魔王の求める白い冬

猫宮乾

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*** 過去:Ⅱ ***

【041】過去――魔王三日目①

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 僕が魔王になってから、今日で三日目になった。

 長閑な日差し――とは、とても言い難い、紫色の曇り空のもと、僕は目を覚ました。地下室に部屋はあるから、魔術で天気を確認した。ここへ来てから、もうずっとこの天気だ。時折稲光が走り、雹が降ってくる。

 もしかしてこの天候が、《ソドム》のデフォルトの天候なのだろうか?
 だとしたら、農耕どころではない。

 ――第一僕は、魔王のすべきことを、未だに何も知らない。

 昨日は勝手に調味料を揃えてみたり、色々考えては見たものの、よく考えてみれば、わざわざ宰相をしてくれる魔族がいたりするのだから、何か僕にはやるべき事があるのではないだろうか。この際勇者に倒されるというのは怖いので忘れよう。

 顔を洗い身支度を調えてから、僕は部屋を出た。

「おはようございます、魔王様。どちらへ?」

 するとすぐにロビンが現れたので、僕は吃驚した。

「よく僕が部屋を出たって分かったね」
「城でのことは何でも魔術で分かります。ご迷惑でしたか?」
「ううん。一人でたどり着けるか不安だったから、助かるよ。実は宰相のワースさんと話しがしたくて」
「承知いたしました。ご案内いたします」

 ロビンはそう告げると、燭台を片手に歩き始めた。
 気がつけば、まだ回廊の灯りは、薄暗い。

「ねぇロビン。この灯りは、やっぱり昼夜を表しているの?」
「はい。明々としていれば昼、消えている時は夜を表します」
「今は何時くらい?」
「午前五時、と言ったところでしょうか」
「え……ロビンって早起きなの?」
「私目は魔王様のお側に、いつでも控えております」
「ちゃんと寝てる?」
「魔族にとって睡眠とは、必ずしも必要なものではございません。一週間に一度ほど寝れば、十分です」

 そうなのかと、僕は感動した。食欲は兎も角、僕にはばっちり睡眠欲は残っているらしく、確かに妙に早起きはしてしまったが、今夜も眠ると思う。

「宰相さんも起きているかな?」
「ワース様は、月に一度ほどしかお眠りにはなりませんので」
「……それは、そう言う体なの? それとも、忙しいの?」

 僕の声に、ロビンが首を傾げながら振り返った。

「《ソドム》の地を安定させるべく、山のような仕事をこなしていらっしゃるのは事実です。けれどそれは、敬愛する陛下のためです。苦にはなりません」

 その言葉に、やはりこれは、出来ることを手伝わなければならないと、僕は誓った。
 宰相執務室は、僕が最初に現れた玉座の間のすぐ側にあった。

「これは、これは、陛下」

 僕がノックをすると、すっと扉が開き、扉の前で足をつき、宰相のワースさんが頭を垂れていた。

「あ、あの、楽にして下さい」
「勿体ないお言葉です」

 顔を上げたワースさんは、それから立ち上がった。

「ささ、お座り下さい」

 ソファに促されたので、僕は座りながら、頷いた。

「ワースさんもロビンも座って下さい」

 僕の部屋ではないというのに、僕が言うのもなんだかおかしな気分だ。

「感激でございます。宜しければ、ワースとお呼び下さい陛下」

 そう言えば昨日バルさんに、敬語を使うなと言われたことを思いだした。気を遣わせない気の使い方をした方が良いのかも知れない。よし、僕はこれから、敬語を使うのは極力控えよう。

「突然押しかけてゴメン。良かったら飲んで」

 そう告げ、僕は三つのカップを出現させた。中には桃の香りがするフレーバーティが入っている。僕はこのお茶がそれなりに好きだ。

「勿体ないことです」

 ワースはそう言ったが、不審そうにカップの中身を見据えていた。
 しかし隣でロビンがカップを傾けたのを見て、同様に飲む。

「! こ、これは一体……!」
「お口に合いませんでしたか……?」

 不安になって聞いてみる。

「いえ、大変美味です。魔王様御自ら入れて下さった一品だけのことはある」


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