魔王の求める白い冬

猫宮乾

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*** 過去:Ⅱ ***

【044】過去――魔王一週間目②

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 もう二度と青空を見ることは出来ないのだろうか。脳裏には、今でも晴天の心地の良い日差しが浮かんでくる。

「ま、魔王様!! 空が!!」
「――え?」

 僕は初めて聞くロビンの動揺した声に、咄嗟に目を開いた。
 すると青空が頭上に広がっていて、太陽が見えた。

 もしかしてこれは……僕が脳裏で考えたから、魔術が発動したのだろうか?

 魔術って凄い。天候まで操作できるのか。だが、これは放って置いたらまずい気がした。

「……ロビン。全魔族に通達とかって出来る?」
「ええ」

 まだ空を見上げたまま、ロビンはポカンとしている。

「これは異常気象じゃなくて、『晴れ』という天気で、空で光っているのは『太陽』だって、通達してもらえないかな?」
「承知いたしました……!」

 ロビンはそう言うと目を伏せて、ブツブツと何事か呪文を呟いた。
 それが終わると、改めて僕を見た。
 彼の瞳が潤んでいた。いきなり眩しい光を見たせいだろうか?

「これが……青空ですか?」
「うん」
「綺麗ですね……ああ、このような空を見ることが出来るなど、私にはもう悔いは何もございません」
「そんな、大げさな」

 僕は笑ったのだけれど、ロビンは本当に泣き出してしまった。どうしたらいいのか分からず、僕は慌てた。

「あ、あのね、夜になると今度は、月や星が見えるはずなんだ。だから、楽しみにしていて」
「有難うございます、魔王様」

 ひとしきり泣いたロビンが、涙を拭ったのと同時に、僕らは城へと戻った。
 すると城の入り口の所で、大勢の使用人と、ワース、シモンが、やはり泣いていた。

 ――僕にとっては、青空なんて、当たり前のものだったのだ、少し前までは。

 しかし泣いているみんなを見ていたら、ああ本当に違う世界へとやってきたのだなと、僕は漸く実感が持てた気がした。それまでは、どこかで浮かれていた部分もあったのだと思う。正直、面白がってすらいたのかも知れない。

 だけど。

 僕は、この人達のために、何かをしたいと、多分この時から本気で決意したのだと思う。

 それから僕は、晴れの他に、快晴、曇り、雨などを設定した。まずは、この土地は夏らしいから、その気候にあった空模様を考えたのだ。遠雷や通り雨なども考えたが、まずは基本から整えていこうと思う。第一、夏がどれくらいの間続くかも分からないから――と、考えて、僕は最初に来た時のことを思い出した。確かシモンさんは言っていた。

 ――この土地は、常に同じ気候だと。


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