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*** 過去:Ⅰ ***
【030】過去――魔王二日目⑤
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「あ、え、すみません、勝手に……」
思わず頭を下げると、シェフ長がフルフルと首を振った。
「いえ、いえ、良いのです。初めて見る品ばかりで、不肖の私のシェフとしての魂が畏れ多くも騒いでしまいまして……」
「そんな畏れ多いです。ところで伺いたいんですが、この土地の主食はなんなんですか?」
きっとお世辞だろうと思いながら僕が尋ねると、シェフ長が唇に手を添えた。
「基本的には、肉です」
「肉……何肉ですか?」
やっぱり、人肉なのだろうか。
「それは世代によって変わります。前の前の魔王様の代は、五十年ほどしか無かったのですが、羊肉が主流でした。ですがその魔王様が勇者に倒され、魔族の多くの者の理性が無くなってからは、時折魔獣を食べるものが現れ、前魔王様が顕現なさってからは、魔王様がエルフの肉を大変好まれたので、理性を取り戻した魔族達もそれを楽しみ、その魔王様が勇者に倒されお亡くなりになり魔族達の多くが理性を失ってからは、人間を食べる者が現れるようになりました」
僕はその言葉に何度か瞬いた。
羊肉――は、良い。
魔獣やエルフは、多分良くないし、人間もちょっと駄目だと思う。しかしながらそれらは、前魔王様とやらの好みと――……魔族が理性を失う?
その言葉と、もう一つ。
「勇者に倒された……?」
僕は驚いてシェフ長を見た。そう言えばそんな話を聞いたかも知れない。
「はい。人間どもが、勇者を送り込んできて、魔王様のお命を狙い、奪っていくのです」
勇者がいるのか。僕は腕を組んだ。確かにゲームなどをしていると、魔王はボスキャラで、勇者がプレイヤーだったりする。それにしても魔族は寿命がないらしいし、僕は神様に不老不死を頼んだ。しかし勇者の力であれば、不老不死の僕であっても倒されてしまうのだろうか? なんだかとてつもなく怖くなった。正直死にたくない。
「魔族が理性を失うっていうのはどういう事ですか?」
僕が思考を切り替えて尋ねると、今度はロビンが答えてくれる。
「魔王様が存在しないと、貴族以上の魔族を除き、多くの者が衝動に堪えきれなくなって、凶暴性を抑えきれなくなるのです。狂う、というのが正しいでしょうか」
「どうして?」
「月が無くなれば、海が荒れるようなものです」
よく分からなかったが、僕は適当に頷いた。
駄目だ、混乱してしまい、思考がこんがらがった。
とりあえず、当初の目的を果たそう。
「――と、ところで、普段、調味料って使わないんですか?」
「前魔王様の代からは、魔獣の血を使っております。前々魔王様の代の頃は、果実で作りだした甘いものを使っておりました」
話しぶりからしてシェフ長は、ともすると城の管理をしていた魔族や宰相よりも長生きしているのかもしれない。
思わず頭を下げると、シェフ長がフルフルと首を振った。
「いえ、いえ、良いのです。初めて見る品ばかりで、不肖の私のシェフとしての魂が畏れ多くも騒いでしまいまして……」
「そんな畏れ多いです。ところで伺いたいんですが、この土地の主食はなんなんですか?」
きっとお世辞だろうと思いながら僕が尋ねると、シェフ長が唇に手を添えた。
「基本的には、肉です」
「肉……何肉ですか?」
やっぱり、人肉なのだろうか。
「それは世代によって変わります。前の前の魔王様の代は、五十年ほどしか無かったのですが、羊肉が主流でした。ですがその魔王様が勇者に倒され、魔族の多くの者の理性が無くなってからは、時折魔獣を食べるものが現れ、前魔王様が顕現なさってからは、魔王様がエルフの肉を大変好まれたので、理性を取り戻した魔族達もそれを楽しみ、その魔王様が勇者に倒されお亡くなりになり魔族達の多くが理性を失ってからは、人間を食べる者が現れるようになりました」
僕はその言葉に何度か瞬いた。
羊肉――は、良い。
魔獣やエルフは、多分良くないし、人間もちょっと駄目だと思う。しかしながらそれらは、前魔王様とやらの好みと――……魔族が理性を失う?
その言葉と、もう一つ。
「勇者に倒された……?」
僕は驚いてシェフ長を見た。そう言えばそんな話を聞いたかも知れない。
「はい。人間どもが、勇者を送り込んできて、魔王様のお命を狙い、奪っていくのです」
勇者がいるのか。僕は腕を組んだ。確かにゲームなどをしていると、魔王はボスキャラで、勇者がプレイヤーだったりする。それにしても魔族は寿命がないらしいし、僕は神様に不老不死を頼んだ。しかし勇者の力であれば、不老不死の僕であっても倒されてしまうのだろうか? なんだかとてつもなく怖くなった。正直死にたくない。
「魔族が理性を失うっていうのはどういう事ですか?」
僕が思考を切り替えて尋ねると、今度はロビンが答えてくれる。
「魔王様が存在しないと、貴族以上の魔族を除き、多くの者が衝動に堪えきれなくなって、凶暴性を抑えきれなくなるのです。狂う、というのが正しいでしょうか」
「どうして?」
「月が無くなれば、海が荒れるようなものです」
よく分からなかったが、僕は適当に頷いた。
駄目だ、混乱してしまい、思考がこんがらがった。
とりあえず、当初の目的を果たそう。
「――と、ところで、普段、調味料って使わないんですか?」
「前魔王様の代からは、魔獣の血を使っております。前々魔王様の代の頃は、果実で作りだした甘いものを使っておりました」
話しぶりからしてシェフ長は、ともすると城の管理をしていた魔族や宰相よりも長生きしているのかもしれない。
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