35 / 84
―― 第二章 ――
【036】償い
しおりを挟む
「俺は――……決めた。償いをすることに」
「償い?」
「ああ。恨むのは止めることにした。魔王、お前は何も恨む必要がないと言ったよな?」
「言ったけどさ――その、」
「償いも必要ないと言ったな」
「うん」
「だけど俺は償いたい。お前に対して、魔族に対して、そして――俺の家族や村のみんなに」
僕はてっきり、勇者は絶望しているのだろうと思っていた。
だけど僕の想像と違って、彼は随分とプラス思考の人間みたいだった。
「じゃあ、僕を殺すのは諦めるの?」
「魔王は殺す。だがアルト、お前は連れて行く」
「ええと?」
勇者の言葉の意味が分からなくて、僕は首を傾げた。
「勇者は魔王を倒した。めでたしめでたし。これはお前が描いていた理想像なんだろう?」
「うん、まぁ」
「そして魔族は皆、静まり、人間に害をなすことは無くなった。最早魔族は、人間社会に害をなす存在ではない。そう宣言する」
「……」
「大災害も凶作も飢餓も全て、魔王は関係なかった。すぐにそれが知れ渡るはずだ」
「それが……償いになるの?」
「償いの一部にはなると思う」
「僕はそうは思わないよ。自然災害が続けば、新たな魔王が出現したと考える人達が出てくるだろうし――あるいは元々、そう言ったものに魔族が関係していないと分かっている人間もいるんじゃないのかな。そうじゃなければ、本当に魔王のせいだと信じているんなら、例え失敗しようとも、勇者を再召喚しようとするんじゃない? 言っちゃ悪いけど、召喚されていない偽の勇者って事でしょう、オニキスは。伝説の剣を抜けたって言うのは純粋に、勇者の才能があるんだろうとは思うけどさ」
すると、オニキスが頷いた。真剣な表情をしている。
「魔族の仕業ではなかったことを知っている人間を炙り出すことも目的の一つだ」
「目的って、償いの目的?」
「そうだ」
「――もし、偽勇者の手で倒したから、本当は魔王を倒し切れていなくて、復活している可能性があるから、もう一度召喚しよう、なんて言う話になって、別の勇者が来たらどうするの?」
「ロビンからこれまでの勇者の末路を聞いた」
「末路?」
「皆、元の世界には帰還できなかったと聞いている」
「出来なかったのか、しなかったのかは、不明だよ。大抵の場合、どこかの国のお姫様やら、パーティにいた女の子とかと結婚して、帰る決断をしなかったから」
「ロビンはそう言ったのか?」
「……ロビンが僕に、虚偽の報告をしていたって言う意味?」
「虚偽とまでは言わない。ただ、言い方の問題だろうな。お前の心が痛まないように伝えたんだろう」
「……へぇ」
なるほど、僕を倒した――事になっているからといって、幸せだったとは限らない訳か。
だとすれば、僕が望むハッピーエンドなんて、何処にもなかったのかも知れない。
思わず僕は笑ってしまった。
「それで? じゃあ新しく召喚された勇者には、貴方はもう帰れないので、魔王を倒しても無駄です、ってでも言うの? それこそ僕なら魔王を恨んで、許さないけどな」
「召喚される前に、伝えるんだ。召喚される直前に、『帰還できないこと』と『魔王は悪くない』と言うことを、相手に伝える」
「どうやって?」
「お前の魔術なら、それが出来るだろう?」
考えても見なかったことだったから、腕を組んだ。
確かに、勇者召喚というのは、魔術であるとも言える。神官が使うものだって、属性が違うだけで魔術の別の側面といえる。だから確かにそれは、不可能ではないかも知れない。しかしこれまでに、他の世界や、世界と世界の狭間に、魔術で干渉してみようとしたことはない。だから、そんなことが出来るのかは――理論上は出来る、としか言えない。
「ちょっと、時間をもらえる?」
「ああ」
頷いた勇者を見てから、僕は目を伏せた。
そして、ここへ来る前にいた、前後左右何もかもが白い場所を想像し、移動の魔術を試みた。
「やぁ、久しぶりだね」
すると声がかかったので、目を見開いた。
「償い?」
「ああ。恨むのは止めることにした。魔王、お前は何も恨む必要がないと言ったよな?」
「言ったけどさ――その、」
「償いも必要ないと言ったな」
「うん」
「だけど俺は償いたい。お前に対して、魔族に対して、そして――俺の家族や村のみんなに」
僕はてっきり、勇者は絶望しているのだろうと思っていた。
だけど僕の想像と違って、彼は随分とプラス思考の人間みたいだった。
「じゃあ、僕を殺すのは諦めるの?」
「魔王は殺す。だがアルト、お前は連れて行く」
「ええと?」
勇者の言葉の意味が分からなくて、僕は首を傾げた。
「勇者は魔王を倒した。めでたしめでたし。これはお前が描いていた理想像なんだろう?」
「うん、まぁ」
「そして魔族は皆、静まり、人間に害をなすことは無くなった。最早魔族は、人間社会に害をなす存在ではない。そう宣言する」
「……」
「大災害も凶作も飢餓も全て、魔王は関係なかった。すぐにそれが知れ渡るはずだ」
「それが……償いになるの?」
「償いの一部にはなると思う」
「僕はそうは思わないよ。自然災害が続けば、新たな魔王が出現したと考える人達が出てくるだろうし――あるいは元々、そう言ったものに魔族が関係していないと分かっている人間もいるんじゃないのかな。そうじゃなければ、本当に魔王のせいだと信じているんなら、例え失敗しようとも、勇者を再召喚しようとするんじゃない? 言っちゃ悪いけど、召喚されていない偽の勇者って事でしょう、オニキスは。伝説の剣を抜けたって言うのは純粋に、勇者の才能があるんだろうとは思うけどさ」
すると、オニキスが頷いた。真剣な表情をしている。
「魔族の仕業ではなかったことを知っている人間を炙り出すことも目的の一つだ」
「目的って、償いの目的?」
「そうだ」
「――もし、偽勇者の手で倒したから、本当は魔王を倒し切れていなくて、復活している可能性があるから、もう一度召喚しよう、なんて言う話になって、別の勇者が来たらどうするの?」
「ロビンからこれまでの勇者の末路を聞いた」
「末路?」
「皆、元の世界には帰還できなかったと聞いている」
「出来なかったのか、しなかったのかは、不明だよ。大抵の場合、どこかの国のお姫様やら、パーティにいた女の子とかと結婚して、帰る決断をしなかったから」
「ロビンはそう言ったのか?」
「……ロビンが僕に、虚偽の報告をしていたって言う意味?」
「虚偽とまでは言わない。ただ、言い方の問題だろうな。お前の心が痛まないように伝えたんだろう」
「……へぇ」
なるほど、僕を倒した――事になっているからといって、幸せだったとは限らない訳か。
だとすれば、僕が望むハッピーエンドなんて、何処にもなかったのかも知れない。
思わず僕は笑ってしまった。
「それで? じゃあ新しく召喚された勇者には、貴方はもう帰れないので、魔王を倒しても無駄です、ってでも言うの? それこそ僕なら魔王を恨んで、許さないけどな」
「召喚される前に、伝えるんだ。召喚される直前に、『帰還できないこと』と『魔王は悪くない』と言うことを、相手に伝える」
「どうやって?」
「お前の魔術なら、それが出来るだろう?」
考えても見なかったことだったから、腕を組んだ。
確かに、勇者召喚というのは、魔術であるとも言える。神官が使うものだって、属性が違うだけで魔術の別の側面といえる。だから確かにそれは、不可能ではないかも知れない。しかしこれまでに、他の世界や、世界と世界の狭間に、魔術で干渉してみようとしたことはない。だから、そんなことが出来るのかは――理論上は出来る、としか言えない。
「ちょっと、時間をもらえる?」
「ああ」
頷いた勇者を見てから、僕は目を伏せた。
そして、ここへ来る前にいた、前後左右何もかもが白い場所を想像し、移動の魔術を試みた。
「やぁ、久しぶりだね」
すると声がかかったので、目を見開いた。
0
お気に入りに追加
361
あなたにおすすめの小説


【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜
天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。
彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる