魔王の求める白い冬

猫宮乾

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―― 第五章 ――

【083】大切なのは今という助言

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「お前度胸あるよな」

 一緒に謁見していたフランが、杖で肩を叩きながら苦笑した。

「全くです」

 今は四人で、城の外へと出てきたところだった。

「――ま、ラブラブで良いことだ」

 そう言ってからフランが僕を見た。

「なぁ、オニキス。ちょっとアルトを借りてもいいか?」
「……どんな用件だ?」
「魔術が使える者同士の話しなんだよ。お前があんな事言ったから、これからアルトは大変そうだからな」

 そんなやりとりをしてから、僕はフランに促されて、街の奥の路地にある喫茶店へと入った。

「――正直お前はよく頑張ったと思うよ」

 昼だというのにブランデーを頼んだフランの正面で、僕はアイスティーのストローを銜えた。何か話しがあるらしいが、僕にはさっぱり見当も付かない。

「お前は気づいてないみたいだから言うけどな、俺が、十代前の不老不死の魔王なんだよ」
「――え?」

 突然のその言葉に、僕は目を見開いた。

「俺は投げ捨てた仕事だったけどな、気まぐれで、今代の魔王に会ってみようと思って、出向いた先でお前を見たんだ。絶望している目をしてたお前の事を」
「フラン……」
「俺とお前が同じ異世界から来た保証は何処にもないし、それはどうでもいい。だけどな、お前は真面目すぎる、もっと息を抜けよ」

 フランはそう言うと苦笑した。

「魔王だって、友達作ったり、恋したり、好きな職業に就いたり、何だって自由なんだよ、そうしないのはただ単に自分で枷をつけてるだけなんだ」
「そうなのかな……」
「優しすぎるのは、罪だ。己に対してのな。それでもお前がオニキスを選んだ時、俺は正直ほっとしたよ」
「だけどそれじゃ……」
「死ねない、て?」
「っ、なんで?」

 何故自分が言いたいことを彼が分かったのだろうかと思い、短く僕が息を飲む。

「俺もお前と同じ不老不死だからな」

 するとフランが苦笑した。

「何にも考えず、〝今〟だけを見ろ。それが一応先輩からの意見」
「フラン……」
「本当に好きなら、時間なんて、俺達には限られて居るんだから、さっさと行動しろよ――後悔しないためにな」

 その言葉を聞き、気がつけば僕は頷いていた。
 僕が死ぬのは、きっともういつでも出来る。だけど今すぐ消えたくはないと思うのだ。

 もう少しだけ、もう少しだけで良いから、オニキスの表情を見ていたいと思うのだ。
 きっとやっぱり、愛しているのだと……漸く今になって分かった気がした。

 きっかけなんて分からないし、何処を好きになったのかも分からない。
 だけど目を伏せる度にオニキスのことを思い出して、胸が痛むから。

「僕……行ってくるよ」
「ああ。今までも、そしてこれからも、応援してる」

 頷き僕は、立ち上がった。
 向かう場所は勿論、オニキスの元だった。


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