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―― 第四章 ――
【065】人気の無い村
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次に僕らが訪れた村には、ひと気が無かった。
ただ緑に覆われていて、民家も屋根まで芝が生えている。
鳥の囀りだけが、静かに響いていた。
「村を放棄して、移住したみたいだな」
フランが周囲を見渡しながらそう言った。するとルイが大きく頷いた。
「多いですね……決して、裕福でないわけではなかったのに」
「堪えきれなかったのか、この村も」
オニキスがそう口にして、頭を振る。
「どういうこと?」
僕が問うと、ルイが民家を一瞥しながら答えてくれた。
「より裕福な街を求めて、移住する者が後を絶たないのです。中にはこの村のように、全員が出て行く場所も――……もっとも、希望を求めて《聖都》などへ向かっても、その末路は悲惨なんだけど……」
「兎に角、次の街までは暫くかかるから、今夜は此処に泊まるぞ」
オニキスの言葉に、フランが頷きながら、教会へと杖を向けた。
「あそこなら、まだマシだろう。屋根もあるし。毛布は俺達が持ってるし」
こうしてその日、僕達は、無人の村の教会に泊まる事になった。
夜はすぐに訪れた。
「寒くないか?」
オニキスが、僕に声をかけた。毛布にくるまっているのだから、全然寒くなんて無いし、仮に寒かったとしても、僕は魔術でどうにでも出来る。
「平気だよ」
「風邪をひくといけない」
そんな心配をここのところされた事など無かったから、思わず笑ってしまう。
すると不貞腐れたような顔で、オニキスがフラン達を見た。
二人は、二枚の毛布に肩を寄せ合ってくるまっている。
「あ、オニキスが風邪をひいちゃうか」
納得して、僕は毛布を開いた。
二人で毛布にくるまると、想像以上に温かかった。ダイレクトに温もりが伝わってくる。鼓動の音まで聞こえそうな気がして、なんだか緊張してしまった。
「――暫く旅をしてみて、どうだ?」
不意にオニキスに聞かれた。
僕は思案する。絶望みたいなものを、沢山見たような気がした。だけど人はいつか死ぬし、魔族だってそれは変わらない。ただその死に様が、在りようが、どうだったかという違いだ。きっと多くの人々が、僕を恨んで死んでいったのだろう。反面、僕が倒されたという報せに歓喜している人々も多いはずだ。それは絶望の終わりの象徴でもあるけれど、勇者達の無事の帰還を喜ぶ声でもあるはずだ。
ただ緑に覆われていて、民家も屋根まで芝が生えている。
鳥の囀りだけが、静かに響いていた。
「村を放棄して、移住したみたいだな」
フランが周囲を見渡しながらそう言った。するとルイが大きく頷いた。
「多いですね……決して、裕福でないわけではなかったのに」
「堪えきれなかったのか、この村も」
オニキスがそう口にして、頭を振る。
「どういうこと?」
僕が問うと、ルイが民家を一瞥しながら答えてくれた。
「より裕福な街を求めて、移住する者が後を絶たないのです。中にはこの村のように、全員が出て行く場所も――……もっとも、希望を求めて《聖都》などへ向かっても、その末路は悲惨なんだけど……」
「兎に角、次の街までは暫くかかるから、今夜は此処に泊まるぞ」
オニキスの言葉に、フランが頷きながら、教会へと杖を向けた。
「あそこなら、まだマシだろう。屋根もあるし。毛布は俺達が持ってるし」
こうしてその日、僕達は、無人の村の教会に泊まる事になった。
夜はすぐに訪れた。
「寒くないか?」
オニキスが、僕に声をかけた。毛布にくるまっているのだから、全然寒くなんて無いし、仮に寒かったとしても、僕は魔術でどうにでも出来る。
「平気だよ」
「風邪をひくといけない」
そんな心配をここのところされた事など無かったから、思わず笑ってしまう。
すると不貞腐れたような顔で、オニキスがフラン達を見た。
二人は、二枚の毛布に肩を寄せ合ってくるまっている。
「あ、オニキスが風邪をひいちゃうか」
納得して、僕は毛布を開いた。
二人で毛布にくるまると、想像以上に温かかった。ダイレクトに温もりが伝わってくる。鼓動の音まで聞こえそうな気がして、なんだか緊張してしまった。
「――暫く旅をしてみて、どうだ?」
不意にオニキスに聞かれた。
僕は思案する。絶望みたいなものを、沢山見たような気がした。だけど人はいつか死ぬし、魔族だってそれは変わらない。ただその死に様が、在りようが、どうだったかという違いだ。きっと多くの人々が、僕を恨んで死んでいったのだろう。反面、僕が倒されたという報せに歓喜している人々も多いはずだ。それは絶望の終わりの象徴でもあるけれど、勇者達の無事の帰還を喜ぶ声でもあるはずだ。
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