魔王の求める白い冬

猫宮乾

文字の大きさ
上 下
29 / 84
*** 過去:Ⅰ ***

【030】過去――魔王二日目⑤

しおりを挟む
「あ、え、すみません、勝手に……」

 思わず頭を下げると、シェフ長がフルフルと首を振った。

「いえ、いえ、良いのです。初めて見る品ばかりで、不肖の私のシェフとしての魂が畏れ多くも騒いでしまいまして……」
「そんな畏れ多いです。ところで伺いたいんですが、この土地の主食はなんなんですか?」

 きっとお世辞だろうと思いながら僕が尋ねると、シェフ長が唇に手を添えた。

「基本的には、肉です」
「肉……何肉ですか?」

 やっぱり、人肉なのだろうか。

「それは世代によって変わります。前の前の魔王様の代は、五十年ほどしか無かったのですが、羊肉が主流でした。ですがその魔王様が勇者に倒され、魔族の多くの者の理性が無くなってからは、時折魔獣を食べるものが現れ、前魔王様が顕現なさってからは、魔王様がエルフの肉を大変好まれたので、理性を取り戻した魔族達もそれを楽しみ、その魔王様が勇者に倒されお亡くなりになり魔族達の多くが理性を失ってからは、人間を食べる者が現れるようになりました」

 僕はその言葉に何度か瞬いた。
 羊肉――は、良い。

 魔獣やエルフは、多分良くないし、人間もちょっと駄目だと思う。しかしながらそれらは、前魔王様とやらの好みと――……魔族が理性を失う?

 その言葉と、もう一つ。

「勇者に倒された……?」

 僕は驚いてシェフ長を見た。そう言えばそんな話を聞いたかも知れない。

「はい。人間どもが、勇者を送り込んできて、魔王様のお命を狙い、奪っていくのです」

 勇者がいるのか。僕は腕を組んだ。確かにゲームなどをしていると、魔王はボスキャラで、勇者がプレイヤーだったりする。それにしても魔族は寿命がないらしいし、僕は神様に不老不死を頼んだ。しかし勇者の力であれば、不老不死の僕であっても倒されてしまうのだろうか? なんだかとてつもなく怖くなった。正直死にたくない。

「魔族が理性を失うっていうのはどういう事ですか?」

 僕が思考を切り替えて尋ねると、今度はロビンが答えてくれる。

「魔王様が存在しないと、貴族以上の魔族を除き、多くの者が衝動に堪えきれなくなって、凶暴性を抑えきれなくなるのです。狂う、というのが正しいでしょうか」
「どうして?」
「月が無くなれば、海が荒れるようなものです」

 よく分からなかったが、僕は適当に頷いた。
 駄目だ、混乱してしまい、思考がこんがらがった。
 とりあえず、当初の目的を果たそう。

「――と、ところで、普段、調味料って使わないんですか?」
「前魔王様の代からは、魔獣の血を使っております。前々魔王様の代の頃は、果実で作りだした甘いものを使っておりました」

 話しぶりからしてシェフ長は、ともすると城の管理をしていた魔族や宰相よりも長生きしているのかもしれない。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

デコボコな僕ら

天渡清華
BL
スター文具入社2年目の宮本樹は、小柄・顔に自信がない・交際経験なしでコンプレックスだらけ。高身長・イケメン・実家がセレブ(?)でその上優しい同期の大沼清文に内定式で一目惚れしたが、コンプレックスゆえに仲のいい同期以上になれずにいた。 そんな2人がグズグズしながらもくっつくまでのお話です。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで

二三
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。

【完結】もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。 本編完結しました! おまけをちょこちょこ更新しています。 第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!

処理中です...