒しながら歩いているので、村長さん家の納屋の場所までが遠く感じる。それにどこからゴブリンが襲ってくるのかも暗くてよくわからない。慎重になりすぎるに越した事は無い。移動速度はゆっくりだ。

「とにかく、道の途中にある篝火を頼りに進んでいきましょう」

「わかったわ」

「はい」

少女冒険者二人は今は落ち着いている様だ、あんな目に遭ったのにもう気持ちを切り替えている。その辺は現役の冒険者なんだろうな、見た目の年齢からは想像できないが、おそらくそれなりに修羅場を潜ってきたのかもしれない。

歩いている途中で、弓使いの子が人差し指を口元に持って来て「静かに」、という仕草をした。

「ほら、あそこ、ゴブリンよ、村の中を物色してるみたい、どうする? 」

言われて遠くの稜線になっているところを注視する。本当だ、ゴブリンがいた! 数は2匹、ここから見える数は今のところそんな感じだ。

「よく見えますね」

「私、夜目が利くのよ、で? どうするの? 」

魔法使いの子が恐る恐る聞いて来た。

「わ、私は今日はもう魔法が使えません、足手纏いになります、おじさんはどうするべきだと思いますか? 」

「うーむ、そうだな、矢筒には2本矢が残っているんだったよね」

俺の問いに弓使いの子が弓を構えながら答える。

「ここから狙えるわ、1匹は任せて」

「それじゃあ、君達二人はこの場で待機、俺がゴブリンに近づく、1匹は俺が何とかするから残りの奴を弓で射掛けてほしい、頼めるかい」

「ええ、任せて」

俺はハンマーを持つ手を強く握り込み、気持ちを落ち着かせて行動を開始する。

「それじゃあ、行って来る」

「気を付けてね」

静かな声で励まされ、俺は静かに前進した。ゆっくりとゴブリンに近づき、あまり物音を立てない様に歩く。

「グギ? 」

もうかなりの距離まで接近した時、さすがにゴブリンには気付かれたみたいだ。2匹共こちらに向かって駆けて来る。

「さあ、こい! 」

俺はその場で立ち止まり、この場で迎撃しようと身構える。

その間に、ゴブリン共は二手に分かれて、1匹は俺の正面から、残りの1匹が俺の側面からそれぞれ近づいて来ていた。

「挟み撃ちか、だがな、それは相手が一人の時に使える戦術だ、この場合はミスだよ! 」

そう、俺は今は一人ではない。後方に冒険者が控えているのだ。

案の定、俺の側面に回りこもうとしてきたゴブリンが弓矢による攻撃を受けて、その場で倒れた。見事に喉元に命中している、一撃で終わったなこれは。流石は冒険者、弓使いの子は腕がいい。

そして、俺の正面から向かって来ていたゴブリンは何の考えも無しに突っ込んで来た、その手には石斧を持っているが、それさえ気を付ければ何とかなる。

ゴブリンが石斧を振りかぶりながら飛び掛ってきた。

「グォ! 」

俺はバックステップをして、ゴブリンの攻撃をかわす。そしてゴブリンが着地と同時に急接近し、俺のハンマーを勢い良くスイングして、ゴブリンの頭に命中する。

ドコッ! という鈍い音と共に骨が砕ける感触が手に伝わってきた。気分はあまりよくはないが、仕方ない。やらなければやられる。そういう弱肉強食の異世界なんだと自分に言い聞かせる。

ドサリ、とゴブリン2匹が倒れ、辺りは静かになった。

更に周囲を警戒する、辺りを見回し様子を見る。・・・大丈夫そうだ、もうこの辺りにはゴブリンはいないようだ。

少女冒険者二人がこちらへとやって来る、その顔は一仕事やり切った表情をしている。これが本来の彼女達の実力なのだろうな。やはりあのホブゴブリンのスキル「ストレングス」があった所為であんな目に遭ったんだな。

「片付いたみたいね」

「はわ~、おじさんも中々やりますねえ~」

「いやあ、援護があったからうまくいったんですよ、支援攻撃、ありがとうございます」

弓使いの少女は照れくさそうに後ろの頭をぽりぽりと掻いた。

「ま、まあね、これぐらいの事はやってのけるわよ、それよりおじさん、すごいじゃない、ただの民間人にしては戦えるじゃないの」

「ははは、本当は戦闘なんて苦手なんですけどね、自分もまだやられる訳にはいかないという事ですよ」

この場の戦闘は片が付いた、もう少し先に行ったら村長さんの家がある筈だ。そこまでは更に慎重に行動しよう。

俺達は再び、警戒しながら歩き始めた。

慎重に警戒しながら歩いているので、村長さんの納屋までの距離が遠く感じる、しかし、ここで気を緩める訳にはいかない。もうゴブリンがいないとも限らない。

「さっきから気になっていたんだけど、」

不意に、弓使いの少女から声を掛けられた。

「なんですか? 」

俺達はゆっくりと歩きながら会話する。

「おじさんの持っている武器ってなに? 見たところただのハンマーに見えるんだけど」

「ああ、これ? これはただのハンマーだよ、俺はこいつじゃなきゃしっくりこないんだ」

俺は少女冒険者達にハンマーを見せる。二人共不思議そうな顔をして見ている。

「ただのハンマーよね、魔法効果が付与されている物でもないみたいだし、それでホブゴブリンを一撃で倒しちゃった訳? なんか納得できないわね」

「ま、まあ、それは色々とあるみたいだからね、ただのハンマーっていっても、これだって当たれば結構なダメージを与えられるんだよ、だから奴を倒せたと思うんだよね」

俺のユニークスキル、「スキル付け替え」は秘密にしておいた方が無難だろうな。

「まあ、おじさんがそう思うなら、それでいいんだけどね、おじさんって本当に元冒険者じゃないのよね」

「はい、俺はただの民間人なので」

「ふーーん」

ちょっと無理があったかもしれないが、しかし話はここまでの様だ。

「見えてきた、あれが村長さん家の納屋だよ、」

しばらく歩いていたら、目的地の少し手前まで来た。ここから納屋も見える。しかし・・・

「何かしら? 剣戟の音はまだ聞こえてくるんだけど、ここから見た感じじゃ、1匹のホブゴブリンがいるみたいね、やっぱり私達と同じ様に苦戦しているのかしら」

「ええ~、だったら急ごうよ、私達が受けた依頼はこの村の防衛だよ、」

「そうね、急いだ方がいいわね、おじさん、おじさんも手伝って貰えると嬉しいんだけど」

「勿論そのつもりだよ、この村には世話になっているからね、」

少女冒険者達はそれぞれ武器を構えて、意気込みも良く勇敢に挑もうとしていた。ここで俺だけ逃げる訳にはいかない。俺だって何かの役には立つかもしれないからな。

俺と少女冒険者二人は、辺りを警戒しながら歩みを速くして、納屋へ向けて急ぐ。さてと、もう1匹ホブゴブリンがいたとは思わなかったが、これが現実ってやつなのかもしれないな。あのモンスターもやはり強いんだろうか、慎重に事に対処しなくては。









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元探索者のおじいちゃん〜孫にせがまれてダンジョン配信を始めたんじゃが、軟弱な若造を叱りつけたらバズりおったわい〜

伊藤ほほほ
ファンタジー
夏休み。それは、最愛の孫『麻奈』がやって来る至福の期間。 麻奈は小学二年生。ダンジョン配信なるものがクラスで流行っているらしい。 探索者がモンスターを倒す様子を見て盛り上がるのだとか。 「おじいちゃん、元探索者なんでしょ? ダンジョン配信してよ!」 孫にせがまれては断れない。元探索者の『工藤源二』は、三十年ぶりにダンジョンへと向かう。 「これがスライムの倒し方じゃ!」 現在の常識とは異なる源二のダンジョン攻略が、探索者業界に革命を巻き起こす。 たまたま出会った迷惑系配信者への説教が注目を集め、 インターネット掲示板が源二の話題で持ちきりになる。 自由奔放なおじいちゃんらしい人柄もあってか、様々な要因が積み重なり、チャンネル登録者数が初日で七万人を超えるほどの人気配信者となってしまう。 世間を騒がせるほどにバズってしまうのだった。 今日も源二は愛車の軽トラックを走らせ、ダンジョンへと向かう。

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

召喚勇者の餌として転生させられました

猫野美羽
ファンタジー
学生時代最後のゴールデンウィークを楽しむため、伊達冬馬(21)は高校生の従弟たち三人とキャンプ場へ向かっていた。 途中の山道で唐突に眩い光に包まれ、運転していた車が制御を失い、そのまま崖の下に転落して、冬馬は死んでしまう。 だが、魂のみの存在となった冬馬は異世界に転生させられることに。 「俺が死んだのはアイツらを勇者召喚した結果の巻き添えだった?」 しかも、冬馬の死を知った従弟や従妹たちが立腹し、勇者として働くことを拒否しているらしい。 「勇者を働かせるための餌として、俺を異世界に転生させるだと? ふざけんな!」 異世界の事情を聞き出して、あまりの不穏さと不便な生活状況を知り、ごねる冬馬に異世界の創造神は様々なスキルや特典を与えてくれた。 日本と同程度は難しいが、努力すれば快適に暮らせるだけのスキルを貰う。 「召喚魔法? いや、これネット通販だろ」 発動条件の等価交換は、大森林の素材をポイントに換えて異世界から物を召喚するーーいや、だからコレはネット通販! 日本製の便利な品物を通販で購入するため、冬馬はせっせと採取や狩猟に励む。 便利な魔法やスキルを駆使して、大森林と呼ばれる魔境暮らしを送ることになった冬馬がゆるいサバイバルありのスローライフを楽しむ、異世界転生ファンタジー。 ※カクヨムにも掲載中です

異世界ライフは山あり谷あり

常盤今
ファンタジー
会社員の川端努は交通事故で死亡後に超常的存在から異世界に行くことを提案される。これは『魔法の才能』というチートぽくないスキルを手に入れたツトムが15歳に若返り異世界で年上ハーレムを目指し、冒険者として魔物と戦ったり対人バトルしたりするお話です。 ※ヒロインは10話から登場します。 ※火曜日と土曜日の8時30分頃更新 ※小説家になろう(運営非公開措置)・カクヨムにも掲載しています。 【無断転載禁止】

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

俺、貞操逆転世界へイケメン転生

やまいし
ファンタジー
俺はモテなかった…。 勉強や運動は人並み以上に出来るのに…。じゃあ何故かって?――――顔が悪かったからだ。 ――そんなのどうしようも無いだろう。そう思ってた。 ――しかし俺は、男女比1:30の貞操が逆転した世界にイケメンとなって転生した。 これは、そんな俺が今度こそモテるために頑張る。そんな話。 ######## この作品は「小説家になろう様 カクヨム様」にも掲載しています。

処理中です...