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―― 第一章 ――
【006】現実への直面
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僕は思うんだ。
真実を知ることは、必ずしも幸せなことなんかじゃないのだと。
「些細な村だったからすっかり記憶から抜け落ちていたよ。確かに君の村を滅ぼしたのは、僕の命令により動いた魔族だ。だけど、君ごときが僕に勝てるかな?」
哄笑しながら、僕はそう言いきった。今の僕は、きっと魔王らしい魔王だ。
「魔王様、何を言って!」
ロビンが慌てたように、僕へと駆け寄ってきた。
心配性のロビンに苦笑してしまう。いつだって僕の周囲は、僕を守ろうとしてくれる。盾になろうとしてくれる。
「ほら、僕ハッピーエンドが好きだからさ」
ロビンにだけ聞こえる声でそう言った時、不意に腕を掴まれた。
見ると勇者が、僕の手首を掴み、書簡を奪っていた。
「えっ、あ、ちょっと!」
「……」
勇者はロビンの調査報告書を見ている。見ている。見てしまった!
「あわわわ」
僕が思わず狼狽えた声を上げると、勇者が顔を上げた。
「――魔族のせいで各地が荒廃しているというのも嘘なのか?」
それは嘘だ。人間の領地は、昨年大飢饉が起こったらしいというのは、聞いている。人間の土地から逃げてきた者が集まっている人間街もこの土地にはある。そこに住まう者から悲惨さは耳にしていた。
たださ、そう言う時って、やっぱり他に『悪』を作って、人間達は我慢しているんだと思うんだ。みんな、耐えるために憎む対象を見いだしているんだ。僕は魔王だからその役目を負ってしかるべきなんだと思う。
「オニキス! 魔王の甘言と偽りに騙されないで下さい!」
その時神官が叫んだ。なるほど勇者はオニキスという名前なのかと僕はぼんやりと考えていた。
――そして多分、この神官は、全ての事情を知っているのだろうと直感した。
体を震わせ、凍り付いたような表情をしていて、怯えが見て取れる。
「見せろ」
勇者の横に、魔術師が歩み寄る。
すると勇者オニキスが、紫色に見える黒い髪の魔術師に、書簡を手渡した。
「いや、見なくていいよ、うん、それ、ほら、神官さんの言う通り嘘だよ」
僕が言うと、僕を睨むように一瞥してから、魔術師が視線を落とした。
「っ」
そして息を飲んだ。
魔術師と勇者の視線が、神官である聖職者へと向く。
「おかしいとは思ったんだ。この土地に入ってから活気に溢れていて、みんな気前も良くて、いい魔族ばっかりだったからな。罠かとすら思った」
魔術師がそう言うと、勇者が剣を鞘にしまう。
「知っていたのか? 全部」
「……」
神官が俯きながら唇を噛む。
「俺達はなんの罪もない魔族を虐殺して此処まで来たと言うことか?」
勇者の追求に、神官が泣き出した。
「僕だって嫌だったよこんなの! だけど、話せるはずがないだろ。《聖都:ローズマリー》が召喚に失敗したなんて」
「……だからって、俺の村を、どうしてあんな」
やりきれないという表情で勇者が跪く。それはそうだろう。きっとこれまでの旅の間に、彼らには強い絆が生まれていたはずなのだし。神官だって、もっと割り切って、魔王が、、つまり僕が嘘をついたと言い通せばいいのに。
真実を知ることは、必ずしも幸せなことなんかじゃないのだと。
「些細な村だったからすっかり記憶から抜け落ちていたよ。確かに君の村を滅ぼしたのは、僕の命令により動いた魔族だ。だけど、君ごときが僕に勝てるかな?」
哄笑しながら、僕はそう言いきった。今の僕は、きっと魔王らしい魔王だ。
「魔王様、何を言って!」
ロビンが慌てたように、僕へと駆け寄ってきた。
心配性のロビンに苦笑してしまう。いつだって僕の周囲は、僕を守ろうとしてくれる。盾になろうとしてくれる。
「ほら、僕ハッピーエンドが好きだからさ」
ロビンにだけ聞こえる声でそう言った時、不意に腕を掴まれた。
見ると勇者が、僕の手首を掴み、書簡を奪っていた。
「えっ、あ、ちょっと!」
「……」
勇者はロビンの調査報告書を見ている。見ている。見てしまった!
「あわわわ」
僕が思わず狼狽えた声を上げると、勇者が顔を上げた。
「――魔族のせいで各地が荒廃しているというのも嘘なのか?」
それは嘘だ。人間の領地は、昨年大飢饉が起こったらしいというのは、聞いている。人間の土地から逃げてきた者が集まっている人間街もこの土地にはある。そこに住まう者から悲惨さは耳にしていた。
たださ、そう言う時って、やっぱり他に『悪』を作って、人間達は我慢しているんだと思うんだ。みんな、耐えるために憎む対象を見いだしているんだ。僕は魔王だからその役目を負ってしかるべきなんだと思う。
「オニキス! 魔王の甘言と偽りに騙されないで下さい!」
その時神官が叫んだ。なるほど勇者はオニキスという名前なのかと僕はぼんやりと考えていた。
――そして多分、この神官は、全ての事情を知っているのだろうと直感した。
体を震わせ、凍り付いたような表情をしていて、怯えが見て取れる。
「見せろ」
勇者の横に、魔術師が歩み寄る。
すると勇者オニキスが、紫色に見える黒い髪の魔術師に、書簡を手渡した。
「いや、見なくていいよ、うん、それ、ほら、神官さんの言う通り嘘だよ」
僕が言うと、僕を睨むように一瞥してから、魔術師が視線を落とした。
「っ」
そして息を飲んだ。
魔術師と勇者の視線が、神官である聖職者へと向く。
「おかしいとは思ったんだ。この土地に入ってから活気に溢れていて、みんな気前も良くて、いい魔族ばっかりだったからな。罠かとすら思った」
魔術師がそう言うと、勇者が剣を鞘にしまう。
「知っていたのか? 全部」
「……」
神官が俯きながら唇を噛む。
「俺達はなんの罪もない魔族を虐殺して此処まで来たと言うことか?」
勇者の追求に、神官が泣き出した。
「僕だって嫌だったよこんなの! だけど、話せるはずがないだろ。《聖都:ローズマリー》が召喚に失敗したなんて」
「……だからって、俺の村を、どうしてあんな」
やりきれないという表情で勇者が跪く。それはそうだろう。きっとこれまでの旅の間に、彼らには強い絆が生まれていたはずなのだし。神官だって、もっと割り切って、魔王が、、つまり僕が嘘をついたと言い通せばいいのに。
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