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―― 第三章 ――
【053】優しさ
しおりを挟むもっと極端に言うならば、何もする気が起きない場合だってあると思う。それはきっと、しても無駄だと感じた時だ。そしてしばしば、僕はその感覚を味わっている。
「そうだ。アルト、お前に、誰よりもお前に、今、頼みたい」
「どうして?」
オニキスには、フランだってルイだっている。
何もわざわざ僕に頼む必要なんて無いはずだ。
「お前は優しい」
「僕は優しくなんかない」
「ただ優しさを諦めているだけだ」
「優しさを諦める?」
首を傾げると、不意にオニキスに抱き寄せられた。
「優しいことは、良いことだ。優しさは、罪じゃない。弱さでもない。強さだ」
「――……っ」
僕は、そうは思わない。
だけど、そう続けることが何故なのか出来なくて、思わずオニキスの胸元に、頭を押し付けた。何故なのか、泣けてきた。
僕は本当に、優しくなんて無いのだ。ただ、自分勝手なだけなのだ。だから、だからそんな風に言ってもらう価値なんて無い。オニキスの方がずっと優しい。その優しさに、甘えてしまいそうになる。そんなことはあってはならないことだと、僕は良く分かっていた。だっていつかオニキスには、僕のことを、しっかりと殺して貰わなければならないのかも知れないのだから。
「俺がずっと側にいる」
「ずっと?」
そんなの無理だと笑おうとしたけど、僕には出来なかった。
そうして夜は更けていった。
朝方、僕とオニキスは、キノコのシチューを作った。
フランは中々起きてこなかったが、ルイは、規則正しく太陽と共に目を覚ましたらしかった。神官は規則正しくて、魔術師は夜型なのだろうと、僕は一つ学んだ。剣士というか勇者は体力があるから、どちらでも大丈夫なのかも知れない。
オニキスが無理矢理フランを起こしてきた時には、ルイが全員分のシチューを、お椀に取り分けてくれていた。
「美味しい」
ルイはいつも美味しそうに食べる。それがここ数日で分かったのだけれど、やはり自分が作った料理を褒められると、照れくさくなってしまう。
「ん、美味い」
フランがまだ眠そうな顔で、スプーンを動かしながら頷いた。
それらを眺めながら、オニキスが地図を広げる。
「今日中に山脈を下って、麓の街で一泊しよう」
「ああ、来る時にも泊まったところな。なんだっけ、ええと……」
「《ボルケーノラミア》だよ」
三人の話を聞きながら、そう言えば、昔はこの辺りに火山があったんじゃなかったかなと僕は思った。僕だって、一度や二度は、人間の土地に出かけたことがあるのだ。
それから僕らは、山脈を下った。
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